世界恐慌は始まっている?レイ・ダリオとクルーグマンが警告する米国衰退と新たな世界秩序=高島康司

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世界恐慌は始まっている?レイ・ダリオとクルーグマンが警告する米国衰退と新たな世界秩序=高島康司 | マネーボイス
トランプ政権の復活により、世界経済が新たなリスクに直面している。とりわけ、各国に対して高率の関税を課す「相互関税」政策が、米中の経済関係を一段と悪化させ、グローバルサプライチェーンの混乱、インフレの加速、米国債の信頼低下など、2008年のリーマンショックを想起させる連鎖的な危機の兆候が見え始めている。ノーベル

世界恐慌は始まっている?レイ・ダリオとクルーグマンが警告する米国衰退と新たな世界秩序=高島康司

これから世界恐慌のようなことは起こるのか?

トランプ政権が世界に課した相互関税を巡る動きが激しい。日本を始め各国はトランプ政権との個別交渉に乗り出しており、経済に甚大な影響を与えることになる高関税の税率の引き下げを目指している。4月16日にはイギリスとの合意が成立する可能性が報じられ、一律10%の関税率にする方向で動いている。相互関税の適用はすでに90日間の猶予が決定されているが、各国の交渉によっては一層低い税率が適用され、ちょっとした安堵感がこれから広がるにかもしれない。

しかし、状況はそんなに単純ではない。株価の不安定、市場の大きな変動、そしてさらに憂慮すべきことに、米国債の利回りが上昇しているにもかかわらずドル安が進行している。先週、投資家は米国債から急いで撤退し、10年債利回りは過去数十年で最も急上昇した。これは、トランプの貿易政策の転換により、一部の投資家が世界の主要市場としての米国の長年の役割に疑問を投げかけるきっかけとなった。

2024年末時点で外国人が8兆5,000億ドルの米国債を保有しており、これは公的債務総額の4分の1近くに相当する。米国債をリスク資産として見た資本が、米国から流出し始めているかのようだ。

ターゲットは中国。しかし、アメリカの影響の方が大きい…

しかし、やはりトランプの相互関税の影響がもっとも懸念されるのは、中国である。中国はすぐさま相互関税に報復し、いまではアメリカ145%、中国は125%という、それこそ両国の貿易が全面的に禁止されるくらいのレベルの関税を課している。

他の国々とは対照的に、中国はトランプ政権との交渉には応じていない。反対に、ボーイング社の製造した旅客機の中国への乗り入れを禁止したように、一層態度を硬化させている。このままの状況が続くと、中国とアメリカは本格的にディカップリングする方向に向かうだろう。もちろん、これがもたらす世界経済への影響はあまりにも大きい。中国は一歩も譲る気配を見せていない。

このように、中国が強気の姿勢である理由の1つは、高関税は中国よりも米経済に一層大きな影響を与える可能性が高いからだ。

まず、関税の影響は特にアメリカの消費者向けの家具、衣類、玩具、家電製品に与える。145%の関税の適用で、これらの製品の米国内の価格は急騰し、インフレ率を押し上げることは避けられない。これはアメリカの消費者、特にブルーカラー層の不満をかき立てる可能性がある。

これは、米国がサプライチェーンを通じて中国製品への依存を容易に解消できないからだ。米国による中国からの直接輸入は減少しているものの、現在第三国から輸入されている多くの製品は依然として中国製の部品や原材料に依存している。2022年までに、米国は532の主要製品分野で中国に依存するようになった。これは2000年のほぼ4倍に相当し、一方で中国の米国製品への依存は同時期に半減した。

さらに、軍事産業とハイテク産業にとって極めて重要なレアアースやレアメタルの世界的なサプライチェーンを中国が支配しており、一部の推計によると、米国のレアアースとレアメタルの輸入量の約72%を供給している。

中国は3月4日、米国の企業15社を輸出管理リストに加え、 4月9日にはさらに12社を追加した。その多くは、自社製品にレアアースやレアメタルを依存している米国の防衛関連請負業者やハイテク企業だった。

中国はまた、中国の需要に大きく依存し、共和党支持の州に集中している鶏肉や大豆など、米国の主要農産物輸出部門をターゲットにする能力を保持している。中国は米国の大豆輸出の約半分、米国の鶏肉輸出の約10%を占めている。3月4日、中国政府は米国の主要大豆輸出国3社の輸入承認を取り消した。

また、テクノロジー分野では、「アップル」や「テスラ」など多くの米国企業が依然として中国の製造業と深く結びついている。関税はこれらの企業の利益率を大幅に低下させる恐れがあり、中国政府はこれをトランプ政権に対する有利な材料として利用できると見ている。すでに中国政府は、中国で事業を展開する米国企業への規制圧力を通じて反撃する計画を立てていると報じられている。

中国にとっては逆にチャンスか?

一方、相互関税が中国にもたらす影響は限定的なものに止まると見られている。それというのも、中国の輸出主導型経済における米国市場の重要性が大幅に低下しているからだ。

2018年、トランプ政権が中国に対して高関税を適用し、第一次貿易戦争が始まった当時、米国向け輸出は中国の総輸出の19.8%を占めていた。ところが2023年には、この数字は12.8%に低下している。むしろ今回の関税導入は、中国が「内需拡大」戦略をさらに加速させ、消費者の購買力を引き出し、国内経済を強化するきっかけとなる可能性さえある。

むろん、中国は不動産市場の低迷、資本逃避、そして西側諸国との「デカップリング」により、中国経済は持続的な減速期に陥っている。しかし、この長期にわたる景気後退は、中国経済のショック耐性を高めた可能性があるようだ。企業や政策立案者は、トランプ大統領の関税の影響が出る前から、既存の厳しい経済状況を考慮に入れるようになった。

そして、トランプの対中関税政策は、北京に便利な外部のスケープゴートを与え、中国国内の世論を喚起し、経済減速の責任を米国の侵略に転嫁することを可能にするかもしれない。

ところで中国は、トランプ大統領の広範囲にわたる関税を二国間ベースで乗り切ることができると考えているが、同時に自国の貿易相手国に対する米国の猛攻撃が、米国の覇権を覆す世代的な戦略的機会を生み出したとも考えている。

この変化は、東アジアの地政学的構図を中国に有利に大きく変える可能性があるのだ。トランプ政権が初めて対中国関税を引き上げた後の3月30日には、中国、日本、韓国の3カ国が5年ぶりに経済対話を開催し、「三国間自由貿易協定(FTA)」の推進を約束した。

バイデン政権下で、米国が中国の地域的影響力に対抗する戦略の一環として、日本と韓国の同盟国育成に慎重に取り組んできたことを考えると、今回の動きは特に注目に値する。中国の観点からすれば、トランプ政権の行動はインド太平洋における米国の影響力を直接的に弱める機会となる。

同様に、バイデン政権下では主要な地域戦略的優先事項でもあった東南アジア諸国に対するトランプ大統領の大幅な関税の引き上げは、これらの国々を中国に近づける可能性が非常に高い。習近平国家主席は近隣諸国との「全面的な協力」を深めることを目指し、4月14日から18日までベトナム、マレーシア、カンボジアを国賓訪問している。

注目すべきは、東南アジアの3カ国すべてがトランプ政権による相互関税の対象となり、現在は一時停止されていることだ。カンボジア製品には49%、ベトナム輸出品には46%、マレーシア製品には24%の関税が課せられた。

中国から遠く離れた場所には、さらに有望な戦略的機会が存在する。トランプ大統領の関税戦略は、既に中国と欧州連合(EU)当局に、これまで緊張していた両国の貿易関係の強化を検討するよう促しており、これは中国との分離を目指してきた大西洋横断同盟を弱体化させる可能性がある。

4月8日、欧州委員会委員長は中国の首相と電話会談を行い、双方は共同で米国の保護貿易主義を非難し、自由で開かれた貿易を主張した。

偶然にも、中国が米国製品への関税を84%に引き上げた4月9日、EUも報復措置の第一弾として、200億ユーロ超の特定の米国輸入品に25%の関税を課すと発表したが、トランプ大統領の90日間の猶予を受けて実施を延期した。

現在、EUと中国の当局者は既存の貿易障壁について協議しており、7月に中国で本格的な首脳会談を行うことを検討している。

米中の交渉が決裂すると世界不況か?

このように見ると、トランプ政権の極端に高い相互関税の影響は、むしろアメリカのほうに大きな影響を及ぼす可能性が高い。中国もそのように見ているきらいがある。トランプ政権の関税政策が米ドルの国際的地位を弱める可能性を示唆していると見ているのだ。

複数の国に課された広範な関税は、米国経済に対する投資家の信頼を揺るがし、ドルの価値下落につながっている。伝統的に、ドルと米国債は安全資産とみなされてきたが、最近の市場の混乱により、その地位は疑問視されているのだ。同時に、高関税は米国経済の健全性と債務の持続可能性に対する懸念を高め、ドルと米国債の両方に対する信頼を損なっている。

もちろん、トランプ政権の関税措置は中国経済の一部に必然的に打撃を与えるだろうが、今回は中国がはるかに多くのカードを持っているように見える。米国の利益に重大な損害を与える手段を中国は有している。そしておそらくもっと重要なのは、トランプ政権の全面的な関税戦争が中国に稀有かつ前例のない戦略的機会をもたらしているということだ。

あまりに中国寄りの分析と思われるかもしれないが、客観的なデータを見ると、やはりこのように結論せざるを得ないように思う。トランプ政権と中国とのディールがまとまればよいが、全面的な対決になった場合、インフレの予想以上の昂進などから、米経済は深刻な不況に入る可能性が高い。

しかし、そのような状況で心配されるのは、米国債のリスク資産化が一つの引き金になって起こる金融危機であろう。

米国債は世界のどの金融機関も保有している資産である。そのリスク資産化と急落は、金融機関の資金繰りを悪化させる。すると、どの銀行も自己資本の確保の必要性から、銀行間で資金を融通する融資を停止する。すると、十分な資金力のない中小の銀行から、「FRB」や財務省の大規模な資金注入がない限り、順次破綻する可能性がある。これは、2008年の「リーマンショック」で起こった金融危機と類似した状況だ。

ノーベル経済学賞受賞のクルーグマンの警告

実際にこのような金融危機は起こる可能性はあるのだろうか?むろんそれはアメリカで発生するだろうが、影響は世界的になる。もちろん日本も巻き込まれるだろう。

そうした可能性に警告を発しているのは、2008年度のノーベル経済学賞を受賞したニューヨーク大学教授のポール・クルーグマンだ。クルーグマンは最近「金融危機入門、パートI」という記事を出し、そこで金融危機が起こる可能性を以下のように警告した。

景気低迷時に金利が上昇し、通貨価値が下落するという現象は、金融危機に直面する新興市場ではよく見られることです。この記事の冒頭の図は、その一例を示しています。1997年から1999年のインドネシアです。米国では、これほど深刻な状況には至っていません。しかし、私を含め多くの人が、米国の金融危機が初期段階にあるのではないかと感じています。

この記事では金融危機の概念を細かく解説し、米国債のリスク資産化が金融危機を引き起こす可能性があることを警告した。

レイ・ダリオの警告、金融システムが吹き飛ぶ

さらに、クルーグマン以上に警告を出しているのが、世界最大のヘッジファンドの創業者、レイ・ダリオである。ウォールストリートの重鎮として、大きな影響力を持つ。4月14日、ダリオはこれから金融危機が起こるのかという「NBC」のインタビューに答えた。

ちなみに以前からダリオは、歴史には覇権国が転換するサイクルが存在しており、現在アメリカの覇権が転換し、多極型の世界秩序への移行が本格化していると主張していた。2020年にダリオが出した本『Changing World Order』によると、覇権の転換には250年のサイクルがあり、その移行期は10年から20年だという。そして移行期は、新興勢力との対立期になるとしている。

ちなみに、覇権国の盛衰と転換を決定するパラメーターには次に8つがあるとしている。

<盛衰を決定する8つのパラメーター>

1)教育
2)テクノロジーとその開発力
3)世界市場における競争力
4)生産力
5)世界貿易のシェア
7)軍事力
8)資本市場の金融力と準備通貨の強さ

よい教育は高いテクノロジーと開発力をもたらし、国際的な競争力が上昇する。その結果、生産力は高まり世界貿易のシェアも拡大する。それは大きな軍事力の基礎となり、その国の金融センターがグローバルなセンターになる。その結果、その国の通貨が基軸通貨になる。

これらの8つのパラメーターは上昇期には相互に強め合いながら一層強くなるが、下降期には逆になる。

これらのパラメーターから見ると、覇権国は次の6つの期間を経過して繁栄から衰退に向かう。

1)平和と繁栄
2)金融バブルと格差の拡大
3)バブルの崩壊と景気後退
4)通貨の印刷と信用の拡大
5)財政悪化と紛争
6)革命と新しい覇権国による世界秩序の再構築

このステップからみると、現在のアメリカはステップ5の末期にあるとした。アメリカの内戦と革命を回避するためには、内部分裂の基本的な原因となる極端な格差を是正できる政策の実施が急務であるとしている。

この本の内容は、第747回のメルマガに詳しく書いた。この本ではアメリカが内戦と混乱に向かう途上のステージ5にあるとしながらも、これから国民を統合できる政治家と党が出てくれば、破滅的な内戦になることはギリギリで回避できるはずだとしていた。この本が出版されたのは2020年である。

【関連】米デフォルトと日米株価急落に備えよ。レイ・ダリオの歴史サイクルから見た「米債務上限問題」の深刻度=高島康司

しかし、2025年のトランプ政権になってからのあまりに過激な政策の実施を見ると、ステージ5の財政悪化と紛争の段階を通り越し、ステージ6の革命と新しい覇権国による世界秩序の再構築という最終段階に突入しているように見える。

今回のインタビューでダリオは、このような歴史認識をベースにして、現在の政権がすぐに財政悪化と国内の紛争を止める方向に大胆に政策の舵を切らないと、ステージ6の危機の発現を止めることはできなくなるとしている。ダリオは、今回トランプが発動した相互関税こそ、大国間の緊張を高め、アメリカの覇権の転換と新しい国際秩序の形成を促進する要因だという。

そして、最悪な場合、金融危機どころではなく、現存の金融システムが吹き飛ぶこともあり得るとしている。それは、世界恐慌からブロック経済、そして世界大戦へと動いた1930年代のような様相になるだろうと予測した。

レイ・ダリオのこの予測はあり得るのかもしれない。それが回避されるとしたら、アメリカと中国のディールが成立し、関税戦争がなんとか避けられたときだろう。どにかく、どうなるか注目だ。

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