「ウクライナの守り神」米国大使がついにクビになった!

現代の米国
「ウクライナの守り神」米国大使がついにクビになった!(塩原 俊彦) @gendai_biz
「ウクライナの守り神」と称されていたブリジット・ブリンク米国大使が、ロシアのミサイル攻撃に対するウクライナのゼレンスキー大統領からの名指し批判を受け、ついに辞任!親民主党タカ派としての立場が足かせとなり、トランプ政権の外交路線に逆行する中で、その運命は決定的に。今後、国務省は「ブロブ」一掃の動きに向かうのか、注目が集まる!

「ウクライナの守り神」米国大使がついにクビになった!

ブリジット・ブリンク駐ウクライナ米国大使(下の写真)がその職を退くと、国務省報道官が4月10日に発表した、とロイター電が伝えている。彼女は、2022年5月に上院によって大使に承認された直後からキーウに赴任していた。大統領がジョー・バイデンからドナルド・トランプに代わり、ウクライナ戦争の停戦・和平が模索されるなかで、親民主党で、タカ派の彼女がその地位を維持するのは困難であったようだ。

2024年2月9日、キーウで記者会見するブリジット・ブリンク駐ウクライナ米国大使。 Serhiy Morgunov/Global Images Ukraine via Getty Images

(出所)https://edition.cnn.com/2025/04/12/europe/ukraine-us-ambassador-resignation-intl-latam/index.html

辞職の直接の引き金になった事件

辞任の直接的な引き金となったのは、4月4日夜、ロシアのミサイルがウクライナ中部の都市クルィヴィーイ・リーフを攻撃し、20人近くが死亡、68人が負傷した事件(下の写真)について、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が米国大使館のこの事件への対応を名指しで批判したことだった。

ゼレンスキーは、つぎのようにXに投稿したのである。

「残念ながら、米国大使館からの回答は驚くほど失望させるものだった。これほどまでに強大な国、これほどまでに強大な国民でありながら、これほどまでに反応が弱い。子供たちを殺したミサイルについて語る際に、『ロシア』という言葉を発することさえ恐れているのだ」

それでは、ブリンク大使の反応はどうであったかというと、以下の通りだ。

「今夜、クリヴィイ・リの遊び場とレストランの近くに弾道ミサイルが落下したことに恐怖を覚える。 50人以上が負傷し、6人の子供を含む16人が死亡した。 だから戦争は終わらせなければならない」

ロシアによる攻撃を非難するといった論調ではなかった。

ゼレンスキーの批判を受けて、ブリンク大使は「この記事には重要な文脈が欠けている。 弾道ミサイルはロシアによって発射された」という文章を先の投稿に追加した(Xを参照)。

4月4日、クルィヴィーイ・リーフでロシアによる2度目の空爆があり、住宅地で火災が発生し、女性が自宅で死亡、少なくとも5人の市民が負傷した。(State Emergency Service / Telegram)

(出所)https://kyivindependent.com/us-embassys-response-to-russias-kryvyi-rih-attack-unpleasantly-surprising-zelensky-says/

大使はヌーラント元国務次官補の子飼い

だが、彼女の辞任の背後には、もっと別の理由がある。それは、ブリンク大使がタカ派であったことと関係している。彼女は、2014年2月のウクライナ・クーデターを国務省次官補という立場から支援したヴィクトリア・ヌーランドの「子飼い」である(下の写真)。そう、いわばウクライナ戦争を引き起こした遠因にかかわる人物の仲間なのだ。

2020年9月3日、米上院の国土安全保障・政府問題委員会および 財務委員会のインタビューにおいて、ヌーランドは「ブリジット・ブリンクは私のウクライナ担当副次官補だった」と語っている。これは、ヌーランドが国務省次官補を務めていた2013~17年ころの状況についてのべたものだ。ヌーランド自身は第一次トランプ政権の誕生で、次官補を辞し、2021年1月に民主党のジョー・バイデン大統領の就任で、同年5月、国務省次官の一人(政務担当)として復帰した。このため、2022年の駐ウクライナ大使選考に際して、ヌーランドの意向がブリンクの選考に作用したとみられている。

二人の関係は、ヌーランドが国務副長官の人選に敗れて国務省を去った昨年3月に、ブリンク大使がつぎのようにXに投稿したことによって証明されている(ヌーランドの退職をめぐっては、拙稿「ウクライナ戦争の遠因を作った米「コワモテ女性外交官」が消える!」を参照してほしい)。

「ヴィクトリア・ヌーランド次官に深い感謝と敬意を。 彼女は自由と民主主義を守ることにそのキャリアを費やした。 彼女の価値観に基づく外交は、米国、ウクライナ、そして世界に貢献し、一世代の米国外交官の模範となった。 我々は彼女の遺産を引き継ぐことを誇りに思う」

ブリンク大使(左)は、民主党の有力者ヴィクトリア・ヌーランド(右)の息のかかった人物とされている。( 写真:president.gov.ua)

(出所)https://strana.news/articles/analysis/483261-pochemu-podala-v-otstavku-posol-ssha-bridzhit-brink-i-kto-ee-zamenit.html

国務省にすくう「ブロブ」とは何か

ヌーランドもブリンクも外交官としては、当然ながら、公式には無党派でなければならない。しかし、多くの公務員は、とくにキャリアが長くなるにつれて、特定の政治家やその考え方に近づき、非公式な同盟関係のような信頼を構築する。国務省の場合、いわゆるリベラルデモクラシーを海外に広げることが米国の安全保障に役立つと考える民主党的な主張に傾倒する外交官が大勢いた。だからこそ、前述のXで、「彼女は自由と民主主義を守ることにそのキャリアを費やした」と書くことで、ブリンクはヌーランドを称賛したわけである。

しかし、こうしたリベラルデモクラシーを否定するトランプ政権においては、いくらブリンク大使が軌道修正しようとしても、彼女の辞任はいわば既定路線であったと考えるべきだろう。要するに、トランプの外交路線と、ヌーランドやブリンクの路線は相容れないのだ。

ここで、ハーバード大学ケネディ公共政策大学院教授のスティーヴン・ウォルトがその著作The Hell of Good Intentions: America’s Foreign Policy Elite and the Decline of U.S. Primacy, 2018において、国務省にすくう「ブロブ」(blob)を批判したことを紹介しておきたい。ここでいうブロブとは、オバマ政権下で大統領副補佐官を務めたベン・ローズによって発明され、外交政策を担う「ミクロ社会」を意味していた。

ブロブとは、本来、森のなかにあるネバネバとした単細胞組織を意味し、周囲にあるバクテリアやキノコを摂取しながら繁殖するが、脳はない(これは、エマニュエル・トッド著『西洋の敗北』からの引用である)。ウォルトは、ブロブを、外部との知的あるいはイデオロギー的つながりを欠いた指導者集団とみなし、軽蔑している。国務省という閉鎖的な雰囲気のなかで、リベラルデモクラシー優先という見方に染まった独善的な人々を厳しく批判しているのだ。

その具体的な批判対象となったのは、2021年1月から今年1月まで、米国際開発庁(USAID)の長官を務めていたサマンサ・パワー(下の写真)だ。ブロブを嫌うトランプ政権がUSAIDへの資金供給を停止し、潰しにかかったのも、こうした意見対立があるからなのである。

サマンサ・パワー

(出所)https://www.instagram.com/samanthajpower/

このブロブのなかに、ヌーランドもブリンクも属している。彼らは、民主主義を海外に輸出するためであれば、暴力をも厭(いと)わない。いわば、「手を汚す」のである。それでいながら、自分たちの不正については甘い。あるいは、隠蔽しようとする。たとえば、ウクライナでは、バイデンの息子ハンターが父親の威光を借りて、カネ儲けをしていたのは事実だが、これを隠蔽したのも彼らブロブたちだ。

国務省で進む「ブロブ」一掃

今回の辞任劇は、ようやく、国務省内のブロブが生存しにくい環境になりつつあることを示しているのかもしれない。4月9日、トーマス・ディナノを軍備管理・国際安全保障担当国務次官、サラ・ロジャーズを広報担当国務次官、アリソン・フッカーを政治担当国務次官に指名する人事に関する公聴会が開催された。

ディナノは、第一次トランプ政権時代の2018年から19年まで国務次官補代理、2019年から20年まで国務次官補代理として同省軍備管理・検証・遵守局を担当した。 抑止と軍縮に焦点を当てた職務では、ウィーンでのニューSTART(戦略兵器削減条約)延長交渉、ミサイル防衛と宇宙政策の実施と監督、ハーグの化学兵器禁止機関(OPCW)とジュネーブの軍縮会議への米国代表団など、喫緊の外交政策事項について米国を代表していくつかの対話と条約交渉を主導または管理した。

ロジャーズは、言論の自由を理由に全米ライフル協会を擁護したことで知られるニューヨークの弁護士で、外交政策の経験はないが、ソーシャルメディアのコンテンツモデレーション(投稿監視)に関するトランプのスタンスと一致している。 彼女の指名は、言論の自由政策を世界的に拡大しようとする動きを示唆している。

Photo by gettyimages

フッカーは、2022年7月にラジオ・フリー・アジア(RFA)理事会に加わった。アメリカン・グローバル・ストラテジーズの上級副社長も務めていた。 それ以前はホワイトハウスで要職を歴任し、国家安全保障局(NSC)で大統領副補佐官兼アジア担当シニア・ディレクター、大統領特別補佐官兼朝鮮半島担当シニア・ディレクターを務めた。

いずれも、ブロブに属するとは言えない人々のようにみえる。ネバネバしたブロブは生存能力が高そうだが、ようやく生き抜くのが困難な時代を迎えたようだ。

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