「米ウ罵倒会談」の猛激怒は意図したものか、トランプの「真の目的」を読み解いてみる…決してロシア寄りではなかった!

現代の米国
「米ウ罵倒会談」の猛激怒は意図したものか、トランプの「真の目的」を読み解いてみる…決してロシア寄りではなかった!(朝香 豊) @gendai_biz
トランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領との会談を決裂させた背後には、実はウクライナ寄りの「マッドマン戦略」が潜んでおり、彼の本当の狙いはロシアを交渉のテーブルに引き出し、戦争の早期終結を図ることにあった!

「米ウ罵倒会談」の猛激怒は意図したものか、トランプの「真の目的」を読み解いてみる…決してロシア寄りではなかった!

トランプのマッドマン戦略

アメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領とのホワイトハウスにおいての会談が決裂した。

by Gettyimages

おそらくこの決裂についての一般的なイメージは以下のようなものではないかと推察する。

……アメリカがウクライナを支援するために支払った膨大な資金を回収することにこだわっているトランプが、ウクライナの豊富な鉱物資源に目を付けた。トランプが要求したのは、鉱物資源をアメリカに明け渡せという時代錯誤の帝国主義的要求だったが、アメリカの支援を引き入れないとロシアに対抗できないウクライナは、渋々この要求に応じることにした。だが、アメリカに対してウクライナの平和の保障を求めたゼレンスキーに、ロシア寄りのトランプはむしろ背を向ける姿勢を示し、鉱物資源の共同開発の合意が吹っ飛ぶことになった。……

実はこれは全く事実ではない。何から何まで間違っていると言ってもいいくらいだ。

狂人のふりをして周りを慌てさせ、目指す最終地点に向けて動かしていこうとするトランプのマッドマン戦略に完全に騙されているだけだと言ってよい。

そもそもウクライナの鉱物資源開発の話は、トランプ側から言い出したものではなく、ウクライナ側から持ちかけられたものだ。

フランスのルコルニュ国防相は、ロシアによる侵攻への対抗策を練るウクライナのゼレンスキー大統領が、同様の鉱物源開発をフランスに持ちかけてきたことを明かし、アメリカにおいてもウクライナから仕向けた面が大きいと語っている。

ウクライナ側としては、アメリカ企業をはじめとする西側企業がウクライナ領土内で大規模な鉱物開発事業を始めれば、ロシアが再びウクライナに攻め込むことが非常に難しくなるということを計算に入れて考え出したものなのだ。

トランプは「アメリカがウクライナに提供した3500億ドルを取り返すんだ」みたいな発言をしていたが、ウクライナ側にアメリカに返済する負債があるかのような表現は一切ない。これはウクライナ側が認めていることだ。基金の運営はアメリカとウクライナが対等な立場で関わるとされている。

米ウ合意案をよく読んでみよう

合意案では、アメリカ政府は安定した経済的に繁栄したウクライナの発展に対する長期的な財政的コミットメントを維持することになっている。相手側の事前の書面による同意なしに、基金の一部を売却などで処分することも禁じている。つまりアメリカ政府の資金拠出は長期にわたる義務となっており、途中でこの契約を放り投げることは認められていない。

ウクライナのシュミハリ首相は、この合意が永続的な平和実現、経済・安全保障上の強靭性の強化のための具体的ステップを構成するものだとし、アメリカ政府はウクライナの永続的な平和を作り出すために必要な安全の保証を得る努力を支持していると説明していた。

また合意文には「米国民はウクライナと共に、自由で主権のある安全なウクライナに、ウクライナと一緒に投資することを望んでいる」と書かれていることもわかっている。

ここに記された「自由で主権のある安全なウクライナ」という表現に着目してもらいたい。ウクライナがロシアの勢力圏に組み込まれるのをトランプが認めるとすれば、「自由で主権のある安全なウクライナ」にはならないのだ。ロシアの勢力圏に入らないから自由で主権のあるウクライナになるのであり、再びロシアからの軍事侵攻を受けないようにすることで安全なウクライナになる。「自由で主権のある安全な」という修飾語をわざわざ入れたのは、トランプがウクライナをロシアの勢力圏として認め、ロシアの好き勝手にさせればいいという考えではないことをはっきりと示している。

ブタペスト合意はどこに行った

さらに、ウクライナが「(世界)第3位の保有量の核兵器を自発的に放棄した」ことも、この合意は認めているのだ。これは実にすごい話なのだが、この意味を理解するには少しだけ歴史をたどる必要がある。

ソ連崩壊後に、ソ連時代にウクライナに残されていた膨大な核兵器が、ソ連崩壊後もそのままウクライナのものとして残されていた。アメリカ・ロシア・イギリスはこの核兵器の放棄をウクライナに対して迫ったが、その際にその見返りとして、ウクライナの安全保障にこの3カ国が責任を負うとしたブダペスト覚書と呼ばれる国際条約が結ばれた。

ブダペスト覚書があることによってウクライナの安全保障は未来永劫守られるはずだった。だがロシアのプーチンはこのブダベスト覚書の当事国でありながら、これを完全に無視してウクライナに攻め込んだ。そしてアメリカのバイデン政権もこのブダペスト覚書に基づくウクライナ防衛義務があったにも関わらず、これを果たさなかったのだ。前政権のやらかしたことだとはいえ、これはトランプにとってみればウクライナに対する負い目となる話だ。

ジャイアン的なイメージを持たれやすいトランプだが、バイデン政権時代の都合の悪い話を無視しない姿勢を示しているのだ。

トランプは秘かにウクライナに寄り添っている

さらに合意案には、「アメリカ合衆国とウクライナは、この戦いでウクライナに不利な行動をとった国家や人々が、永続的な平和が訪れたウクライナの再建から利益を得ないことを確実にすることを強く望む」との文面が記載されているのだ。つまり、ウクライナでの復興事業に、ロシアやロシアを応援した国には、原則として関わらせないということが書かれているのである。

上記のように、この合意についてすでに伝わっている内容からすれば、この合意はアメリカ側を圧倒的に利するものでは全くない。それどころか、ウクライナ側にかなり寄ったものであるのは確実なのだ。

つまりトランプは、口先ではロシアのプーチンに寄り添っているかのような姿勢を示し、ゼレンスキーやウクライナを侮蔑しているかのような振る舞いをしながらも、その裏ではウクライナに寄り添った外交的な方向性を打ち出していたのである。

トランプはウクライナ侵攻関連の対露制裁を1年延長することも決めている。

今、欧州ではウクライナに平和維持軍を送り込むことが検討されているが、こうした欧州の平和維持軍を支える意向もトランプは示している。

さらにトランプは「(ウクライナでは)多くの領土が奪われたが、それについて話をしている。海岸線も多く失った。それについて協議していく。ウクライナのために多くを取り戻せるか見ていく」とも発言し、ロシアによって奪われたウクライナの領土について、そのままロシアのものにするつもりがないことも実は示唆しているのである。

ヨーロッパの負担」への誘導

ではなぜトランプはウクライナに背を向け、ロシア寄りに見られる姿勢を示しているのだろうか。

ここには4つの狙いがあると私は考えている。

1つ目は、西側の安全保障におけるアメリカの役割を小さくしたいということだ。

ウクライナの安全保障はヨーロッパ、特に東ヨーロッパ諸国にしてみれば、とてもではないが他人事だとはいえない重大なものだが、アメリカの安全保障に与える影響は実際には軽微だ。軽微な意味しかないアメリカがなぜ大きな負担を負わなければならないのか、ヨーロッパの負担がもっと大きくあるべきであり、負担のバランスは大きく変更されてしかるべきだとの思いが、トランプにはある。

ウクライナに背を向け、むしろロシア寄りだと見られた方が、ヨーロッパを焦らせてウクライナ防衛に真剣にさせるには好都合だ。

実際数々のトランプ発言や今回の会談決裂を受けて、欧州各国はウクライナ支援の姿勢を圧倒的に強化する姿勢を示している。

イギリスのスターマー首相は22億6000万ポンド(4200億円)をウクライナに貸し出す意向を示した上、さらに16億ポンド(3000億円)を拠出し、ウクライナに5000発以上の防空ミサイルを供与することを表明した。

ドイツのベアボック外相も30億ユーロ(4600億円)のウクライナに対する追加支援をドイツとして実行したい意向を示した。

EUは3月6日に特別首脳会議を開催し、総額200億ユーロ(約3.1兆円)の対ウクライナ軍事支援を決める意向である。防衛費の増額については、これまで厳しく定めてきた財政規律を緩和することを含めて協議することにした。

フランスのマクロン大統領は、国防費をEU全体で2000億ユーロ(31.6兆円)増額し、GDPの3~3.5%を目標とすべきだと主張した。

ロンドンでは急遽、ヨーロッパやカナダなど16カ国に加えて、NATO(北大西洋条約機構)とEU(ヨーロッパ連合)が集まり、ウクライナを支援するための首脳級会合が開かれた。

まさにトランプの意図通りの展開が欧州で広がっている。

プーチンを交渉のテーブルに着かせるために

2つ目は、欧州・ウクライナとロシアとの対立が仮に今後激化しても、アメリカがロシアの核攻撃を受けないようにすることだ。トランプのロシア寄りの発言は、ロシアのプロパガンダに大いに資することから、ロシア国内でも大々的に報じられている。当然ながら、その報じ方もロシアに特に好意的なものになっている。

プーチンなどロシアの首脳は、トランプの狙いを冷静に分析していて、トランプが本質的にはロシア寄りではないことを当然見抜いているとは思う。

それでも、これまでの経緯を踏まえれば、ロシアがヨーロッパ諸国に核兵器を打ち込むことはありえても、アメリカに核兵器を打ち込むことは考えられなくなったと言えるだろう。

3つ目は、ロシアを停戦協議のテーブルに座らせることだ。

ウクライナ側が停戦を望んでいたとしても、もう一方の当事者であるロシア側が停戦を望まない状態であれば、停戦交渉はスタートしない。西側に属するアメリカは当然ウクライナ寄りで中立的な立場にはないと見られるわけだから、ロシアやプーチンに甘い姿勢を示し、ウクライナやゼレンスキーに冷たい態度を示していかないと、ロシア側がアメリカが仲介する交渉に乗ってこないことになる。

今回の会談決裂は強烈な印象を与えたが、今回の決裂によってロシアとしては交渉のテーブルに座りやすくなっているはずだ。

私はトランプ側がこの決裂を意図的に導いたのではないかと疑っている。

なお、決裂を受けて、トランプは輸送中の武器を含めて全てのウクライナに対する軍事援助を一時停止した。これによりロシアが交渉のテーブルに座る可能性はより高まったと言えるだろう。

これ以上の犠牲を止める

4つ目は、この戦争での死傷者がこれ以上増えることをバカげていると考えており、何としても停戦に持ち込みたいということである。

ウクライナにとってのベストシナリオは、邪悪な侵略国家であるプーチン・ロシアをウクライナが徹底的に叩き潰して、ウクライナの領土から完全に放逐し、その上で和平交渉を進めることだ。

もちろんそれが可能であるならば、それを目指せばいいが、それは現実的ではないだろう。

今年中にロシアの兵器の枯渇が見えているという話もあるが、ロシアが劣勢となり、ウクライナから放逐されそうになれば、ロシアが逆転を狙って核兵器に頼る可能性も考えておかなければならない。

「侵略国家ロシアを絶対に許すまじ」という正義の立場はもちろん理解できる。だが、その立場に立てば、今後のウクライナを支える若者たちがこれまで以上にどんどん減っていくことも、そのためのやむをえざる犠牲なんだということになってしまう。ここで考えるべきは、果たして「正義の立場」に立って若者たちの犠牲がどんどん増えていくことは、ウクライナの将来にとってプラスになるのかということだ。ロシアとの妥協によって戦争を終結させ、若者たちの犠牲がこれ以上増えないようにして、国土の再建に取り掛かり、普通のビジネスができるようにすることの方がよほどウクライナの長期的な国益に資するのではないか。

戦争を終わらせることを最優先にして、プーチンが飲めるように話を整えて停戦に持ち込むのがまず先決ではないのか。その後ロシアが再び攻め込むことが実質的にできないようにするのが、現状では最善ではないのか。これがトランプ大統領の腹のうちだと私は思う。

平和の準備が出来ていない」

トランプが会談決裂を受けて発表した声明には、次のように書かれていた。

「今日はホワイトハウスで非常に有意義な会談が行われた。このような激しいやり取りが行き交う会話をしなければ決して理解できない多くのことが明らかになった。感情を通して出てくるものは驚くべきものだ。そして、アメリカが関与してもゼレンスキー大統領は平和への準備ができていないと、私は判断した。なぜなら、アメリカが関与すれば、交渉でウクライナ側に大いに有利になるとゼレンスキーが考えているからだ。私が求めているのはウクライナを有利にすることではなく、平和だ。彼は、アメリカ合衆国の大切な大統領執務室でアメリカ合衆国に失礼な姿勢を示した。平和の準備ができれば彼は戻ってこれる。」

抽象的でわかりにくい文章だが、この声明に出てくる「感情を通して出てくるもの」とは、ウクライナの置かれた正義の立場からなされるゼレンスキーの激しい発言のことだろう。正義の立場から激しい発言を繰り出している中で、自国の有為な若者たちがどんどん亡くなっている実害の大きさが見えなくなっていることを、トランプは「驚くべきもの」だと表現したのだと思う。

そして戦争を止めるためには、正義の立場を一旦脇に置いて、どんなに腹立たしいとしても、プーチンを交渉のテーブルに座らせられる環境設定が重要になる。そのことにゼレンスキーが気付くことが重要なのだが、ゼレンスキーはまだその姿勢になっていない。だから「平和への準備ができていない」という判断になったのだ。

今アメリカが進めているのは、平和をどう実現するかであり、ウクライナの立場をプーチン・ロシアより有利にすることではない。ウクライナの立場をプーチン・ロシアより有利にすれば、ロシア側が停戦交渉のテーブルに座ることはないからだ。

そしてこの構図にゼレンスキーが気付くなら、ここに戻ってくることができる。

このような意図をこの声明で表現したのだろう。

この私の解説を読んだ上でもう一度トランプの声明を読んでもらいたい。その意図がよくわかるだろう。

このトランプの考えに賛同するかどうかは別として、まずはトランプの意図を正確に理解すべきではないか。

議論はそこから始めるべきだ。

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