
ウクライナ大統領の任期が切れてすでに丸2年…ゼレンスキーが抱える対ロシア戦争の憂鬱

選挙なき「大統領」ゼレンスキー
昨年2月、ドナルド・トランプ大統領は自らのSNS、TruthSocialにおいて、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を、「選挙なき独裁者、ゼレンスキー」(Dictator without Elections, Zelenskyy)と表現したことがある。2024年5月20日に、大統領の5年の任期が切れたにもかかわらず、戒厳令を理由に居座りつづけているゼレンスキーを厳しく揶揄(やゆ)するものだった。それにもかかわらず、ゼレンスキーは、新たに大統領選挙の洗礼を受けないまま3年目に突入した。
ゼレンスキーを「独裁者」呼ばわりしたトランプに、違和感をもつ読者もいるかもしれない。だが、ゼレンスキーが戦争を止めないことで大統領の座にとどまりつづけているのは厳然たる事実だ。そんなことが可能なのも、彼が「独裁者」であるからではないか。
それを証明する証言が5月11日に公表された。米Foxニュースの政治トーク番組で司会を務めていたタッカー・カールソンの動画配信サイト、The Tucker Carlson Showにおいて、「ゼレンスキー大統領の報道官がすべてを明かす」(下の写真①を参照)が公開されたのである。
カールソンは、2019年6月~2021年7月までゼレンスキー大統領の報道官(写真②を参照)だったユリア・メンデルへのインタビューを行った。そのなかで、「彼(ゼレンスキー)は独裁者です」と、メンデルは語ったのである。ウクライナの平和を一刻も早く実現するために、「平和を阻む唯一の障害」であるゼレンスキーの実像を明かそうとしたインタビューは1時間半にも及ぶ。関心のある読者には、このインタビューをご覧いただきたい。
(出所)https://tuckercarlson.com/tucker-show-iuliia-mendel-051126
2022年9月に彼女が上梓した本(The Fight of Our Lives: My Time with Zelenskyy, Ukraine’s Battle for Democracy, and What It Means for the World、下を参照)には、前大統領のペトロ・ポロシェンコを非難する一方で、ゼレンスキーを「生まれながらの実力主義者であり、自らの実力を証明することに執念を燃やしている」と記されている。
ところが、今回のインタビューでは、彼女は「ゼレンスキーのもとでは、民主主義は存在しない」し、「ロシアとの違いはない」とのべている。まったく立場を180度転換したようにみえる彼女だが、こんな発言をすれば彼女自身やその家族に危害がおよぶ可能性を考えると、その覚悟に嘘があるとは思えない。
(出所)71bQOWVq9IL._SY466_.jpg (306×466)
ゲッペルズ的プロパガンダ
たとえば、ゼレンスキーは部下に対し、「ゲッベルスのようなプロパガンダ」を行うよう要求していた、とメンデルは明かした。彼女によると、2019年か2020年頃、ゼレンスキーは支持率の低下に不満を抱き、広報チームが「ポジティブなニュース」を十分に発信していないと考えていた。
「もっとも重要なのは、1000人の発言者が必要だということ。もし1000人の発言者がポジティブなことを語れば、ポジティブなことが起き、人々はポジティブなことが存在すると信じるようになる」――彼女は大統領の言葉を振り返った。
実例として、ドンバスからの避難民がアパートを約束されていたにもかかわらず、問題が解決されなかった件に関する例を語った。彼女によると、ゼレンスキーは、「いいや、もし語り手である1000人が『実現している』と言えば、それは実現しているのだ」と応じたとされる。
その後、元報道官によれば、ゼレンスキーは「君たちが望むなら、ゲッベルスのプロパガンダが必要だ。ゲッベルスのプロパガンダを広める語り手が何千人も必要なんだ」とのべたという。
後述するように、ゼレンスキーは、最側近だった前大統領府長官アンドリー・イェルマークへの告発を防げず、イェルマークは5月14日に拘置所に送致された。その意味で、ゼレンスキーはヨーゼフ・ゲッベルスの親分、アドルフ・ヒトラー並みの独裁者とまでは言えない。
だが、ゼレンスキーを「民主主義の申し子」のように語るのは、まさにゲッベルスのプロパガンダそのものだ。ゼレンスキーはせいぜい権威主義的専制君主といった人物にすぎない。
ゼレンスキーがモスクワを管理?
5月8日、ゼレンスキーはウクライナ大統領令(第374/2026号)「モスクワ市におけるパレードの実施について」を発令した。そもそも、このタイトルがおかしい。ウクライナ大統領に、モスクワ市でのパレード実施の許認可権はないからだ。
大統領令の本文には、「多数の要請を踏まえ、2026年5月8日の米国側との協議において示された人道的目的に基づき、以下の通り決定する」として、「2026年5月9日、モスクワ市(ロシア連邦)においてパレードの実施を許可する」と書かれている。
この文言の後には、「パレード開催中(2026年5月9日午前10時[キエフ時間]より)、赤の広場周辺区域をウクライナ軍兵器の使用計画から除外する」とある。どうやら、ウクライナ軍にモスクワの赤の広場への攻撃禁止を命じたものにすぎないが、それを「モスクワ市においてパレードの実施を許可する」と書いたのだ。よほど周囲に諫言できる者が存在しない証(あかし)だろう。
ドンバス放棄で合意していた?
メンデルは2022年3月から4月にかけて進展していたウクライナとロシアとの和平交渉において、ゼレンスキーはドンバスの放棄に同意していたことも明かした。彼女曰く、「私は2022年のイスタンブール会談でウクライナ側を代表した人々と話をしました……。そして彼らは、あらゆる点で合意したと私に詳しく説明しました。さらに、非常に重要な点として、彼らはゼレンスキー大統領自身がドンバスを放棄することに同意したと語った」というのである(動画の54分過ぎを注目してほしい)。
和平協議については、拙著『帝国主義アメリカの野望』(38~43頁)において詳述しておいた。メンデルの話は私の記述に符合している。当時の英国首相、ボリス・ジョンソンが合意締結の邪魔をしたという話も彼女はしているが、それも拙著に書いてある通りである。
メンデルによると、ゼレンスキーは、それが戦争の終結を意味するからという理由で、その領土を放棄することに同意したという。さらに、メンデルは、「そして今、彼は数百万人の聴衆を前にして『私はドンバスを諦めることはできない』と言っている。ご覧の通り、彼は一貫性がない。彼は立場を次々と変えている……。私個人に恨みがあるわけではないが、ゼレンスキー氏は今日の平和にとって最大の障害の一つだと信じています」と付け加えた。
大統領の座を守るため、ゼレンスキーは戦争を継続し、戒厳令を何度も延長しつづけていることになる(4月28日、最高議会は戒厳令と動員をさらに90日間、8月2日まで延長することを可決し、4月30日、ゼレンスキーはこの法案に署名した)。その結果、多くのウクライナ国民が命を落とし、戦渦に怯えつづけているのだ。
だが、彼女のインタビュー後に「キーウ・インディペンデント」に報道された「ユリア・メンデルが、ゼレンスキーを擁護する立場から、クレムリン寄りの主張を繰り返し述べるようになった経緯」では、メンデルが批判的に報じられている。ゼレンスキーを批判する者は「親プーチン」とみなす、日本でもおなじみの皮相な見方をとっている点で、あきれ返る内容となっている。
報じられない汚職の醜聞
もっとあきれるのは、決死の証言をまったく報じない西側オールドメディアの不誠実だ。拙稿「スイスの有力メディアが痛烈批判!ノルドストリーム爆破事件に「新説登場」でいま問われる、ドイツ政府の重大責任」に書いたように、最近になってようやく、ゼレンスキーの「悪」と対峙する必要性を認める、ややまともなメディアも出現した。
だが、それはまだ端緒にすぎない。「ウクライナへの批判は概してタブー視されている」という状況が世界中で継続中なのだ。そのために、現在進行中の汚職スキャンダルについて、多くの国でまったく報道されていないか、ごく一部が断面的に報じられているだけだ。
いまウクライナで問題となっているのは、例の「ミンディッチ事件」に関わる盗聴テープが断続的にリークされ、事件の全貌を隠そうとする「ウォロディミル・ゼレンスキー大統領一味」との対立が尖鋭化しつつあるというスキャンダルである(拙稿「腐敗まみれのウクライナ軍事産業:ゼレンスキー周辺は「真っ黒」」、「ついに暴かれたウクライナ政界の腐敗「一番真っ黒なのはゼレンスキー」」を参照)。
ところが、またしても欧米や日本のマスメディアはこのスキャンダルの全貌を報道しようとしていない。5月11日になって、ようやく「ニューヨークタイムズ」(NYT)はスキャンダルの一部を報道したが、日本のオールドメディアの多くは沈黙している。
汚職スキャンダルの全貌とは…
ウクライナで問題化している汚職スキャンダルの全貌を紹介するのは難しい。あまりにも広範囲にわたるからである。そこで、この腐敗問題については、別の機会に詳しく解説する。「真っ黒なゼレンスキー」について知ってほしいのと同時に、いまでもそのひどさを報道せずにウクライナをタブー視しているオールドメディアの不誠実を実感してほしい。


コメント