ハリスvsトランプ、どちらが優勢?「石破」ばかりの日本が報じない米大統領選“真の争点”
米国の新しい大統領を決める選挙まで、あと1ヶ月になりました。日本ではすっかり報道が下火になってしまった米大統領選ですが、現地アメリカではどのような状況になっているのでしょうか? いま米大統領選のキーワードになっているという「男らしさ」について論じているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、ハリス候補とトランプ候補に共通する「男らしさ」という言葉をめぐるあれこれについて詳しく紹介しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:新旧「男らしさ」の戦い
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
米大統領選は、いまどうなっているのか?日本では報じられないこと
米国の大統領選がひと月後の11月5日に行われますが、英国The Economist(日経新聞に転載)に掲載されていた「米大統領選、男女の権利巡る対決に」と題された記事が、実に興味深かったのでとりあげ、あれこれ考えてみようと思います。
米国大統領選の争点の一つに「妊娠中絶の権利」があげられていますが、記事では、これを「ジェンダー」の視点で包括し、「男らしさ」というキーワードでさまざまな問題を交え、論じていました。
ハリス副大統領は、中絶の権利擁護を掲げ、バイデン政権の副大統領としても、中絶の権利が守られる必要性について、全米各地を回って訴えてきました。
一方、トランプ氏は、2022年に連邦最高裁判所が「中絶は憲法で認められた権利だ」とする、それまでの判断を覆した際に、自分が大統領在任中に保守派の判事3人を指名し、多数派になったことで実現したと強調するなど、人工妊娠中絶反対の立場を取り続けています。
そんな中、ハリス副大統領陣営は、各地の男性にハリス候補への投票を呼びかける「生殖の自由バスツアー」なるものを主催。
9月20日にはペンシルベニア州ピッツバーグのある醸造所で、医師、ソーシャルワーカー、米下院議員、ハリウッド俳優2人、テキサス州の人工中絶禁止法のために妻を敗血症で失いかけた夫、の6人による討論を行い、「政府は女性の子宮に口出すべきでないということだ」と討論者たちが結論づけると、大きな拍手がわき起こり、興奮してビールをこぼす人までいたと伝えています。
私から見れば「女性の問題」とされがちな中絶の権利を、海の向こうで男性たちが議論しているのが実に羨ましく思えるのですが、記事では件のような「夫としての立場」、すなわち、彼らが「息子たちの良い手本」となり、父として娘たちのため権利を取り戻そうと訴えることを、ある種の「男らしさ」の一つと表現。
8月に行われた民主党全国委員会でも、同様の「男らしさ」が主張されたそうです。
一方、共和党全国委員会が強調したのも、「男らしさ」でした。
とはいえ、民主党のそれとは大きく違います。
「世は男の世界だ(This is a man’s world)」という曲をバックにトランプ氏が登場し、元レスラーが自分のシャツを引き裂き、トランプ氏を古代ローマの「剣闘士」になぞらえました。
民主党は新しい「男らしさ」を訴え、共和党は伝統的な「男らしさ」を強調する。どちらも「男の強さ」の解釈は違えど「女性を守るのは男性」という立場は同じです。
また記事によると、米国人の過半数がハリス氏は女性のために、トランプ氏は男性のための政策を打ち出すとの調査結果があり、トランプ派の10人に7人は「ハリス氏の政策は男性に一層逆風になる」とみているとか。
トランプ支持派は男性が性差別の犠牲者だと考える傾向が強く、ハリス支持者はその逆。米国では男女どちらが有利かの見解の差が拡大していて、男女の政治的嗜好の壁も拡大しているそうです。
メルマガのVol.382で、トランプ氏が副大統領に指名したジェームズ・デイヴィッド・バンス上院議員を取り上げたのを覚えていますか。
バンス氏は「なぜ、ラストベルトがトランプ現象の震源地になったか?」がわかる本として、世界的ベストセラーになった『ヒルビリーエレジー』の著者です。
ラストベルトに暮らすアイリッシュ系、スコティッシュ系の労働者階級の白人系アメリカ人には、男らしさの文化が深く根付き、男たちはみな乱暴で、強さを競います。まさに家族を守る「剣闘士」。グラディエーターです。
ひょっとすると、トランプ氏の「男らしさ」も、ラストベルトの人たちを魅了したのかもしれません。
いずれせよ米国の有権者たちは、「私」にとってどちらの候補者がベターか?と選べる政策を、ハリス氏とトランプ氏が具体的に示し、ハリス氏を「我が党の候補者」に選んだ民主党、トランプ氏を「我が党の候補者」に選んだ共和党、各々が団結して支持を訴える選挙選を戦っている。
この極めて当たり前のことが、日本ではできていません。
自民党の政治家たちは、「我が党の総裁」に石破氏を選んだはずです。なのに党として団結してるとは、到底思えないことだらけです。
石破氏も石破氏で、これまで訴えてきた「自分が総理になった暁政策」ではなく、「党内基盤」という言語明瞭意味不明の政策を重んじている。
しかも、メディはこぞって「党内事情」ばかりと報じている。
おまけに「自分の言葉で話す」と豪語する総理大臣=石破氏は、国会の代表質問で「文書」を読み上げている。
日本人にとって政治とは何なのか? 海の向こうでは「女性の権利」が叫ばれていますが、日本で暮らす「私」の権利とは何なのでしょうか。
みなさんのご意見も、お聞かせください。
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