「わざと株価を暴落させている」トランプの“陰謀”――狙いは国内の格差解消か、政府債務の削減か、割れる分析

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「わざと株価を暴落させている」トランプの“陰謀”――狙いは国内の格差解消か、政府債務の削減か、割れる分析 | JBpress (ジェイビープレス)
トランプ氏が共有したのは「アメリカンパパベア」(アカウント名)による「トランプ氏は意図的に米株式市場を暴落させている」と題した動画だ。その中で、「トランプ氏は今月、株式市場を20%(1/5)

「わざと株価を暴落させている」トランプの“陰謀”――狙いは国内の格差解消か、政府債務の削減か、割れる分析

トランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

「トランプはチェスをしているが、他はチェッカーをしている」

[ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領は4月4日、自らが設立したソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に「トランプはチェスをしているが、他はみなチェッカーをしている」というX(旧ツイッター)への投稿をシェアした。同様の投稿がSNS上に溢れる。

 トランプ氏が共有したのは「アメリカンパパベア」(アカウント名)による「トランプ氏は意図的に米株式市場を暴落させている」と題した動画だ。その中で、「トランプ氏は今月、株式市場を20%も暴落させているが、それはわざとやっている」と唱えている。

「トランプ氏が仕掛けた秘密のゲームであなたも大金持ちになれるかもしれない。なぜトランプ氏はこのようなことをしているか。米国債市場に資金を誘導し、5月に米連邦準備理事会(FRB)が金利を引き下げざるを得ない状況を作り出そうとしている」(アメリカンパパベア)

「金利が下がればFRBは数兆ドルの負債を非常に安価に借り換えられる。ドル安と住宅ローン金利の低下ももたらす。大胆な一手だが、上手く行っている。関税についても企業は関税を回避するため米国に工場を建設せざるを得なくなる」(同)

架空のバフェット発言をデッチ上げ

「農家は食料品の価格を大幅に引き下げるために、米国でより多くの製品を販売せざるを得なくなる。これはすでに卵で確認されている。米国人のわずか8%が全株式の94%を保有している。トランプ氏は短期的に富裕層から奪い、低価格を通じて中流階級に還元している」(同)

「アメリカンパパベア」は自分の極論に説得力を持たせるため「米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が、トランプ氏は過去50年間で最高の経済政策を行っている、と述べた理由はまさにこれだ」と書き込んだが、バフェット氏はそんな発言はしていない。全くのデタラメだ。

 確かに小売業者が卵を仕入れる際の卸値は米農務省のデータによると、2月末のピーク時の12個当たり8ドル超から4ドル強まで急落した。しかし価格が下がった要因は、鳥インフルエンザの発生減と消費者の需要減である(米紙ニューヨーク・タイムズ、3月18日付)。

2月22日、イリノイ州ナイルズの食料品店内の卵の棚。12個入りのパックが12.99ドルという高値に。さらに卵不足のため購入個数制限の表示が掲げられている(写真:AP/アフロ )

 世界金融危機後の2011年、米国で上位1%の富裕層が保有する富が増殖し続ける不平等に抗議して「ウォール街を占拠せよ」という運動が起きた。そして今、グローバリゼーションの負け組から這い上がれないホワイトアンダークラスがトランプ氏をメシア(救世主)と奉る。

景気後退局面に入ればFRBは大幅な利下げか

 FRBデータによると、上位10%の富裕層が株式市場の富に占める割合は2001年の71%から16年には84%に上昇。消費支出のほぼ半分は上位10%により占められる。米国では富の蓄積と購買力に大きな格差が広がり、トランプ支持者は「生きさせろ」という積年の恨みつらみを抱く。

 米オンラインメディア「ビジネスインサイダー」のウィリアム・エドワーズ記者は「トランプ氏は意図的に不況を引き起こそうとしているのか」(4月4日付)と題し「トランプ氏の新たな関税は意図的に景気回復を妨げ、消費者物価を上昇させる可能性がある」と分析している。

 トランプ氏は数十年にわたる自由貿易によって安い労働力を求めて海外に流出した製造業を関税政策によって長期的に米国に戻すことができると主張している。しかしトランプ氏の貿易戦争の背後には別の思惑があるかもしれないとエドワーズ記者は指摘している。

「景気が後退局面に入ればFRBは大幅な利下げを行うとみられ、投資家はリスクの少ない10年物米国債に殺到し利回りは低下する。米政府が借り入れ資金に対し支払う利子の額も減る。政府の債務水準が極端に悪化するのを防ぐことを狙っている可能性もある」(エドワーズ記者)

「時には苦い薬を飲まなければならないことも」

 米シンクタンク、ピュー研究所の世論調査ではトランプ支持者にとって重要なのはインフレ解消、不法移民対策、政府債務削減だ。昨年11月時点でトランプ支持者の84%は「小さな政府」を信奉しており、貧困層への公的支援は害の方が多いと考える割合は72%にのぼっている。

 米国のスコット・ベッセント財務長官はこれまで株価の下落を止めるため政策を打ち出す「トランプ・プット」はないと発言。「ウォール街より中小企業と消費者の方を重視している。経済の再均衡化を図るつもりだ。製造業の雇用を国内に取り戻す」と強調してきた。

 ケビン・ハセット国家経済会議(NEC)委員長は「トランプ氏は市場を暴落させようとしているわけではない。米国の労働者のために行動しようとしている」と語る。ハワード・ラトニック商務長官も「大統領は世界貿易を再構築する必要がある。関税は実施される。延期はない」という。

 当のトランプ氏は4月6日夜「何も下がってほしくないが、時には何かを修正するために苦い薬を飲まなければならないこともある。中国との貿易赤字は1兆ドルにのぼる。その問題を解決しない限りディールはない。中国は貿易黒字を解消しなければならない」と話した。

著名ストラテジストは「株式自警団」を提唱

「債券自警団」という言葉を最初に使った著名ストラテジストのエドワード・ヤルデニ氏は今「株式自警団」を提唱している。「来年の中間選挙で、株で損した有権者に罰せられることを恐れる共和党議員が交渉中の国々への関税発動を延期するよう圧力をかけるだろう」(ヤルデニ氏)

エドワード・ヤルデニ氏=2015年撮影(写真:ロイター/アフロ )

 米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のデズモンド・ラクマン研究員は米誌ナショナル・インタレスト(4月4日付)に「株式市場の暴落によりトランプ氏が関税政策を撤回し、出血を止めることを余儀なくされるのは時間の問題かもしれない」と寄稿している。

「トランプ氏は関税が経済繁栄と製造業の雇用拡大の時代を切り開くと考えたのかもしれないが、株式市場はそうは考えなかった。トランプ氏が思い描く“黄金時代”ではなく、市場は世界的な景気後退と物価上昇の悪循環のリスクを恐れている」(ラクマン氏)

 主要貿易相手国に輸入関税が課されると製造工程でそれらの国からの輸入品を使用するアップルやナイキなどグローバル企業の生産コストは大幅に増加する。強硬な関税措置は報復関税を招き、ウォール街の予測ではトランプ関税で消費者物価指数が5%近く上昇する恐れがある。

「S&P 500企業の総収益の30%以上が海外から。市場が何兆ドルもの家計の富を奪い続ければトランプ氏がいつまで冷静さを保てるか疑わしい。株式市場の低迷が米経済にボディブローを与える前にトランプ氏が関税政策を早急に転換することを期待したい」とラクマン氏はいう。

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