首相や政治家のスピーチ、様々な場での答弁にはスピーチライターがいる、原稿がある、と言うことは周知の事実だと思います。
先日、アメリカの連邦議会上下両院合同会議で、岸田文雄総理大臣がスピーチをしました。
日本のマスコミは、全編英語のスピーチで、評価が高かったと報じています。
しかし、その原稿は、かつて、レーガン米大統領のスピーチを書いた経験があるベテランのスピーチライターが作り上げたもので、身振り手振りなどもレクチャーを受けたと言うことです。
語るべき言葉、中身がない、自ら考えられない政治家とは何者なんでしょうか?
そしてその内容についても、「何という恥さらし、何という恥辱」と言う評価が正しいのではないでしょうか?
首相、元米大統領のスピーチライター活用 録音で練習
【ワシントン=秋山裕之】岸田文雄首相は11日(日本時間12日未明)の米議会の上下両院合同会議での演説を英語で語りかけた。1980年代にレーガン米大統領のスピーチを書いた経験があるベテランのスピーチライターを起用し、ライターが録音した発音を何度も聞き返しながら練習した。
武田砂鉄が政治家のスピーチ力を問う──「もうちょっと自分の言葉で喋ってよ」
アメリカの議会で上機嫌にスピーチした岸田文雄総理大臣。この様子を見て、ライターの武田砂鉄は違和感を覚えたという。なぜか?
2024年4月21日
政治家のスピーチが滑稽過ぎる
インタビューする仕事を続けていると、今、目の前で話し始めた内容が、真摯なものなのか、表層的なものなのか、ある程度は読み取れるようになる。スラスラ話しているからといって、気持ちがこもっているとは限らない。これまでの取材で答えてきた内容を繰り返しているだけかもしれない。無論、それはこちらの投げる質問が弱いからであって、このままでは相手の奥底に行き着かないまま終わってしまうと焦る。質問を重ねていくと、ようやく、相手が慎重に話し始める。戸惑いながら話し始めたとしても、それは、それを話すのが初めてだからかもしれない。心の中で「よしっ」と思う。
政治家のスピーチは、大抵が政治家自身で用意した言葉ではない。もはや周知の事実だ。答弁に困ると、後ろから忍者のように官僚が出てきて、なるべく存在を隠しながら、ここですと指差したり、紙の束を急いでめくって、このあたりですとサポートしたりする様子を見る。その後でマイクの前に立ち、「えー、ただいま、ご指摘いただいた点でございますが……」と言い始める。さっき、ここを読んだらいいと指示された箇所を読み上げる。ファミリーレストランにいる、出来上がったものを厨房から運んでくるロボットと、役割はそう変わらない。そこに載っているハンバーグを作ったのがロボットではないように、その答弁を作ったのは政治家ではないのだ。
ずっとそうでしょ。日本だけじゃないでしょ。そんなツッコミが想定される。確かにその通り。でも、やっぱり、改めて考えてみると、だいぶ滑稽じゃないかと思う。「えっと、2019年のデータと比較しますと……」の途中で2019年の正確なデータを引っ張り出してもらうのはいい。でも、「ここを読んでください」「はい、読みます」って、あまりに滑稽。自民党の裏金問題で結果的に出席者全員が自己保身に走ったのが政治倫理審査会。不十分な答弁が続いたが、そもそもあの場に出てくるのを渋っていた事実を忘れてはいけない。自分の言葉で答えなければならない環境が生まれるのをとにかく怖がっていた。嘘の証言をすれば偽証罪に問われる証人喚問なんて、とてもじゃないが耐えられないのだろう。政倫審にさえ登場せず、ブログやSNSで形だけの謝罪文を載せる議員も続出した。
誰かに用意してもらった言葉ばかりが飛び交っている。自分の言葉ではないので、なにかあるとすぐにパニックになる。2021年8月6日、広島で行われた平和記念式典で、当時の菅義偉首相が「日本は非核三原則を堅持しつつ、核兵器のない、核軍縮の進め方を巡っては各国の立場に隔たりがあります」と意味の通らない文言を読んだ。本来の文章は、「日本は非核三原則を堅持しつつ、核兵器のない世界の実現に力を尽くします……」と続くのだが、A4用紙を蛇腹状に四つ折りしたものの一部が糊づけされてしまっており(糊は付着していなかったとの指摘もある)、読み飛ばしてしまったのだ。
政府は、めくれない状態になっていた、としたが、問題は、めくれたか、めくれなかったか、ではない。「そういうことじゃなく、読んでいておかしいと思わなかったのか?」と多くの人が突っ込んだ。菅首相は、自分が読んでいる内容が通っていないことにさえ気がついていなかったのである。もし、誰かが「日本は非核三原則を捨て、核兵器を持つ国へと移行していきます」と書かれた原稿にさしかえていたとしても、そのままスラスラ読んだのではないか。
先日、アメリカの連邦議会上下両院合同会議で、岸田文雄総理大臣がスピーチをした。全編英語でのスピーチは、かつて、レーガン米大統領のスピーチを書いた経験があるベテランのスピーチライターが作り上げたものとのこと。身振り手振りなどもレクチャーを受けたそう。冒頭で、岸田首相は「Thank you, I never get such nice applause from the Japanese Diet.(ありがとうございます。日本の国会では、これほど素敵な拍手を受けることはまずありません)」(英文・和文とも外務省のサイト参照)と述べた。
議会はそれなりに笑いに包まれたが、この演説がメディアを通じて流されるのは、米国よりも圧倒的に日本なのは明らか。日本で報じられるこのくだりが、裏金問題の雑な対応で批判を浴びる自分自身にどのような影響を及ぼすのか、本人もスピーチライターも周りの人間も考えなかったようなのだ。本人は、極めて上機嫌にスピーチを続けた。もし、「自分の言葉で語ってよ」という要望のハードルが高いなら、「誰かに用意してもらった言葉を、しっかりと自分なりに受け止めた上で話してよ」と思うし、「誰かに用意してもらった言葉をそれぞれ検証して、この言葉を言ったらどういう反応が起きるか想像してみてよ」とも思う。
「日本の国会では、これほど素敵な拍手を受けることはまずありません」で笑顔になった首相は、素敵な拍手を受けられない理由をまたひとつ作ってしまった。青臭い意見だと言われるかもしれないが、「自分の言葉で喋ってよ」という要請を怠ったらいけないと思う。
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