「荒唐無稽」「乱暴すぎる」トランプ関税が世界中から総スカン!それでも強行する「トランプのある危機感と狙い」

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「荒唐無稽」「乱暴すぎる」トランプ関税が世界中から総スカン!それでも強行する「トランプのある危機感と狙い」(朝香 豊) @gendai_biz
トランプの「相互関税」が世界中から「荒唐無稽」と総スカンを浴びる中、アメリカの製造業を守るために強行されるその裏には、国際的な安全保障への切迫感が潜んでいる!果たして経済悪化を顧みず、トランプは何を目指すのか?

「荒唐無稽」「乱暴すぎる」トランプ関税が世界中から総スカン!それでも強行する「トランプのある危機感と狙い」

トランプの「寛大」な相互関税、ついに発動

4月2日に発表されると以前から公表されていたアメリカの「相互関税」が、ついに発表された。

トランプの言い分は以下のようなものだ。

――貿易相手国がアメリカに対して不公正な貿易を行っているから、アメリカは貿易赤字で苦しんでいるのだ。アメリカに対する不公正な貿易とは、アメリカ製品に対する関税に加えて、アメリカ製品の輸入を不当に排除する国内の様々な規制などの非関税障壁(関税以外の手段で輸入を阻害するもの)があることで生じている。非関税障壁が関税で換算した場合に、どのくらいの関税率に相当するのかを計算し、それに今の関税率を加えたものが、実質的な関税率だ。外国がアメリカにこうした「関税」を課している以上、この実質的な関税率にアメリカは対抗する必要がある。外国が課している「関税」に対抗するものだから、これを「相互関税」と呼ぶことにする――。

ここで言う「非関税障壁」とは、輸出をしやすくするための為替操作、輸出を促進するための政府の補助金、過剰に生産して不当に安い価格で販売するダンピング(不当廉売)、科学的な根拠に基づかない検疫の基準、偽造品や知的財産の盗難、消費税(付加価値税)などのことだ。

by Gettyimages

消費税がどうして「非関税障壁」に当たるのかは、わかりにくいかもしれない。

日本からアメリカに輸出される場合には、輸出業者には消費税の還付金が支払われる。例えばトヨタの車は、国内で消費されることを前提として、すでに消費税が上乗せされた価格で部品などを調達した上で組み立てが行われている。だが、これを海外に向けて売る場合には、国内消費に回るわけではないので、既に負担した消費税分は不必要だったということになる。それで輸出企業であるトヨタに対しては、海外輸出分については既に支払った消費税分を還付する必要が出てくる。こうした還付金が、2023年4月から2024年3月までの1年間で、トヨタだけで6102億円になっている。

仕組みからすれば、この消費税の還付は当然ということになるが、しかしながら実際の取引においては、こうした下請け部品メーカーとの間で結ばれる取引価格は、現実の力関係を反映して、100%消費税を組み込んだ価格になっているとは必ずしも言えないとの見方もできる。そのため、消費税には輸出企業に対する補助金としての意味合いが一部含まれているとの解釈が行われることがある。

今回アメリカは、この論理を使って、消費税も「非関税障壁」の中に入るとしているのだ。

こうした非関税障壁を含めた日本の実質的な関税率を46%だと推計した上で、アメリカは「寛大」にも、これのほぼ半分に相当する24%しか日本に対して関税は掛けないのだという建前になっている。

この46%という数字はどこから出てきたものかは正確にはわからないが、2024年の日本からアメリカへの輸出総額が1482億ドルに対して、日本の対米貿易黒字額が684億ドルだったので、684億ドル÷1482億ドル=0.46であるから、46%ということになったのではないかとの指摘も一部ではなされている。

「荒唐無稽」と言われても押し通す理由

さて、一般に指摘される通り、トランプ関税は経済学の観点から見れば、荒唐無稽なものだ。自由貿易が成立する中では、最もコストがかからない最適地での生産が進むことになり、その恩恵は世界中が享受する。

アメリカの製造業は衰えたが、その代わりにアメリカでは金融や知的財産などをベースにした非製造業が強くなるという国際分業が発達している。

日本人が楽しむYouTubeやAmazonなどのサービスは、貿易収支ではカウントされていないが、こうしたサービスが増える中で生じる「デジタル赤字」が、日本では年々拡大していることが指摘されている。

そうした「お互い様」を考慮しないトランプのやり方はあまりにも乱暴だといえば、その通りだ。

しかしそこには、いざ有事が発生したという場合に、製造業を失ったことで継戦能力を持たなくなったアメリカの安全保障における危機感が、実は隠れている。

例えばアメリカの造船能力は今や中国の242分の1しかないと指摘されている。米中が仮に戦争状態になった時に、今保有する艦船には双方ともに大きなダメージが加わることになるが、その時に中国はすぐに補充が効くのに対して、アメリカには失った艦船を回復できる生産手段がないのだ。

もちろんアメリカは現実に中国と戦争するつもりなどないだろうが、戦争をやっても負けない力を背景に持たないと、中国の理不尽な要求を飲まざるをえない状況に追い込まれることになる。

だから、トランプはアメリカ国内に製造業のサプライチェーンを取り戻し、有事に対応できる製造能力を回復することを最優先にした政策を進めているのだ。

そのためであれば、経済学的には全く意味のない出鱈目な理屈であったとしても、押し通す必要が出てくる。

当たり前だが、トランプは一人で政策を考えているわけではない。トランプのチームには、ピーター・ナヴァロのような安全保障を重視する経済学者も含まれている。

トランプを小馬鹿にすることが世間では流行っているが、それはこうした背景が見えていないからだ。

スタグフレーション始まる、それでも政策は貫徹する

さて、トランプの「相互関税」が発表された直後に開かれた日本の4月3日の株式市場では、日経平均は一時期1600円以上も値を下げたが、その後は下値を支える買いが入って下げ止まった。

これは今回の「相互関税」発表によって、悪材料が出尽くしたと見る筋が強かったことを意味する。

今後は個別の国々とのディールによって、この「相互関税」は徐々に緩められていくとの楽観論がその背景にある。

だが私は、この見方は甘いのではないかと思う。

トランプは今回の「相互関税」は、本来アメリカが求めるものの半分程度にとどめていると語っている。それは裏返せば、思ったような成果が出なければ、この「相互関税」の更なる引き上げを検討する余地があることを、敢えて示唆しているとも言えるのだ。

そもそもアメリカの現在の景気状況が急速に悪化しているのを無視すべきではない。

コンファレンスボード(全米産業審議会)が発表する消費者信頼感指数は、3月は2月の100.1から7.1ポイント低下した92.9となり、コロナ下の2021年2月以来の低い数字を記録した。所得や労働環境の短期的な見通しを示す期待指数は前月の74.6から9.6ポイント低下した65.2で、リセッションを示唆する80を2ヶ月連続で下回っただけでなく、さらに大きく悪化した。

ミシガン大学が発表する消費者信頼感指数も、2月の64.7から3月は57.9へと、大幅に悪化した。

3月28日に発表された2月のPCE(米個人消費支出)統計では、インフレ調整後の実質で米個人消費支出は前月比プラス0.1%にとどまった。前月がマイナス0.5%と、思いがけないほど大幅なマイナスを記録していたので、この反動で回復することが期待されていたのだが、ほとんど回復しなかったのだ。

他方、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ指標として重視するPCEコア価格指数は前月比0.4%上昇となり、約1年ぶりの大きな伸びとなった。

つまりアメリカ経済は消費が弱体化している一方でインフレ傾向が強まっているのであり、スタグフレーション傾向を強めていることを意味する。

アメリカのアトランタ連銀が公表しているGDP Nowは、2025年の第一四半期(1月~3月)のGDPの値として、2月初めの頃はプラス3%程度を弾き出していたが、2月28日にはマイナス1.5%、3月3日にはマイナス2.8%と、大幅に低下した。4月1日にはさらに悪化してマイナス3.7%となった。4月3日に再びマイナス2.8%まで幾分戻ってはいるが、アメリカ経済に今大きなブレーキがかかっているのは間違いない。

景気は来年夏までに回復すればいい

それでもトランプ政権がこうした経済状況の悪化に直ちに立ち向かうつもりがないのは、今回の「相互関税」が想像以上に厳しいものであったことが象徴的に示している。

トランプは来年秋に実施される中間選挙までは、まだ時間が十分にあることを計算しているだろう。今年いっぱいは経済が悪化しても構わないと、おそらくは見ているのだ。

来年春から経済が回復し、来年夏にはいい状態になっていれば、中間選挙に悪影響は出ないと見ているのではないか。

関税収入で政府財政を賄えるようにしながら、そうした税収増と大胆な歳出削減によって大規模減税を行ったり、国民に対する一律支給を行える余地を作る。これによりアメリカ国民の消費能力を回復させるということを、おそらくトランプは路線として描いている。

私は必ずしもトランプ政策に賛同する立場にはないが、その是非は別として、こうした方向を描いているだろうことを、我々は意識しておきたいものだ。

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