トランプが暴露した「リベラルデモクラシー」という名のウクライナ支援の無駄使い

現代の米国
トランプが暴露した「リベラルデモクラシー」という名のウクライナ支援の無駄使い
ドナルド・トランプ大統領は、就任したばかりの1月20日、「米国の対外援助の再評価と再編成」という大統領令に署名した(下の写真)。この日、彼は数々の大統領令に署名したため、ここで紹介する文書については、あまり知る人がいないかもしれない。

トランプが暴露した「リベラルデモクラシー」という名のウクライナ支援の無駄使い

対外開発援助の90日間停止命令

トランプ大統領は、この大統領令の冒頭部分で、「米国の対外援助業界と官僚機構は、米国の利益に沿うものではなく、多くの場合、米国の価値観とは正反対である」と指摘し、これを改める姿勢を明確にしている。別言すれば、リベラルデモクラシーを世界中に広げれば、世界がより安定し、米国の安全保障に資するという、これまでの米国の外交戦略が米国の利益に必ずしもならないから、これを修正すると言っているのである。そして、トランプは「力による平和」を実現しようとしている(詳しくは、『フォーリン・アフェアーズ』に掲載されたロバート・C・オブライエンの論文「力による平和の復活」を参照)。

そのうえで、米国大統領の外交政策と完全に一致しない方法で、米国の対外援助がこれ以上支出されることはないという政策のために、「プログラムの効率性と米国の外交政策との整合性を評価するため、米国の対外開発援助を90日間一時停止する」よう命じている。具体的には、国務長官に就任したマルコ・ルビオまたは彼の指名する人物が行政管理予算局(OMB)と協議しながら、対外援助プログラムを見直すことにしたのである。

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この大統領令を受けて、ルビオ国務長官は1月24日、既存のほとんどの海外援助助成金について、90日間支出を停止するよう命じた。ルビオの指示はすべての米国外交・領事公館に送られた。それによると、国務省職員はほとんどすべての「既存の対外援助金」に対して「業務停止命令」を出すべきだとされたが、例外はエジプトとイスラエルへの軍事支援とガザなどへの緊急食糧援助の場合であった。注目されるのは、ウクライナが例外とされなかった点である。

ただ、1月28日になって、ルビオは人道支援に関する新たな免除措置を承認した、と「ワシントンポスト」が報じた。これは、およそ600億ドルの対外援助予算のうち、どのプログラムが米国の支援に対するトランプ政権の凍結措置の対象外となるのかについて、支援団体に送られたメモのなかでのべられている。

メモのなかで、ルビオは人道的支援を「救命に必要な医薬品、医療サービス、食料、避難所、生活支援、およびそのような支援に必要な物資や妥当な管理費」と定義し、プログラムが「中絶、家族計画会議…ジェンダー」や多様性プログラム、「トランスジェンダー手術、または救命以外の支援」に関わる場合は、そのプログラムは免除されないとした。さらに、同報道では、「当初は、国務省がイスラエルとエジプトに提供する軍事支援のみが免除の対象となっていた」とされている。

なお、米国のAP通信によると、ジョー・バイデン政権による最後の公式な対外援助の会計報告は、2023年度の12月中旬のものである。それによると、204の国と地域における災害救援から保健、民主化推進に至るまで、海外でのプログラムに680億ドルが義務づけられていた。支援の最大の受給国は、イスラエル(年33億ドル)、エジプト(年15億ドル)、ヨルダン(年17億ドル)であった。

USAIDの暗躍

米国の対外開発援助において重要な役割を果たしているのは、米国際開発庁(USAID)である。重要なことは、USAIDが米国外交に担う機関として世界中で暗躍してきた事実である。ここからは、USAIDがウクライナにおいて、どんな活動をしてきたかをみてみよう。

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USAIDのサイト情報によると、2022年2月24日の開戦以来、USAIDは人道支援で26億ドル、開発支援で50億ドル、直接予算支援で300億ドル以上を提供してきた。そのごく一部については、プロジェクト内容が示されている。だが、USAIDの具体的な援助の全貌はよくわからない。

それにもかかわらず、「大変なことになっている」と強調して、ウクライナをイスラエルやエジプトと同じく例外とするよう求めようとする記事もある。たとえば、ウクライナの「キーウ・インディペンデント」は1月27日付で、カウンセリング、文化イベントの企画、基本サービスの提供など、幅広い人道支援サービスを提供する非営利団体が、場合によっては存続が危ぶまれ、支援対象の人々も宙に浮く事態となっていると伝えている。

1月28日付の「ニューヨークタイムズ」も、「トランプ政権が突如として米国の対外開発援助の全面停止を命じてから1週間が経ち、その影響はすでに紛争の続くウクライナで現れている」と書きはじめ、「複数の人道支援団体は、退役軍人や国内避難民への支援を含む活動の中止を余儀なくされていると話している」としている。

ただ、さすがだと思うことがある。それは、この記事の最後のあたりで、「ウクライナには、助成金によって独立を保っているメディア・プロジェクトも数多くある。現在、ウクライナの数十のメディア組織が支援を求めている」と正直に書いていることだ。この支援こそ、リベラルデモクラシーを海外に広げるための米国の外交戦略の根幹なのだ。

ウクライナでの暗躍

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一説には、こうした契約のほとんどは、USAIDが米国の組織に発注したもので、最大の助成先のひとつは、ケモニクス・インターナショナルだ。同社はワシントンD.C.を拠点とする大規模なコンサルティング会社であり、ウクライナの「民主主義の持続可能性」を改善し、地方分権を支援し、司法制度を強化するプロジェクトを監督しているらしい。これらのプロジェクトのいくつかは、2026年までに実施される予定だった。

USAIDは、今年9月30日に終了予定の「インターニューズ・ネットワーク」のメディア・プログラムも支援している。同プログラムの目標は、「ウクライナの民主的プロセスにおけるメディアの役割を強化し、市民の良質な情報へのアクセスを増やして有害な影響に対抗し、欧州統合を支援する」ことである。さらに、「ウクライナの説明責任と民主的発展を促進する、近代的で効果的な機関として議会を強化する改革促進プログラム」への資金提供を「インターニュース・ウクライナ」という組織が受けている。カネを受け取っている組織が具体的に何をやっているかまでは判然としないが、民主主義の輸出という、従来型のリベラルデモクラシー拡大戦略にかかわっていることは間違いない。

その証拠となるそうな「事件」が起きた。トランプ政権は、2月1日にイーロン・マスクをトップとする「政府効率化省」の代表者にUSAIDの立ち入り制限区域への立ち入りを許可しなかったとして、USAIDの二人の最高セキュリティ責任者を解任したのである。この事態を受けて、マスクは2日、「USAIDは犯罪組織だ。死ぬべき時が来た」と表明した(下の写真)。マスクはリベラルデモクラシー伝播にかかわる「伏魔殿」をとり潰そうとしているようにみえる。

税金の「浪費」という指摘

毎年12月23日、ランド・ポール上院議員(共和党、ケンタッキー州選出)は、1990年代のテレビ番組に登場した偽りの祝日を基にした「フェスティヴァス報告書」を発表している。この架空の祝日では、人々は毎年「不満の表明」を行うことになっており、無駄な政府支出に関して言えば、ポールは毎年必ず非常に長い不満のリストを用意している。その2024年版(下の写真)のなかで、ウクライナについて、「国務省はインフルエンサーに484万8082ドルを浪費した」と書かれている。

もう少し詳しく読むと、「ロシアによるウクライナ侵攻開始以来、アメリカの納税者はキエフに1740億ドル近い支援と軍事援助を提供してきたにもかかわらず、国務省のある人たちは『ウクライナ・キエフの広報活動 -インフルエンサー・スタッフ』に480万ドルを追加拠出するという素晴らしいアイデアを思いついた」という皮肉が指摘されている。そのうえで、「このような支出は、ディスインフォメーション(騙す意図をもった不正確な情報)、プロパガンダ、国際的なPR災害の扉を開くことになる」と批判している。だからこそ、「浪費」だというのである。

さらに、同報告書には、「国務省はさらに『インフルエンサー・イベント』に1万5220ドルを費やし、さらに『USAIDソーシャルメディア・インフルエンサー・キャンペーン』に2万2231ドルを費やしている」と指摘。米国人が生活に困っている時に、政府が税金を使って、自画自賛の祭典のようなイベントに大金を費やすのは「不可解」と断罪している。

「フェスティヴァス報告書2024」

(出所)https://www.hsgac.senate.gov/wp-content/uploads/FESTIVUS-REPORT-2024.pdf

ウクライナへの猛烈な「干渉」

過去を振り返ると、USAIDがウクライナにおいて決定的な役割を果たしたことがわかっている。たとえば、拙著『ウクライナ・ゲート:「ネオコン」の情報操作と野望』では、つぎのように書いておいた(106頁)。

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「陰謀はどう準備されたのか。鍵を握っているのはオレグ・ルィバチュークである。彼は2005年にユーシェンコ大統領を誕生させた立役者の一人であり、その功績から2005年2月から9月まで欧州統合担当副首相を務めたことがある。彼はジョージ・ソロス基金や、米国際開発庁(USAID)の契約者の一つ、Pact Inc.(身体障碍者などを支援)から資金を受け取る数十のグループを創設した。これが隠れ蓑になってヤヌコヴィッチへの反政府運動が展開されたというのだ。2008年以降、USAIDはPact Inc.を通じてウクライナに数百万ドルを流したとされ、2013年だけでPact Inc.は700万ドルもの資金をウクライナに配分したという情報もある。こうした資金を活用しながら前記グループが情報宣伝活動に従事したのだ」

このように、米国の望むリベラルデモクラシーを実現するため、米国は対外開発援助の名を借りて、水面下でずっとウクライナにおいても暗躍してきたのである。こうしたウクライナへの「干渉」がウクライナの危機や戦争を呼び寄せる一因になったことは間違いない。

なぜリベラルデモクラシー批判なのか

実は、ベルリンの壁崩壊の数カ月前の1989年、元米国国務省政策企画局次長のフランシス・フクヤマは、その時流を先取りして「歴史の終わり?」という論文を発表し、1992年になって、『The End of History and the Last Man』を刊行した。その45頁に、「つまり、勝利を収めているのはリベラルな実践というよりもリベラルな思想である。言い換えれば、世界の大部分において、リベラルデモクラシーに挑戦できるような普遍性を主張するイデオロギーは存在せず、人民主権以外の普遍的な正統性の原則もない」と書いている。

この主張が決定的に間違っていることを暴いたのが、2024年度「岡倉天心記念賞」の対象となった拙著『帝国主義アメリカの野望』(下の写真)である。その副題は、「リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ」となっており、252~267頁においてリベラルデモクラシーを徹底的に批判している。ここでは、その内容を説明するだけの紙幅は残されていないが、トランプ大統領はこのリベラルデモクラシーを広げようとしてきた米国の外交戦略がイラク、シリア、ウクライナなどの大混乱を招いたことを知っている。だからこそ、その息の根を止めようとしているのだ。

私は、「力による平和」を唱えるトランプの立場を支持しない。だが、リベラルデモクラシーを批判するトランプの主張は正しいと思う。ところが、いまなお、リベラルデモクラシーの「大嘘」に気づかない人が多すぎる。

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帝国主義アメリカの野望 リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ

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