ウクライナの来年国家予算案に仰天…8.9兆円もの国防費をたかる気か⁉
9月19日、ウクライナ議会で来年の国家予算案の審議が開始された(下の写真)。一言で言えば、「外国からの支援頼み」という「他人の褌(ふんどし)で相撲をとる」内容になっている。ウクライナによる欧米や日本への「甘え」を前提に作成されたものとなっているのだ。今回は、ウォロディミル・ゼレンスキー政権の「甘えの構造」について論じたい。

ウクライナ議会で2026年予算案について説明するセルギイ・マルチェンコ財務大臣
来年の予算案の主なデータ
9月19日、ウクライナ財務省のサイトに公表された「財務大臣が国会で2026年国家予算案を発表」という記事をみると、驚くべきことが書かれている(政府が閣議で予算案を承認した15日の英語版には、ここまで正直には書かれていない)。すなわち、「主な数字」という見出しのもとに、以下の4項目が記されている。
・国家予算歳入:2兆8265億フリヴニャ(約10兆1200億円=約1兆6000億円増)
・同歳出:4兆8038億フリヴニャ(約17兆2000億円=約1兆5000億円増)
・赤字:国内総生産(GDP)比18.4%(同3.9ポイント減)
・国際的な資金調達:欧州連合(EU)、G7諸国、IMF、世界銀行から2兆(約7兆1600億円)以上の資金を集める予定
驚愕の内容というのは、予算の半分近くを海外からの支援に求めることが明示されている点だ。どうやら、予算作成に際して、戦争を停止する気はまったくなく、できるだけ多くの支援を手に入れようとしているようにみえる。もちろん、予算案には選挙費用は計上されていない。
前国防相の疑惑
そもそも、拙稿「腐敗まみれのウクライナ軍事産業:ゼレンスキー周辺は『真っ黒』」に書いたように、腐敗にまみれたウクライナに対して、各国の血税を投じるのは明らかにおかしい。たとえば、国会議員のオレクシー・ゴンチャレンコは9月、2023年9月~2025年7月まで国防相を務め、現在、国家安全保障・防衛会議書記のルステム・ウメロフ(下の写真)に対して、その腐敗ぶりを批判した。ウメロフの親族は米国に、8軒の高級不動産(マイアミ近郊に4棟の別荘、フロリダ州に3戸、ニューヨークに1戸のアパート)を所有しているというのである(ウクライナ情報を参照)。
ルステム・ウメロフ
その真偽ははっきりしないが、真実である可能性は十分ある。比較的中立的と思われるBBCの報道によると、彼の家族(妻と子供たち、そして兄のエンヴェルとその家族)が、米国に住んでいるのは事実だ。「2016年にウクライナ国防相の家族は、一時的に占領されたクリミアの占領解除に向けたウメロフの組織的な活動の結果、暗殺などの脅迫を受けて国外へ避難せざるを得なかった」――というのが国防省の説明だという。
いずれにしても、一時、駐米ウクライナ大使候補だったウメロフは、こうした家族との関係もあって、駐米大使になることはなかった。ウメロフにとって大使就任は喜ばしいことだが、国民からみれば、この男がとてつもなく優遇されているようにみえてしまうから、この人事は断念されたのである。
ウメロフが国防相当時、軍需産業との癒着を疑わせる人事を断行したことも事実である。彼は、形式上は独立した国防調達庁(AOZ)の責任者マリーナ・ベズルコワを解任し、当時の国家後方支援機関の長官アルセン・ジュマディロフを暫定的に任命した。ウメロフの意向を反映しやすい体制づくりのためだ。
これに対して、ベズルコワ自身、一連の著名な反汚職活動家、さらには与党「国民の奉仕者」の有力議員たちでさえ、大臣の行動は違法であると主張した。結局、1月31日、国防省は、ベズルコワの契約がこの日に終了し、2月1日から国防調達庁(AOZ)の長官職務をジュマディロフが代行すると発表、3月になって正式に長官に就任した。いわば、腐敗を促進する人事を断行したウメロフだからこそ、軍需産業から賄賂をもらっていてもまったく不思議ではないのである。
いつまで戦争を続けるのか
2026年予算案では、「国防と安全保障」として、2兆8000フリヴニャ(約8兆9000億円)が計上されている。これは、2026年のGDP予測の27.2%にあたる。2025年補正予算に比べて1686億フリヴニャ(約6000億円)増えている。そう、戦争を止める気などまったくないのだ。
この財源として、一般財源から2兆3000億フリヴニャ(約8兆2300億円)があてられ、2204億フリヴニャ(約7900億円)が軍事個人所得税からの1253億フリヴニャ(約4500億円)を含む特別基金から拠出される。ほかに、準備金から2000億フリヴニャ(約7200億円)、国家保証から300億(約1100億円)が予定されている。
「国防と安全保障」予算のうち、とくに武器や技術には7220億フリヴニャ(約2兆5850億円)が回される。武器(弾薬、ミサイル、ミサイル防衛システム、航空機、装甲車)の生産には、少なくとも443億フリヴニャ(約1600億円)が充てられる。軍人の給料には1兆2660億フリヴニャ(約9500億円)、予備費には2000億フリヴニャ(約7200億円)が割り当てられている。
驚きあきれ果てるのは、9月13日、デニス・シュミハリ国防相がロシアによる戦争が最前線を維持し、国防で失われる人命を最小限に抑えるために継続する場合、つまり、戦争をつづける場合、「ウクライナは来年少なくとも1200億ドルを必要とする」との見通しをのべたことである(ウクライナ情報を参照)。前述したように、「国防と安全保障」に約8兆9000億円が計上されているため、残り半額近くを何とかしてくれという話になる(UNNを参照)。まるで、最低600億ドルくれれば、戦うが、その使い道については「とやかく言うな」と脅しているようにさえ聞こえる。
米国主導のIMF支援が「命綱」
2026年予算案は、ウクライナのGDPが実質で2.4%成長すると予測している。消費者物価指数は年9.9%の上昇を見込んでいる。しかし、この予測は楽観的すぎる。これらの予測は全体として、多額の海外支援を前提としているからだ。逆に言えば、海外支援が得られなければ、ウクライナ経済は100%破綻するだろう。
たとえば、いまでは、米国、欧州連合(EU)に次ぐ支援をしている国際通貨基金(IMF)が、いつまでもウクライナに甘い顔をしつづけるかどうかについては疑問符がつく。戦争中は、ロシアによるウクライナへの全面侵攻に対抗するために、米国主導のIMFはウクライナ経済の安定のために積極的な融資を展開してきた。
その典型は、2023年3月31日にIMF理事会がウクライナに対する総額1150億ドルの支援パッケージの一部として、拡張基金ファシリティ(EFF)の下、116億SDR(約2兆3000億円)の48カ月(4年間)の新たな延長アレンジメントを承認したことである。
EFFを貸し出す以上、IMFはウクライナ政府に政策上の条件を求めたが、それは決して厳しいものではなかった。だが現在、IMFはなかなか終わらないウクライナ戦争に頭をかかえているはずだ。
実は、今年6月に公表された「IMF Country Report No. 25/156 ウクライナ」では、今年末までに戦争が終結するという基本シナリオが維持されていた(「ウクライナ・ニュース」を参照)。現段階では、このシナリオの実現は困難と思われる。そうなると、IMFの目論見以上にウクライナに貸し込む必要が生まれてしまう。
すでに、戦争継続を前提としているユリア・スヴィィリデンコ首相は、今後2年間で750億ドルの財政赤字が見込まれることから、新たなIMF融資プログラムを申請する意向を表明した。現在のIMFプログラム(前述のEFF)は2027年に期限切れとなり、ウクライナはロシアとの戦争に伴う経済的不均衡を回避するため、外部資金を求めていることになる。つまり、前記の156億ドルに加えて、「もっとカネを貸してくれ」というわけだ。
それだけではない。2027年末までの2年間に、IMFは、ウクライナが今後2年間に必要とする資金がウクライナ政府の見積もりよりも200億ドルも高くなる可能性があると判断しているという情報もある。IMFは返済可能な国にしか融資できないから、本来であれば、ウクライナに融資すること自体が背任行為に当たると判断されても仕方のない状況にある。
ウクライナ支援に熱心だったジョー・バイデン政権下では、ウクライナの無理難題も聞き入れられた。しかし、ドナルド・トランプ政権下では、もはやウクライナの要望は「甘え」そのものと受け取られるのではないか。もはやウクライナ経済の「命綱」であるIMF支援に、黄色信号がともっている。
EUはどうするのか?
前述したように、ウクライナ財務省がもくろんでいる海外からの支援は、主に、EU、G7諸国、IMF、世界銀行だ。このなかで、ウクライナがもっとも頼りにしているのがEUだろう。9月17日、欧州議会のロベルタ・メッツォーラ議長はウクライナ議会で演説し、「欧州連合(EU)はすでに、軍事支援630億ユーロ(約10兆9000億円)を含む1690億ユーロ(約29兆2400億円)を動員している」とのべた(ウクライナ議会のサイトを参照、下の写真)。なお、軍事援助について、ウクライナのキール世界経済研究所は8月、「開戦から今年6月までに、欧州は防衛調達を通じて少なくとも351億ユーロ(約6兆1000億円)の軍事援助を割り当てている」と書いている。
9月17日、ウクライナの国会で演説する欧州議会のロベルタ・メッツォーラ議長
(出所)https://www.rada.gov.ua/en/news/News/top_news/266084.html
EUはウクライナに対して、昨年5月、「ウクライナ・ファシリティ・プログラム」による資金援助に関する枠組み協定に署名した。EUはこの協定に基づき、2024~2027年の4年間にわたってウクライナに500億ユーロ(約8兆6500億円)を提供する(このうち390億ユーロ(6兆7500億円)は、マクロ金融の安定強化のために国家予算に充てられる)。これに対して、ウクライナは提供された資金の使用について、透明性と管理を確保することを約束している。
EU加盟国が1500億ユーロ(約26兆円)の共同融資枠を、武器購入資金に充てることができる後続スキームが、今年3月に欧州委員会によって発表された。加盟国は意欲を示している。しかし、欧州議会はこの措置を支持するとしながらも、手続き上の理由でこれを阻止するために法的措置をとっている(The Economistを参照)。
G7レベルでは、昨年10月のG7サミット電話会議において、ウクライナに約500億ドルの特別収益前倒し融資(ERA)融資を供与する方法について合意に達した。ERAは、凍結されているロシアの国家資産から得られる特別な収益を活用した融資のことであり、融資資金は、ウクライナの予算、軍事、復興支援を目的として、複数のルートを通じて分配・融資される。なお、米国はこの500億ドル融資の一部として、昨年12月、200億ドル分の融資を世界銀行経由でウクライナに供与した(EU側の凍結分は約2100億ドルに相当)。
米国の支援は「望み薄」
米国の場合、主に大統領権限(Presidential Drawdown Authority, PDA)を通じて、海外に軍事援助を提供している。PDAは1961年対外援助法に基づき付与されるもので、ウクライナ向けには、2021年8月以降55回以上PDAが発動され、今年1月時点で400億ドル以上の軍事装備品・弾薬を移送した。
これとは別に、米国軍の備蓄品から直接物資を供給するのではなく、防衛装備の購入、訓練、関連支援への資金提供を通じてウクライナに軍事援助を提供する、「ウクライナ安全保障支援イニシアチブ」(Ukraine Security Assistance Initiative, USAI)もある。USAIは国防総省が管理する議会予算配分プログラムだ。このほかにも、ウクライナへの非軍事援助が、世界銀行の信託を通じて行われている。
今年、米国はバイデン政権下での約束に基づき援助を継続したが、トランプ大統領の登場により、3月と7月の2回にわたって援助が停止された。他方で、米国の装備品の供給は、欧州のNATO(北大西洋条約機構)同盟国からの支払いを担保に実施されるようになった。いわゆる「ウクライナ優先要求リスト」(Prioritised Ukraine Requirements List, PURL)プログラムに基づく商業供与だ。
いずれにしても、米国の来年分のウクライナ支援が減少するのは確実だ。
「援助疲れ」と「甘えの構造」
9月17日付のThe Economistは、「ウクライナの財政的な事情で和解を余儀なくされるのは悲劇であり、カネの無駄である」と書いている。だが、私はそうは思わない。腐敗が蔓延するなかで、負け戦が濃厚となっているにもかかわらず、あるいは、厭戦(えんせん)気分がウクライナ国民のなかに広がっているにもかかわらず、「戦争をつづけろ」と無理強いするのは理不尽なのではないか。
他方で、ジェノサイド(大量虐殺)と呼べるような行為をガザ地区で行っているイスラエルに対する見方が、西側で厳しさを増している。とくに、米国は、2016年にバラク・オバマが大統領を退任する前に、主にイスラエルが米国の武器を購入するのを補助するための10年間で380億ドルの援助パッケージ(基本合意書)に署名したが、これは2028年に終了する。
長く甘やかされてイスラエルへの米国民の信頼が揺らいでいる現状では、このパッケージが継続される可能性は薄い。長くイスラエルを甘やかしてきた民主党だけでなく、共和党内のMAGA派勢力も、中東紛争に米国が巻き込まれることに反対している。テレビで流されるパレスチナ人の悲惨を目にすれば、トランプもイスラエルによる傍若無人にいつまでも目を瞑っていられないだろう。
同じように、ゼレンスキー政権の腐敗がオールドメディアによって白日の下にさらされれば、西側諸国の国民の多くはゼレンスキー政権のひどさや「甘えの構造」に気づくだろう。そうなれば、「ウクライナ支援を減らせ」という声が高まるはずだ。しかも、ウクライナを支援してきた国々のなかには「援助疲れ」に陥っている国もある。たとえば、財政難に苦しむフランスに、ウクライナ支援の継続などできるのだろうか。あるいは、深刻な財政赤字の日本が、戦争中のウクライナに支援する理由がどこにあるのだろうか。
支援の名目で西側にカネをせびり、自らの懐にしまい込んでいるゼレンスキーおよびその周辺の人々の実態を、より多くの人が知るようになれば、ウクライナ支援の再考は必然だろう。ウクライナ側から停戦・和平を積極的に求めるようにするために、西側の国々がいったんウクライナ支援を停止する必要性に気づいてほしい。西側は、停戦・和平後にウクライナの復興支援をすればいいのだから。



コメント