《コメ高騰》作況指数は嘘、「投機筋」も「インバウンド」も“言い訳”…実態に合わない農水省の説明に対する「疑念」

備蓄米放出でも価格高騰はなぜ
「米不足」が指摘されるようになってから、既に1年近くになる。
これが問題視されるようになると、農水省は米の不足と価格高騰の原因は、投機的な卸売業者が米を貯め込んで売らないからだと主張するようになった。そして2024年の収穫が進めば、需給関係は緩み、価格は落ち着くかのような説明をした。
その後2024年の収穫状況が明らかになると、2024年産の主食用の米の生産は18万トン増の679万トンだから、もう心配はいらないという話をし始めたが、現実には米の不足感は緩和されず、価格高騰はさらに進むようになっている。
JAグループをはじめとするコメの集荷業者が相対で取引する価格は、2024年産の新米の平均で玄米60kgあたり2万4383円となり、前年の2023年産と比べても約6割も高くなっている。
国の小売物価統計によると、東京都区部のコシヒカリ5キロの精米価格は2024年1月が2440円だったが、直近の今年3月には4679円となり、91%以上も値上がりした。1ヶ月前の今年2月が4363円だったので、わずか1ヶ月だけとっても7.2%の値上がりをしたことになる。
政府が備蓄米を放出すると発表し、その後に実際に備蓄米を放出しても、値段は下がるどころか上昇したのだ。
4月7日にNHKは、全国のスーパーでのコメの平均価格が13週連続で値上がりしたことを報じた。
この現実の動きからすれば、投機的な業者が流通不足による価格高騰を期待して、大量の米を隠し持っているかのような政府の説明は、誤っていると見るべきだろう。
「投機筋」という農水省の説明は合理性がない
農水省の主張では、2024年産の米に限っても、投機的な業者が買い集めた数量は21万トンにのぼるということになる。政府がその買い集めたとされる数量に相当する21万トン分の備蓄米を放出し、その米が既に市場に出回る状態になっても、値下がりどころか値上がりが続いているのだ。
そもそも需給関係が悪化することがわかったら、投機的な業者は損失を被らないように売りに出すだろう。すなわち、備蓄米の放出の21万トン分に加えて、投機筋が買い集めていた21万トンに達する分も売りに出されてくるはずなのだ。
ちなみに農林水産省の話を信じれば、投機筋は2024年産ばかりでなく、2023年産の米も買い集めていたはずだ。
農水省の放出に投機筋の放出が重なれば、米の値段は大きく落ちるはずだ。農水省の放出の話が出てきた段階で、投機筋は今後の需給関係の悪化を睨んで、少しずつ放出に動いていたはずだ。だが現実にはそうはなっていないから、価格は上がり続けていると見るべきだ。
となると、政府の備蓄米の放出があっても、ここを頑張ればさらなる米価格の上昇が見込めると考えて、投機筋が頑張っているということになるが、そんな想定は成り立つのだろうか。
そもそも米を保管するには、倉庫代がかかるだけでなく、適切な温度管理が必要になり、それにも費用がかかる。ちなみに投機筋が保管したとされる21万トンという数量は、四国4県の1年間の米の生産量を合わせたに等しい膨大なものだ。投機筋が長期間にわたってそれほど多くの米を多額のコストを掛けて保管するのは、経済合理性に欠けると言わざるをえない。
さらに我が国には、米の不正流通をチェックするための米トレーサビリティ法が存在する。農水省が調べる気になれば、投機的な業者を特定することは難しいことではないだろう。だが、そんな業者を農水省が特定したという話は一向に出てこないのだ。
この点から見ても、農水省の説明は合理性がないと言わざるをえない。
作況指数が嘘だった
では「あるはず」の米はいったいどこに行ったのだろうか。
実は農業関係者の間では、農林水産省が発表した作況指数が間違っているとの認識が当たり前になっているようだ。
1年以上前の2024年2月16日に、農林水産省の大臣官房新事業・食品産業部にて「米産業活性化のための意見交換」が開かれた。
消費者が米不足を意識し始めたのは2024年の5月頃だったかと思うが、それより3ヶ月前に開かれた会合だ。
この場に出席した生産者側の福原悠平氏(有限会社フクハラファーム代表取締役)は、「これ多分皆さん実感としておありだと思うのですが、作況指数以上に、相当、収量が全国的に悪かったのではないかと思っています。特に東日本のコメが、物が無くて、値上がりがすごいみたいで、商社さんや卸さんというよりも、末端のお米屋さんですとか、中小規模の飲食店のチェーン店さんですとか、そういった所からお米が無いので、なんとかなりませんかというご相談を、本当に 12 月位から、非常に多くいただくようになってきている印象ですね。」と、発言している。
この発言から、農水省が発表した2023年の米の作況指数101(平年並み)をまともに相手にしない声が、生産者側からこの時点で出ていたことがわかる。そして生産や流通の現場では、1年半以上前の2023年12月段階から米不足が意識されていたのだ。
事実、農業ジャーナリストの土門剛氏によると、2023年12月段階で全農は各卸への供給の2割カットを通知し、しかもその中には、複数年契約(3年)も含めたとても厳しい内容だったという。
この会合では、同じく生産者側の山嵜哲志氏(株式会社ファームフレッシュヤマザキ取締役)も、「昨年の結果は数量で言いますと、大体20%減位が数量の正直な所かな、と思います。」と発言している。
集荷側の駒形剛氏(ホクレン農業協同組合連合会米穀部長)も、「(令和)5年産の状況でございますけれども、やはり先程来あるとおり、作況ほど(集荷数量は)ない」と話している。
卸売の人見洋介氏(株式会社むらせ商品部原料課統括バイヤー)は、「お取引先様の関心は、品質不安から調達不安に変わったかなという印象です」と発言している。米の品質以前に米の数量が足りないから、きちんとした数量分の入手ができるかどうかを気にするようになっているというのである。
オブザーバーとして参加した折笠俊輔氏(公益財団法人流通経済研究所主席研究員)も、「我々が悩んでいるのは出品が出てこないのを悩んでいます。ユーザーに今納品でコンタクトをさせていただくと、やはり生産者さんのユーザーの多くは無いと。全て販売済みですとか、今年の3月までよくわからないという方が多く、ものが無くてなかなか出していただけない状況にございます」「状況としては、皆様と同じように現状では米が無く、出品されない状況ですので、今後の米業界全体の動向を見ているという状況でございます」と発言している。
農水省レポートの奇異な説明
さて、農水省が出している「米に関するマンスリーレポート」(令和6年9月号)を見て私が奇異に感じたのは、米の需要が堅調である理由として、「高温・渇水の影響により、精米歩留まりが低下」したことを挙げていることだ。
「高温・渇水の影響により、精米歩留まりが低下」したことは、普通の感覚では供給が減った要因として意識するものだろう。ところが、農水省は米の需要が増えた要因として捉えているのである。
農水省としては、消費者が例年と同じレベルの白米を同じ量だけ求めただけ、つまり現実の消費者需要は増えていなかったとしても、米の品質が悪くて商品となるものが例年より少なくなったから、その結果必要となる玄米の需要量は増えたのだという認識なのだ。消費者目線・国民目線から見ると、実にわかりにくい捉え方をしていると言わざるをえない。
では、例年と比して精米歩留まりはどのくらい下がったのだろうか。これについては2024年6月に発表された「米の基本指針(案)に関する主なデータ等」に具体的な数値が出てくる。過去10年(2013年〜2022年)の平均の歩留まりが91.4%であるのに対して、2023年の歩留まりは90.6%であり、落ちているのは0.8%にすぎない。1%も下がっていないのだ。
ということは、作況指数101と発表していたけれども、消費者ベースで見た場合の作況指数は100として表現すべきだったという話にしかならない。
現実に展開された米の不足感と価格高騰を説明できるものにはなっていないのは明らかだ。
農水省の後講釈
もっとも米の不足感は、収穫が落ちた可能性ばかりでなく、訪日外国人が増えた可能性も考えられるのではないかとの声もあるだろう。
農水省も2024年の米の需要が堅調であった理由の1つとして、「インバウンド等の人流の増加」を挙げている。
確かに、訪日外国人の数は、2024年は3687万人もいる。この人口は日本の人口のほぼ30%に相当し、一見するとかなりの人数だと思われるかもしれない。だが、訪日外国人の日本の平均滞在日数は10日程度であり、日本の滞在人口に対するインバウンドの押し上げ効果はせいぜい0.8%程度に過ぎない。
ちなみに農水省は、こうした訪日外国人が1日2食米を食べることを前提として米の消費量を計算しているが、そこまで訪日外国人が米を食べるというのは、実態に合わないのではないか。
訪日外国人が日本食を求める傾向が強いとしても、高級な寿司や和牛のような米と相性のいいものばかりを食べているわけではないだろう。ラーメンやたこ焼きなどの小麦ベースの和食を求める動きの方が、手を出しやすい価格帯からしても、むしろ強いとさえ思われる。
それはともかく、こうして見ると、農水省は実態に合わない作況指数を出しながら、それをごまかすためにもっともらしい後講釈を付け加えているだけではないのかという疑念が、どうしても浮かび上がってこざるをえない。
農業ジャーナリストの浅川芳裕氏はX上で、いかに農水省の作況指数の出し方が杜撰なものかを具体的に示している。
これは簡単に説明しづらいところもあるので、ここでは具体的に述べることはしない。
ただ、浅川氏は2023年に続いて2024年についても米は不作だったと指摘していることを付け加えておく。
浅川氏は結論として、一切誤りを認めない農水省のあり方に見切りをつけて、志ある稲作農家とコメ業者が協業し、科学的な作況指数を独自に構築することを提案しているが、ぜひこの方向で頑張ってもらいたいものだ。
減反、統制という農政の無理が
ところで、これほど国内が米不足で苦しんでいる中で、日本からの輸出される米が海外での日本食ブームを受けて過去最高の金額に達したことが報じられた。米国で売られている日本産コシヒカリが、日本国内よりも安いということも報じられた。
日本で米不足に陥っているのに、輸出に回す米があるのか。しかも輸出されている方が輸送コストはもっと高いはずなのに、日本国内よりも割安で買えるとはどういうことなんだ。まさに国民感情を逆撫でするような話だが、ここには農水省の統制的な農業政策が反映している。
輸出用のコメには補助金が付けられていて、海外で販売されても日本国内よりも安くなるようにできているのだ。そしてこの補助金の兼ね合いから、輸出用の米は、国内流通に転用することができない仕組みになっている。つまり輸出用と国内消費用は同じ食用の米でありながら、完全に区分されているのだ。
この仕組み自体は、今の農業政策のあり方を前提とすればやむをえないところもある。海外ベンダーに安定供給を約束しなければ、米の輸出に支障が出るからだ。
だが、今なお農水省の統制下に置かれている米作りがそもそもおかしいと見るべきだ。真剣に米作りをしたい農家が持てる力を最大限発揮することを妨げる今の農政はやめるべきで、統制経済的なやり方から脱して完全に自由化したほうがいいのではないか。
農水省は自由化によって米価が下落することを恐れているが、農家が作りたいだけ作って国内流通では余る米はどんどん輸出するようにしたほうが、遥かに健全ではないか。
生産調整(減反)させるために使っているお金を、自由化の結果として価格が下落した場合に農家に補填する資金として活用したほうが、遥かに有意義ではないか。
国内の米価が下がれば、インフレを抑制することに繋がり、庶民の生活も楽になる。
国内需要を大きく超えるだけの米を生産すれば、食料安全保障の見地からも有効だ。
海外産の輸入米に課している高い関税を廃止することも可能になり、トランプ政権との関税交渉において切れるカードにもなる。
政府には、戦後農政の大転換を望みたい。
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