決定版! 28項目ウクライナ和平計画に込められたヴァンス副大統領の「怒り」

11月20日以降になって、ウクライナ戦争の停戦・和平に向けた和平計画策定をめぐる動きが、あわただしさをましている。そこで、今回は、この計画の内容や、策定経緯、問題点などについて考察する。重要なのは、この策定に欧州嫌いのJ・D・ヴァンス副大統領が絡んでいる点である。ウクライナとともに戦争継続を望む欧州諸国の不誠実な政治指導者らに、ヴァンスは怒り心頭である。
2種類の28項目和平計画
話題となった28項目の和平計画と、それに対応するかたちで欧州側がまとめた欧州和平計画代替案を示したのが、下の表である。それぞれAxiosとロイター通信が報道したもので、実際の和平計画はいろいろなヴァージョンがあり、修正や変更を加えられている。本当は、これ以外にもさまざまな報道があるが、ここでは比較的まとまっている二つを示す。
Axiosは11月21日付の別の報道で、提案文書には、ウクライナ、米国、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)、ロシアの署名欄があると報じている。さらに、「ホワイトハウス高官によると、ロシアは草案について説明を受けたが、最終的にプーチン大統領の署名が必要かどうかは不明だという」と書いている。さらに、Axios版の21項目の4番目の記述にある「非武装緩衝地帯」に関連して、Axiosは、「安全保障に加え、28項目の計画では、東部のウクライナ領とロシア領の間に非武装地帯を設けることを求めている」と説明している。
28項目和平計画の作成過程
今回の28項目の和平計画は、決して唐突に出現したわけではない。ウラジーミル・プーチン大統領は11月21日、安全保障会議を開催し、そこでこの計画について言及した。彼によれば、「私たちはこれを公にはほとんど議論していなかったが、ごく大まかな概要については議論していた」という。ドナルド・トランプ大統領のウクライナ情勢解決に向けた平和計画は、8月15日のアラスカでの会談前に議論されており、その事前協議の中で、米国側は「一定の妥協、つまり彼らが言うところの柔軟性」を示すよう求めていたのだと説明した。
ただ、「ウクライナがトランプ大統領の提案した和平解決案を事実上拒否したことと関連して」一定の沈黙期間を要した。「おそらくそれが、28項目からなる、実質的に改良された新案が登場した理由であると考えられる」というのがプーチンの見立てである。
いずれにしても、プーチンは、「提案された計画の細部について、具体的な議論が必要だ。我々はそれに応じる用意がある」と語った。
極秘のマイアミ会談
具体的にわかっているのは、11月20日付のAxiosが「この計画は 、マルコ・ルビオ国務長官とトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーの意見を取り入れながら、トランプ特使のスティーブ・ウィトコフが起草した」と報じたことである。さらに、「ウィトコフはまた、この計画について、ロシア特使のキリル・ドミトリエフ(ロシア最大の政府系ファンドのひとつであるロシア直接投資ファンド[RDIF]トップ)にも相談した」とも報道している。この点は、先のプーチンの説明と矛盾しているように思えるが、ドミトリエフとの協議が詳細なものではなかったということだろうか。
11月23日、ロイター通信は、10月末にマイアミで、ウィトコフ、クシュナー、ドミトリエフが参加する会議が開かれていたと報じた。事情に詳しい関係者の一人によれば、ウィトコフは11月中旬、訪米中だったウクライナのルステム・ウメロフ国家安全保障・国防会議書記に計画を伝え、米国は20日にキーウでゼレンスキーに直接手渡す前に、19日にトルコ政府を通じてウクライナに計画を渡したという。
11月20日、和平のための「特別代表」に任じられた米国のダニエル・ドリスコル陸軍長官(ウクライナ担当特使のケロッグは交渉から外されており、2026年1月に退任する)は、ゼレンスキーに和平計画を直接伝達した。しかし、これ以前にゼレンスキーは和平計画の概要を知っていた。
11月19日付のAxiosは、トランプの和平イニシアチブに対するトルコの支援の一環として、ウィトコフは19日にアンカラを訪問し、ゼレンスキー、トルコのハカン・フィダン外相と3者会談を行う予定であったと米政府高官はのべた、と報じた。米政府高官は、ゼレンスキーがウメロフとの合意から後退し、トランプ大統領の和平計画について話し合うことに関心がないことが明らかになったため、会談は延期されたと主張したという。あるウクライナ政府関係者は、ゼレンスキーがヨーロッパ諸国を含むより広範な形式で、この案を議論するよう求めたため、会談は延期されたと説明している。
和平計画の合意に向けた具体的な動きが、急速に動き出した。11月23日、米国とウクライナの代表はスイスのジュネーブで会合し、米国の和平提案について協議した。米国側の代表はマルコ・ルビオ国務長官で、ウクライナ側はイェルマーク大統領府長官だ(下の写真)。
ルビオが記者会見で明らかにしたところでは、会談は「もっとも生産的」で有意義としたうえで、ワシントンのチームが和平計画に「いくつかの変更」を加えていることを明らかにした。同日、ホワイトハウスは共同声明を発表し、「ウクライナと米国は、今後数日間、共同提案に関する集中的な作業を継続することで合意した」としている。また、プロセスが進展するにつれ、欧州のパートナー国とも緊密に連絡を取りつづけるとも書かれている。
ヴァンス副大統領の関与
興味深いのは、ゼレンスキーに和平計画を直接伝達する役割を果たしたドリスコル陸軍長官を「特別代表」に任命した経緯である。ドリスコルはヴァンスの大学時代の友人であり、二人の関係はきわめて近しいのだ(The Economistを参照)。
しかも、11月21日、ウクライナ大統領府は、ゼレンスキーはヴァンス副大統領およびドリスコル陸軍長官と電話会談を行ったとも伝えている。この電話会談は1時間におよび、ヴァンスが和平に直接関係していることがわかる(The Guardianを参照)。会談では、戦争終結に向けた米国側の提案について、多くの詳細が議論されたという。
つまり、ヴァンスも今回の和平計画に深くコミットしている点が重要である。なぜなら、欧州嫌いのヴァンスの意向が、和平計画の随所にみられるからだ。たとえば、Axios版では、財政悪化に苦しむ欧州諸国がウクライナ支援の財源としてねらっている凍結中のロシア資産を、欧州の意向を無視して、分割管理する内容となっている。
ヴァンスの強い意志
強調したいのは、ウクライナ戦争を一刻も停止し、和平にもち込みたいというトランプの考えを、ヴァンスも強く共有している点である。ゆえに、ヴァンスの11月21日付のXへの投稿は重要である。
そのなかで、彼はウクライナとロシアの和平計画が満たすべき三つの条件をあげている。(1)ウクライナの主権を保持しつつ、殺戮(さつりく)を止める、(2)ロシアとウクライナの両方に受け入れられるものであること、(3)戦争が再発しない可能性を最大限に高める――というのがそれである。
こんな考えをもつ彼は、その前の投稿につぎのように書いた。
「この件に関して、意見の相違があった@nfergusのスレッドに感謝する。彼は現実と真摯に向き合っているが、我々の手法を批判する大半の人々にはそれが言えない」
下に示したように、このスレッドのなかで、The Timeのジャーナリスト、ニール・ファーガソンは、「最善は善の敵である」と書き、「最近の報道の憶測とは裏腹に、ウクライナ和平に向けた28項目の草案は、実際には交渉の合理的な基盤となっている」と高く評価した。さらに、「ウクライナ国民は独立のために英雄的に戦ってきた。今こそ、彼らが成し遂げた成果を外交によって固める時である」とのべ、和平計画を支持する姿勢を示している。
ヴァンスが軽蔑する欧州
この論考は、日本時間11月25日午後1時までの状況をまとめている。この時点までの情報によると、23日に実施された米国とウクライナとの和平計画をめぐる会談において、欧州側が取りまとめた和平計画の代替案については、上の写真にある23日の記者会見で、ルビオはその存在について「一切知らない」と否定した(BBCを参照)。つまり、23日の時点でも、米国は欧州を相手にしない姿勢を鮮明にしていた。
これが意味しているのは、口先で即時停戦を訴えながら、実は戦争継続をねらい、ウクライナへの支援をつづけている欧州の無定見への厳しい批判である。ウクライナはこれまで、欧州を味方につけて戦争を継続し、ロシアの弱体化をはかり、あくまでクリミア半島や東部ドンバスの領土奪還をねらうという姿勢を堅持してきた。
ドイツ、フランス、英国などの主要な欧州諸国はみな「戦争継続派」であり、ウクライナに代理戦争をさせて、軍事費増強を行い、それを軍事費の対GDP比の引き上げに利用してきた。トランプの要求に応じつつ、領土の一体性の堅持や民主主義の擁護といったきれいごとですべてを糊塗(こと)してきたのである。
その証拠に、欧州諸国はつぎのようなウクライナの窮状を無視してきた。すなわち、①要衝ポクロフスクをはじめ、喪失する領土が急増しており、敗色がますます濃くなっている、②ウクライナによるロシアの製油所攻撃に対する、ロシアによるウクライナへの電力設備やガスパイプラインなどへの攻撃で、ウクライナの停電が急増するだけでなく、暖房供給にも懸念が広がっている、③「(ゼレンスキー大統領の友人の)ミンディッチ事件」と呼ばれる汚職によって、政敵同士の間でさえも共有されてきた「ロシアに打ち勝つためには国が団結しなければならない」という戦時下の共通認識が、ごく少数の権力者たちが多くの同胞を死に至らしめる戦争から利益を得ているという信じがたい事実によって覆された、④兵員不足が深刻するなかで、強制動員による「バス化」(無理やりバスに押し込めて軍に動員)への国民的反発が強まっている、⑤ウクライナの経済活動は停滞し、欧州や国際通貨基金(IMF)などの支援なしには立ち行かなくなっている、⑥欧州の支援は、凍結したロシア資産を使った「賠償ローン」(事実上の没収)なしには、もはや不可能な状況に陥っている――といった「現実」がそれである。
即時停戦と和平を真摯に実現しようとしているトランプやヴァンスからみると、こうした欧州諸国の不誠実は耐え難いものであり、厳しい非難に値する。
とくに、ヴァンスは欧州に強い敵意をいだいている。拙著『ネオ・トランプ革命の深層』の161頁に書いたように、ヴァンスは、トランプ政権高官数名によるメッセージアプリ「シグナル」での私的会話のなかで、「私はまたヨーロッパを救済するなんて嫌でたまらない」と書き、「私はあなたのヨーロッパのただ乗りに対する嫌悪感を完全に共有する」と、国防長官のピート・ヘグセスは返信し、「哀れだ」(It’s PATHETIC)と書いたことがわかっている(ヴァンスの欧州嫌いについては、ほかにも、拙稿「ウクライナ戦争を「止めたいトランプ」「続けたいゼレンスキー」「無能な欧州」」を参照)。
こうしたヴァンスの感情は、11月24日のXへの投稿にも現れている。彼は、24日、Xに感情的な投稿をした。「トランプ政権が東欧における4年に及ぶ紛争に終止符を打とうとしていること」に激怒する共和党関係者に対して、「私は彼らの見解の内容について論じているわけではない。ウクライナ戦争について彼らがのべたことの多くは誤りだと証明されているが、まあいい」と前置きしたうえで、ヴァンスは、「自国に深刻な問題があるのに、この一つの問題にこれほど熱狂するのは正気の沙汰じゃない。心底嫌悪する」とのべたのだ。
別言すると、共和党内にいる「戦争維持派」が和平計画を批判していることが「正気の沙汰」ではなく、「心底嫌悪」に値すると苛立っているのである。この苛立ちは、和平計画を批判する多くの欧州政治指導者に向けられたものでもある。
哀れな欧州指導者の断末魔
欧州の政治指導者がまとめた和平計画代替案は最初、「テレグラフ」によって報道され、その後、「ロイター通信」も報じた。実は、二つを比較すると、複数の相違点があることに気づく(詳細を知りたい読者は「ストラナー」を参照)。ここでは、より新しいヴァージョンとみられるロイター版を、先に紹介した表に収載しておいた。
この和平計画代替案を検討するなかで、和平計画そのものへの理解を深めたい。とくに、代替案で修正を求めている①領土、②兵員数、③ウクライナの安全保障の保証、④ロシアの凍結資産――という4点について詳しく検討してみよう。
なお、11月23日のジュネーブでの会談で、米国が欧州和平計画代替案を知らなかったとしても、ウクライナは協議のなかで欧州の意向とすり合わせた要望をのべたとみられるから、和平計画代替案を分析すれば、ウクライナ側の考えが透けてみえてくる。ウクライナと欧州は、ほぼ一体とみなしてもよい。
【領土】
Axios版の和平計画では、以下の4点が盛り込まれている。
• クリミア、ルハーンシク、ドネツクは、アメリカ合衆国を含む各国によって、事実上のロシア領として承認される。
• ヘルソンとザポリージャは接触線に沿って凍結される。これは接触線に沿った事実上の承認を意味する。
• ロシアは、五つの地域以外の自国が支配する合意済みのその他の領土を放棄する。
• ウクライナ軍は現在支配しているドネツク州の一部から撤退し、この撤退区域は中立的な非武装緩衝地帯とみなされ、ロシア連邦に属する領土として国際的に承認される。ロシア軍はこの非武装地帯に進入しない。
だが、ロイター版の欧州和平計画では、「ウクライナは、占領された主権領土を軍事手段によって回復しないことを約束する。領土交換に関する交渉は接触線から開始される」としか書かれていない。つまり、欧州は前線での戦争停止を提案するだけで、トランプ大統領の計画の中心点であるドンバスからのウクライナ軍の撤退と矛盾している。
こんな中途半端な提案をロシアが受け入れるはずもない。つまり、欧州は相変わらず、ロシアが受け入れないような高いハードルを設けて、反対させて和平案を頓挫させて、結局、戦争を継続させようとしていることになる。
和平計画の具体的内容
【兵員数】
Axios版の和平計画では、「ウクライナ軍の規模は60万人に制限される」と規定されている。これに対して、ロイター版の計画では、「平時におけるウクライナ軍の規模は80万人を上限とする」となっている。
Axiosは、ウクライナの当局者によれば、ウクライナの軍隊は現在80万~85万人で、戦前は25万人程度だったという。これを信じるとすると、欧州はほとんど現状維持を主張していることになる。だが、先に言及したテレグラフ版の欧州和平計画には、そもそも制限そのものがなかった。
【ウクライナの安全保障の保証】
おそらくAxios版とロイター版の5項目にある、ウクライナが「強固な」、「確固たる」安全保障を具体的にどのように保証されるかが問われている。この規定自体に問題があるのではなく、ウクライナの安全保障を具体的に保証する内容が重要な論点となりうる。
11月21日、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相、ウクライナのゼレンスキー大統領、英国のキア・スターマー首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が電話会談を行い、欧州諸国、EU、NATOに関するあらゆる合意は、欧州のパートナーの承認と同盟国間の合意を必要とすることで合意した。ゆえに、ロイター版では、15項目において、「米国、ウクライナ、ロシア、欧州諸国が参加する合同安全保障タスクフォースを設置し、本合意の全条項を推進・実施する」と規定されている。これは、Axios版の15項目「安全保障問題に関する米ロ合同作業部会を設置し、本合意の全規定の遵守を促進し確保する」と大きく異なっている。
米国は、NATOの集団防衛憲章第5条の規定と同様の安全保障を提供することを約束したとする報道がある。ロシアによるウクライナへの「重大かつ意図的で持続的な武力攻撃」は、「大西洋共同体の平和と安全を脅かす攻撃とみなされる」というのである。
RBCウクライナによると、ドリスコルがウクライナに持ち込んだ文書には、和平計画以外に「ウクライナの安全保障に関する枠組み合意」と題された追加文書があった。この枠組み合意は、三つの項目で構成されている。
第一は、ロシアがウクライナに対して再び武力攻撃を行った場合、米国大統領は「軍隊、情報・兵站支援、経済・外交的措置、その他適切と認められる措置」を講じることができると規定している。第二項では、NATO加盟国は、フランス、英国、ドイツ、ポーランド、フィンランドとともに、米国と協調して行動することを約束する。第三項では、この枠組み協定は10年間有効であり、延長が可能であるとのべられているという。
ロシアの凍結資産の行方
【ロシアの凍結資産】
フランス、イタリアなど、すでに財政が逼迫している欧州諸国は、本当は、ウクライナを支援するだけの十分な余裕はない。そこで、欧州諸国は、ロシアによるウクライナへの全面侵攻を理由にして凍結したロシア資産の活用によってウクライナ支援を補強しようとしてきた。すでに同資産が生み出す利子については、ウクライナ支援に投じされている。
それだけではない。いわゆる「賠償ローン」のような形で、事実上、没収に近い方式で、ロシア資産の元本部分も支援に活用しようとする動きが広がっている(詳しくは拙稿「カネのためにウクライナ戦争継続を求める欧州指導者たちが躍進させた「チェコのトランプ」」を参照)。
そこで、欧州和平計画では、14項目で、「ウクライナは完全に再建され、ロシアがウクライナへの損害を賠償するまで凍結されたままとなるロシアの国家資産を含む財政的補償を受ける」と規定されている。こうすれば、財政的補償を損害賠償の完了前に実施できるようになり、事実上、ロシア資産を没収するのと同じ効果をもつ。
だが、Axios版では、「凍結されたロシア資産1000億ドルが、米国主導によるウクライナ復興・投資計画に充てられる」とされ、「米国はこの事業から得られる利益の50%を受け取る」と規定されている。加えて、「欧州は1000億ドルを追加し、ウクライナの復興に使える投資額を増やす」一方、「凍結された欧州のロシア資金は凍結解除される」と定められている。つまり、これでは、カネに苦しむ欧州の目論見はまったく実現できないことになる。
さらに、「凍結されたロシアの資金の残りは、特定の分野で共同プロジェクトを実施する米ロ別の投資ビークルに投資される」ともある。おそらく、Axios版の和平計画の策定に参画したクシュナーあたりが知恵を出したのだろう。
修正点
この原稿を書いている25日午後1時時点では、こうした欧州がまとめた和平計画代替案が最終的な和平計画にどこまで反映されるかどうかはわからない。報道ベースでは、FTは、「米国とウクライナが新たな19項目の和平案を起草したが、最大の決定事項は先送りした」と報じたほか、WPは、「11月24日までに、文書は28項目から19項目に削減されたと、議論について説明を受けていた当局者は語った」と伝えた。
修正点については、いくつかの報道がある。ブルームバーグは、「欧州当局者は、最新の草案案がロシアの凍結資産約1000億ドルを米国主導の復興支援に充てる計画に言及しなくなった点について楽観的な見方を示した」と書き、和平計画案からロシアの凍結資産の活用に関する条項が削除されたとしている。
前述したRBCウクライナによると、修正事項には、ウクライナ軍の兵力、ザポリージャ核発電所、捕虜交換と受刑者の返還の形式に関する問題が含まれている。一方、領土問題やウクライナのNATO非加盟を憲法に明記する条項については、代表団は「保留」することで合意したという。これらはゼレンスキー大統領とトランプ大統領レベルで協議・合意されるべき事項だというのである。両首脳の会談は近く開催される可能性があるが、ジュネーブでの具体的な日程については合意に至らなかった。
「最善は善の敵である」
先に紹介したファーガソンのいう「最善は善の敵である」という言葉は金言である。戦争を終結するためには、ヴァンス副大統領が指摘するように「ロシアとウクライナの両方に受け入れられる」条件が必要だ。それは双方にとって「最善」ではありえない。はっきり言えば、双方ともに譲歩が必要であり、その解決策は双方にとって「最善」とはなりえいない。
それにもかかわらず、ウクライナも欧州も、領土不可侵とか民主主義擁護とかいう「善」を振りかざす一方で、ロシアの言いなりの「ウクライナの降伏」であるといった批判を浴びせかけて、結局、譲歩しようとしてこなかった。
しかし、これは「善」を装った「悪」そのものであると指摘しなければならない。ウクライナ問題を長く観察していると、ウクライナの超過激なナショナリスト、ゴリゴリのナショナリストはずっと、伝統的にロシアとのあらゆる妥協に反対し、勝利の終わりまで戦争をつづけることを支持してきた。かつ、そのような妥協のほのめかしさえも裏切りや降伏だと呼んできたことがわかる。逆に言えば、ウクライナ事情についてほとんど何も知らないディレッタント(素人の好事家)が、専門家面をして皮相な戯言を吐き、それをオールドメディアが大々的に報じて大多数の国民を騙してきたということになる。
たとえば、「反降伏派」たるナショナリストは、ミンスク合意の履行を「降伏」と称して潰した。2015年にルガンスク州とドネツク州(いわゆる「LDNR」)の非支配地域を、特別な地位をもってウクライナに再統合するというミンスク合意は、広範な権利(独自の「人民警察」、選出された政府機関、ロシア語など)を持つ自治権をもつものであったにもかかわらず、これがこれらの地域をウクライナから分離するものだと、いちゃもんをつけて、ゴリゴリのナショナリストは「降伏」と断じたのだ。ロシアに併合することでもなく、たとえ特別な権利であっても、ウクライナに返還することあったのに。当時のペトロ・ポロシェンコ大統領は、幾度かの躊躇(ちゅうちょ)の末、結局、ミンスク合意の政治的部分の実行を、事実上放棄せざるをえなかったのである。
ゼレンスキーは、2019年の大統領選で、「戦争を終わらせるためなら、悪魔とも話をする」というスローガンを掲げて政権を握った。ミンスク合意の政治的部分、「シュタインマイヤー方式」などの実施が再び話題になった。しかし、再び「降伏」という言葉が大きな声で叫ばれるのだ。大統領就任後の10月6日の全国的な抗議行動によって、ゼレンスキーは、「ミンスク合意の政治的側面を履行するつもりはない」と表明して後退した。これが、その後ロシアが公に表明した侵攻開始の理由の一つとなるのである。
2022年4月から5月にかけて、ロシアとウクライナとの間での平和的解決案が、イスタンブールでの会談に向けて準備され、大筋で合意に達したにもかかわらず、これも潰された。この案はウクライナの中立的地位と、ウクライナ軍の人員数に関する一定の制限を規定していた。その見返りとして、プーチンは2022年2月以降に占領したドネツク州とルガンスク州を除く全地域から、戦闘を行わずに軍を撤退させる用意があったのだ(ドンバスも特別な地位でウクライナに返還する用意があったという説もある)。
ウクライナの今後は複雑化する
現在、ボリス・ジョンソン首相(当時)が「戦争をつづける」と発言した訪問後に、合意が破棄されたとよく言われているが、当時ウクライナでも「裏切り」の波が巻き起こったことはあまり語られない。それは「降伏」に関する声明、1991年の国境まで戦うよう求める声、ロシアによる賠償金の支払いなどの動きであった。こうして、イスタンブール合意は破棄されたのである。
2022年秋にも、「降伏」の掛け声で、停戦・和平が潰された。ウクライナはハリキウ州とヘルソン州で攻撃を成功させた。その後、戦線を休戦することで戦争を終わらせるチャンスがあった。厳しい状況に陥ったロシアは、その提案を受け入れる可能性があった。しかし、こうした話はすぐにキエフで「降伏」と非難された。
このとき、マーク・ミリー統合参謀本部議長(当時)は中間選挙後の11月9日、ニューヨークのエコノミック・クラブで講演した。「外交交渉の時期なのか、交渉のテーブルに着く前に他に何が必要なのか」と尋ねられた彼は、「まあ、何か交渉材料が必要だと思う。それが重要なことのひとつだ。だが、軍事的な勝利はおそらく本当の意味で、軍事的な手段では達成できないという相互認識も必要だと思う。ゆえに、他の手段に頼る必要がある」とのべた。同月16日の記者会見では、ミリーは再び交渉の機が熟したことを示唆したのである(詳しくは拙著『帝国主義アメリカの野望』54頁を参照)。
ウクライナ当局は、今年2月に大統領執務室で起きた記憶に残るスキャンダルと、それにつづく米国によるウクライナへの軍事支援の停止まで、前線での戦争終結を「降伏」と呼んでいた。その後、ゼレンスキーは戦線の終結に合意し、現在ではこれがウクライナ政府の公式見解となっている。
もはや「降伏」ではなく「勝利」と「公正な平和」と表現されている。しかし、戦線で主導権を握ったロシアはこれに同意せず、ウクライナ軍のドンバス地域からの完全撤退を含む、停戦のための追加条件を提示した。そして今、ようやく米国はおおむねこれらの条件に合意し、28項目からなる新たな和平計画としてゼレンスキーに提示したことになる。
このようにみてくると、「降伏」の中身の変遷によって、ゴリゴリのナショナリストがウクライナを窮地に追い込んできたことがわかるだろう。その意味で、「ウクライナの降伏」という言葉自体を信じてはならないのである。
なお、ゴリゴリのナショナリストのなかに、ゼレンスキー政権の腐敗を追及するグループが存在する点に注意を払う必要がある。彼らは、あくまで戦争を継続しようとしているのであり、腐敗したゼレンスキー政権を統一政権に代えて、戦争をつづけようとしている。こんなグループが一定の力をもっていることが、ウクライナの今後を複雑にしているのだ。
ロシアも譲歩している
本当はロシアも譲歩を強いられていることも忘れてはならない。まず、もっとも大きな譲歩は停戦・和平案を締結することで、ウクライナのより広範な領土を手中に収める暴挙を断念することだ。
Axios版の和平計画では、ハルキウ州、スームィ州、ドニプロペトロウシク州からの軍隊撤退を余儀なくされることになる。その意味で、この撤退をドネツク州の一部からウクライナ軍が撤退することと相殺するのは、双方にとって「合理的」な譲歩・妥協と言えなくはない。
第二の譲歩は、凍結資産から1000億ドルをウクライナの復興に充てることである。
第三の譲歩は、ウクライナの安全保障の保証にかかわる部分だろう。ただし、この部分はこの原稿の執筆段階では判然としないので、別の機会に論じたい。
ウクライナと欧州諸国の苦渋
11月25日までの情報では、ゼレンスキーは近く米国を訪問し、トランプと会談するらしい。すでに、米国は、「ウクライナに和平協定の締結を迫るため、偵察および武器の供給を停止すると脅している」と、ロイター通信が情報筋を引用して報じている。
もちろん、Axios版和平計画の一部が修正されるだろう。しかし、ウクライナ軍の一部領土からの撤退と、ロシアによる部分的撤退を相殺するといった基本的なスキームは変わらないのではないか。
欧州諸国にしても、米国から「コケにされている」現状がある以上、その主張の多くが受け入れられることはないだろう。なぜなら、「戦争継続派」であるウクライナや欧州諸国の主張そのものが、トランプやヴァンスには決して認められないからである。
どうだろうか。問題の和平計画の裏に、「ロシアへのウクライナの降伏だ」とか「ロシアの言いなりだ」といった批判をして、結局、戦争を継続しようとしてきた人々へのヴァンス副大統領の憤怒が隠されていることを理解してもらえただろうか。



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