高関税で自爆…米国「トランプ不況」突入を示す数多のシグナルとは?日本から5500億ドル調達も浮上困難=高島康司

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高関税で自爆…米国「トランプ不況」突入を示す数多のシグナルとは?日本から5500億ドル調達も浮上困難=高島康司 | マネーボイス
トランプ大統領が推し進める高関税政策は、米国製造業の復活と景気回復を狙ったものだった。しかし、就任当初2.4%だった平均関税率は18.3%へと急上昇し、企業コストの増加やインフレ懸念を招いている。雇用統計の悪化、住宅市場の低迷、農業部門への打撃など、米経済は「トランプ不況」と呼べる局面に入りつつある。(『』高

高関税で自爆…米国「トランプ不況」突入を示す数多のシグナルとは?日本から5500億ドル調達も浮上困難=高島康司

トランプ大統領が推し進める高関税政策は、米国製造業の復活と景気回復を狙ったものだった。しかし、就任当初2.4%だった平均関税率は18.3%へと急上昇し、企業コストの増加やインフレ懸念を招いている。雇用統計の悪化、住宅市場の低迷、農業部門への打撃など、米経済は「トランプ不況」と呼べる局面に入りつつある。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)

高関税による「トランプ不況」は回避できない

各国への高関税の適用によって、反対にアメリカが「トランプ不況」とでも呼べる状態に突入しつつある。

トランプ米大統領は、4月から一時停止していた相互関税率を更新する大統領令を発令した。現在、米国のほぼすべての貿易相手国は10%から50%の関税に直面している。

今年初め、一連の基本関税および産業分野別関税が発効した後、多くのエコノミストは経済混乱を予測していた。これまでのところ、インフレの影響は多くの予測よりも軽微にとどまっている。しかし、経済的な痛手が米国の消費者に波及するにつれて、この状況はまもなく一変する可能性があるという懸念も生じている。

米国と安全保障関係にある日本と韓国は、米国との貿易黒字が大きいことから、15%の関税が課せられた。欧州連合でさえ、かつては考えられなかった15%の米国関税率を受け入れる合意を結んだ。トランプのロシア・ウクライナ戦争戦略の混乱は、欧州の指導者を不安にさせている。EUは、米国の戦略的撤退のリスクを冒すよりも、単に関税問題で折れたようだ。

そして、やはり米国との貿易黒字の大きいその他のアジア諸国は、平均で22.1%の関税に直面している。タイ、マレーシア、インドネシア、パキスタン、フィリピンなど、トランプ大統領と交渉を行った国々は、譲歩したアジア諸国に対する割引率である19%の関税が課せられた。インドは25%の関税に加え、ロシアとの貿易に対する追加の罰則も科せられる可能性がある。

また、一部の合意は依然として未決だ。特に、日本や韓国よりも高い20%の相互関税を課せられた台湾は、依然として交渉中であると主張している。

報復による混乱は起こっていない

一方、現在の貿易戦争では、報復関税を課すとの脅しはあるものの、中国とカナダを除いて、実際に米国製品に報復関税を課した国はない。

報復関税を課すと、自国の消費者物価が上昇し、経済活動が低迷し、トランプ大統領の姿勢を硬化させ、収益性の高い米国市場へのアクセスが制限されるおそれがあるからだ。その代わりに、トランプ政権と合意を交渉した国々は、米国市場へのアクセスをある程度維持するために、実質的に高い相互関税率を受け入れている状態だ。

このような状況なので、中国やカナダを除くと、トランプの高関税に報復する貿易戦争は起こっていない。第一次対戦前や1930年代の大恐慌の後など、過去の歴史的なケースを見ると、高関税の適用は貿易相手国からの同様の報復関税を招き、結果的には世界経済は混乱し、世界不況を深化させた。トランプのアメリカに報復する国は少ないので、まだ世界経済は混乱を回避できているという状況だ。

一般的に関税は、米国の輸入業者が支払うことになっている。しかし一部の企業が、トランプ大統領が腰が引けて関税が撤廃または引き下げられるまで乗り切ることを期待して、顧客である米国の輸入業者にコストを全額転嫁せず関税を吸収することを選択したことも混乱の拡大の抑止に一役買っている。

米経済への深刻な影響

しかし、高関税適用の混乱は完全に回避できたのかと言えばまったくそうではない。これから米経済は、高関税によるマイナスの影響で「トランプ不況」とでも呼べる状態に突入する可能性が非常に高くなっているのだ。その引き金となるのは、アメリカの国内物価の上昇、つまりインフレの再燃である。

関税は外国が支払う税金だとトランプ大統領は繰り返し主張しているが、現実は、米国企業と消費者が関税の負担を負担していることを示している。一般的に関税は、米国の輸入業者が支払うものだからだ。この結果、例えば「ゼネラル・モーターズ」は2025年第2四半期に関税で11億ドルのコストを負担したと報告している。

8月1日に、銅の半製品に対する新たな50%の関税が施行された。7月の発表後、銅価格は1日で13%急騰した。これは電気配線から配管まであらゆる分野に影響を及ぼし、最終的にコストは米国消費者に転嫁されることは間違いない。

米国の平均関税率は現在18.3%で、1934年以来の最高水準に達している。これは、トランプ大統領が就任した 1月の2.4%から驚異的な上昇だ。この平均関税率は、一般的な輸入品では、アメリカ人が5分の1近く多くの税金を支払うことになることを意味する。

悪化する雇用統計

そして8月1日、米国で発表された経済データは、雇用創出の大幅な鈍化、経済成長の懸念材料、トランプ大統領の絶え間ない関税率の変更による経済の不確実性による企業投資の停滞の兆しを示した。

7月の非農業部門雇用者数は7万3000人増加し、アナリストの予想(10万人)を大幅に下回った。失業率も4.2%に上昇した。また、5月と6月の雇用者数は、前回発表の数値から合計25万8,000人分下方修正された。

この修正により、6月の雇用者数は1万4,000人、5月は1万9,000人となり、実質的に横ばいとなった。アナリストたちは、7月の数値も下方修正され、マイナスに転じる可能性があると指摘している。一方、民間企業でビジネス・エグゼクティブコーチング企業である「Challenger,Gray&Christmas」によると、7月の雇用削減数は、パンデミック以降、同月の平均を大幅に上回っているという。2021年から2024年までの7月の雇用削減発表の平均は2万3v584件だった。過去10年間(2015年から2025年)の平均6万398件と比べても、先月の発表数は依然として平均を上回って
いる。

今年に入ってからの累計では、企業は80万6,383件の雇用削減を発表しており、これはコロナで経済が止まった2020年の184万7,696件以来の最高値となっている。これは、昨年同期間の46万530件に比べて75%増加し、2024年通年の76万1,358件に比べて6%増加している。

そして、雇用統計が米経済の弱さを浮き彫りにした数時間後、トランプ大統領は「労働統計局」の局長エリカ・マクエンタファーを解任する計画だと表明し、ソーシャルメディアで彼女が政治的な理由で月次データを操作したと示唆した。大統領がこのようなことをした前例はない。

「トランプ不況」に突入か?

このように、アメリカの雇用統計は予想以上に悪化していた。

この背景になっているのは、各国への高関税の適用による米企業のコスト負担の増加、そしてインフレ懸念である。結局関税は、米国内の輸入企業が負担しているのだ。

このコストの増加は製品価格に転嫁され、消費者物価を引き上げることになる。アメリカを製造業大国にして景気を一気に引き上げるというトランプの計画は、少なくともいまの時点ではまったく逆の結果になっている。

しかし、それぞれの産業分野の悪化する雇用状況を見ると、高関税によるコスト増やインフレ懸念だけではないことが明らかになる。

分野別の状況をまとめてみた。

<テクノロジー>

テクノロジーは民間部門で最も多くの雇用削減を発表しており、2025年には8万9,251件で、2024年7月までの6万5,863件から36%増加した。この業界は、人工知能の進展と就労ビザに関する継続的な不確実性により、再編が進んでおり、これが労働力削減に寄与している。

<小売>

小売業界は7月までに8万487人の雇用削減を発表し、前年同期の2万3,077人から249%増加した。小売企業は関税、インフレ、経済不透明感の継続により、人員削減や店舗閉鎖に直面している。消費者支出のさらなる減少が追加の損失を引き起こす可能性がある。

<非営利>

非営利団体は、連邦政府の資金削減、運営コストの増加、経済の不確実性の継続により、ますます厳しい課題に直面している。これらの団体は2025年7月までに1万7,826人の人員削減を発表し、前年同期の3,477人から413%増加した。この急増の多くは、直接サービス提供者と関連支援構造の両方に影響を与える連邦予算の削減に関連している。

<自動車>

7月、自動車メーカーは4,975人の人員削減を発表し、その主な理由として関税を挙げた。これは、2024年11月に1万1,506人の人員削減が発表された以来、単月での最も多くの人員削減活動だ。自動車業界は2025年7月までに1万6,883人の人員削減を実施し、前年同期の2万4,434人と比較して31%減少した。この業界は、生産需要の変動、サプライチェーンの混乱、および運用コストの増加の影響を受けやすい状況が続いている。

さて、かなり細かくなってしまったが、これで「トランプ不況」に入る可能性が高いことがはっきりした。実は、「トランプ不況」の引き金は高関税の適用によるコスト上昇とインフレ懸念だけではないのだ。AIの導入によるリストラの急増、「DODGE」による連邦政府職員の大規模削減などもその理由だ。そこには、「トランプ不況」に至る明確なパターンがある。それを簡単に図式化すると次のようになる。

・高関税によるコスト上昇に伴うリストラの急増
・インフレの上昇懸念による買い控え
・AIの導入によるリストラの急増
・「DODGE」による連邦政府職員の大規模削減
         ↓
      個人消費の落ち込み
         ↓
      「トランプ不況」

農業部門の落ち込み

このパターンは、アメリカの非農業部門だけの雇用統計から見たものだ。

しかしいま、まだ統計値は明らかになっていないが、農業部門の落ち込みも相当に大きなものになるようだ。それというのもトランプ政権は、不法移民の徹底した排除を実施しているからだ。不法移民の摘発は「米移民・関税執行局(ICE)」が契約した民間軍事会社によって行われている。彼らは、「ICE」から与えられた摘発のノルマを達成するために、不法、合法を問わずラテンアメリカ系のプロファイルに合致していれば、拘束されてしまう。

これは、移民労働力に依存するカリフォルニアなどの米西海岸の農業を直撃している。労働力不足から農産物の収穫ができず、市場に出荷できない状況なのだ。SNSでは、農業生産者の悲痛な悲鳴が投稿されている。農業部門の統計が出てくると、米経済の状況の深刻さが分かるはずだ。

不況入りを示す住宅市場の低迷

そして、「トランプ不況」をはっきりと示しているのがアメリカの住宅市場だ。8月1日に発表されたデータによると、住宅固定投資は第1四半期に1.3%減少した後、第2四半期には4.6%減少した。住宅投資が大幅に減少している主な理由の一つは、住宅販売が大幅に減少していることだ。

アメリカの春の住宅購入シーズンは、10年余りで最も弱い局面を迎え、2012年以来の最も鈍い市場となり、本格的な価格暴落が次に起こる可能性を懸念させている。春は伝統的に住宅販売契約のピーク時期だったが、現在苦境に立つ米国住宅市場ではその傾向は逆転している。データ分析大手の「レッドフィン」によると、2025年4月から6月は13年間で最も低い販売件数を記録している。これを「トランプ不況」に入ったことを告げる確実なサインであるとする見方も強くなっている。

トランプ政権のウルトラC、逆転のシナリオ

しかし、すぐにこれで「トランプ不況」が始まるかと言えば、かならずしもそうとは言えない側面もある。高関税の適用によってアメリカの不況が一時的に深化することは、トランプ政権でも容易に予想ができたことだ。

そのため、不況入りを回避し、逆に米経済の景気を好転するためのシナリオが存在するのだ。それが、日本やEUとの交渉で関税を25%から15%に引き下げることを条件に引き出した巨額の投資である。日本は5,500億ドル(約80兆円)、EUは6,000億ドル(約88兆円)に上る投資をアメリカに行う約束した。

しかしこれは、正確には投資ではない。はからずもトランプが言うように、これは野球選手の契約金のようなものであり、実質的な投資資金の所有権はトランプ政権にある。事実、高関税を15%に引き下げることに成功した今回の交渉では、日本の投資から得られる収益の配分は、日本が1でアメリカが9となっている。つまり日本が金を出し、投資収益の9割りはアメリカのものとなり、日本には1割りのサービス手数料が支払われるというものだ。

これは、日本が80兆円を出すことと引き換えに、関税率を25%から15%に引き下げてやるというディールである。これは投資ではなく、トランプ政権への協力金だ。

ホワイトハウスによると、この日本の5,500億ドル(約80兆円)の協力金は、以下のものに使われるとされている。

・エネルギーインフラと生産
・半導体製造と研究
・重要な鉱物の採掘、加工、精製
・医薬品および医療機器の生産
・新しい造船所及び既存設備の近代化を含む商用および軍用造船

これは、エネルギーインフラ、半導体製造、医薬品と医療機器、造船などの分野で中国への依存を断ち切り、アメリカ中心のサプライチェーンを構築するという計画だ。文書では明確にはなっていないが、おそらくEUの6,000億ドルもトランプ政権は指定した分野に投資することになるはずだ。

日本とEUを併せた1,150億ドル(約168兆円)は、日本の国家予算、117兆6,000億円を越える規模だ。当然、これだけの規模の投資がアメリカ国内に行われれば、景気を刺激する効果があることは間違いない。トランプ政権は、日本とEUから得た協力金を使って景気を刺激し、高関税などによる「トランプ不況」を回避しようという計画だ。トランプ政権が25%から15%への関税の引き下げと引き換えに、日本とEUから投資を引き出した理由には、このような計画が事前にあったのだ。日本はまんまとトランプの計画に乗せられたようだ。

しかし、これで「トランプ不況」は回避されるかといえば、そうではない。いくら投資が巨額でも、その景気刺激効果が出てくるには時間はかかる。反対に、高関税のマイナス効果で「トランプ不況」が悪化することも十分に考えられる。

これから市場がどのように判断するのか見なければならないだろう。

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