日本の「存在感の深刻な低下」が目立った日中首脳会談。中国メディアは恐ろしく冷めていた
ASEAN首脳会議がおこなわれたラオスで、本格的な外交デビューを飾った日本の石破茂首相。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授が、。
欧米の価値観外交に「脱貧困」の輸出で対抗する中国
ASEAN首脳会議が10月9日、ラオスの首都・ビエンチャンで開催され、日本の石破茂内閣総理大臣も出席した。
石破外交の本格的なデビューと位置付けられたラオスでは、中国の李強国務院総理との会談も行われた。
日中関係の今後が懸念されるなか、日本側には当初「立ち話ができれば上出来」などという観測もあったが、結果的には無難なスタートとなった。
目立ったのは中国側の配慮だ。
こう書くと日本ではすぐ、「米中対立で日本を味方に引き込みたい」とか、「経済が停滞しているから」などと解釈されがちだが、残念ながらそういう話ではない。
新政権誕生の「ご祝儀」という要素もあるが、目立ったのは、むしろ中国における日本の存在感の深刻な低下だ。
日中首脳会談を報じた中国メディアは驚くほど冷めていた。中国中央テレビは夕方のニュース『新聞聯播』でこれを報じたが、中盤でオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相との会談の後に短く報じただけであった。
日本では、「中国の軍事活動に深刻な懸念を伝えた」とか、「日本人男児刺殺の事実解明を求めた」など、中国に「モノ申す姿勢」が見出しに踊ったが、中国側ではそうした内容はほとんどみつからない。
日・ASEAN首脳会議では、「南シナ海での軍事化や威圧的な活動が継続・強化されていることに深刻に懸念」とか、「台湾海峡の平和と安定は地域・国際社会にとって重要」などと発言しているのだから、従来のように報道官が激しい反応を示しても不思議ではなかった。しかし中国の反応は概して穏やかであったといえるだろう。
公式な報道では、石破が「中国とともに未来に向かって上層部の交流を強化し、諸レベルの対話と意思疎通を緊密にして懸案の解決を協議し、互恵協力の推進を続けながら日中関係の長期的かつ安定した発展を促していくことを望む」と語ったことだけが伝えられている。
外交ではよくあることだが、お互いが都合の良い内容だけを自国内で報告するという流れだ。裏にあるのは関係を穏やかに保ちたいという意図だ。
ならば、やっぱり中国には日本に配慮しなければならない理由があるのでは、と勘繰りたくなるが、そうではないのだ。
以前にも少し書いたが、中国の対日外交はすでに長期戦と位置付けられ、短期的な成果はそもそも期待されていない。
日本には「アメリカに従属する外交しかない」と中国は見ていて、その上、国民のおよそ9割が中国に対して悪い感情を抱いているとなれば、無理のない判断だろう。
新政権誕生のご祝儀で多少空気が変わることも期待できるが、根本的な改善が見込める状況ではない。
つまり長期的な課題であり続ける日中関係は、大きな摩擦に発展しないためのカードレールがあれば十分なのだ。その結果、相手に反論したり説得を試みるのではなく、「スルー」するという選択となるのだ。
しかも中国には日本にこだわるより重要な外交のターゲットがある。
実は、中国側のそうした思惑を説明するのに今回のASEAN首脳会議は最適な場所だったのかもしれない。ASEANは日本よりはるかに重要だからだ。
また地域の問題や対立を軸に中国とASEANの関係を位置付けようとする日本のメディアに対して、中国は問題の解決よりも関係の深化に重点を置いているというズレが鮮明になったからだ。
例えば、南シナ海問題だ。
日本では例によって南シナ海問題が最大の課題だと、中国とフィリピンの対立が大きく扱われた。
だが、実際の焦点はそこではなかった。
ASEAN首脳会議が始まる直前、シンガポールのテレビCNAが大々的に報じていたように、ASEANの人々の最大の関心事は南シナ海ではなく、パレスチナ問題になっていて、また域内の問題ではミャンマー問題が中心になっていたのだ。
イスラム教徒を多く抱える国が多いASEANの反応としてパレスチナ問題に関心が集まるのは当然だが、いまやインドネシアやマレーシア、ブルネイは明らかにアメリカとの距離を取り、中国に接近する姿勢を鮮明にするほど、この問題が影を差している。
南シナ海問題で中国と激しく対立するのはフィリピンとベトナムだが、そのベトナムは同じ時期、ルオン・クオン(ベトナム共産党書記局常務)を北京に送り込み、習近平国家主席と会談を行うという両にらみ外交を展開。フィリピンとは異なる立場を取った。
対する中国は、対立よりも──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年10月13日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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