「具体性に欠け」て当たり前。各国メディアの中国「3中全会」批判の的外れ
中国共産党の第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)が7月18日に閉幕。各国メディアの多くが「具体策に欠ける」と否定的に伝えましたが、具体的な経済対策を期待していたことがそもそも間違いと指摘するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、中央委員会の全体会議は各回ごとにテーマを固定化していると解説。第3回は「改革」で、改革の視点から大きな方向性を判断するのが役割であると、会議の本質を伝えています。
三中全会で具体的な経済対策が出されなかったという批判のズレ
経済を話し合う大会。本格的な景気対策が期待される──。中国共産党の第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の開幕前、多くのメディアがこうした観測記事を前打ちしていた。会議は7月15日から18日まで、4日間の日程で行われ、最後にコミュニケを発表して閉幕した。
そのコミュニケの内容を受け、メディアの評価も出そろい、やはりというか、ほとんどの紙誌は習近平指導部を批判している。理由は、「具体策に欠ける」からだという。だが、正直なところ「なぜ」そういう批判になるのか理解できない。これまでの流れを見れば明らかなように、3中全会のメインテーマは「改革」であり、習近平指導部下では「全面深化改革」だ。
テーマの固定化は胡錦涛時代から深まり、昨今はよりシステマチックになっている。ちなみに、今後予定される4中全会のテーマは「法治」。5中全会では5か年計画など「長期経済」が中心に話し合われる予定だ。つまり、3中全会で大型の景気対策を出すことを期待するのは、そもそも無理があるのである。
それ以前の問題もある。中央委員の出席する全体会議は、党の最高意思決定機関に位置付けられる。本来、路線や方針といった大方向が打ち出される場であって、具体的な政策を出す場ではない。コミュニケを読んだとき、観念的で、全体としてぼんやりしたな印象を受けるのはそのためだ。
例えば中国中央テレビ(CCTV)のニュース番組だ。夕方の『新聞聯播』はコミュニケを「改革の全面的深化の目標は、中国式社会主義制度の整備や国家ガバナンスの近代化の推進、2035年までに高水準の社会主義市場経済体制を構築し、社会主義現代化を実現させ、今世紀の中頃までに社会主義現代大国を築き上げるための強固な基礎を固めること」と解説する。
これだけを聞いてピンとくる日本人は少ないだろう。逆に外国のメディアが注目する不動産不況への対策や景気刺激策は、折に触れてたくさん出されている。積みあがった不動産の在庫の買い入れや買い替えを奨励する消費刺激策などがそうだ。
3中全会ではまず、そうした政策の成否を含め、「改革」という視点から判断し、この方向のまま進んで良いのか否かを判断する。コミュニケ冒頭にある「全会は党の第20期第2中全会以来の中央政治局の活動を十分に肯定した」「全会は新時代以来、改革を全面的に深化させるという試みが成功し、実践され偉大な成果を得たことを高く評価した」と記された部分がそれにあたる。
メディアの記事のなかには、1978年、トウ小平が「改革開放政策」を打ち出した第11期3中全会と比較するものも見受けられたが、中国の体質を一変させるような大変革と今の時代とは根本的に違う。天安門事件後に江沢民総書記が選出されたのが1中全会ではなく4中全会であったような話だ。
そうした点を踏まえて3中全会を見てゆくと、まず中央委員会全体会議は先に述べたように大きな方向性を描き出すのが役割だ。これは「選択」とも解釈できる。
例えば、中国の交通事情を整理しようとしたとき、どの問題を優先的に解決してゆくべきかの選択と同じだ。舗装された道路を増やすのか、それとも既存の道に信号機を増やすのを優先すべきか、といった選択だ。マンパワーが限られるなかで、飲酒運転の取り締まりを強化するのか、それとも先に駐車違反を撲滅するのかといった話でもある。交通安全を取るのか、スムーズな流れをとるのかという考え方の選択であるのと同時に、資源の配分をどう行うかという選択でもある。
今回の3中全会の直前、CCTVは複数の番組で特集を組んだが、そこで目立ったのは「協調」という言葉だった。例によって次々と大きな成果が強調されるなか、「大きな課題も残った」という流れのなかで使われたのが「協調」である。つまり、格差の是正が相変わらず大きな課題だと大会前に大宣伝したことになる──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年7月21日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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