【ベネズエラ・マドゥロ拘束】歴代アメリカ大統領伝統の「主権無視の軍事行動」で中露イランが大衝撃を受けた理由

麻薬、不法移民の根拠となった左派マフィア政権
トランプ米大統領は、反米左派政権が率いるベネズエラに対して、1月3日の未明についに大規模な攻撃を実施した。米軍はマドゥロ大統領夫妻を拘束し、強襲揚陸艦「イオージマ」に乗せ、その後、飛行機に移し、既にニューヨークに送致された。ボンディ米司法長官は、マドゥロ大統領夫妻がニューヨーク市の連邦裁判所で、麻薬テロの共謀、コカイン輸入の共謀などの罪で起訴されたことを明らかにした。
トランプ政権はなぜベネズエラ攻撃を行なったのか。それには様々な理由がある。
今、アメリカは深刻な麻薬中毒に悩まされている。中国からメキシコを経由して流れてくるフェンタニルも大問題だが、コロンビア、ベネズエラなどから流れてくるコカインも大問題になっている。ベネズエラを本拠地とする犯罪組織の「トレン・デ・アラグア」や「太陽のカルテル」は、こうした麻薬の密輸にも深く関わってきた。そればかりではない。
こうした組織は不法移民ビジネスや人身売買なども広く行い、アメリカの打撃を与えている。さらにこれらの犯罪組織とマドゥロ政権との間には深い関わりがある。それどころか「太陽のカルテル」を率いているのはマドゥロ大統領であると見なされているのだ。
マドゥロ政権は1998年に誕生した社会主義のチャベス政権を引き継いだ政権だが、長年の社会主義運営によって経済がどんどんと崩れていった。今や国民の1/4以上の800万人ほどがベネズエラにいては暮らせないとして国外脱出したと見られている。こうした中でもマドゥロ政権が続いてきたのは、不正選挙によって政権を維持してきたと見られている。中南米にはベネズエラと同様の左派政権が数多くあるが、こうした国々でもベネズエラの不正選挙疑惑に声を上げているところも多いのが実際だ。
2018年に行われた大統領選挙は、事前に有力な野党政治家の選挙権がはく奪され、それに反発した主要野党がボイコットしている状況下で行われた。マドゥロを大統領としては認められないとする野党側の強い動きの中で、2019年には、ベネズエラ国会は野党指導者であるグアイド国会議長(当時)を「暫定大統領」として承認した。正式な大統領・副大統領が欠けている場合には国会議長がその任を代行することが、憲法上の規定となっていたからである。
グアイド国会議長は自由な大統領選挙が行われるまでの30日間の移行政権を担うとし、国際社会もこの決定に追随したが、マドゥロ大統領はこの動きを阻んで政権を維持した。
2024年の選挙でも大規模な不正が行われたのは確実で、不正選挙を訴えた野党候補のゴンサレス氏には逮捕状が出され、ゴンサレス氏はスペインに政治亡命した。
さて、ベネズエラは世界最大の石油埋蔵量で知られる石油大国だが、実は地下資源が豊富なのは石油だけではない。金の埋蔵量も南米で最大であり、天然ガスも世界9位と言われるなど、地下資源は実に豊富だ。こうした天然資源の開発に米企業はかつて多額の投資を行ったが、1998年に社会主義のチェベス政権が誕生した時に全て接収されてしまった。トランプ政権の今回の軍事作戦の狙いとしては、ベネズエラを経由する麻薬の密輸ルートを遮断することもあるが、こうしたアメリカが失った権益の回復も当然狙っている。
中国、ロシア、イラン等が受けた衝撃
今回のベネズエラでの軍事作戦は、ベネズエラ以外の国にも大きな影響を及ぼすのは間違いない。コカインの主要な製造国とされるコロンビアをはじめ、中南米の左翼政権は戦々恐々だろう。
中国の受けるダメージも大きい。近年中国はベネズエラに限らず、アメリカ大陸の多くの国に反米国家を作り上げることにかなりの精力を注いできたが、こうした流れを今回の軍事作戦は完全に断ち切ることになる。
ロシアのプーチン政権にしても、支援してきたマドゥロ政権の崩壊によるダメージは避けられないが、そればかりではない。ベネズエラの石油生産設備が回復して、ベネズエラ産の原油が国際マーケットに大量に流れ出すようになると、原油価格の低下は避けられない。生産設備の復興には時間がかかるから、短期的な影響はないと見ていいが、中長期的には原油輸出国ロシアはこの点でもダメージを受けるのではないか。
もっと直接的な打撃は、目下政情不安の真っ只中にあるイランであろう。トランプ大統領は昨年12月の段階で、イランへの軍事行動も選択肢として上げており、イランの政権中枢はこの点でもともと気を揉んでいたのは間違いない。そこにこんな軍事作戦が実際に展開されたのである。昨年6月にはイスラエルとアメリカによる空爆によって深刻な被害を受けた記憶もまだ生々しいことだろう。
イランの政権中枢はパニックに陥っているのではないか。これにより、政権中枢に近いところで、現在のハメネイ体制を裏切る動きが広がることが予想され、イランの体制転換が起こる可能性がさらに高まったと言えるだろう。北朝鮮、キューバなども、心穏やかではいられないであろう。
ベネズエラ内の抵抗、ほぼなし
今回の拘束劇は、作戦開始から撤収まで1時間半もかからず、米兵に死者を出さない中で遂行された鮮やかなものだった。このことからマドゥロ政権内部にも米軍に協力する勢力が広く浸透していたことが推察され、それだけ政権の求心力が失われていたことが示唆される。
もっとも表面的にはベネズエラ政権はアメリカに抵抗する姿勢を見せている。ヒル外相は、米国の攻撃について協議するため国連安全保障理事会の緊急会合を要請した。パドリノ国防相は、今回の侵攻はベネズエラがこれまで受けた最大の侮辱だと非難し、国際社会に米国のベネズエラ攻撃を非難するよう求め、政権はアメリカの圧力に屈することはないと語っている。
だが、現実にはベネズエラの政権側にアメリカに抵抗する力はないと見るべきだ。ルビオ米国務長官は、既にロドリゲス副大統領と話していると明かし、「(同氏は)『必要なことは何でもする』と言っている。(同氏はこう表明する以外に)実際には選択肢がない」と語っているのだ。
トランプ大統領は、安全かつ適切な政権移行が実現できる時期まで、米国が統治に関与する意向を明らかにした。当面のベネズエラの国家運営を担うのは米国の指名を受けたグループだとしている。
こうなると、昨年のノーベル平和賞を受賞した野党指導者のマチャド氏に当面の政権運営を任せるつもりなのではないかとの想像が働くが、ルビオ国務長官はこれを事実上否定した。ルビオ国務長官はマチャド氏とは接触していないとした上で、彼女は国内での支持も尊敬も得られておらず、指導者になるのは非常に難しいとの見方まで示した。
トランプ政権側からマチャド氏に対して接触を図ったが、今回のアメリカの作戦はベネズエラへの内政干渉だという反発があったのかもしれない。
それはともかく、トランプ政権としては、マドゥロ大統領が欠けた中では、ロドリゲス副大統領が大統領職を暫定的に担い、アメリカをはじめとする先進国の厳しい監視のもとで選挙をやり直させて、公正な選挙結果に基づき、政権移行を果たす計画を立てているようだ。この形を取れば、アメリカの一方的な国家意思をベネズエラに押し付けたとの非難をある程度避けることができる。
オバマを見よ、アメリカ大統領は法に縛られない
では、トランプ大統領の今回のベネズエラへの攻撃とマドゥロ大統領夫妻の拘束は、法手続きの観点で合法とみなされるのだろうか。
アメリカの超党派の外交シンクタンクである「米外交問題評議会(CFR)」は、昨年6月に行われたトランプ政権によるイラン攻撃に関して、次のように指摘している。
「合衆国憲法2条には、実際の攻撃あるいは予想される攻撃からアメリカやアメリカ人を守るためだけでなく、それ以外の重要な国益を進めるためにも、軍事力の使用を命じる権限が含まれている。(歴代の)民主党、共和党両党の大統領は、数多くの状況で議会の承認なしに米軍を展開し、軍事力の行使を命じてきた」
この指摘は確かにそうで、アメリカやアメリカ人を守る以外の重要な国益を進めるためにも、歴代のアメリカ大統領は議会に諮ることをしないで、軍事作戦を広く展開してきた。英国の調査報道ジャーナリスト協会(TBIJ)のまとめでは、あのオバマ大統領にしても、パキスタン一国における無人機攻撃だけでも373回行い、死亡者は少なくとも2089人、最大では3406人に上ったとされている。さらにこうした攻撃で一般市民が少なくとも257人、多ければ634人も亡くなったとされる。
私は「オバマ大統領にしても」と記載したが、実際には「オバマ大統領だからこそ」と言った方がいいかもしれない。オバマ大統領はノーベル平和賞を受賞し、一般的には平和的なイメージを持たれやすいが、実際には歴代の大統領の中でも、ずば抜けて暗殺指令を出していたからだ。
パナマ・ノリエガ将軍逮捕の前例
さて、国家元首であるマドゥロ大統領の逮捕は、国際法上認められないとの考えもあるが、これについては1989年に起こったパナマの指導者であったノリエガ将軍の逮捕の前例が参考になる。ノリエガ将軍の弁護側は、主権国家パナマへの侵攻は国際法違反であり、その結果としてのノリエガ将軍の拘束・移送も違法なのであって、アメリカの裁判所には将軍を裁く資格がないと訴えた。
ところが、米国刑事司法にはケル=フリスビー原則というものがあり、これによると被告人が誘拐されようが、不法に連行されようが、裁判所に物理的に存在していれば、裁判は可能だということになっている。ノリエガ将軍のケースについても、この原則が適用された。
さらに米裁判所は、国際法は国家間の関係には問題にはなるが、個人の盾にはならないとして、刑事被告人個人がそれを根拠に裁判を拒否することはできないとした。ノリエガ将軍の場合には、問われているのは麻薬密輸とマネーロンダリングで、これらは公的職務とは無関係な犯罪であって、裁判所が裁くことに何の不都合もないとの判断なのである。
このノリエガ将軍に対する扱いを是とするなら、マドゥロ大統領に対する扱いも是となるだろう。
私がここで伝えたいのは、オバマ大統領はもっと派手にやっていたのだから、トランプ大統領だってやっていいに決まっているとか、ノリエガ将軍の時に認められたのだから、マドゥロ大統領の時にも当然認められるものだということではない。ものごとの善悪は別として、アメリカは歴代の大統領がこういうことを実行することを許してきた国なのだという事実だ。
トランプ大統領の今回のベネズエラへの攻撃とベネズエラ大統領の逮捕は、ベネズエラの国家主権の侵害に当たり、国際法上許されるべきものではないと、私は個人的には考えている。そうだとしても、歴代のアメリカ大統領の行動には口を閉ざしたまま、トランプ大統領だけを非難の対象にするのは、党派的な立場を優先した不公正なものではないかと思うのだ。
それでも主権侵害ではあるが……
ところで、議会による宣戦布告が認められていなくても、大統領が戦争行動を実行することは許されるのかという点が気になる人もいるだろう。
この点について、先にも紹介した「米外交問題評議会(CFR)」は、特定の計画された軍事作戦が、宣戦布告を必要とする憲法上の「戦争」を構成するか否かについては、その作戦の『予想される性質、範囲、および期間』について、事実に即した評価が必要であるとしている。さらに、この基準は、通常、相当期間にわたり米軍関係者が重大なリスクに晒されるような、長期にわたる実質的な軍事交戦によってのみ満たされるとしている。
小難しい説明になっているが、要するに本格的な戦いにならない限り、議会による宣戦布告を必要としないというのが、アメリカにおいての法解釈なのである。
こうした点から見ると、トランプ大統領の今回の軍事作戦は、アメリカの国内法の見地からは問題視されるべきではないということになるだろう。
その一方で国際法的には疑義のある行動である。
それぞれの国には国家主権があり、軍事行動以前に警察行動においても他国の干渉は許されるべきではない。中国が海外に密かに警察拠点を設置しており、日本においても秋葉原などに置かれているということが指摘されたことがあるが、これらが問題にされるのも、こうした行動が日本の国家主権を脅かしているからだ。
今回のトランプ政権によるベネズエラに対する軍事作戦は、ベネズエラばかりでなく、イラン、ロシア、中国、北朝鮮、キューバといった国際秩序を乱す国家群にとって大きな打撃になり、その点では大いに好ましいとの判断もできる。
それでも厳粛に守られるべき法的手続きの面で疑義があるというのは、実に悩ましい問題である。キレイゴトを言うなと言われそうだが、自分としては手放しで評価することはできない。
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