しかし、米経済紙を丹念に読むと、アメリカの実体経済に関してはロクなニュースがないことも事実なのだ。
主要メディアが流している明るい見通しとはあまりに異なる実体経済の現実である。こうした状況を見ると、やはり市場の暴落と景気後退は確実にやってくると見た方が妥当だろう。
もちろん、なにが引き金になるのかは分からない。日銀の利上げ、エンキャリートレードの一層の巻き戻し、「FRB」の利下げ、そして米大統領選挙はもたらすアメリカの混乱なのだ。特に、米大統領選の混乱は予想外の影響をもたらし得る。なにが起こるのか分からないのだ。9月11日にトランプとハリスの最初の討論会が行なわれた。これ以降、選挙戦は過熱し予想外のことも多く起こっくるだろう。
それらが、相場の暴落の引き金にならないとも限らない。とにかく、いまのうちから準備することが重要だと思う。
世界恐慌と株価大暴落は迫っているのか?無視できない4つの要因。米経済の危機を示す5つの兆候も=高島康司
最近、近い将来相場が暴落し、大変な不況が世界的にやってくるのではないかという記事が以前よりも多くなっている。実態はどうなのか。その可能性を検討したい。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
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※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2024年9月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
株式市場に暴落の兆候?
最近、近い将来相場が暴落し、大変な不況が世界的にやってくるのではないかという記事が以前よりも多くなっている。市場暴落の警告はどの時期にもある。そうした警告を絶えず流しているいわば崩壊主義のサイトも多い。
しかしながら、最近この傾向が変化してきている。明らかに近い将来の相場の暴落と世界的な不況を警告する記事が増えてきているのだ。著名な経済記者やエコノミストもそうした警告を行うようになっている。
この状況は日本も同じだ。日銀が0.25%の利上げを行なった7月31日以来、日経平均も不安定な動きが続いている。8月5日に-7.61%の大幅下落を記録した後も相場は安定していない。9月に入っても1,800円を越えて下落している。
市場全体が、ちょっとした出来事に神経質に反応する恐々とした状態だ。
市場の崩壊を懸念する4つのファクター
警告をしているエコノミストや経済記者の記事を多く読むと、市場の暴落を懸念する理由となる4つのファクターが指摘されているのが分かる。そのうちのいくつかは日本の主要メディアでも取り上げられているが、以下にまとめた。
<要因その1. エンキャリトレードの巻き戻し>
最初のファクターはエンキャリトレードの巻戻しだ。これは日本の主要メディアでも報道されている点だが、確認しておく。
20年以上にわたるゼロ金利により、日本は最大の債権国となった。あらゆる投資家が、どこでもより利回りの高い資産に投資するために、安く円を借り入れる習慣を身につけた。
この戦略により、アルゼンチンの債務から南アフリカの商品、インドの不動産、ニュージーランドドル、ニューヨークの証券取引所のデリバティブ商品、暗号通貨に至るまで、あらゆるものが高値を維持してきた。
しかし、7月31日に日銀が金利を2008年以来の高水準に引き上げたことは、金融界に一種の激震をもたらした。エンキャリトレードの巻戻しである。円建ての債務を支払うために、手持ちのドル建て資産を売って円に変える円買いドル売りが加速したのだ。これが円高を加速させると同時に、世界的な株安を招いた。
日銀がが引き続き金利を引き上げるリスクは、ニューヨークから上海までの市場が直面している問題をさらに悪化させる可能性がある。日本国債の利回りが大幅かつ持続的に上昇すれば、債務と株価が予測できない形で不安定化する可能性があるのだ。
専門家はこれを「金融界のサンアンドレアス断層」と呼んでいる。多くの専門家は、7月31日の金融引き締めが最初の大きな変化であり、今後もさらに変化が続くとみている。日銀から大きなサプライズがもたらされるリスクは、今後数カ月間、トレーダーを緊張させ続けることは間違いない。
<要因その2. 米大統領選挙>
次は、11月5日の米大統領選挙だ。民主党候補のカマラ・ハリスと共和党の旗手ドナルド・トランプのどちらが勝利しても、ワシントンは引き続き貿易障壁を高めていく可能性が高い。もちろん、その規模は異なるはずだ。例えばハリスは、トランプが中国に課す予定だとしている60%の関税よりも低いだろうが、関税は追加するだろう。
しかし、この選挙戦は米国近代史で最も激しい論争を巻き起こすものとなりつつある。トランプは、選挙で負ければ2020年の選挙で票が盗まれたと主張する戦略を再び実行する意向をはっきり示している。
2020年の大統領選挙の騒乱が経済にもたらした影響は非常に大きかった。トランプ大統領が2021年1月6日に扇動した暴動は、アメリカの信用格付けを下落させたのだ。格付け大手の「フィッチ・レーティングス」は2023年、米国債のAAA格付け(トリプルエー格付け)を取り消したが、その決定の重要な要因として暴動の背景にある分極化を挙げた。「フィッチ・レーティングス」は、2021年1月6日の混乱は米国財政を危険にさらしている「統治の悪化を反映したもの」だと述べた。
さらに、米国の国家債務は35兆ドルを超えた。これが理由で格付け大手の「ムーディーズ・インベスターズ・サービス」は、米国債の最終AAA格付けは確実に危うくなると主張している。
どちらが勝つにせよ、11月5日の大統領選挙は新たな混乱の出発点になることは間違いないようだ。トランプが負ければトランプは票が盗まれたと主張して前回の選挙同様のキャンペーンを開始するだろうし、ハリスが負けても「アンティファ」などの急進左派系の集団がおり、暴力的な抗議を開始する可能性はある。
いずれにせよ、11月5日の大統領選挙でアメリカの分断と分裂はさらに深まり、これが米国債のさらな格下げの引き金になるかもしれない。当然これは、ドル安と市場の暴落の引き金になる。
<要因その3. 中国経済の弱まり>
世界第2位の経済大国である中国が勢いを失いつつあるという事実も、市場の不安感を高めている。習近平主席の成長促進努力にもかかわらず、「製造業購買担当者指数」が8月に4カ月連続で低下した。2023年4月以降、3カ月を除いて、拡大と縮小を分ける50を下回っている。
今後数カ月、成長を安定させる上での課題と困難は相当なものになるだろうと見られている。中国経済の減速で原油と銅の価格が下落している。中国政府が政策支援を強化する必要性がますます高まっている。
一方、前回の記事でも詳しく解説したが、最先端テクノロジーの分野における中国の圧倒的な優位性は、今後新しい製造業に活かされ、中国経済の新しい成長パターンを形成する可能性は高い。しかしそれには、少なくとも後2年はかかると思われる。その間、不動産バブルの崩壊がもたらした余波は続くはずだ。
<要因その4. 米経済の不況入り>
しかし、やはり中国経済よりも大きな懸念になっているのは、米経済の不況入りの可能性である。最近発表になった数値でもこれは明らかだ。企業の生産活動の活発さを表す「ISM製造業総合景況指数」は、46.8に低下した。前月(48.5)から1.7ポイントの下げだ。この数値は、50が生産活動の拡大と縮小の境目になっている。50を下回ると、生産活動が停滞していることを示している。
同指数は1-3月(第1四半期)末から比べると、8.7ポイントも下げている。これは、需要環境は相当に悪化していると企業の購買担当者がみていることを示している。
また、8月の農業分野以外の就業者の伸びは市場予想を下回った。「米労働省」が9月6日発表した先月の雇用統計によると、農業分野以外の就業者の伸びは前の月と比べて14万2,000人で、市場予想の16万5,000人程度を下回った。一方、失業率は4.2%となり、5か月ぶりに改善している。
こうした数値から、アメリカは多くの人が予想していたよりも速いペースで景気後退に陥っているかもしれないと警告する専門家も増えている。「米国の労働市場はもはやパンデミック前の水準まで冷え込んでいるのではなく、それよりも下がっている」と労働動向のアドバイスを行う「インディード・ハイリング・ラボ」のアナリストは述べている。
すでに7月の段階で、「連邦準備制度理事会(FRB)」のクリストファー・ウォーラー総裁は、「過去2年間よりも大きな失業の増加につながる可能性がある」と指摘していた。
大きくなる米経済の景気後退懸念
もっとあるだろうが、これら4つのファクターが懸念材料となり、不安感が高まっているのが現状だ。これが市場の不安定な動きを引き起こしている。
これら4つのファクターはどれも重要だ。しかし、やはりもっとも大きな懸念材料は、(2)の米大統領選挙による混乱と、(4)の米経済の不況入り懸念だ。誰が勝とうが、2024年の大統領選挙が混乱することは明らかだ。それは、すでに警戒信号が点灯している米経済をさらに悪化させることになる可能性は非常に高いように思う。
そこで、改めて米経済の実態をみるために、最新の状況を調べてみた。このメルマガでは何度も米経済の実態を報告する記事を書いているが、今回改めて確認して見ることにする。項目別に列挙する。
1. 破産申請件数の急増
まず、「米裁判所管理局」が発表した統計によると、2024年6月末までの1年間の破産申請件数は486,613件であった。
2024年6月30日に終了する1年間で、企業破産申請件数は15,724件から22,060件へと40.3%増加した。企業以外の破産申請件数は、前年の40万3,000件から15.3%増の46万4,553件となった。いくつかの地域の連銀景況調査は、さらに縮小の領域に深く落ち込んでいる。フィラデルフィア、ダラス、リッチモンドの企業景況調査はいずれも縮小に転じている。
2. アメリカン・ドリームの死
また、アメリカン人の将来に対する見通しもかなり悲観的になっていることが明らかになった。「ウォール・ストリート・ジャーナル紙」が9月4日に発表した世論調査によると、努力して働けば誰でも中間層になれ、一戸建てと2台以上の車、そしてモーターボートなどを所有できるというアメリカン・ドリームが、まだ生きていると信じているのは、アメリカの成人の約3分の1に過ぎないことが分かった。
「公共宗教研究所」が12年前に2,501人を対象に実施した調査では、回答者の半数以上がアメリカン・ドリームは「まだ真実である」と考えていたが、「ウォール・ストリート・ジャーナル紙」が最近実施した成人1,502人を対象にした世論調査によると、現在では3分の1しかそう感じていない。
また、この調査では、人々の経済的目標と、実際に達成可能だと考えていることとの間に、ますます大きなギャップが生じていることもわかった。この傾向は、性別や党派を超えて一貫しているが、特に若い世代に共通している。
3. 家計負債総額の急増
「ニューヨーク連邦準備銀行」が今月発表した家計の信用と負債に関する四半期報告書によると、2021年第1四半期から2024年第2四半期の間に、クレジットカードの負債が48.1%急増した一方で、住宅ローンや自動車ローンを含む家計負債は21.6%増加した。
ドルベースで見ると、クレジットカード債務は2021年初頭の7,700億ドルから直近四半期には1兆1,400億ドルに増加し、家計債務は同期間に14兆6,400億ドルから17兆8,000億ドルに増加した。
ここ数年の金融市場における前代未聞の介入のおかげで、国民の大半が苦しむなか、裕福な生活を送ることができている人々がいる。しかし、株価が史上最高値を更新し続ける一方で、国民の多くは恐怖のどん底にいるように見える。
4. 悲惨な雇用統計の実態
次に注目されているのは、実際の雇用統計の実態だ。公式には、農業分野以外の就業者の伸びは前の月と比べて14万2,000人で、市場予想の16万5,000人程度を下回ったと発表され、さほど極端に悪い印象を与えてはいないが、その内容を見ると、状況はかなり悪いことが分かる。
雇用者数は16万8,000人増加したが、その内訳をよく見ると悲惨なものであった。昨年6月以来、アメリカは200万人強のパートタイム雇用を増やし、150万人以上のフルタイム雇用を失ったのだ。
低賃金のパートタイムの仕事なら、今でも簡単に見つけることができる。しかし、高給の仕事は急速に失われている。ホワイトカラーの職を探す会社の社長は、現在の市場は「悪い状態」だと言う。エコノミストたちは労働市場が「冷え込んでいる」という意見でほぼ一致しているが、あるリクルート業界のベテランは、それはかなり控えめな表現だと言う。
実際に起こっていることは、賃金の高いフルタイムの仕事が失われ、低賃金のパートタイムへの移行が進んでいるという実態だ。
今、仕事を探している人はたくさんいる。多くのアメリカ人にとって、低賃金のパートタイムの仕事では十分に生活できない。生活費の高騰のおかげで、アメリカの子どものいる世帯のうち「食糧難」に陥っている世帯の割合は、非常に憂慮すべきレベルまで上昇している。「米農務省」は、この問題に関する最新の報告書を発表したばかりだ。それによると、昨年、子どもがいる世帯のほぼ18%が食料不安に陥り、2022年の17.3%、2021年の12.5%から上昇した。
5. 低所得者用大手チェーン店の破綻
このような状況は、低所得者用の大手小売チェーン店に大きな打撃となっている。アメリカには日本の100均にあたるダラーショップが数多くある。その中でも全国に数千の店舗を持つ「ファミリー・ダラー」がある。高インフレのお陰で最近まで「ファミリー・ダラー」は事業を拡大していたが、事業統合に苦戦したため、2024年に600店舗を閉鎖すると発表した。
また、同じ大手100均チェーンの「ダラー・ツリー」の株価は9月初め、同チェーンの期待外れの決算報告を受け、9年ぶりの安値まで急落した。
さらに100均チェーンの「ダラー・ゼネラル」の株価は、同社が通年の売上と利益のガイダンスを下方修正し、低所得層の顧客がこの不況で苦戦していることを示唆したため、急落した。他のチェーンよりも地方の顧客をターゲットにした「ダラー・ゼネラル」の株価は、決算報告後に25%急落した。
このような低所得者用の大手小売チェーンの不振は、低所得者の可処分取得が大きく減少していることを示している。これは、米経済の景気後退を示す重要な指標のひとつである。
株を大量に売ったウォーレン・バフェット
そのような中、アメリカを代表する投資家のウォーレン・バフェットが、手持ちの株を大量に売っていることが分かった。バフェットが経営する会社、「バークシャー・ハサウェイ」は、2024年の第1四半期に1億株以上のアップル株を売却し、第2四半期にはさらに3億9,000万株を売却した。
また、9月3日から9月5日の間に、米国第2位の銀行である「バンク・オブ・アメリカ」の株、1870万株を売却し、およそ7億6,000万ドルを手にしたと発表した。
このバフェットによる手持ちの株の大量売りは、なにを意味しているのだろうか?ウォーレン・バフェットは明らかに将来の市場の暴落を懸念しているように見えるがどうだろうか?
いずれはやってくる市場の暴落と世界不況
さて、このように見ると市場の暴落と世界的な景気後退は、比較的に早い時期にやってくるように見える。
もちろん、すべての専門家が米経済の景気後退を予測しているわけではない。インフレが鈍化して、米国の経済拡大は続き、第2四半期の実質GDP成長率は堅調で、上方修正によりさらに良くなりそうだという見通しもある。日本をはじめ多くの主要メディアはこのような見方を出している。
しかし、米経済紙を丹念に読むと、アメリカの実体経済に関してはロクなニュースがないことも事実なのだ。
主要メディアが流している明るい見通しとはあまりに異なる実体経済の現実である。こうした状況を見ると、やはり市場の暴落と景気後退は確実にやってくると見た方が妥当だろう。
もちろん、なにが引き金になるのかは分からない。日銀の利上げ、エンキャリートレードの一層の巻き戻し、「FRB」の利下げ、そして米大統領選挙はもたらすアメリカの混乱なのだ。特に、米大統領選の混乱は予想外の影響をもたらし得る。なにが起こるのか分からないのだ。9月11日にトランプとハリスの最初の討論会が行なわれた。これ以降、選挙戦は過熱し予想外のことも多く起こっくるだろう。
それらが、相場の暴落の引き金にならないとも限らない。とにかく、いまのうちから準備することが重要だと思う。
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