
No.1412 「この国はもうダメだと思った」 ~ 川口マーン恵美『移民 難民 ドイツからの警鐘』
EU全体が移民受入厳格化に舵を切っているのに、もっとも問題の大きいドイツは言論弾圧をしてまで政策転換を渋っている。
■1.「この国はもうダメだと思った」
伊勢: 花子ちゃん、この間はフランスを中心に移民難民問題を論じたけど、つい最近、ドイツの状況を克明にレポートした本が出た。川口マーン恵美さんの『移民 難民 ドイツからの警鐘』という本だけどね。40年ほどもドイツに在住している方だから、ドイツの変化をよく見抜かれていると思う。
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JOG(1408) 移民難民問題が社会を壊す ~ 西尾幹二『「労働鎖国」のすすめ』再読
欧州社会の底辺で新たな奴隷階級にされた移民難民の2世、3世が、各地で暴動を起こしている。
https://note.com/jog_jp/n/nace8d2bad601
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花子: 「警鐘」というからには、移民難民問題がずいぶんひどいことになっているという事ですか?
伊勢: 「ひどい」という程度ではなく、昨年末に起きた事件で「この国はもうダメだと思った」とまで書いている。
花子: いったいどんな事件だったんですか?
伊勢: 2024年12月20日、旧東独のマグデブルグという都市で、市中のクリスマスマーケットにサウジアラビア人の車が突っ込み、大人と子供合わせて5人がなくなり、70人以上が重軽傷を負った。
花子: 日本では川口市でクルド人移民が100人規模で争乱を起こしましたが、もっとひどい事件ですね。
伊勢: たしかにひどいけど、川口さんが「この国はもうダメだと思った」というのは、事件そのものよりも、ドイツ政府の対応に関してなんだ。

■2.政府もマスコミも責任逃れ
花子: ドイツ政府はどんな対応をしたんですか?
伊勢: 犯人は2006年にドイツに入ったサウジアラビア人で、犯人のSNSへの投稿の中に、AfD、「ドイツのための選択肢」という政党を支持する内容があったため、事件後に公共放送は「犯人はAfDのシンパで反イスラムだった」と報道した。
花子: AfDって、前回のお話では不法移民の排除など移民制限政策を掲げて、「極右」などと呼ばれている政党でしたっけ。
伊勢: そう、AfDのシンパで反イスラムなら、クリスマスマーケットに突っ込んで、キリスト教徒のドイツ人を死傷させたというのは、全く筋が通らないけどね。こんな無理筋の主張をする事自体が、おかしな話だ。
そのAfDが、すぐにマグデブルグで追悼集会を開いた。底冷えのする夜寒のなか、AfDの党首アリス・ヴァイデル氏が、まさに慟哭と言えるようなスピーチをした。川口さんはこう語っている。
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9歳の男児も犠牲になったことが、やはり同じ年頃の男の子二人を持つ母親である氏にとって、どれだけのショックであったかが、見ている者にも痛いほど伝わってきた。[川口、p16]
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それに比べて、犯行の翌日、現地に駆けつけたシュルツ首相のスピーチは、「今こそ、我々は暴力に負けてはならない」などという、全く心の籠もらないお題目を繰り返すだけで、川口さんは腹を立てたという。
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そんな中、フェーザー氏(JOG注: 内相)が、「この不幸な事件を政治利用している勢力を許してはいけない」と、暗にAfDの開いた追悼集会を誹謗したのには、心底呆(あき)れた。そして、主要メディアが、それをそのまましたり顔で報道したのを聞いた時、私は漠然と、この国はもうダメだと思った。[川口、p18]
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どんなにひどい事件が起きていても、政府が真剣に国民を守ろうとしているなら、まだ望みがある。しかし、シュルツ首相やフェザー内相が、自分たちが進めてきた移民難民政策の失敗から目をそらし、その責任を追求してきたAfDに矛先を変えようとする卑怯な姿勢をとり、主要メディアまでもがそれに賛同しているようでは「この国はもうダメだと思った」のも、心底、共感できるね。
■3.「怠け者や寄食者、ナイフ使いや性犯罪者」
伊勢: この本で、その次に紹介されているエピソードには、私自身も「この国はもうダメだと思った」。同じく昨年の12月、74歳のドイツ人女性がフェイスブックにこんな投稿をした。政権与党の緑の党のハーベック経済・気候保護相の写真と、氏の発言「ドイツは労働者を確保するため、移民に頼らざるを得ない」の下に、こんなコメントを書き入れたという。
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私たちの必要としているのは熟練技能者であり、ドイツの価値観や文化に敬意を払わないまま、ここで素敵な生活をしようと思っている人たちではない。(略)私たちは、怠け者や寄食者に頼つてはいない。ナイフ使いや性犯罪者には、なおのこと頼ってなどいない。[川口、p19]
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花子: 「ナイフ使い」って、どういう意味ですか?
伊勢: 2022年頃からの中東難民の流入で、ナイフを使った暴力事件が急増して、連邦検察庁が2023年11月に発表したところによれば、同年11月までに届出があったものだけでも、ナイフによる殺傷事件は2万件、毎日60件起こっている計算となる。中東やアフリカの移民たちは自衛のために、ナイフを携行している人が多いという。
花子: ひえー、それは怖いですね。あと「怠け者」や「寄食者」というのは?
伊勢: ショルツ政権が発足した途端に制定されたのが「市民金」という制度で、生活保護と失業手当をひとまとめにしたもので、これに子供手当を合わせれば、低賃金で働くより収入が高くなることもあるという。市民金を受けた人は550万人で、ドイツ人口の6.5%。その3分の2が外国人か、移民の背景のある人たちだという。[川口、p46]
こんなに手厚い生活保護をしていたら、働こうという意思もなくしてしまう。ドイツ政府は、難民を無制限に入れ続ける理由の一つとして労働力確保を挙げているけど、難民は言葉の問題もあり、2015年、16年に入ってきた難民でさえ、いまだに半分は社会保障にぶら下がっているそうだ。[川口、p229]
花子: そういう事情なら、「私たちは、怠け者や寄食者に頼つてはいない。ナイフ使いや性犯罪者には、なおのこと頼ってなどいない」というのも、当然ですね。でも、そんな当たり前の発言の、どこか問題になったんですか?
■4.SNSでの政府批判に「煽動罪」で約127万円の罰金!?
伊勢: なんと、この投稿をした老女性は、検察から「煽動罪」で告訴されたんだ。判事も、「国民の間に移民・難民に対する恐怖や躊躇(ためら)いがあるのは『間違った』意見のせいであり、その間違った意見がSNSなどで繰り返されると真実になってしまう」として、この女性は日本円で約127万円の罰金刑を言い渡された。
花子: 政権の批判をSNSでしただけで、127万円もの罰金なんて、今の中国並みですね。ドイツには言論の自由はないんですか?
伊勢: ハーベック経済・気候保護相は政権について3年足らずの間に、805回も国民を侮辱罪などで告発している。また、ベアボック外相も、主に侮辱罪で513回。敗訴した国民は、罰金や、慰謝料を払わなければならない。
ハーベック氏は「頭の弱いハーベック」などという投稿に対しても訴えを起こしており、「国民煽動罪」や「侮辱罪」の容疑で、家宅捜査に見舞われた人も複数いたそうだ。しかも、現在の政府は、政治家に対する侮辱罪は、一般の国民に対する侮辱罪に比べて、刑を3倍も重くするよう法律を改定したという。
花子: そうやって政府批判を弾圧するなんて、なんかナチの頃みたいですね。
伊勢: ハーベック氏もベアボック氏も緑の党の出身で、どうもこの党は名前はソフトだけど、中身はナチばりの強権政党のようだね。
■5.移民難民の流入と、若い有能なドイツ人の国外流出
花子: ドイツ国民は、そんな強権政治を許しているのですか?
伊勢: 一昨年の世論調査では、ドイツ人の6割が「ドイツはこれ以上、無制限に難民を受け入れることはできない」とし、5割は、現在法律で認められている難民の権利を縮小すべきだと回答した。また、85%の人が、難民は雇用の改善にも社会の多様化にも役立たないと考えている。
そして、こんなドイツに見切りをつけて、スイス、オーストリア、アメリカなどに脱出してしまうドイツ人が増えている。ドイツの政府統計に依れば、メルケル前首相が移民難民に国境を開放した2015年から、ドイツ人の国外流出は急増しており、それも若く有能な人材が出ていってる、という。
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JOG(1145) EUをぶち壊す移民難民の破壊力
欧州各国の国民共同体はメルケル首相の「難民ようこそ」政策によって破壊されつつある。
https://note.com/jog_jp/n/nf71266e95fea
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その原因は、世界で2番目に高い税金と社会保障費で、現在も30歳以下の人の約1割が外国での就職を模索しているらしい。
花子: えーっ、移民難民を入れる理由の一つが、国内の労働力不足解決だと言っているのに、結局、若くて有能な人材が国外流出してしまっては逆効果ですね。
伊勢: おまけに入ってきた移民難民は半数は働かず、生活保護を受けて、何兆円もの国費を吸い上げてしまうのだからね。
花子: 結局、若い有能な人材が流出して、残るのは移民難民と高齢者ばかりということになりますね。何か、お先真っ暗みたいな、、、そんな大失敗をしているのに、今の政権は批判者を訴えて罰金をとったりしていのですか。普通の民主主義国なら、即退陣ですよね。
伊勢: 今年2月の総選挙では、シュルツ首相率いる社会民主党(SPD)は大敗して、第3党に転落、緑の党も同様に第4党となった。逆に躍進したのは、移民・難民の入国規制を強化すべきだと訴えた最大野党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が第1党に返り咲いた。AfD「ドイツのための選択肢」は、得票率を倍に伸ばして、第2党に躍進した。
■6.EU全体で、難民受入れ厳格化の意思決定
花子: ヨーロッパの他の国はどうなんでしょう。ドイツと同じくらいひどいのですか?
伊勢: フランスでは前回話した移民難民の大暴動で、合計10億ユーロ(現行レートで1600億円)もの損害を出し、やはり移民対策の強化を訴える国民連合のルペン氏への支持率が、現職のマクロン大統領を上回っている。
スウェーデンは人口あたりの移民の数はEU内で最高で、今までは寛容な移民政策を行ってきたけど、あちこちで難民による暴動や犯罪組織の抗争で国内の治安が悪化し、2022年の選挙で、それまでの移民に寛容だった社会民主党は8年ぶりに野党に転落、厳格な移民政策を主張する穏健党などの右派連合が政権をとった。
EU全体では、もうこれ以上の難民受入は無理ということで、2023年12月20日、EU加盟国、欧州議会、欧州委員会のあいだで、ようやく将来の対策の合意に漕ぎつけた。EUの国境付近に難民施設を造り、将来はそこで審査をすると決めた。
今まで、受入条件を厳しくすることに反対し続けたのはドイツだから、今回の決定は、EUの中でドイツの発言権が弱まっているようだ。それでも、緑の党のベアボック外相は「子供たちまでがあたかも囚人のように拘束されるのは不当だ」として、これに抵抗していた。
しかし、こんな意見に賛同したのは、アイルランド、ポルトガル、ルクセンブルクの3国しかなく、ベアボック氏の主張はあっけなく却下。子連れを無条件で入れると、子供を同伴する難民が増え、さらに危険な状況が生み出されるのは目に見えている。
花子: やはりヨーロッパ全体では、移民難民をこれ以上受け入れるのは反対、というのが大勢なんですね。
■7.ドイツが難民受入に執着する理由
花子: それでも、ドイツがこれだけ混乱しているのに、まだ難民受入に前向きなのはなぜなんでしょうか? 何か、特殊な事情がありそうですね。
伊勢: やはり「ナチ」の記憶で自縄自縛に陥っているみたいだね。移民難民に早くから警鐘を鳴らしていたAfDはよく「ナチ」などと叩かれていた。そして、政府やAfD以外の野党は、あたかも外国人犯罪などないように振る舞ってきた。移民難民を排斥するということ自体が、「ユダヤ人を大量虐殺したナチ」を連想させ、政治家は「ナチ」と呼ばれる事だけは絶対に避けたいと思っている。
花子: でも、ナチがユダヤ人を虐殺したのと、現代のドイツが不法移民を排斥するのと、同じなんでしょうか?
伊勢: そう、そこがポイントだ。ナチに虐殺されたユダヤ人の中には数十万人ものドイツ国籍を持っていた人々もいた。ナチは彼らの市民権を奪い殺害したんだ。国民の人権を踏みにじったんだね。それに対して、不法移民の受入を拒否するのは、ドイツ国民の生活を守るためなら、合法的かつ政府の当然の責務だ。
花子: かえって、緑の党のように、自分たちを批判するドイツ国民をやたらに訴える政治家の方が、ナチ的な感じがしますけど。
伊勢: そこが大切なところだね。ナチによるユダヤ人虐殺は、自国民まで殺した政権による犯罪だったけど、不法移民を政府が法律に従って入国拒否するのは、国民を守る国家にとって合法的な措置だ。
逆に緑の党のように、無制限の移民受入の政策を批判する人々を告訴するなんていうのは、ナチがそのユダヤ人排斥政策を批判した人々を弾圧したのと同様、全体主義政府のやる事だね。
花子: ナチの反省をするなら、政権に対する批判を弾圧してはならない、という点ですよね。どうも緑の党のやっていることは、反省すべき点を間違えてるという気がしていました。
伊勢: 本当にその通りだ。でも、我が国でも先の大戦で「軍隊を持ったから軍国主義となった」とトンチンカンな「反省」をして、今の自衛隊にすら反対する人々がいるから、あまり偉そうなことも言えないけどね。
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