「令和の米騒動」は本当に起きているのか?「お米が手に入らない」に実感がわかない納得の理由

現代の日本

 実は、今回の米騒動についてはこんな苦言も出ています。前出の山下一仁氏の記事です。

「4月某日、あるテレビ局から私に、『食卓から牛乳がなくなる』という番組を作りたいとして、取材協力の依頼があった。思い付きで結論ありきの番組製作をしようとしていることは明らかだった。これは、このテレビ局ばかりではない。新聞各紙も記者の数が減っているため、記者は2年ほどの短い期間で各省庁をくるくる回る。農林水産省だけで100以上も課がある。2年くらいで、農林水産業の現状や問題点、政策の背景などを勉強できるはずがない。しかも、電話取材に代わり、『コメントだけください』という記者も出てくるようになった」

 おそらく、米の販売方法にも詳しくないであろう記者による番組作り――。「令和の米騒動」は、どうも「メディアが作った米騒動」と言えそうな気がしてきました。

「令和の米騒動」は本当に起きているのか?「お米が手に入らない」に実感がわかない納得の理由
「お米が手に入らない」と悲鳴を上げる人々がいる一方で、そんな状況に実感を持てない人も多い。そして政府は「米は足りている」との一点張りだ。「令和の米騒動」と言われる現象は、一体どこまでが本当なのか。その背景には、米市場の根深い課題が横たわっている。

「令和の米騒動」は本当に起きているのか?「お米が手に入らない」に実感がわかない納得の理由

「お米が手に入らない」と悲鳴を上げる人々がいる一方で、そんな状況に実感を持てない人も多い。なぜなのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

実際はから騒ぎなのに米を買えない人が続出する「なぜ」

 四国で造り酒屋を営む親戚から「お米が売ってないと大阪の人が言っているけど、わが家は商売がら十分あるから送ろうか」という連絡がきました。確かに、テレビでは「米が店にない」というニュースが頻繁に流れています。

 ただ、正直、実感はありません。わが家の周囲は問題なし。東京のスーパーではテレビの取材に対して、時折お客が「お米が手に入らない」としゃべっていますが、私が行くスーパーではお米はちゃんと売っています。沖縄や鹿児島はお中元に米を送る習慣があるらしく、「お土産に米を買って郵送する観光客が多い」というニュースも見ました。

 政府は「統計的には米は足りている。これから新米が出る時期だから、備蓄米は取り崩さない」の一点張り。一体、米は足りているのでしょうか、それとも足りていないのでしょうか。調べてみると、日本の米政策の曲がり角から農家や米の卸売業者の課題まで、実は複雑な問題が絡み合っていることがわかってきました。

 まず「令和の米不足」はから騒ぎだと言えます。理由は次の通りです。

(1) 今年(2023年に収穫されて私たちが食べる米)の作況指数は101で平年並み、コメが本当に足りなくなることはありません。

(2) 「外国人のインバウンド消費で米がなくなった」という説もありますが、月に大体300万人の外国人観光客が1週間滞在し、日本人並みに朝昼晩と米を食べると仮定しても、消費量は全体の0.5%にしかなりません。平年並みの米がある以上、十二分に市場の需要は賄えるはずなのです。

 しかし、「米が買えない」と困っている人がいるのは事実ですから、これは米の流通市場の問題としか考えられません。第一に、政府が大々的に南海トラフ地震の危険性を叫び、気象庁は巨大台風の襲来を宣伝したため、家庭内備蓄のために米を慌てて買いに走った人々がいたことが原因と考えられます。

 確かに、米だけでなくトイレットペーパーやレトルト食品も売れていました。ましてやこの暑さ。「異常気象で米の出来が悪い」というニュース映像ばかり見ていれば、消費者として買い溜めしておきたいという心理はわかります。「米が入荷しても早朝になくなるので、働く母親は買う時間がない。米の代わりにうどんを食べている」という主婦もテレビに登場していました。

 しかし私の感覚では、米不足を訴える地域にかなり差がありました。冒頭の四国の親戚も言っていましたが、「米不足だったのはおおむね関西の人だった」とのこと。テレビのコメントでも大抵は関西の主婦などの様子を報じていますが、確かに買い溜めに走りがちな県民性と言えるでしょう。

 また、商売人の多い地域なので、店頭に出し惜しみをして値上げをする「関西商法」が行われていたことも考えられます(私も関西人なのでよくわかります)。在庫を全部放出して店頭になくなる危険は冒さず、少しずつ店頭に……というのが関西の流通事情だと推測できます(3倍に値上げしていたという店もあったそうです)。今回、これは首都圏にも見られた傾向です。

流通ルートが全て滞っているのか、それともわざと止められているのか

 米の流通は、他の食品に比べて少し特殊です。まず生産者からJA(農協)へ。そこから卸売業者にわたり、スーパーや小売店に並べられます。統計的には米不足ではないはずなので、こうした流通ルートのいずれか、もしくは全てが滞っているか、わざと流通が止められているか、どうもそれが原因だったようです。

 というのは、多くの人々の記憶に残る1993年の「平成の米騒動」のときは、作況指数が74%と令和とは桁違いに不作で、本当に深刻な品不足が起きたからです。今回は全体的な数字から見ても、どこにも品薄になる理由がないのです。

 それに、本気で品薄を解消する気があるなら、スーパーなどの販売期限を変えればいいはずです。フードロスを調査する井出留美さんのレポートによると「おおむね精米から1カ月~40、50日で米が商品棚から撤去されている」といいます。賞味期限表示のある米の消費期限は6カ月~1年程度なのに、この販売期限は短か過ぎます。「販売期限を過ぎると、捨てるか、従業員に安く売るか、寄付するか、コメ納入業者に返品して外食産業へ回している」そうなのです。

 この基準を変えれば、本当に米が食べられなくて困っている人の品薄はかなり防げたはず。そういう手段をとったスーパーの話もなかったので、つまりは品薄状態を本気で解決しようという気持ちが流通・小売り側になかったのだと思います。

 ただし、今回はこの程度の騒動で済みましたが、これからは今年のような異常気象が常態化し、常に米の成長が阻害され、水田が水害にやられる可能性があります。この対策こそ急ぐべきでしょう。「国はそろそろ減反政策をやめて、米の増産をはかるべきではないか」と緊急提言するのは、制度・規制改革学会の農業林業分科会会長を勤める山下一仁・キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹を中心とする識者たちです。

 減反政策は2018年、当時の安倍政権によって廃止され、農家は地域の需要と供給を見据えながら、自らの経営判断で米の生産と販売を行うことになりました。しかし山下氏は、メディアで「廃止したのはコメの生産数量目標だけで、生産を減らせば補助金を出すという減反政策の本丸は残ったままである」と主張しています。つまり、実質的には減反政策はいまだに続いているというわけです。

 日本人が米を食べなくなったことを理由に、国は米の需要が毎年10%ずつ減るという前提で減反してきました。足もとでも猛暑とは関係なく、米は昨年より10万トン生産量が減らされ、平均米価は2割も上昇しました。来年は3割の上昇になると予想され、取引手数料に依存する農協は大きな利益が出ます。あくまで例え話ですが、品薄状態になって値上げしやすい方が農協にとっては都合がいいのです。

実質的な減反政策を続ける国が気づくべき米市場の構造変化

 しかし、実質的な減反を続ける日本政府は、これまでの見方の前提が変わってきていることに気付くべきではないでしょうか。

 今や外国人も米を食べる時代になりました。世界の米の生産量は年間約4億8000万トン(精米ベース)。そのうち日本の生産量は、年間781万6000トンで世界第10位。「日本の米は美味しい」と輸出量も増加し始め、2024年1~7月のコメの輸出量は前年同期比23%増えて過去最高となっています。

 その一方、安倍政権で減反政策が廃止された後も、国が減反を促すために農家に出している補助金は3500億円で、これは税金が原資となっています。米の生産量を制限し、値段を押し上げる現在の施策は正しいのでしょうか。

 さらに国は、米価維持のため20万トンの米を市場から買い上げて備蓄しており、その税金負担は500億円。また、WTOウルグアイ・ラウンドで決められたミニマム・アクセス米76.7万トンを、500億円も払って飼料などに回しています。つまり国民は、合計4500億円もの税金を国に使われ、私生活では高価なコメを買わされているのです。

 しかも、実質的な減反は日本の水田面積の4割に及んでいます。仮に日本の水田面積(休耕田を含む)にカリフォルニア米並みの収穫量の米を作付けすると、長期的には1700万~1900万トンの米が生産できます。ところが、農水省と農協の目標は国内消費を基準としており、650万トン程度です。1960年以降、世界の米の生産量は3.5倍も増えているのに、日本の場合は補助金を出してむしろ4割減らしているのですから、産業構造全体を見直して輸出にハンドルを切り換えてもいいのではないでしょうか。

「減反は農家の保護と食糧自給のため」という建前ですが、実際問題、日本の農家のかなりの部分は兼業農家です。販売農家数は115.9万戸。そのうち専業農家が27.3万戸なのに対し、兼業農家 は88.5万戸と約76%を占めています。

「兼業農家」のうち、農業所得を主とする農家を「第1種兼業農家」、他の仕事の所得のほうが多い農家を「第2種兼業農家」と言いますが、第1種兼業農家は 17.7%、 第2種兼業農家は68.0%なので、本当に保護すべき純粋な農家はわずかなのです。減反で補助金をもらい、本業の収入も入るため、農業収入を大きく上回る貯蓄が可能な兼業農家が、JAバンクに多額の預金をしているのが現状です。農家が農地を宅地に転売したときも、その利益は農協に貯蓄されるので、JAは今や100兆円のメガバンクになっています。

 こうして見てくると、「令和の米騒動」は「実質的な減反を今度こそやめるべき」という一大世論をつくるきっかけになりそうです。減反をやめれば、米不足は解消され、食糧安全にも寄与し、4500億円の税金負担も解消されて、米が安くなる。いいことずくめではないでしょうか。

 残る問題は、この異常気象対策です。第一の対策は品種改良で、収穫量の多い稲の開発、田植えのいらない直播き稲の開発、そして熱に強い熱帯型の稲を日本向けに改良することなどが考えられます。実際に、今でも関西の高熱地域に対応する「にじのきらめき」を増やすという対策も考えられています。 

 かつては減反政策の中で研究費もほとんど配分されなかったのですが、これからは重要な国策として取り組むべきです。中でも私が気になったのが、再生二期作。たとえば豆苗を買い、根と下半分を残して切り落とし、料理してからもう一度根の部分を水につけると、もう1回食べられる状態に成長します。これと同じことができる稲の品種があるのです。特に九州など気温が高いところでは、この方法は簡単に収穫量を増やす方法として有力とのことです。

 日本食の人気は、寿司やラーメンだけでなく、おにぎりが世界で流行するまでになりました。米が日本の主要輸出品になる日も近いのではないでしょうか。

メディアが作った米騒動 米も酒も若者に任せるべき

 そういえば、先日広島の酒造組合の会合に講演に行きました。若い人たちが大勢集まりましたが、パ.ーティで話したところによると、彼らは皆海外帰り。「マスコミはニューヨークとかロスしか行かないけれど、テキサスのようなバーボンの本場に広島の地酒屋が訪問しても大歓迎され、想像以上に売れています」と元気一杯です。

 四国の親戚も造り酒屋の経営で苦労していましたが、今やシンガポールの居酒屋でボトル2万円で売られているとか。もう、米も酒も若い人に任せてはどうでしょうか。

 実は、今回の米騒動についてはこんな苦言も出ています。前出の山下一仁氏の記事です。

「4月某日、あるテレビ局から私に、『食卓から牛乳がなくなる』という番組を作りたいとして、取材協力の依頼があった。思い付きで結論ありきの番組製作をしようとしていることは明らかだった。これは、このテレビ局ばかりではない。新聞各紙も記者の数が減っているため、記者は2年ほどの短い期間で各省庁をくるくる回る。農林水産省だけで100以上も課がある。2年くらいで、農林水産業の現状や問題点、政策の背景などを勉強できるはずがない。しかも、電話取材に代わり、『コメントだけください』という記者も出てくるようになった」

 おそらく、米の販売方法にも詳しくないであろう記者による番組作り――。「令和の米騒動」は、どうも「メディアが作った米騒動」と言えそうな気がしてきました。

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