「原子は最小単位じゃない」ってみんな知っているのに…学校で「素粒子」を教わらない「意外な理由」

科学論
「原子は最小単位じゃない」ってみんな知っているのに…学校で「素粒子」を教わらない「意外な理由」(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所)
誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するか…最新研究にもとづく、スリリングな宇宙の謎解きをお届けする。

「原子は最小単位じゃない」ってみんな知っているのに…学校で「素粒子」を教わらない「意外な理由」

原子と分子の違いをブロックで理解する

経済協力開発機構(OECD)が世界の15歳の生徒を対象に行っている「生徒の学習到達度調査(PISA)」で、「原子と分子の違いを述べよ」という問題が出たことがあったそうです。日本から参加した多くの生徒は、「分子は原子の組み合わせのことである」と答えました。この答えは正しいのですが、PISAが意図していた答えは、もう1つありました。「原子の種類は限られるが、分子の種類は無限である」というものです。日本から参加した生徒で、そう答えた人は少なかったそうです。

原子はブロック玩具の1個1個のようなもので、組み上げていくと、いろいろなものができます。そして、このブロック玩具に相当する原子は、これまでの研究から118種類あることがわかっています。身の回りにあるものをすべてバラバラにしていくと、118種類の原子のどれかなのです。

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私たちの体や身の回りにあるノートやペン、そして遠く離れている星や銀河まで、すべてのものが118種類の原子でできています。しかし、原子が118種類あるからといって、原子がただくっつくだけでは、人間の体のような複雑なものをつくることはできません。

でも、いくつものブロックが組み合わさった基本パーツがたくさんあったらどうでしょうか。そのいろいろな基本パーツを分解して組み立て直し、車や電車、飛行機などをつくることができます。無限に及ぶ種類の基本パーツを分解し組み立て直すことで、限られた種類のブロック(原子)の組み合わせ以上のいろいろな機能をもった個性あふれるものがつくれます。

私たちの体も、それと同じようにできています。いくつかの原子が集まって基本パーツとなり、いろいろな機能をもつようになります。その基本パーツが分子です。例えば、1個の酸素原子に2個の水素原子がくっつくと水分子になります。水分子になることで、100℃で沸騰し、0℃で凍るという性質が生まれます。

組み合わせる原子の種類や数によって、無限の種類の分子ができます。この分子がいくつも集まってもっともっと複雑な働きをするようになり、私たちの体などをつくっていきます。この仕組みがあるから、地球上には数え切れないほどたくさんの生物や物質が存在しているのです。だから、PISAでは「原子の種類は限られるが、分子の種類は無限である」も重要な答えであると考えたのでしょう。

原子はどうしてくっつく?

ところで、118種類の原子は、どうやってくっつくのでしょうか。それはブロックをピタリとくっつける作業に当たります。これに相当するのが化学反応です。原子や分子は化学反応を起こすことによってお互いにくっついたり、使われている原子を入れ替えたりしながら新しい分子をつくっていきます。

水素分子2個と酸素分子1個から水分子2個ができる

気体の水素は、2個の水素原子がくっついた水素分子(H₂)です。気体の酸素である酸素分子(O₂)も同じように2個の酸素原子がくっついてできています。水素分子2個と酸素分子1個が化学反応を起こすと、原子の組み換えが起きて2個の水分子(H₂O)ができます(「図:水素分子2個と酸素分子1個から水分子2個ができる」)。

たった3種類の粒で世界はできている

古代ギリシャの時代に考えられていたアトムは、これ以上分割することのできない究極の粒でした。ところが、1900年代に実際に発見された原子は、原子核と電子に分けることができました。ラザフォード博士の実験で、原子は真ん中にプラスの電気をもった原子核があり、その周りをマイナスの電気をもった電子が回っていることがわかりました(「図:原子や原子核の内部構造とその大きさ」の左部)。

原子や原子核の内部構造とその大きさ

しかも、原子核は原子の10万分の1くらいの大きさしかなく、そして原子の重さは、ほぼ原子核の重さであることもわかってきました。原子の大きさを東京ドームくらいにすると、原子核はマウンドに置かれたビーズ程度。その周りにある電子は、原子核よりもさらに小さいものです。

原子の中はものすごくスカスカな状態だったのです。私たちは誰も、自分の体がスカスカだとは思っていません。でも、ミクロの世界に入っていくことができたとすれば、私たちの体をつくる原子がとてもスカスカなことに気が付くことでしょう。

原子核もとても小さなものだったので、それ以上分割することはできないと思われていました。しかし、1919年に陽子が、1932年に中性子が発見されて、原子核がそれらの粒でつくられていることがわかりました(「図:原子や原子核の内部構造とその大きさ」の中央部)。

しかも、それで終わりではなかったのです。陽子も中性子も、その中をよく調べてみると、クォークというもっと小さい3つの粒がくっついてできていたのです(「図:原子や原子核の内部構造とその大きさ」の右部)。陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個、中性子はアップクォーク1個とダウンクォーク2個という組み合わせの違いはありますが、3個のクォークでできているということは同じです。つまり、原子核はアップクォークとダウンクォークの2種類のクォークだけでできていることがわかったのです。これに原子核の周りを回っている電子が加われば、原子ができます。

つまり、原子はアップクォーク、ダウンクォーク、電子の3種類の粒だけでつくられているのです。この3種類の粒が組み合わさることで、118種類の原子になります。結局のところ、この世界はたった3種類の粒からできていることになります。

学校で素粒子を教わらない理由は…

原子をどんどん細かくしていくと、最後にはアップクォーク、ダウンクォーク、電子になります。この3つは今のところこれ以上細かくならないので、このような粒のことを「素粒子」と呼びます。原子は素粒子でできているので、私たちの体や身の回りにあるものは全部、素粒子でできていることになります。中学校の理科では、「すべてのものは原子でできている」ということは習いますが、「素粒子でできている」ということまでは習いません。そのため、素粒子と聞いても、ピンと来る人があまりいないのでしょう。原子と素粒子はまったく違うものだと思っている人もいるくらいです。

人類は、この宇宙のすべてのものはアトムからつくられていると想像して、実際に20世紀の初めに原子を探し当てたわけですが、世界にはそれよりも小さくて根本的な粒があったのです。原子という名前はすでに使っているので、「素粒子(elementary particle)」と別の名前にして混乱を回避しました。図「原子や原子核の内部構造とその大きさ」右にあるように素粒子クォークの大きさは10-18mより小さいとしかわかっていません。同じように原子核の周りを回っている電子の大きさも10-18mより小さいとしかわかっていません。

もう一度整理しておくと、原子は3種類の素粒子からできていて、その原子が集まっていろいろなものがつくられています。素粒子は身の回りのものをつくる一番基本となる粒です。ちなみに、素粒子の「素」というのは、「これ以上分割することができない」という意味の漢字です。デモクリトスのアトムの意味とよく似ていますね。

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「すべてのものが素粒子でできているのだったら、学校でもそう教えればいいのに」と思う人もいるかもしれません。でも、素粒子については、まだまだわかっていないことがたくさんあります。素粒子の種類については、1960~1970年代に理論的には予測されていましたが、本当にあると確認できたのは、つい最近のことです。

例えば、2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠博士と益川敏英博士は、1973年にクォークが6種類あると予測したのですが、実際に6種類が見つかったのは1995年でした。また、2012年7月に発見が伝えられたヒッグス粒子の存在は、1964年にイギリスのピーター・ヒッグス博士やベルギーのフランソワ・アングレール博士らによって予想されていました。発展中の内容なので、学校ではまだ教えられないということなのでしょう。

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