「トランプが負けたら米国は血の海になる」!?…大統領選「テレビ討論会」はデタラメだらけ!ハリスとABCが深めた「米国の分断」

現代の米国
「トランプが負けたら米国は血の海になる」!?…大統領選「テレビ討論会」はデタラメだらけ!ハリスとABCが深めた「米国の分断」(朝香 豊) @gendai_biz
アメリカでは左右の分断がどんどん進んでいるとよく指摘される。それはトランプのような人間が人々を扇動しているからだと、一般には理解されている。だがそれは本当なのか。トランプvs.ハリスのTV討論会の内容を更に詳しく検証することで、アメリカの病巣を探る。

「トランプが負けたら米国は血の海になる」!?…大統領選「テレビ討論会」はデタラメだらけ!ハリスとABCが深めた「米国の分断」

ワルツの「生後中絶認可」、ファクトは

アメリカ大統領選挙を巡る、トランプとハリスのTV討論会について、私は9月13日公開の「明らかなウソに、司会の印象操作…米大統領選『テレビ討論会』でハリスの優勢はこうして作り上げられた!」で、討論会で扱われた2つの話題(経済と中絶)に絞って、司会者の偏った扱いがどのようなものだったかを具体的に指摘した。

あのような党派的に偏った問題ある司会者の対応が討論中に繰り返され続けたのだが、今回はそのことをさらに具体的に紹介したい。

カマラ・ハリス(左)とティム・ワルツ by Gettyimages

まずは前回扱った中絶の話題の中で触れた、民主党の副大統領候補でミネソタ州知事のワルツのことを取り上げたい。ワルツは妊娠9ヶ月の中絶は全然問題ない、生まれた後でも大丈夫だと言ったと、トランプが指摘したところ、司会のデービスは「生後の赤ちゃんを殺すことが合法とされる州はこの国にはない」として、トランプ発言を事実上否定した。

ところがミネソタ州の中絶指針には、中絶が妊娠期間によって制限されないことが記されている。したがって臨月であっても中絶は制限なく行えることになるのだ。

ちなみにワルツが知事に就任した2019年から、ミネソタ州では中絶作業をすりぬけて8人の赤ちゃんが生きたまま生まれてきたが、そのうち5人には命を救うための処置は何も施されなかった。残りの3人は痛み止めの処置は施されたものの、それ以上の処置は取られず、1人も生存することはなかった。こうしたことをワルツ知事は何も問題視していないのだから、生まれた後の「中絶」でも大丈夫だとしているというのは、間違っていない。

2023年にはこの流れはさらに進み、この年に成立したミネソタ州法SF2995によって、「生存乳児保護規定」が削除された。この規定は中絶がうまくいかずに生きたまま生まれてきた赤ちゃんに法的保護を与えることを意図したものだったが、これが削除されたのだ。これにより生後に赤ちゃんを殺すのが合法化されたとみることもできる。この州法はワルツ知事の署名で成立しているのだから、ワルツ知事が生後の赤ちゃんを殺すのを認めたと表現しても、間違ってはいない。

こうなると、デービスの行ったファクトチェックが間違っており、トランプのほうが正しかったということになるだろう。

修正されないハリスの体外受精治療認識

さて次に、中絶に関連したハリスの発言を取り上げよう。

ハリスは「ドナルド・トランプの中絶禁止の下で何が起こっているのかを理解してください。祈り、家族を持つことを夢見るカップルは、体外受精治療(IVF)を拒否されています」と話している。

彼女は何を喋っているのか。現在の政権はバイデン政権であって、トランプ政権ではない。トランプ政権がIVFを禁止したのが仮に事実として正しいとしても、自分たちの政権でIVFを復活させればいいではないか。そしてそもそもトランプ政権がIVFを禁止したという事実はない。

ハリスは「トランプは中絶禁止だ、IVF禁止だ」とよく言うのだが、トランプは中絶禁止でもなければ、IVF禁止でもない。

トランプはつい2週間ほど前の8月末頃に、自分が政権に返り咲いたら、高額なIVFの費用を政府か保険会社に負担させる方針を打ち出していて、これはABCニュースも当然報じている

ハリスがこのことを知らないことはありえないし、ABCニュースの司会のふたりが知らないこともありえないが、ハリスの誤った発言について修正が図られることはなかった。

FBIの犯罪データの方が間違っている

次にアメリカの犯罪数の話に移ろう。

トランプがアメリカでの犯罪が天井を突き抜けるくらい増えていると話したことについて、司会のミュアは、FBIによれば全体的な暴力犯罪は減少していると語り、やはりトランプの言っていることが嘘だと示唆する動きに出た。

ところがFBIが2021年にシステムを入れ替えたことがきっかけで、その後FBIに全国の警察の犯罪データがきちんとは集まらない状態になっているのだ。

刑事司法に特化した調査報道を行っているマーシャル・プロジェクトによると、2022年にFBIの新システムにデータが完全に反映されていたのは、全警察機関の44%に留まり、部分的にデータが反映したのは24%であり、32%に至っては全くデータが反映されなかった。

そしてデータが全く反映されなかった都市には、ニューヨークやロサンゼルスなどの極めて犯罪数の多い都市が含まれている。

マーシャル・プロジェクトの調査時点では、フロリダ州、ペンシルバニア州、ニューヨーク州、メリーランド州、ウェストバージニア州、カルフォルニア州については、半分以上の都市がFBIの集計から漏れていた。

こうしたことの結果として、極めて矛盾するデータが出ている。2022年のFBI犯罪統計によると、暴力犯罪は2021年に比べて1.7%減少していることになるが、司法統計局の全国犯罪被害調査によると、逆に44%も増加しているのだ。

両者の犯罪統計の取り方に違いがあることを考慮しても、FBIの数字が事実を表しているとは到底考えられないだろう。

このことからすれば、現在のFBIのデータに基づき、トランプの主張に疑義を呈するのは不適切だったと言わざるをえない。

トランプ、適切に反論できず

ただトランプの反論があまり適したものではなかったことも指摘しておきたい。トランプは「FBIが詐欺を働いたのだ、最悪の都市を含めなかったのだ」と話した。詐欺を働く意図がFBIにあったかどうかはわからないが、最悪の都市を含めていない極めて不完全な統計になっているのは確かだ。それでも、最悪の都市を意図的に含めなかったといえる根拠を示していない以上、トランプの主張は信頼性に足るものとしては認められにくいものだったと言える。

トランプはアメリカ人の生活実感に訴えかけるように話したほうがよかったのではないか。今のアメリカ人は治安の悪化を実感しているのが普通だからだ。

「バイデン政権になってから犯罪が減って住みやすくなったって実感している人がいるのか。前より治安が悪くなったと思っている人の方が圧倒的じゃないのか。だとしたら、FBIの統計こそ疑うべきだろう。バイデン政権が意図的にやらせているのかどうかは知らないが、今の統計はニューヨークやロサンゼルスの犯罪統計を含めないようにしているのだ」のように伝えるべきだったのではないか。

さらに「民主党の強いカルフォルニアやニューヨークから、共和党の強いフロリダやテキサスに移住する人が増えているのは、治安に不安があるからじゃないのか」とダメ押しまでできたら、なおよかったのではないかと思う。これもまた、アメリカ人の生活実感に沿っている話だからだ。

ネオナチのレッテル

次にシャーロッツビルの話を取り上げよう。シャーロッツビルとは、南北戦争の時の南軍の英雄であるリー将軍の像が置かれていた町の名前だ。そしてこの町で、2017年に奴隷制を認めていた南軍の英雄を称えるなどけしからんとして、リー将軍の像の撤去を求める動きが広がった。撤去に賛成する人も反対する人もいたが、両派の衝突により一人が亡くなる惨事が起きた。

この惨事が起きた時に、賛成する側と反対する側のどちらの側にもとてもよい人たちがいたとトランプは話した。撤去に反対した側にネオナチとか白人至上主義者と呼ばれる人たちが含まれていたことから、トランプはネオナチや白人至上主義者を「とてもよい人」だと呼んでいるのだというこじつけがなされた。

撤去に反対する人たちが全員ネオナチとか白人至上主義者であるわけがないのは、冷静に考えればすぐにわかるだろう。今の価値観で過去の価値観を評価すべきではないし、歴史として存在したものを存在したものとして受け止めるべきだという、極めて常識的で穏当な見解から撤去に反対する人たちだって当然いたのだ。

なお、トランプがネオナチや白人至上主義者を「とてもよい人」だと呼んだというのがこじつけだというのは、左派系のファクトチェック機関のSnopesも認めている

ところがハリスは「松明を持ち、反ユダヤ的な敵意を剥き出しにした暴徒のいたシャーロッツビルを思い出そう。あの時トランプは何を話したか。どちら側にもいい人がいると言っていたのだ」と語り、反ユダヤ的な敵意を剥き出しにした暴徒=ネオナチにもいい人がいるとトランプは話していたかのように語ったのである。

そしてこの主張でも、司会者がハリスをたしなめることはなかった。

トランプは「血の海になる」と言ったのか

ハリスはまた、「トランプはこの選挙結果が自分の望み通りにならなかったら、血の海になると話している」とも発言した。文脈からすると、選挙結果が気に入らないと、トランプ側は内乱を引き起こすのだと、ハリスは伝えるつもりだったのは明白だ。

だがトランプは、民主党政権が強力な脱炭素政策を推進する中で、自動車産業やエネルギー産業などに大打撃が加わるという意味で「血の海になる」と表現していたにすぎない。

ちなみにトランプがこの話をしたのは自動車の街として知られるオハイオ州のデイトンでのことだ。EV車推進を推し進めていけば、ガソリン車に支えられた産業は衰退することになる、それでは皆さんの生活が成り立たなくなると、聴衆であるデイトンの人たちにトランプは訴えていたのだ。

この件での釈明もトランプは何回も行っているが、ハリスはこの話をまた誤った文脈で持ち出して、トランプ批判を行った。そしてこれにも司会者はファクトチェックを入れていないのだ。

ハイチ人移民が犬猫を食べる?

最後にスプリングフィールドで、移民たちが犬や猫、さらにはペットまで食べているとトランプが語っていたことを取り上げよう。

討論会では、トランプがこの話を話している間、ハリスはトランプをバカにするように笑っていた。司会のミュアもスプリングフィールド市に問い合わせて、ペットが移民によって虐待されたという主張に信頼できる報告はなかったと語っているとして、トランプを信頼できない人物だと印象付けることを行った。日本のテレビでも、「あー、またトランプがとんでもないことを言っている」という感じで扱われていた。

しかしこの話はそこまで単純ではない。

Tyler Oliveiraというユーチューバーがスプリングフィールドまで出かけていって、現地の人たちに片っ端からインタビューをする興味深い動画を公開している。

そのインタビューの中では、複数の住民たちが、ハイチから来た移民たちが猫やガチョウやペットを捕まえて食べているのだという証言を行っている。猫の数が減ったという人もいる。但しハイチ人へのインタビューでは、猫を食べているといった話は一様に否定されている。

スプリングフィールドは人口6万人ほどの街だったが、ここに近年ハイチ人の移民たちが2万人以上も入ってきた。

ハイチ人たちのゴミの扱いがずさんなことに、腹を立てている人も多い。ハイチ人が乱暴な運転をして、事故も増えていることも不満になっている。もともと住んでいる自分たちに対して、ハイチ人たちが敬意を払ってくれているとも思えない。

それなのにハイチ人たちは政府から手厚い保護を受けていて、賃料の高くなった家でも住める一方、長らく住んできた住民たちがその煽りを食らって借家から追い出され、ホームレスになるようなことまで起こっている。

英語を話せず手間のかかるハイチ人に行政サービスのリソースが多く割かれることになり、元からいる住民たちに大きな不便が強いられてもいる。

なんでアメリカ国民が支払っている税金で彼らを優遇し、アメリカ国民である自分たちがその犠牲にならなければならないのかと、彼らは感じているのだ。

番組ではハイチ人たちが猫などを食べているということに対する結論は語られておらず、私には真偽の程はよくわからなかった。ハイチ人たちに圧迫されているというネガティブ感情が、そういう噂を住民たちの間に作り出してしまったものなのかもしれない。

この噂が事実であれ、事実でなかれ、こうしたおどろおどろしい話、にわかに信用してもらえそうにない話を大統領選を戦う討論会で持ち出したのは、適切ではないのかもしれない。

それでも、たとえこの話がスプリングフィールドで起こっているやるせない現実が作り出したうわさ話にすぎないとしても、冷笑して切って捨てることが果たして正しいことなのかとも思う。スプリングフィールドの人たちの置かれた厳しい現実を真摯に見つめ、そこに心を寄せる姿勢がハリス側にあったならば、あんな冷笑はできなかったのではないかとも思う。

そしてそれは、ハリス側が弱者の味方のように振る舞いながらも、自分が選挙戦で有利になる戦術ばかりを考えていて、本質的には人々の暮らしに大して関心がないことを間接的に示しているとも言えるのではないか。

ハリス=ABCの方がファシズム

さて、真偽が不確かなスプリングフィールドの事例は除いてもらっても構わないが、これまで私がここに取り上げた事例には全て、共通した特徴がある。それは政府の権力とメディアの権力が一体となって、嘘が真実の顔をして流通し、それによって政敵が魔女狩りのように潰されていくというあり方だ。これは私達が最も警戒しなければならない、いわゆるファシズムと呼ばれるものの典型的なあり方ではないか。

アメリカでは左右の分断がどんどん進んでいるとよく指摘される。それはトランプのような人間が人々を扇動しているからだと、一般には理解されている。

だがそれは本当なのか。これだけマスコミが連日こぞってトランプ批判を繰り広げているのに、トランプに対する支持は失われてはいないし、最近では黒人層やヒスパニック層にもその支持は広がっている。

かつて民主党の希望の星とされ、若くして民主党の大統領予備選挙に出馬したこともあるトゥルシー・ギャバードが、民主党を離党して、今回トランプ支持に回った。輝かしい民主党の家系であるケネディ家に属しながら、今回の選挙で民主党の予備選挙への出馬が妨害されたことで、やむなく独立候補として大統領選挙への出馬を表明したロバート・ケネディ Jrも、ついにトランプ支持に回った。

長らく民主党を支持し、トランプに対して懐疑的な態度を取ってきたイーロン・マスクも、トランプ支持に回った。

同様に民主党を支持すべきものとして疑ってこなかったマーク・ザッカーバーグも、今回の選挙では民主党に投票することはできないと、トランプに電話をかけてきた。

彼らはなぜ態度を変えたのか。今の民主党のあり方にファシズムの臭いを感じ取り、このまま民主党を勝たせると民主主義が終わると考えているからではないのか。

今回の討論会を通じて、ハリス側の戦術をトランプ側は十分に理解することができた。それを踏まえて次回の大統領選挙の討論会では、トランプが攻勢に出ることを期待したい。

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