独裁国家と呼ばれている中国の方が民主国家と呼ばれている欧米諸国より、よほど「民主主義的」であり「協調性が高い」・・・まさに【正攻法】ですね。
混乱が続くパレスチナの14勢力の代表を北京に招き、統一政府樹立に合意する宣言への署名を実現させた中国政府。
中国式の和解は、ハマスも排除しない点で特徴的で、正邪と好悪で白黒をはっきりさせたがる西側的価値観には反する。
中国式の仲介は、即効性や強制力がない反面、最終的な落としどころという意味では、着実な布石を打っている。
アメリカの鼻を明かした中国。パレスチナの分断終結と民族団結強化の「北京宣言」署名に導いた“正攻法外交”
混乱が続くパレスチナの14勢力の代表を北京に招き、統一政府樹立に合意する宣言への署名を実現させた中国政府。昨年のサウジアラビアとイランの「和解演出」に続く習近平政権の見事とも言える外交手腕を、国際社会はどう評価しているのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、中国式外交の特徴を解説。その上でアメリカをはじめとする西側諸国の反応を取り上げるとともに、中国への支持がグローバルサウスを中心に広がりつつある事実を紹介しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:あくまで正攻法の中国式外交が世界で存在感を増す理由
あくまで正攻法の中国式外交が世界で存在感を増す理由
アメリカにとって見たくない展開だったのは間違いない。
7月21日、パレスチナ解放機構(PLO)の主力勢力「ファタハ」やイスラム原理主義組織「ハマス」など14勢力が中国の招きで北京に集い、和解に向けた協議を行った。23日の閉会に合わせ、各勢力代表は分断の終結とパレスチナの民族団結の強化に関する「北京宣言」に署名した。
思い出されるのは昨年3月、やはり中国の仲介で電撃的な和解のプロセスに入ったサウジアラビアとイランだ。
いずれも深い対立関係にあり「和解が困難」とされた当事者が、中国の仲介で同じテーブルに着き、合意にまで至ったのだから、その衝撃は計り知れない。
泥沼の戦闘のなか、民間人の犠牲が増え続けるガザの惨劇を止められない問題の裏には「まとまらないパレスチナ」という深い悩みがあった。その対立の中心にいるのがハマスとファタハなら、なおのことだ。
イスラエルの破壊とイスラム国家の樹立を掲げテロを繰り返したハマス(ガザ地区を実効支配)とヨルダン川西岸で暫定自治政府を主導する穏健派の政治勢力ファタハは水と油とされてきた。
対立激化の原点は2006年。自爆テロを繰り返し国際社会からテロ組織と非難されてきたハマスが、パレスチナ自治政府が行った選挙で過半数の議席(立法評議会)を獲得して以降だ。
テロ組織・ハマスの政権参加を警戒し支援の打ち切りをちらつかせる国際社会の勢いを借りてファタハはハマスをヨルダン川西岸から駆逐。一方のハマスはガザ地区からファタハを追い出し、実効支配。反目を続けてきた。
出口の見えないパレスチナ内部の闘争は、ガザ停戦後のビジョンが描けないという意味で、イスラエルとハマスの合意を阻害する大きな要因ともなってきた。
とくにイスラエルは、パレスチナがまとまらないことを口実に、「近い将来はわれわれがガザ地区の安全管理を維持しなければならない」(イスラエルのベンヤミン・ネタニアフ首相の米議会での演説)と、ガザ地区を支配下に置くと宣言している。
まとまれない弱さ──。そんな隘路に陥ったパレスチナ情勢に、突然、思わぬ方向から一石を投じたのが中国であり、その成果が「北京宣言」だった。
中国はこれ以前から三段階からなる二国家共存に向けたロードマップを発表している。第一段階で停戦。第二段階ではパレスチナの臨時統一政府の統治。第三段階でパレスチナの国連への正式加盟という流れだ。
第二段階で示された臨時統一政府にはハマスも含まれる。しかし、それはハマスの統治ではなく、あくまで14勢力の一つとして参加するということで、存在を薄め国際社会の抵抗を抑えようというのだ。
ある意味現実的な提案だ。国連は「パレスチナの諸勢力が『北京宣言』に署名したことをアントニオ・グテーレス事務総長は歓迎している。パレスチナの団結を推進する重要な一歩だ」(デュジャリック報道官)との声明を出した。
だが、ハマスのせん滅を公言するイスラエルも、それを支援するアメリカも「北京宣言」を歓迎するはずはない。
イスラエルのイスラエル・カッツ外相は「アッバス議長はハマスの殺人者や強盗犯と手を結び本当の顔を暴露した」と即座にSNSに投稿。アメリカ国務省のマシュー・ミラー報道官も、「戦後のガザ地区の統治にテロ組織の役割はない。ハマスはテロ組織だ」と会見で不快感を露わにした。
アメリカとイスラエルの反発という以前にも、「北京宣言」に対する懐疑的な見方は西側メディアでは目立つ。
ドイツのZDFは、中国政府がこの仲介を自画自賛していると報じる一方で、「この合意は何ももたらさない」という中東問題の専門家のコメントを紹介している。
中国自身、そうした批判は想定範囲内で、中国外交部の毛寧報道官は「平和は一朝一夕でできるものではないが、正しい方向に向かって進み続けるべきだ」と応じた。
この場合の正しい方向とは、政治的解決、いわゆる話し合いでの解決のことだ。対極にあるのは、アメリカの力による解決だ。力の行使とは、いわゆる軍事力の行使から経済制裁、国際社会からの排除などなどだが、そうした解決には限界があることを暗に批判したコメントだ。
力の行使は分かりやすく、即効性が期待できる反面、根本的な解決に至ることは少なく恨みが残る。それは次の紛争の火種にもなる。
中国式の和解は、ハマスも排除しない点で特徴的で、正邪と好悪で白黒をはっきりさせたがる西側的価値観には反する。
しかし現実はどうだろうか。
象徴的なのは24日から中国を訪問し、広州で王毅外相と会談したウクライナのドミトロ・クレバ外相の動きだ。その前にはヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が突然、「ロシアと話し合う」と発信し世界を驚かせた。これを伝えた米CNNテレビ(7月21日)は「いつになく抑制された口調で国民向けの演説を行い、ロシアとの交渉に前向きな考えを示唆した」とそれを報じている。
現段階では大きな妥協とは言えないものの、変化の兆候であることは間違いない。
要因は、米大統領選でウクライナ支援に消極的な「ほぼトラ」の要素が高まったことだと言われる。ウクライナの正義は大統領選次第というのが現実だからだ。
またウクライナ国民の戦争への考え方に変化が生じ、厭戦に傾きつつある点も見逃すことはできない。
中国式の仲介は、即効性や強制力がない反面、最終的な落としどころという意味では、着実な布石を打っている。
以前、サウジアラビアとイランの和解を取上げたときにも触れたが、中国の進める和平プロセスは、対立よりも利益を重視し、双方がそのメリットを確認すれば不可逆性が高まるからだ。
興味深いのは、この「中国式」への支持がグローバルサウスを中心に広がりつつあることだ。
27日、多くのメディアは「BRICS」(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ5カ国を中心に生まれた新興国グループ)に参加を希望する東南アジア諸国連合(ASEAN)の国が増えていると報じた。タイやマレーシアが積極的なのに加えて「ラオス、カンボジア、ミャンマー、ベトナムもBRICS加盟の意欲があると報じられている。ASEAN10カ国では半数を超えている」(「朝日新聞」7月26日)という。
もはや「北京宣言」を笑ってばかりいられない。
コメント