だから戦争は消えない。欧米の指導層を支配する「終末論コンプレックス」の正体とは=高島康司

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だから戦争は消えない。欧米の指導層を支配する「終末論コンプレックス」の正体とは=高島康司 | マネーボイス
大戦争に自ら向かう欧米やロシア、そしてイスラエルの指導層のマインドセットを支配する終末論について書く。これは終末論コンプレックスと呼べるようなマインドセットだ。(『』高島康司) 【関連】今ここが人工知能「人間超え」の出発点。米国覇権の失墜、金融危機、大量辞職…2025年には劇変した世界が待っている=高島康司

だから戦争は消えない。欧米の指導層を支配する「終末論コンプレックス」の正体とは=高島康司

大戦争に自ら向かう欧米やロシア、そしてイスラエルの指導層のマインドセットを支配する終末論について書く。これは終末論コンプレックスと呼べるようなマインドセットだ。

(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)

各国の指導層を支配する終末論コンプレックス

いま世界は一層不安定になりつつあることは、主要メディアの日々のニュースを見ているとよくわかる。これから世界がどうなって行くのか、底知れぬ不安感にさいなまれている人は、 このメルマガ の読者にも多いのではないだろうか?

海外のメディアを見ると、第三次世界大戦は避けられないとする悲観的な論評が非常に多くなっている。特に欧米では、大戦争は避けられないとしてこれを受け入れる論調も強い。あのナチスドイツの大破壊と大虐殺を経験したドイツも、ロシアとの戦闘への準備を主張する声が、国防相からも出てくるようになった。

しかし、一歩ひいて見ると、ウクライナ戦争にしろ、ガザ戦争とパレスチナ問題にしろ、解決不可能な問題ではないことははっきりしている。

ウクライナ戦争であれば、(1)ウクライナ東部と南部4州、クリミアのロシア併合、(2)ウクライナのNATO非加盟、(3)ウクライナの非武装化 などの要求をおおかた受け入れ、ロシアと欧州双方の安全が保障される枠組みの構築に向かえばよいだけだ。

またガザ戦争とパレスチナ問題では、イスラエルがパレスチナ国家の二国家併存案を受け入れ、パレスチナ人の生存権を受け入れればよい。イランやフーシー派が支配するイエメンは、二国家併存案をイスラエルが受けれれば、イスラエルには敵対しないとしている。

現実的な解決を阻む終末論コンプレックス

しかし、いまのところ、こうした合理的な解決策は非常に難しい。

それというのも、アメリカ、欧州、イスラエルのシオニスト、アラブ諸国、そしてロシアは終末論コンプレックスと呼べるようなマインドセットに陥ってしまい、問題の戦略的な解決に向けての現実的な認識ができなくなっているからだ。

その一例を見てみよう。ガザ戦争だ。

ガザではイスラエルのジェノサイドが実行されている。食料配給所や給水所に集まった人々に、イスラエル軍は無差別に発砲し、毎日大勢の死者が出ている。2023年10月の戦闘開始以来の死者数は5万5,000人を超え、人道危機が一層深刻化している。イギリスの著名な医学雑誌、「ランセット」に掲載された研究によると、イスラエルとハマスの戦争が始まってからの死者数は、パレスチナ自治区の保健省が記録した数字よりも約40%多いと推計している。いまイスラエルが行っていることは、ナチスのユダヤ人虐殺にも匹敵する残虐行為だと言ってもよいだろう。

しかし、そのような状況にもかかわらず、宗教の終末論のフィルターを通すと、現実はまったく逆転して見えてしまう。

テッド・クルーズ上院議員のインタビュー

このマインドセットの恐ろしさは、最近タッカー・カールソンが行ったテッド・クルーズ上院議員とのインタビューで明らかになった。ちなみにテッド・クルーズは、大統領候補にもなった共和党の有力な上院議員である。支持基盤は福音派で本人も熱心な福音派である。プリンストン大学の後、ハーバード法科大学院を卒業したエリート中のエリートだ。まさにエスタブリッシュメントの一人だ。

だが、このエリートが大虐殺を行っているイスラエルをどのように見ているのか分かるインタビューの発言を引用する。

テッド・クルーズ米上院議員は、大虐殺を行っているイスラエルをどのように見ているのか。それがわかるインタビューの発言を引用する。以下だ。

テッド・クルーズ:
日曜学校で育った私は、聖書から「イスラエルを祝福する者は祝福され、イスラエルを呪う者は呪われる」と教えられました。私の立場からすると、私は祝福される側になりたいと思っています。

タッカー・カールソン:
イスラエルの政府を祝福する者たちですか?

テッド・クルーズ:
聖書には「イスラエルを祝福する者」と書かれています。政府ではなく、イスラエルという国家を指しています。それが聖書に書かれていることです。キリスト教徒として、私はそれを信じています。

タッカー・カールソン:
それはどこに書いてあるの?

テッド・クルーズ:
聖書の箇所をすぐに思い出せない。

タッカー・カールソン:
創世記にあるよ。あなたは聖書の言葉を引用しているけど、文脈も知らないし、聖書のどの部分にあるかも分からないのに、それがあなたの神学なの?混乱している。それって何の意味があるの?

テッド・クルーズ;
タッカー。私はキリスト教徒だ。

タッカー・カールソン:
あなたが言っていることの意味が知りたい。

テッド・クルーズ:
私のイスラエル支持の根拠は、第一に、聖書的に、私たちはイスラエルを支援するよう命じられているからだ。しかし第二に。

タッカー・カールソン:
待って。待って。あなたは上院議員なのに神学を振りかざしている。

テッド・クルーズ:
私はキリスト教徒で、この件について意見を述べる権利がある。私たちはキリスト教徒として、イスラエルを支援するように神から命じられている。そして、イスラエルを祝福する者は祝福されると言われている。

タッカー・カールソン:
でも、なに?待ってくれ。イスラエルを定義してくれ。これは重要だ。

テッド・クルーズ:
冗談か?ここはキリスト教徒が多数派の国だ。

タッカー・カールソン:
イスラエルを定義してくれ。

テッド・クルーズ:
イスラエルが何か知らないのか?

タッカー・カールソン:
それが、あなたが議会で49個も質問した国だろ。

テッド・クルーズ:
イスラエルは創世記で、神が言及している国だ。イスラエルという国家だ。そうだ。

タッカー・カールソン:
では、現在の国境や現在の指導者も含まれるのか?

テッド・クルーズ:
神は「イスラエル」という政治的実体を指している。神は「イスラエルという国家」について話している。神は国家が存在することを示し、国家について議論している。国家とはイスラエルの民のことだ。

タッカー・カールソン:
創世記で神が言及している国家は、現在ベンジャミン・ネタニヤフが率いる国と同じなのか?

テッド・クルーズ:
間違いなくそうだ。現在のイスラエルこそ、創世記で神が言及している国家だ。

これがエリート中のエリートであるテッド・クルーズ上院議員のイスラエル認識だ。創世記で神がイスラエルに言及しているから、イスラエルを全面的に支持するという。イスラエルの民こそ、神に選ばれた民族だ。そして、現代のネタニヤフ政権のイスラエルは、創世記で神が言及した国だという。

この認識が、想像を絶するジェノサイドを展開しているイスラエルを全面的に支持する根拠になっているのだ。恐るべきことである。

福音派の終末論コンプレックス

しかし、イスラエルに対するこのような認識は、テッド・クルーズに限られたものではない。全米に1億人近くもいると言われるキリスト教原理主義の福音派に共通した見方である。

福音派は「ヨハネの黙示録」にある終末論を文字どおり信じている。終末論とは、キリストが降臨して千年王国が建国され、最後の審判に至る聖書に予言された一連のプロセスのことを指す。それは、この世の終わりと来世、そして神の実現を予告するキリスト教徒の宗教的な希望の現れである。

キリストの降臨から千年王国の建国に至る終末期の過程は次のようになっている。

<1. 終末の兆候(Signs of the End Times)>

彼らは「マタイによる福音書24章」や「黙示録」を基に、以下の兆候が現れると神の降臨が近いと考える。

まずは、イスラエルの国家としての再建とその拡大だ。1948年の建国はその一部成就とみなされる。1967年のエルサレム支配で預言はさらに成就に近づき、エルサレムで第三神殿が建設されると終末期の到来は本格的になる。これが反キリスト登場の舞台とされる

次に、世界的な混乱、戦争、地震、疫病がある。それとともに、道徳的退廃と霊的堕落が広がる。アメリカや西欧社会の現代文化はしばしばその例に上げられる。また、パンデミックや経済崩壊などを予兆とみなす。さらに、教会すら堕落する大規模な背教がある。

その後、反キリストの登場(Antichrist)がある。それによって、世界統一政府の萌芽が現れる。現代のグローバリズムはその兆候と見なされている。世界統一通貨や管理社会を反キリストの布石でもある。そのとき、宗教を統一する動きもあるとされる。

<2. 携挙(Rapture)>

その後やってくるのが「携挙」である。「携挙」とは、イエスを信じる者は空中に引き上げられることだ。一方、残された世界では大患難(Great Tribulation)が起きる。

<3. 大患難(7年間の災厄)>

その後、反キリストによる統治と神の裁き(戦争、飢饉、疫病など)がある。

<4. ハルマゲドンの戦いとキリストの降臨>

次に、イスラエルが憎まれ、最終戦争となる「ハルマゲドン」が起きる。その過程で、キリストが地上に降臨する。キリスト教に改宗した14万4,000人のユダヤ教徒は救われるが、残りの異教徒は焼き殺される。サタンと悪の勢力を打ち倒し、千年王国(Millennial Kingdom)が設立される。

これを見ると明らかだが、イスラエルの建国と拡大、そしてハルマゲドンに至る過程は、キリストが降臨して千年王国が建国されるためのもっとも重要は条件である。だから、福音派は全面的にネタニヤフのイスラエルを支援する。彼らの目には、ガザとヨルダン川西岸地域の大虐殺はまったく目に入らない。現実として、存在していないかのように振る舞う。

これは、アメリカの福音派に近いエリートから一般の庶民まで、同じマインドセットを共有している。このような盲目的な支持が、ガザ戦争の合理的な停戦と和平を阻んでいる大きな要因のひとつであることは間違いない。

各国の終末論コンプレックス

だが、これはアメリカだけに限定される現象ではない。いま、直接的、間接的に戦争にかかわっている多くの関係国に終末論コンプレックスと呼ばれるマインドセットが多かれ少なかれ一般的になっている。

以下にまとめたので簡単に紹介しよう。

<ロシア>

プーチンのロシアはロシア正教の影響か強い。ロシア正教は、ロシアを「聖なるロシア」として特別な使命を持つ国と捉える傾向がある。この思想と終末論が結びつき、「聖なるロシア」が最後の防波堤となり、世界の終末に際して信仰を守る役割を果たす、といった見方が現れている。

そして、ウクライナ戦争は、善と悪の最終的な戦い、あるいは悪魔払いの側面を強調するように終末論的に解釈されている。これが、ロシア国民がウクライナ戦争を支持する理由になっている。

<イスラム圏>

現代のイスラム教における終末論は、クルアーン(コーラン)とハディース(預言者ムハンマドの言行録)に基づく古典的な教えが中心にありながら、現代の国際情勢や社会状況と結びつけて解釈される傾向が見られる。ユダヤ教やキリスト教の終末論と共通する要素も多く持ち合わせているが、イスラム教独自の預言と出来事が特徴的だ。

メシアであるイマーム・マフディー、また偽メシアのダッジャールなどが登場して、終末期の大戦争に至る。そして、イーサと呼ばれるキリストが降臨して、最後の審判になる。イスラエルとの戦争は、予定された大戦争である。

<イスラエルのシオニスト>

ユダヤ教には古くから、メシア(救世主)の到来によってユダヤ人が約束の地イスラエルに帰還し、神殿が再建され、全世界が平和と正義の時代を迎えるというメシア思想(終末論的救済思想)がある。伝統的なユダヤ教では、メシアの到来は神の奇跡によってのみ起こるものであり、人間が積極的にそのプロセスを加速させることは禁じられている。

しかし、シオニズムは、伝統的なメシア思想とは一線を画している。ユダヤ国家イスラエルの建国を単なる政治的出来事としてではなく、メシア時代の到来に向けた神の計画の一部と捉える。シオニストにとって、イスラエル建国は預言の成就であり、救済のプロセスがすでに始まっていることの証拠である。イスラエル国家は神聖なものであり、その領域(特にヨルダン川西岸地区)の確保はメシア到来の前提である。

したがって、いまのガザ戦争とヨルダン川西岸地区の占領こそ、メシア到来の前提を整える戦いである。

<ヨーロッパのリベラリズム>

ロシアの著名な哲学者、アレキサンドル・ドゥーギンなどは、欧米のリベラリズムも一種の宗教として理解した方がよいとしている。終末論ではないが、リベラリズムは一切の妥協を拒否する強固なイデオロギーに基づいている。

世界と社会の唯一のあるべき秩序は民主主義と資本主主という2つの根本原則に基づいたにしたリベラリズムだ。この価値観と世界観を否定すると、人間が抑圧される悲惨な独裁か、または有効な秩序が存在しないカオスの混乱状態になる。これは万人による万人に対する闘争状態だ。だらら、どれほどの犠牲を払おうとも、リベラルな秩序は死守しなければならない。

このような認識が、欧州がロシアと合理的な和平交渉に入ることを阻む障害になっている。

終末論には影響されていない東アジア

これが、いまの各国のマインドセットだ。このマインドセットの影響を受けているのは、これらの国々の一般国民だけではない。テッド・クルーズがその典型的な例だが、一国の指導者層にまで終末論コンプレックスは浸透している。このようなフィルターを通して世界の状況を見ると、戦略的に合理的な分析に基づく判断と意思決定ができなくなるのだ。この結果、本来であれば回避できる戦争も回避できなくなり、最悪な方向に進むことになる。

幸い、日本・韓国・台湾・中国などの東アジア諸国は終末論コンプレックスのマインドセットからは自由だ。この枠組みには支配されれいない。合理的な認識と判断ができる状況にある。

しかし、アメリカとヨーロッパ、そして特にイスラエルはこれから狂ってくる可能性が高い。日本に住む我々は、このような流れに巻き込まれてはならない。

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