カネのためにウクライナ戦争継続を求める欧州指導者たちが躍進させた「チェコのトランプ」

拙稿「ウクライナの来年国家予算案に仰天…8.9兆円もの国防費をたかる気か⁉」に書いたように、ウクライナは海外からの支援なしには来年まで戦争を継続できない。逆に言えば、支援の削減や停止を材料にすれば、ウクライナ側に戦争を停止するよう圧力を加えることができる。しかし、欧州のほとんどの国はウクライナへの支援を継続する方針であり、ウクライナに停戦・和平への圧力をかけていない。
だが、チェコの下院選の結果は、ウクライナへの支援がいかに欺瞞(ぎまん)に満ちたものであるかについて、一般国民が理解できることを示している。そう、ハンガリーやスロバキアに次いで、チェコの新政権もウクライナ支援に慎重姿勢をとることが確実になったのである。
「チェコのトランプ」が大躍進
10月3、4日に実施されたチェコの下院選結果によると、「チェコのトランプ」とも呼ばれる億万長者のアンドレイ・バビシュ(下の写真)が率いる「不満をもつ市民の行動」(ANO)が第一党となった。ウクライナへの軍事援助を削減することが、ほぼ確実となったのである。
NYT(ニューヨークタイムズ)によれば、「賛成」を意味するANOは、減税、年金増額、エネルギー価格の上限設定、政治家の給与凍結を公約に掲げていた。さらに、ウクライナの対ロシア防衛を支援するための軍事援助の継続には慎重で、3年半におよぶ戦争に対する有権者の厭戦(えんせん)気分に配慮して、ウクライナ支援をチェコ経済に振り向けるよう主張している。
200議席ある国会で80議席を確保したANOは、チェコ出身の日系企業家トミオ・オカムラ(下の写真)が率いる反移民政党「自由と直接民主主義」(SPD)などとの連立政権樹立をめざす。「クーリエ・ジャポン」によれば、トミオ・オカムラの父親は日本人と韓国人のハーフで、母親はチェコ人だ。SPDは、移民政策に断固として反対し、欧州連合(EU)からの脱退を主張し、イスラム教を「ヒトラー型ナチズム」と同等だとみなしている。もちろん、ウクライナ支援にも反対している。
(出所)https://courrier.jp/news/archives/103106/
いずれにしても、「ウクライナの戦争努力に対するチェコの軍事支援は、バビシュ政権下で大きく変わる可能性が高い」とBBCは指摘している。バビシュは、ウクライナのためにプラハ経由で砲弾を購入する計画は腐敗していると訴えた。選挙前夜には、ロシアによるウクライナの完全占領を防ぐという目標はすでに達成されており、さらなる軍事援助は再考されるべきであるとした。
しかし、残念ながら、大きな選挙が間近にない他の欧州諸国では、既存の政治指導者らによる欺瞞がいまでもつづいている。特に、6日にセバスチャン・ルコルヌ首相が退陣したフランスでは、その欺瞞が露わになろうとしている。
ウクライナ支援で「国防費率」稼ぎ
私が欧州の政治指導者らを下劣だと痛感したのは、昨年7月10日に発表された北大西洋条約機構(NATO)の「ワシントン・サミット宣言」の最後にある「ウクライナへの長期安全保障支援を約束」の第四項において、「NATO、二国間、多国間、その他の手段を問わず、上記の基準によるウクライナへのすべての連合国支援はカウントされる」と規定されていることを知ったときだ。「上記の基準」とは、①ウクライナへの軍事装備の購入、②ウクライナに提供される現物支援、③ウクライナ向け軍事装備のメンテナンス、ロジスティクス、輸送に関する費用、④ウクライナのための軍事訓練費用、⑤ウクライナへの軍事支援に関連する運営費、ウクライナの防衛インフラおよび防衛産業への投資および支援、⑥非殺傷援助を含む、ウクライナのためのNATO信託基金へのすべての拠出――を指す。
つまり、NATO加盟の欧州諸国は、ウクライナに支援すれば年間防衛支出にカウントされ、その対国内総生産(GDP)比を引き上げるのに役立つ。これは、年間国防費/GDPを高くみせかけて米国のドナルド・トランプ政権の要求(欧州加盟国の防衛負担を高めよという要請)を満たすうえで好都合ということになる。
しかし、それは、欧州の政治指導者がウクライナ戦争を早期に停止するようウクライナ政府に圧力をかけるのではなく、ウクライナにロシアの弱体化のための代理戦争を何の当てもなく継続させるというインセンティブを働かせている。欧州の政治指導者のなかには、ウクライナ戦争を利用して国内世論の反発を受けずに国防費/GDPを引き上げようとする下劣な政治家がいるのではなかろうか。
なお、日本政府がどうしているかを私は知らない。日本もまた、NATO加盟の欧州諸国と同じように、トランプ大統領を納得させるために国防費/GDPを高く見せかけるため、ウクライナへの支援を国防費として含めていないのだろうか。ぜひとも、国会審議で明らかにしてもらいたい。
(出所)https://www.nato.int/cps/en/natohq/topics_50115.htm
戦争が終わらない本当の理由
実は、ウクライナ戦争がなかなか終わらない本当の理由も、欧州の政治指導者が関係している。彼らは、ウクライナがロシアに負ければ、ロシアからウクライナへの賠償金が取れず、自分たちのウクライナ支援が無駄となり、さらなる資金負担がのしかかってくるのを恐れているのだ。ゆえに、ウクライナに代理戦争をつづけさせて負担を先送りし、あわよくばロシアに賠償金を支払わせることで、自分たちの財政負担を少しでも軽減しようともくろんでいることになる。
本来であれば、拙稿「ウクライナの来年国家予算案に仰天…8.9兆円もの国防費をたかる気か⁉」に書いたように、ウクライナ経済は欧米や日本、さらに、国際通貨基金(IMF)の支援がなければ破綻状態に陥る。兵員不足や脱走兵増加に加えて、ウォロディミル・ゼレンスキー周辺の腐敗などを考えれば、こんなウクライナを支援するよりも、一刻も早く停戦・和平にもち込んで、復興・復旧に邁進させるほうがウクライナにとっても欧州諸国にとっても望ましいはずだ。それにもかかわらず、欧州諸国の政治指導者たちはオールドメディアを味方につけて、ウクライナの惨状を各国国民に報道させないまま戦争継続に賭けているように映る。
注目される「賠償ローン」
来年も戦争をつづけるとなると、こうした国や国際機関はさらなる負担を強いられる。そのために、9月10日、欧州連合(EU)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は「2025年一般教書演説」のなかで、「凍結されたロシアの資産に基づいてウクライナの戦費を賄うための新たな解決策に早急に取り組む必要がある」とのべた。そのうえで、「ロシア資産に関連する現金残高を使えば、ウクライナに賠償ローン(reparation loan)を提供することができる」との考えを示した(下の写真を参照)。
賠償ローンはウクライナの戦争資金を援助することを目的としたもので、ウクライナがロシアから賠償金を受け取って初めて返済されることになる。その意味で、ロシアからの賠償支払いがなければ、ウクライナは融資を返済しない。ウクライナに対する米国の軍事資金援助が終了し、多くのEU諸国政府が財政難に直面していることから、欧州委員会は、2026年と2027年にウクライナを支援するために、凍結されたロシアの中央銀行が所有する資産(現金残高)を利用することをEUに提案するようになったわけである。
(出所)https://audiovisual.ec.europa.eu/en/media/video/I-276692
欧州のリーダーたちの悪企み
10月1日、EU首脳はコペンハーゲンに集まり、ウクライナの防衛とさらなる支援に関する非公式会合を開いた。そのなかの主な議題の一つとして、欧州で凍結されたロシアの資金を利用したウクライナへの賠償ローン問題が話し合われた。
ロイター通信の報道によると、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は、首脳会談後、「私はこの案(賠償ローン)を強く支持する」とのべたという。他方で、凍結された資産の大半を所在するベルギーは、「この計画に同意する前に、ロシアの資産を突然返還しなければならなくなった場合、モスクワへの対応を自分たちだけに任せない」というEUの強力な保証が必要だ、と断固として主張している。フランスとルクセンブルクもこの考えを支持している。つまり、賠償ローンの実現までには、まだまだ越えなければならないハードルがいくつも残されているのだ。
結論として、この非公式会合では、凍結されたロシアの資産を担保にウクライナに1400億ユーロ(約24兆8000億円)の融資を行うという提案について合意に至らなかった(FTを参照)。いまのところ、10月23~24日に開催されるEU首脳会議で、EU首脳が欧州委員会に対し、法的に問題のない具体的な提案を準備するよう指示することが予想されているだけだ。
賠償ローンへの対抗策
実は、現段階(10月2日時点)では、EUがどのような賠償ローンを行おうとしているのかわからない。ただ、そのねらいは、自国のカネをできるだけ使わずにウクライナを支援するために、2022年2月24日のロシアによるウクライナ全面侵攻直後に凍結したロシアの資産を充当することにある。もちろん、これでは「窃盗」になりかねず、国際法上もさまざまな疑義がある。ロシア政府が訴訟を起こすのは確実であり、EUの政治指導者はしっかいした「悪知恵」で理論武装しなければ、裁判で敗れる可能性も捨てきれない。
加えて、ウラジーミル・プーチン大統領はEUの行動に対抗して、外国資産を迅速に国有化する計画を準備している(「ブルームバーグ」を参照)。EUがロシアの海外資産の没収を決定した場合、ロシアは新たな民営化メカニズムの下で海外資産を国有化し、迅速に売却する可能性があるというのである。事実、プーチンは9月30日、大統領令693号に署名し、民営化手続きの迅速化をはかった。
ウクライナに24兆円を融資
賠償ローンというアイデアは、昨年2月にロイターの著名なコメンテーターであるヒューゴ・ディクソンらの共著論文「ウクライナの賠償ローン」に基づいている。今年2月には、ディクソンとリー・ブッフハイトの共著論文「ウクライナ賠償ローンの解決策」も公開されている。
ここでは、要点だけを概説しよう。「賠償ローン」は、これらの資産を没収することなく、キエフの利益のために動員する画期的な方法であると説明されている。というのは、国家には国際法上、「主権免責」が認められており、そう簡単にロシアの資産を没収することはできないからだ(詳しい説明は拙著『帝国主義アメリカの野望』[141~149頁]を参照)。あるいは、国によっては没収自体が国内法に抵触する可能性もある。そこで、以下のような手続きが構想されている。
〇 凍結されたロシア資産の保有者がウクライナに最大1400億ユーロを貸し付ける。
〇見返りとして、ウクライナはロシアに対する戦争賠償請求権を担保として差し入れる。
〇 融資は限定的なリコース債務(債務者が債務を履行できなかった場合に、債権者が債務者の保証人や手形などの譲渡可能証書の裏書き人、あるいは債務者の他の資産に遡って支払いを請求できる権利を持つ債務)として構成され、担保が唯一の返済原資となる。
〇国際補償委員会がウクライナの戦争賠償請求を査定する。
〇ロシアが支払いを拒否した場合、その可能性は高いと思われるが、凍結されたロシア資産を保有する国々は担保を差し押さえ、事実上ロシアへの請求権を継承する。
〇その後、ウクライナに融資を行った国々は、その債権と凍結された資産を相殺し、ウクライナへの融資を全額回収する。
なお、「最大1400億ユーロ」としたのは、9月25日付の「フィナンシャルタイムズ」において、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相がウクライナへの1400億ユーロにのぼる巨額のEU融資を開始するというアイデアを提案した、と報じられたからである。一方、9月24日付のロイター通信は、EUによるウクライナへの賠償ローンは最大で1300億ユーロ(約23兆円)になる可能性があると報じた。
2022年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以来、ロシアの国家資産の大部分は、ユーロクリア(ベルギーに本社を置く国際証券決済機関)で凍結されている。大部分は西側の国債に投資され、満期を迎えて現金化された。
ユーロクリアに預けられている資産のうち1750億ユーロ(約31兆円)が満期を迎え、新たな融資の原資となりうる約2100億ユーロ(約37兆2000億円)相当の現金は現在、欧州中央銀行の預金口座に預けられている。ただし、EUが賠償金の融資を進める前に、2024年合意されたG7の融資450億ユーロ(約8兆円)を返済する必要があり、1750億ユーロから450億ユーロを差し引いた1300億ユーロが、新たなローン向けに使える現金という。
闇に消えるウクライナ融資
来年だけでなく、今年の残る日々についても、ウクライナは資金不足に悩んでいる。10月6日、ユーリア・スヴィリデンコ首相は、年末までに、防衛費に追加で3247億フリヴニャ(約1兆2000億円)を配分するという本年予算の補正案を承認したと「テレグラム」に投稿した。「歳出増加の主な財源は、G7のウクライナのための特別収益前渡し融資(ERA)イニシアティブに基づくEUからの60億ユーロ(約1兆1000億円)である」と説明している。ERAは、凍結されているロシアの国家資産から得られる特別な収益を活用した融資のことだ。
他方で、この日、「ニューヨークタイムズ」はウクライナへの軍事支援が不正の闇に消えている実態を報道している。ウクライナの国防調達庁が昨年初めから今年3月までに行った購入を調査したところ、「砲弾、無人機、その他の兵器に関する数十の契約が、最低落札価格で落札されていないことが判明した」という。低入札額と調達機関から実際に落札された契約の差額は、少なくとも54億フリヴニャ(約200億円)に上ることが監査で明らかになったというのだ。つまり、戦争継続を理由に西側からカネをむしり取り、私腹を肥やそうとする者がいるウクライナに、国民の血税を投じてきた欧州政治指導者の不見識を指摘しないわけにはゆかない。
さらに、ウクライナはG7からの支援にもねらいを定めている。G7財務相らは10月1日、ロシアに対する圧力を強化し、ウクライナに対する継続的な残虐な戦争を終結させ、ウクライナを自衛するための継続的な努力を支援するための共同措置をとることに合意した、という声明を公表した。有力国はすでに賠償ローンの実現に向けて動き出しているようにみえる。カネのない欧州主要国や、日本を含むG7加盟国は、「ロシアの褌(ふんどし)で相撲をとる」ことで、ウクライナへの腐敗に満ちた「汚い支援」を継続しようとしている。
カネのために戦争を継続するのか
実は、こうしたカネにまつわる動きこそ、ウクライナ戦争がなかなか終わらない理由を示している。要するに、欧州の政治指導者やG7加盟国の首脳は「カネのため」にウクライナに戦争をつづけさせたいのだ。
いま戦争を止めてしまうと、ウクライナが領土の一部をロシアに割譲するだけでなく、ロシアから賠償金を取れなくなる可能性もある。おまけに、対ロ制裁の緩和や撤廃まで約束しなければならなくなるかもしれない。賠償金がなければ、とくに欧州各国は大きな財政負担を強いられることになるだろう。
ゆえに、「悪知恵」の働く欧州の政治指導者たちはウクライナ戦争の継続によってカネの問題を先送りし、各国の税金を湯水のようにウクライナに注ぎ込んできた責任を逃れようとしているようにみえる。他方で、このサイトで何度も書いてきたように、敗色濃厚で兵員不足や脱走兵に悩み、腐敗が蔓延するウクライナの現状を、オールドメディアが報道しないことで、各国国民は自分たちの税金が無駄遣いされている実態に気づいていない。
チェコでのANOの成功は、こうした実態をバビシュが説明し、「戦争が停止しないのはロシアのせいだ」として、ウクライナへのさらなる軍事支援と対ロ制裁の厳格化を常に主張してきた欧州指導者らの欺瞞(ぎまん)を暴露したからではないか。
本当は、いくら戦争を継続しても、塹壕(ざんごう)と要塞に守られた戦地の争奪は困難であり、明確な勝ち負けをつけること自体が難しい。そもそも政治指導者は、こんな戦争を4年も5年もつづける理由を説明できるのだろうか。戦争の継続は、人命が失われるだけだ。
普通に考えれば、チェコの下院選結果が示すように、欧州各国はウクライナに停戦・和平を急がせるために、ウクライナ支援の削減を促せばいいのである。一刻も早く停戦・和平を実現して、その後で復興支援をすればいい。
こうみてくると、「カネのため」に戦争をつづけさせている欧州政治指導者は悪辣非道に映る。これは私だけの思いだろうか。



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