
純粋に「国内で培養された人材だけ」で開発。中国製AI「DeepSeek」は何を証明したのか?

日本は見誤っている。中国製AI「DeepSeek」の秘めたるパワー
今週、世界を騒がせた大きな話題といえば、何といっても中国発の人工知能(AI)モデル「DeepSeek」だろう。
技術で先行するアメリカ発のAIに比べて「安価で高性能」だったことがよほどショックだったのか、米半導体大手・エヌビディアの株価を1日で17%も下落させ、1日で時価総額5,890億ドル(約91兆円)を吹き飛ばしてしまった。
世界が激しく反応したことで「DeepSeek」を初めて知ったという日本人も少なくなかったはずだ。しかし、本メルマガの読者は、すでに2週間前に「DeepSeek」の高い性能について取り上げてきたので、馴染みのある話題であったはずだ。
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メルマガ読者には復習になるが、少し振り返っておこう。
取上げたのは、バイデン政権の対中戦略の目玉としてAIをターゲットに対中輸出規制が行われてきたことを説明する流れのなかだ。中国のAI技術の現在地を端的に紹介するため、グーグルのエリック・シュミット元CEOの以下の言葉を引用した。
曰く、「以前は中国に(アメリカは)2年ほどリードしていると考えられてきた。しかし、ここ6カ月ほどで(中国が)追い付いてきた」だ。
シュミットの発言で驚かされるのは、中国AIの発展のスピードである。半年前には「2年遅れ」と考えられていた差を半年で縮めてしまったというのだ。
もし、今後も同じスビートで開発が進められてゆくとすれば、米中の技術差はどうなっていってしまうのだろうか。
もちろん市場での成否は技術だけが決めるのではない。現状を見る限り、情報分野で中国に依存することは西側の国々には抵抗も強い。単純に「DeepSeek」が世界を席巻してゆくという見通しにはつながらない。
だが、AIに由来する性能が多岐に及ぶことを考えれば、警戒よりも技術を優先せざるを得ない未来も必ずやってくるだろう。
前回までの2回、このメルマガで伝えてきたように、アメリカが中国との競争においてAIを重視し、その技術的優位を保つためバイデン政権が力を注いできたのが高性能の半導体へのアクセスを制限することだった。
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半導体製造で高い技術を持つ同盟・友好国と協力し、高い壁で囲い、中国に渡さない、いわゆる「スモールヤード・ハイフェンス」を実施してきた。
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「DeepSeek」開発の“どのポイント”を本当に警戒すべきか
しかし、米『ブルームバーグ』が、記事「エヌビディア時価総額、米史上最大の5890億ドル減‐DeepSeekショック」(2025年1月27日)で報じたように、「DeepSeek」は、バイデン政権が築いた壁の外側で高いパフォーマンスを実現してしまったのだ。
同記事は、エヌビディアの株価が暴落した理由を、ジェフリーズのアナリストの顧客向けリポートの引用から「高性能の半導体と膨大な計算能力、それに伴うエネルギーに依存する現在のAIビジネスモデルの波乱要因となる可能性があるという懸念がたちどころに浮上した」ためだと説明している。
高性能半導体を輸出規制することによって中国の華為技術(ファーウェイ)をスマートフォン製造から排除しようとした試みを思い出させる展開だ。
ファーウェイは独自技術で最先端半導体を使わず復活してしまったのは記憶に新しい。
最先端半導体から排除されてもアメリカに匹敵するAIを開発でき、高性能のスマートフォンも製造できるのであれば、中国はアメリカの制裁から解放される。
同時に中国には、本命の半導体技術そのものでアメリカにキャッチアップする時間的な余裕も手に入れられるのだ。
これは決して小さな一歩ではない。
だが、本当に警戒すべきはこの点ではない。
以下、「DeepSeek」の創業者・梁文鋒のインタビュー(『36Krジャパン』掲載)から注目の発言を取り出したので読んでほしい。
梁は「ディープシークは『桁外れの天才技術者たち』を雇っているとの声もあります」との質問に対し、こう答えている。
「桁外れの天才技術者というわけではない。メンバーは中国国内のトップ大学(編集部注:北京大学・清華大学が多い)の新卒生のほか、博士後期課程の院生や卒業して間もない若者ばかりだ」
つまりアメリカを筆頭に西側先進国の名門大学で学んだメンバーではなく、純粋に中国国内で培養された人材だけで開発したと語っているのだ。「DeepSeek」が証明したのは中国で教育を受けた人材の質の高さだ。
ここ数年、日本が中国を批判する材料の一つに「若者が失業して苦しんでいる」というのがある。若年層の高い失業率に加えて、中国がこの数字の公表を一時的に止めたことでカサにかかって批判を続けてきた。
しかし私は、この問題の裏には、中国人の所得の上昇にともなう高学歴化があると指摘し続けてきた。簡単に言えば大量の大卒を生み出したことで、大卒に見合う仕事がないというミスマッチだ――(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年2月2日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)
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