危ないぞ! ロシアの核攻撃いよいよ近し…火に油を注ぐウクライナへの長距離ミサイル供与

現代のロシア
危ないぞ! ロシアの核攻撃いよいよ近し…火に油を注ぐウクライナへの長距離ミサイル供与(塩原 俊彦) @gendai_biz
欧米諸国がすでにウクライナに供与済みのミサイルを使ったロシア領内深部への攻撃に対する制限の解除がいま、話題になっている。問題となっているのは、ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)、イギリスの空中発射巡航ミサイル(ストームシャドウ)、フランスの空中発射型ステルス長距離兵器(スカルプ)といったミサイルである。ATACMS(「アタック・エムズ」と発音)は、アメリカ製の長距離ミサイルで、375ポンド(約170キログラム)の爆薬が充填されており、モデルによっては190マイル(約306キロメートル)先の標的まで攻撃することができる。

危ないぞ! ロシアの核攻撃いよいよ近し…火に油を注ぐウクライナへの長距離ミサイル供与

欧米諸国がすでにウクライナに供与済みのミサイルを使ったロシア領内深部への攻撃に対する制限の解除がいま、話題になっている。

問題となっているのは、ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)、イギリスの空中発射巡航ミサイル(ストームシャドウ)、フランスの空中発射型ステルス長距離兵器(スカルプ)といったミサイルである。

ATACMS(「アタック・エムズ」と発音)は、アメリカ製の長距離ミサイルで、375ポンド(約170キログラム)の爆薬が充填されており、モデルによっては190マイル(約306キロメートル)先の標的まで攻撃することができる。

4月24日付の「NYT」(ニューヨークタイムズ)の記事によれば、大きな政策転換として、ジョー・バイデン大統領は2月中旬に、100発以上の長距離ミサイルとクラスター弾を送ることを密かに承認し、その一部が4月にウクライナに到着した。その後、すぐにクリミアの飛行場とウクライナ南東部のロシア軍を攻撃したという。

陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)Credit…韓国国防省、via Agence France-Presse – Getty Images
(出所)https://www.nytimes.com/2024/04/24/us/us-ukraine-russia-missiles.html

ストームシャドウとスカルプ

イギリスとフランスはすでにウクライナに、空から発射する巡航ミサイルを送り込み、これまでのところ、クリミアと黒海のロシアの標的を攻撃している。これらのミサイルの射程は約155マイル(約250キロメートル)で、ウクライナの老朽化したソ連時代とロシア設計の戦闘機から発射されている。イギリスではストームシャドウ、フランスではスカルプと呼ばれている(事実上同じモデルである)。

Photo by gettyimages

そのほかに、射程距離約230マイル(約370キロメートル)の航空発射巡航ミサイル、JASSM(Joint Air-to-Surface Standoff Missiles)のウクライナへの供与が検討されている。この兵器は1000ポンド(約454キログラム)の弾頭を搭載し、F-16から発射できる。なお、ウクライナはこの夏、約12機のアメリカ製F-16を受領したと見られているが、当局者は正確な数を明らかにしていない。

もうロシアの航空機は避難済み

こうした兵器によるロシア領内の深部攻撃が可能になれば、ウクライナを攻撃する爆撃機やミサイルに打撃を与え、それがウクライナの防衛に役立つかもしれない。下図に示したように、ストームシャドウやATACMSによるロシア領内への攻撃が認められれば、そのターゲットは多く存在する。

ウクライナの長距離射程ミサイル攻撃が可能なロシア領内のターゲット
(出所)https://kyivindependent.com/the-russian-targets-that-could-be-on-ukraines-long-range-missile-strike-list/

戦争研究所(ISW)の報告書によれば、ISWは以前、5月に実施された地形統制評価に基づき、17の空軍基地を含む250の目標がウクライナのATACMSの射程内にあると評価していた。だが、8月の報告書では、「ATACMSの射程圏内にあるロシアの軍事施設245カ所のうち、少なくとも209カ所(85%以上)は空軍基地ではない」としている。

空軍基地を標的にするにしても、すでにロシアの軍用機の約90%は長距離射程ミサイルの手の届かない基地に移したとみられている。ただ、この結果、ロシア軍機は遠く離れた場所から行動しなければならず、1日に飛行できる出撃回数が減ることを意味する。飛行場以外にも、掩蔽壕、弾薬庫といった施設も攻撃できる。

深部攻撃は効果なし

しかし、こうした深部攻撃の効果については否定的な意見が多い。コロンビア大学のスティーブン・ビドル教授は『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿で、「ゲームを変えるほどの効果を得るには、ウクライナはこれらの攻撃を、これまでこの戦争で自国の軍が習得できなかった規模の、綿密に調整された地上作戦と組み合わせる必要がある」としたうえで、「そうでなければ、ウクライナが追加のディープストライク能力から引き出せる利益は、おそらく戦況を覆すには十分ではないだろう」と指摘している。

Photo by gettyimages

もちろん、ウクライナ軍の一時的な士気高揚をもたらす可能性は高い。しかし、その高揚は長くつづきそうもない。すでに、9月8日付の「The Economist」は、「ウクライナの前線が弱体化するドンバスの危険ーロシア軍戦闘員が防衛隊を包囲しようとしている」という記事を配信している。つまり、ドンバスの苦戦が明るみに出れば、深部攻撃の最初だけの成果などすぐに忘れ去れてしまうだろう。

問題はロシアの対応

このウクライナによる長距離ミサイル使用問題について、ウラジーミル・プーチン大統領は9月12日、米国とその西側同盟国に対し、ウクライナがロシアの奥深くまで武器を撃ち込むことを許せば、自国をNATO(北大西洋条約機構)と「戦争状態」に追い込むことになると警告したのである。その内容がセンセーショナルであったため、「NYT」はその発言の全文を英語に翻訳して公表したほどだ。

やや長くなるが、その大部分を翻訳してみよう。

「キエフ政権はすでに無人航空機やその他の手段を使って攻撃を行っている。しかし、欧米製の長距離精密兵器の使用となると、話はまったく違ってくる。

このことはすでに述べたし、専門家であれば誰でも、わが国でも西側諸国でも認めていることだが、ウクライナ軍には西側諸国製の最新の長距離精密システムで攻撃する能力はない。そんなことはできない。これは人工衛星からの情報によってのみ可能なことであり、ウクライナは人工衛星を持っていない。これが第一のポイントだ。

Photo by gettyimages

二つ目は、非常に重要で、おそらくカギを握っていることだが、NATOの軍人のみがこれらのミサイルシステムの飛行任務に就くことができるということだ。ウクライナの軍人はこれができない。

つまりこれは、ウクライナ政権がこれらの武器でロシアを攻撃することを認めるかどうかという話ではない。これは、NATO諸国が軍事衝突に直接関与するかどうかを決めることなのだ。

この決定が下されれば、NATO諸国、米国、欧州諸国がウクライナ戦争に直接参加することにほかならない。これは彼らの直接参加であり、もちろん紛争の本質と性質を大きく変えるものだ。

これは、NATO諸国、米国、欧州諸国がロシアと戦争状態にあることを意味する。もしそうであれば、この紛争の本質が変わることを念頭に置きながら、われわれは、われわれに突きつけられる脅威に基づいて適切な決断を下すことになる」

懸念される強硬派の発言

このプーチンの発言は、まだ生易しいものかもしれない。強硬派の代表格、政治学者セルゲイ・カラガノフのインタビューが9月12日付のロシアの有力紙「コメルサント」の1面に掲載されている。つぎの発言は勇ましい。

「我が国の領土に対するいかなる大規模な攻撃に対しても、核攻撃で対応する権利を有することを宣言する時である。これは、我が国の領土を占領された場合にも当てはまる。同時に(ドクトリンに)『核のエスカレーション』という概念を導入し、そのような措置の前に、(核兵器を使用する)準備が整っていることを条件付きまたは現実の敵に確信させるような措置を講じる必要がある」

「そして今、米国が率いる核武装したNATOは、ウクライナの大砲の餌を使って、我々に対して全面戦争を仕掛けている。間もなく、この狂気を止めなければ、彼らは他の国々にも餌(えさ)を与えはじめるだろう」

Photo by gettyimages

ただし、ロシアの公式見解は、強硬派のカラガノフの見解とは大きく異なっている。5月16日付でプーチンと中国の習近平国家主席が発表した共同声明には、「両締約国は、2022年1月3日の『核戦争の予防と軍拡競争の回避に関する核保有5カ国首脳の共同声明』へのコミットメントを再確認し、とりわけ、核戦争に勝者は存在せず、核戦争は決して行われるべきではないという前提を再確認し、この文書のすべての締約国に対し、その規定に実際に従うよう改めて要請する」と書かれている。

中国は同年7月、ロシアと他の核保有国に対し、核兵器の先制使用の放棄を再び提案したし、9月には、中国外務省は、「核兵器は使用されるべきではなく、核戦争は行われるべきではない」とのべている。つまり、対中関係を重視すると、そう簡単に核兵器使用はできない。だが、ロシア国内の強硬派は怒り狂っている。

紹介したインタビューのなかで、カラガノフは「核ドクトリンを強化することが必要なだけでなく、ロシア指導部が(核兵器を)使用する用意があると明確に表明することが重要だ」とのべた後、「だれに使うのか?」と尋ねられ、「NATOのウクライナ侵略を支持する国々だ」と明言している。さらに、つぎのように話した。

「エスカレーションの理論によれば、核攻撃までにはあと10~15段階ほど進む必要があり、今のところ5段階しか進んでいない。しかし次は、キエフ政権への供給で重要な役割を果たしているNATO諸国の施設を攻撃する必要があるのは明らかだ。それでも阻止できなければ、次に進む。」

おそらくロシアへの深部攻撃はこうした強硬派を勢いづけ、プーチンが核兵器を使用する時期を近づけることになるだろう。

スポンサーリンク

コメント

タイトルとURLをコピーしました