
トヨタは天下を取りにいく。米国市場首位は目前、完全自動運転車で「グローバル・インフラ企業」へ=勝又壽良

トヨタ自動車は、米国市場での販売好調を背景に、2026年にはGMを抜いて首位に立つ見通しである。米国という自動車の本場で日本車が米国車を超える意義は大きく、トヨタの国際的評価はさらに高まろう。加えて、2027年度には完全自動運転車「e-Palette」の実用化を控え、実証都市ウーブン・シティを軸に未来社会のインフラ構築へと歩みを進めている。トヨタは「自動車メーカー」から「グローバル・インフラ企業」への変貌を遂げつつあるのだ。(『 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
トヨタ、「完全自動運転車」の普及に本腰
トヨタ自動車は、世界企業として着実な歩みを続けている。米国関税15%の壁を乗り超えて、米国市場での販売は順調である。26年には、GM(ジェネラル・モーターズ)を抜いて、首位に立つことが確実視されている。自動車の「本場」米国で、日本車が米国車を抜くという意味で画期的だ。日本車の評価が一段と押上げられる。同時に、日本の評価をさらに高めることになろう。
27年度には、完全自動運転車(レベル4)の「e-Palette(イーパレット)」を発売する。移動型店舗や輸送サービスなど、多用途に対応する次世代モビリティである。世界の大手企業として、レベル4の完全自動運転車を発売するのは初めて。完全自動運転車は、何よりも「安全第一」が最大のポイントだ。トヨタが、これまで築いてきた世界首位の販売台数に加え米国市場首位によって、トヨタへの信頼度は一段と高まり安心感を拡大させるに違いない。
完全自動運転車は、前述の通り製造企業元の信頼度が極めて重要になる。トヨタは、すでに「販売力 × 技術力 × 社会的価値」の三位一体の世界的体制を確立した。こうして得た信頼を基盤に、「グローバル・インフラ企業」としての発展を模索する。具体的には、世界の都市再開発に向けて大きな役割を果す準備を始めたのだ。将来、米国のAppleやGoogleと並ぶ存在感を持つ企業への発展飛躍である。この目的に向けて、すでに実証都市「ウーブン・シティ」を静岡県裾野市で稼働させた。
完全自動運転車のイーパレットが、公共目的の移動型店舗や輸送サービスなどの機能を果たすには、まず実証都市で実験を重ね信頼性を高めることが必要だ。完全自動運転車は広く普及する上で、政策当局の理解と支援が不可欠である。それには、高齢社会や都市交通の課題解決に貢献することであり、これによって社会的評価を獲得しなければならない。それが、結果的に完全自動運転車の普及を早める鍵となり、当局の政策協力を得られる道にも繋がるであろう。
トヨタは、このような形で完全自動運転車普及を目指している。他の自動車メーカーであれば、直線的に乗用車普及を第一義にするであろう。トヨタは、まず公共目的という視点から完全自動運転車に取り組んでいる。これが大きな特色だ。この迂回的な戦術を取れるのは、トヨタが収益的にゆとりを持っている結果であろう。焦らずに、完全自動運転車の普及に取り組む。他社にない特色である。
26年に米国市場で首位へ
トヨタは、米国で25年上半期(1~6月)124万台を販売した。米国市場での販売シェアは15%である。GMの144万台に次いで2位だ。フォードは111万台である。トヨタの第2四半期(4~6月)は、電動化車両(HV・PHEV・BEV)が48.1%を占め、前年同期比で29.7%増の驚異的な伸びをみせた。HVはハイブリッド車、PHEVはプラグインハイブリッド車、BEVはEV(電気自動車)である。
これら、電動化車両が第2四半期で売上の約半分を占め、前年比約3割も伸びたことは、米国自動車市場全般が関税の影響を受けている中で画期的と言えよう。その上、日本からの輸出車は、鋼板コストが自動車全コストの10%前後であるのに対して、米国は15%前後と割高である。日本では、鋼板価格が原材料費の変動にともない変化するが、長期的に極めて安定している。こういう点が自動車販売面で強みになっている。
先に日鉄は、トヨタ自動車への鋼板価格について変動費値下がりを理由に、25年下半期よりトン当たり5,000円引下げた。これで3半期連続の引下げとなった。関税引上げへの配慮を含むとされるが、トヨタ(部品メーカーを含む)全体の生産コストは、年間で約150億円の削減になる。こうして、関税引上げによる減益要因1兆4,000億円のいくぶんかは穴埋めされそうだ。
トヨタは、このように好調な販売とコスト削減効果を背景に、26年の米国市場でGMを抜き首位になる公算が強くなっている。その概略をみておきたい。
トヨタが、26年3月期に北米販売計画として発表した販売台数は294万台(米国は約260~270万台)である。GMは、24年販売台数が270万台。これに成長率を加味した推定値として、25年は約280~290万台程度とみられる。トヨタは25年上半期(1~6月)で約124万台。仮に下半期も同程度とすると248万台に止まる。これに対してGMは、2025年上半期で約144万台。同様に下半期も同水準と仮定すると288万台となろう。トヨタは、25年時点の販売台数でGMを抜くことが不可能である。
26年になると、状況は大きく変わる。GMの24年成長率(前年比4%増)は、トヨタ(同3.7%増)をわずかに上まわっている。だが、トヨタは25年に入って新型EVやSUVの投入を加速させている。この結果、26年に逆転の可能性は十分にあるとみられるにいたった。米国は、世界自動車市場で君臨する。それだけに、トヨタがGMを抑えて首位になれば、名実ともにトヨタの地位が確立する。それは、トヨタへの信頼度を一段と増すことになろう。この高まる信頼度が、完全自動運転車への評価を押上げる。
27年度は完全自動運転車
トヨタは9月15日、移動式店舗などで使える電気自動車(EV)「e-Palette(イーパレット)」を発売すると発表した。当面は、手動の運転を必要とするが、2027年度にも特定の条件下で完全自動運転となる「レベル4」技術の搭載を目指す。東京・お台場エリアでこの車を使うサービスを広げて、地域の活性化につなげたいとしている。
完全自動運転車は、「信頼度」が最も優先される。自動運転車には、サイバー攻撃されて乗っ取られる危険性があるからだ。政治体制の異なる国が、製造する自動運転車にはどういう仕掛けがあるか分らないのだ。となれば、日本企業という高い信頼性によって、トヨタ自動運転車は世界中で受入れられる恵まれた背景を持つことになる。
完全自動運転車は、単なる機械ではなく「走る情報システム」である。センサー、AI、通信、クラウド連携などが複雑に絡み合っている。それだけに、製造段階でのセキュリティ設計と倫理的管理が不可欠だ。その点で、日本は信頼できる国家という揺るぎない財産を築き上げている。トヨタは、その信頼をバックボーンにした第一歩が、イーパレットとして始まる。
トヨタはまず、東京・お台場エリアなど限定空間での運用を想定している。これは、都市型モビリティや移動式店舗・シャトルバスなどに特化した用途限定型の自動運転である。このように、トヨタが特定用途・限定空間の自動運転から始めることは、社会受容性・安全性・法制度との整合性を確保しながら進める戦略とみられる。
完全自動運転車は、これまでの自動車の概念を一変させるものだ。ドライバーを必要としないことは、社会通念を破壊するものである。それだけに普及させる上で、前述のように社会受容性が不可欠だ。安心して乗れる条件を、どのようにしてつくるのか。それには、自動車自体の安全性のほかに法制度の整備が不可欠である。こういう諸問題を試行錯誤しながら進めるには、トヨタが行なう都市型モビリティや移動式店舗・シャトルバスなどに特化した用途限定型が最適である。
社会受容性こそ、完全自動運転車が最初に解決しなければならないテーマである。健常者が利用する一般乗用車よりも、公共目的の完全自動運転車を優先する取組みから始めるほうが、はるかに社会的意義がある。その方が、社会の受容性を高める上で役立つであろう。トヨタは、完全自動運転車の目的が個人ニーズの充足よりも、これからの高齢社会にマッチした共同ニーズの解決にあることを明確に示している。
実証都市へ100社参加
トヨタの完全自動運転車の機能拡大が、実証経験に基づく具体的構想であることは、静岡県裾野市でトヨタが開発した「ウーブン・シティ」で裏付けられる。『日本経済新聞』(9月21日付)が報じた。
実証都市「ウーブン・シティ」9月25日に開業する。新たな製品やサービスを生み出すための実験の場であり、対象は自動運転や物流など車領域にとどまらない。トヨタグループ外からも参画を募り、まずは100社で始動する。東富士山麓にある175エーカー(約70万8,000平方メートル)の土地に未来の実証都市をつくった。人々が実際に住んで、働いて、遊ぶ街だ。そんな日常生活を送りながら、実証に参加する街となる。
自動車メーカーが、先進技術の開発を目的として住民が実際に暮らす「街」をつくるのは世界的にも異例の取り組みである。今回の開業では、全体のうち約4万7,000平方メートルの区域だ。住居8棟を含む建物計14棟が立地し、将来はトヨタ関係者を中心に約360人が住む予定になっている。
トヨタが、実証を進める技術の一つが自動運転である。専用道を設け、完全自動運転を見据えたEV「e-Palette」などを走行させる。27年度までに特定の条件下で運転手が不要となる「レベル4」水準の技術搭載を目指す実験場だ。敷地内では公道で難しい実証も行える。例えば、交通環境と車を連携させるコネクテッドカー(つながる車)領域だ。歩行者側の信号を通常時は青色で点灯させておき、車が近づいたタイミングで赤色へ変える仕組みを検討している。信号無視の危険性を歩行者に認識させ、事故防止へつなげていく狙いだ。
ウーブン・シティで実証研究に取組む参加企業は、以下のような分野から構成されている。
1)自動車・モビリティ:デンソー、アイシン、日野など
2)IT・通信 :NTT、ソフトバンク、KDDI
3)建築・都市開発 :清水建設、大成建設
4)医療・ヘルスケア :テルモ、シスメックス
5)エネルギー・環境 :パナソニック、ENEOS、出光興産
6)大学・研究機関 :MIT、東京大学、慶應義塾大学など
30年代に社会基盤企業
このように、業界横断型の連携が進んでおり、単なる自動車実験都市ではなく「未来の暮らしの実証場」として設計されている。ここから、浮かび上がるのはトヨタ自動車の未来構想図である。トヨタは、すでに「自動車メーカー」から「モビリティ・テクノロジー企業」へと進化を始める準備に着手している。具体的には、次のような分野だ。
1)都市インフラへの進出
ウーブン・シティでは、交通・医療・エネルギー・教育・物流など都市機能全体を対象に実証を始める。自動車だけでなく、人の暮らしそのものを再設計するプロジェクトである。
2)ソフトウェア・AI・ロボティクス
トヨタは「SDV(Software Defined Vehicle)」を推進し、車両をソフトウェアで制御する時代へ着手している。AIによる自動運転、ペットロボット、ドローンなどもウーブン・シティで実証予定である。
3) エネルギー・環境分野への展開
水素社会の構築に向けて、燃料電池車(FCEV)や水素ステーションの整備を推進する。カーボンニュートラル燃料(CN燃料)にも積極的に取り組み、エネルギー企業との連携を強化する。
4)医療・福祉分野への貢献
高齢者支援ロボットや遠隔医療システムなど、医療・介護分野の技術開発にも注力する。ウーブン・シティでは、医療機関との連携による実証も進行中だ。
トヨタは今や「車をつくる会社」ではなく、未来の社会を設計する企業へと進化している。ウーブン・シティはその象徴であり、参加企業の多様性がそれを裏付けている。この流れが加速すれば、トヨタは2030年代には「グローバル・インフラ企業」として、AppleやGoogleと並ぶ存在感を持つ可能性を内包し始めた。
トヨタという自動車メーカーが、モビリティを基盤にして、これから世界的に進行する高齢化社会のインフラ再構築に取組む。こういう試みは、トヨタが最初である。この試みは、先進国だけでなく、発展途上国へも拡大できる基本的ニーズを持っている。人々が、モビリティ手段を提供されることによって、これまで受けられなかった公共サービスを手にすることが可能になるからだ。無限の需要が開発されるのを待っている。トヨタが、その先鞭を切るのだ。



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