半永久的に持続する電源!?細菌が起こす発電イノベーション

現代の日本

資源・エネルギーの確保は国家にとって永遠の課題であるかのように思いがちですが、そうではないかもしれません。
各家庭や地域、或いは生産体(=各企業)で電気エネルギーを確保することが一番可能性があるように思います。
全ての課題解決を国家や政治に委ねるのではなく、各家庭・地域・生産体(=各企業)が主体的に自立する事で解決することが本来の社会の在り方かも知れません。

電気エネルギーについても大規模な発電所を作って延々と送電線で送るより、小規模発電で近隣で消費去る方が効率も良い。

このような可能性を示唆する方法はいくつかあります。

小水力発電 ~「和の国」のエネルギー
小水力発電 ~「和の国」のエネルギー 小水力発電こそ、日本列島の自然と調和したエネルギー。 ■1.ダムを増やさずに水力発電量を2,3倍にできる 「ダムを増やすことなく、水力発電量を二倍、三倍に増やすことが可能」「純国産でまったく温室効果ガスを発生しない電力が、毎年、金額に直して二兆円から三兆円分も増加する」と指摘するのは、建設省(現・国土交通省)で長らくダム・河川事業を担当してきた竹村公太郎氏。その経歴だけでなく、提案の内容も素人にも判りやすいだけに説得力がある。  氏が提案する、水力発電量を2、3倍にする方策は次の3つである。 1) 現在のダム湖の水位は半分ほどに抑えられている。これをフルに貯めれば、発電能力が上がる。 2) 現在のダムの嵩上げをする。100mのダムを10m嵩上げすると、発電能力はほぼ倍増する。 3) 砂防ダムなど、発電に利用されていない非常に多くのダムがある。これに小電力発電の施設を設置する。  以下、項目毎に見ていこう。 ■2.60年前に決められていた水位の制限  水力発電ではダム湖の水が多いほど、発電量が増える。水位が上がることで落下する水の勢いが増し、電力は大...

今回は「発電菌」に関する記事の紹介です。

半永久的に持続する電源!?細菌が起こす発電イノベーション | EMIRA
細菌の一種が発電と発酵を行う事実が判明し、新たなエネルギー資源や物質生産方法の獲得に期待が寄せられている。そこにはどんな可能性が秘められているのか。細菌の発電機構を解明した国立研究開発法人 物質・材料研究機構(以下、NIMS)エネルギー・環境材料研究拠点で主任研究員を務める岡本章玄氏に微生物研究の今を聞いた。

半永久的に持続する電源!?細菌が起こす発電イノベーション

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 主任研究員 岡本章玄

細菌の一種が発電と発酵を行う事実が判明し、新たなエネルギー資源や物質生産方法の獲得に期待が寄せられている。そこにはどんな可能性が秘められているのか。細菌の発電機構を解明した国立研究開発法人 物質・材料研究機構(以下、NIMS)エネルギー・環境材料研究拠点で主任研究員を務める岡本章玄氏に微生物研究の今を聞いた。

呼吸、発酵、発電する細菌の知られざる生態

「土の中や海の底、私たちの体内など、発電菌(発電する細菌)は地球上のいたるところにすんでいます。そのため、細菌による発電を利用すれば、バッテリーのない環境の中での半永久的なエネルギー源として活用できると注目されています」

そう語るのは、発電する細菌の一種であるシュワネラ菌の発電機構を、世界で初めて解明した岡本章玄(あきひろ)氏だ。

物質や材料の科学的な基礎研究などを行うNIMSのエネルギー・環境材料研究拠点に所属する岡本章玄氏。原子や分子、微生物といったミクロの世界を研究対象とするナノ界面エネルギー変換グループの主任研究員として活躍している

「一般的に細菌は、呼吸や発酵という代謝反応によって、有機物を分解することで生きていくためのエネルギーを得ています。私たち人類は、そうした細菌の能力を大昔からうまく活用して暮らしてきました」

酒や味噌、ヨーグルトなど発酵食品をはじめ、抗生物質やワクチンなどの薬剤、バイオエタノールといった産業資源と、私たちの生活には細菌の力で生み出されたものであふれている。細菌による発電も、その恩恵の一つだと岡本氏は言う。

「人間は食物を分解してエネルギーを得る際に、呼吸で得た酸素に電子を渡しています。細菌も同じように、有機物を分解してエネルギーを得る際に、電子を体内の物質に渡すことで呼吸代謝を行っているのですが、発電菌の場合は電子を体外の金属へ渡す習性を持っているのです」

発電菌の存在が初めて報告されたのは、今から30年前の1988年。アメリカ人環境微生物学者のケン・ニールソン氏により、シュワネラ菌が電子を金属に渡すことが発見され、この分野の研究が始まった。微生物学という学問が発達するはるか昔から、人類が細菌の代謝反応を活用してきた歴史を考えると、発電菌の発見はついこの前の出来事とも言える。

しかし、細菌が発電するという事実は分かったものの、それ以降、それが本当に細菌が分子ではなく電子を操ることによるものなのか、詳細は不明だったと岡本氏は続ける。

「2000年に入ってから、他の研究者によって、電子を細胞外へ排出するために電気導線のように働く外膜マルチヘム酵素や、生物体に由来する電子キャリアーであるフラビン分子が発見され、徐々にシュワネラ菌の発電メカニズムが分かってきました。しかし、電子移動ではなく、フラビン分子が電子を運ぶことで発電しているということが当時の常識になっていたのです」

東京大学大学院生だった当時、岡本氏はそのような通説に疑問を持ち、シュワネラ菌の発電機構解明に向け、従来より精密に電気化学実験が行えるシステムを作り上げた。

「それまでは、細菌が張り付く電極の表面積が大きければ大きいほど発電効率も上がることから、フェルトのような表面が凸凹した電極を使用していました。しかし、それだと菌の張り付き方が乱雑になり、正確に電子の移動を測定することが難しい。そこで平滑性が高い単層バイオフォルム電極を開発しました」

結果は功を奏す。表面が平らで滑らかな電極を使うことで、シュワネラ菌を均一に張り付かせることが可能になった。被験体の細胞外電子移動、つまり発電の仕組みを高感度に観察できるようになり、フラビン分子が電子導線として働く外膜マルチヘム酵素の一部となることで、実際に電子を流しているという事実が判然としたのだ。

発電菌の外膜を通して、電子が電極へと移動していることを表した解説図。外膜マルチヘム酵素がフラビン分子と結合して電子(Electron)の移動を助けている

提供:岡本章玄

未知の世界ゆえに新発見、続々 

長らく不明だった細菌の発電機構が解明に至ったが、それはこの細菌の生態を理解する上では、序章にすぎなかった。

「仕組みが分かっても、なぜ外膜マルチヘム酵素とフラビン分子が一緒に作用すると電子移動の効率が高まるのかは分かりませんでした。ですが、さらに研究を進める中で、電気が流れる仕組みとして、プラスの電荷とマイナスの電荷の数が等しくなければならないという法則に思い当たったんです」

プラスの電荷である陽子(以下、プロトン)を注視すると、フラビン分子の有無によって、プロトンの移動速度が加速されていることが判明。だが、一つの事実が明らかになると、次の疑問が生じる。プロトンが電子と共に排出されると、細菌が呼吸する際に必要不可欠なATP(アデノシン三リン酸)合成酵素が働かなくなり、その状態であるならば細菌自体が生存できないはずなのだ。

「矛盾に行き当たってしまったんです。そんなはずはないと次は、この呼吸的ATP合成酵素を欠損させたシュワネラ菌と、一般的には働いていないと考えられていた発酵時に働くATP合成酵素を欠損させた個体を培養して比較しました。すると驚いたことに、予想と反して前者は問題なく増殖と発電を行い、後者は数や発電量が著しく減少したのです」

この細菌は呼吸に必要とされていた酵素の働きに関することなく生きられるという事実にたどり着く。さらに、呼吸の代わりに、発酵することでATPを合成して生存していることが判明したのだという。

発電時に発酵代謝するモデル。外膜ではプロトン(H+)が細胞外へと移動し、H+を必要とする内膜ではATP合成酵素が働かず、細胞内部(シトプラズム)で発酵的ATP合成が進行していることを表す

提供:岡本章玄

この研究成果は2017年6月に発表され、シュワネラ菌が発電しながら発酵も行うという全く新しいバイオ物質生産への展開を示した。また、フラビン分子によって細胞外への電子移動のスピードを速めると、発酵の効率が上がることも確認されている。

「微生物を活用した発電量の向上はもちろん、排水を発電菌に処理してもらいながら発電する創電型排水技術の高効率化、さらには細菌の生態やエネルギー獲得方法に新しい視点を与えたことにも大きな意味があります」

一般社会に与える影響でいえば、すでに薬剤や産業資源などさまざまな場面で利用されている大腸菌などに、シュワネラ菌のような発電機能を付与することで、より高効率な発電と物質生産が期待できるという。

シュワネラ菌が電子をわたすマンガン(黒い粒)の成分が懸濁(けんだく)した水溶液。マンガンが豊富なニューヨークのオナイダ湖でケン・ニールソン氏がこの湖水を調査したことが、発電菌を発見するきっかけとなった

工業、医療が変わる?細胞外電子移動がカギに

岡本氏によれば、アメリカやイスラエルでは、すでに発電菌による工場排水発電モデルを実用化している企業があり、日本においても事業化を目指している企業があるという。

「実際に、排水処理発電の模型を使って、興味があるという企業に説明することもあります。また実用化という面では、豆電球が付いた電極を土に挿すだけで勝手に発電する微生物発電キットがすでに販売されていますし、この技術を応用すれば、センサーを土中や川底、海底に埋め込み、地震予知や環境保全などにも活用できると考えています」

創電型排水処理の模型。側面の穴から排水を流し込むと、発電菌を繁殖させた電極を通して発電と排水処理が行われる仕組み

市販されている「Mud Watt MFC Kit(微生物燃料電池実験キット)」(左奥)。専用のスマートフォンアプリを起動させた画面に、電球部分をかざすと発電量が計測できる

しかしその発電量は、シュワネラ菌の入った培養液100mlで0.3Wとボタン電池程度。課題は残る。そのため岡本氏は、充電池や太陽電池などと競合するのではなく、スローな電源としての実用化を考えている。

「太陽電池は天気が悪ければ発電できませんが、発電菌は菌さえいれば半永久的に発電ができてしまいます。ちりも積もれば山となると言うように、あらかじめ蓄電しておけば、災害時に操業停止した工場などを稼働するための電力を賄うことができると思います」

ここまで細菌の生産能力について挙げてきたが、岡本氏の研究は人間の害悪となる細菌に対する防波堤の基盤にもなりうる。

「その一つは、細菌による腐食です。例えば、たびたび起こる鉄パイプラインの腐食による重油流出事故。重大な環境汚染となり、アメリカでは年間300~500億ドルの経済的損害を与えるほど重要な問題として扱われています。長年、硫酸還元菌という細菌が原因であるのではないかと言われてきましたが、つい最近得た実験結果では、この細菌が鉄から電子を引き抜くことで腐食が促進されていることが分かったのです」

細菌起因の腐食は、細胞外電子移動の仕組みを応用すれば、作用を制御できる可能性があるという。

これまで、微生物自体が電子を出すことはないという反論が根強かったが、それを覆すことができてうれしいと話す岡本氏

「他にも、感染症など細菌が引き起こす病気についても同じことが言えます。もし体内で悪さをする細菌が、電子移動が原因で増殖しているとのだとすれば、症状の進行を食い止めることができるかもしれません」

ただし、これまでの発電や発酵にかかわる研究成果は、発電菌の一種であるシュワネラ菌のみに言えることであり、他の発電菌でも証明されたわけではない。岡本氏によれば、発電菌と呼ばれる細菌だけでも、百種類程度の候補が提案されている状況だそう。それでも、一つのモデル細菌の研究が、分野を問わずいくつもの局面で活用できると自信を見せる。

「それだけにまだまだ未知だらけで、無限の可能性を秘めている分野と言えますよね。エネルギーを追求していくことは生命をひもとくこと。つまりその先に新しい発見が待っているということです。それを考えるだけで、何が発見できるのかワクワクしてしまいます」

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