ドル高だから「ドルが紙屑」にならないわけではない、円安だから日本が没落するわけではない

現代の日本

ドル円相場も乱高下が予想される。かつてのような不自然な円高はないかもしれないが、円安一辺倒というわけではないと考えてよいのではないだろうか。

長期的には円安の流れが継続するように思われるが、短期的な為替相場はまったく予想がつかないということだ。

ドル高だから「ドルが紙屑」にならないわけではない、円安だから日本が没落するわけではない(大原 浩) @moneygendai
ドル円相場も乱高下が予想される。かつてのような不自然な円高はないかもしれないが、円安一辺倒というわけではないと考えてよいのではないだろうか。長期的には円安の流れが継続するように思われるが、短期的な為替相場はまったく予想がつかないということだ。

ドル高だから「ドルが紙屑」にならないわけではない、円安だから日本が没落するわけではない

そもそも米国が繫栄した時代はドル安だった

円高時代の始まり

私の「投資ビジネス」との関わりは、上田ハーローで外国為替取引を始めたことからスタートした。それ以来、おおよそ40年の歳月が流れたわけだが、常に感じていたのは「外国為替相場の『合理的(論理的)』将来予想は困難である」ということだ。

例えば、昨年12月26日公開「これから円高か?円安か?プラザ合意以来の円高局面は半世紀単位で転換したのだろうか」冒頭「固定相場制とニクソンショック」で述べたように、1949年に1ドル=360円の単一為替レート(固定相場)となった。その後、1971年のニクソンショック(金・ドル交換停止)を経て、1973年に1ドル308円の固定相場制から変動相場制に移行した。

リチャード・ニクソン元米大統領  by Gettyimages

この時期の円高は、振り返ってみれば「米国が没落し、日本が勃興した結果」のように思える。

つまり、第2次世界大戦後大繁栄した国力が衰え(事実上の)金本位制を維持できなくなった米国に対して、戦後1955年頃から1973年頃の約20年にわたり,経済成長率(実質)年平均10%前後の高い水準で「高度成長」を続けた日本の通貨の方が高く評価されたというわけである。

また、1985年のプラザ合意前日のドル円相場は242円であったが、一気に円高となり、1988年の年初には、1ドル=128円をつけるまで進行した。

この円高も、1979年のエズラ・ヴォーゲルの著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」に象徴されるような「日本の勢い」の影響が強かったと言えるかもしれない。ただ、この時期にはすでに日本の「高度経済成長」は終わっており、今から振り返れば「バブル」であったといえよう。

また、当時のトップトレーダーの多くは「ドル売り・円買い」のポジションが基本であった。日々の相場の変動はあっても、長期的には円高トレンドであったからだ。

「失われた30年」は「円高時代」

Let’s GOLD「ドル円相場長期チャート:1971年以降」を見ると一目瞭然だが、1990年頃にバブルが崩壊して日本が「失われた30年」に突入したにもかかわらず、さらに円高傾向が続いた。

過去最大の円高をつけたのは、2011年10月31日の1ドル=75円32銭だが、東日本大震災直後かつアベノミクスが始まる前の「日本の一番暗い時代」ともいえる。

この「円高」はどのように説明されるであろうか?「日本の国力が増加したから円高になった」と主張する人々が果たして存在するであろうか?

むしろ逆目線で考えれば、「円高によって日本の国力が低下した」と言えるかもしれない。

「失われた30年」の主要な原因としてデフレがあげられるが、円高による海外への工場移転も日本の「失われた30年」の大きな理由である。そのダメージを最も受けたのが、5月4日公開「地方の製造業が日本を繁栄に導く~特に浜松、スズキ、ホンダ、ヤマハ、カワイ、浜松ホトニクスなどを生んだその『心意気』」で触れた日本の地方であろう。

逆に言えば、1990年代前半からITや「新型金融」を牽引車として繁栄を謳歌してきた米国は、その間おおよそ四半世紀(円に対して)「ドル安」であったということになる。

これが、私が為替相場の合理的な説明が困難だと考える理由である。

約四半世紀にわたる(円に対する)「ドル安」の間、ベトナム戦争以降の「失われた20年」を吹き飛ばした米国は空前の繁栄を手に入れた。

ましてや日本は、2021年5月9日公開「日本の『お家芸』製造業、じつはここへきて『圧倒的な世界1位』になっていた…!」で述べた製造業立国であり、円安が「日本の追い風」になることは充分考えられる。

もちろん「為替相場の合理的予想」は難しいが、これまでの「国力に合わない円高」から解放されて、「円安の追い風」を受けることができるのであれば、日本にとっての朗報である。

為替相場には「二つの変数」がある

ウォーレン・バフェットは、「市場が(経済学者などが言うように)合理的であるのなら、私は今頃物乞いをしていたであろう」と述べる。

例えば、昨年9月16日公開「『どうしたら儲かりますか?』と聞かぬこと。投資は恋愛と同じ、ストーカーになったら終わり」3ページ目「投資はメンタルが重要」で触れた名言「市場が熱狂している時には臆病に、意気消沈している時には大胆にふるまえ」という金言が象徴的だ。

暴落した時の株価を合理的に説明するのは困難であるし、バブルの時の株価を説明するのも同様だ。要するに極めてあいまいな「人間心理」に左右されるということである。

そのためバフェットは「私には未来予測など出来ない。もしできるという人がいるのなら目の前に連れてきてほしい」とも述べるのだ。

それではバフェットはどのように投資で成功したのか?「優良な企業は、どのような未来がやってきてもそれに対応して繁栄する」と考えて、徹底的に企業を分析し「優良な企業」だけに投資をすることを心掛けたのだ。もちろん、それでも「想定外」の事はしばしば起こるから「備え」を怠らない。

この手法は「外国為替」に応用できるであろうか?

まず、どのような大企業よりも、日本や米国のような国の規模ははるかに大きい。企業に対するのと同じ分析手法によって全体像を把握することは困難だといえよう。

しかも、株式市場の場合変数は「企業の株価」=Xという一つだけだ。ところが、外国為替市場では常に二つの変数に注目しなければならない。例えばドル円相場であれば、「ドル=Y」と「円=Z」である。このYとZに反映されるそれぞれの「国の価値」の相対関係によって為替相場が決定される(厳密に言えば、株価も日本円やドルなどによって表示されるが、複雑になるのでここではそれを論じない)。

一つの変数だけでも大変なのに、二つも変数があるとその「(変数を構成する要素の)組み合わせ」が爆発的に増加し予想を困難にさせるというわけである。

しかも、かつての為替相場は「ほぼ実需」によって決定されていたのに、現在では金融機関などの職業トレーダーだけではなく、一般の人々もFXなどの取引を行っている。

2019年3月7日公開「投資の神様・バフェットはなぜ『株価の下落』を喜ぶのか」2ページ目「ミスター・マーケットに振り回されるな」で述べた「マーケット君(ミスター・マーケット)」が活躍する余地が広がっているのだ。

前述のように、プラザ合意からバブル崩壊あたりまでの動きが説明可能なように見えるのに、それ以降の為替相場が説明不能に思えるのも「市場の変質(膨張)」が大きく関係しているのかもしれない。

米国が円安を「容認」する理由

もちろん、現在のドル円相場には、不自然な日本の低金利が大きく影響している。

米国では、財政赤字やドルを刷りすぎたこと、さらには日本の1989年頃を思い起こさせるような強烈なバブルが大きなき重荷になっており、(後述するアンカー役の)日本の「利上げ」は脅威である。

一方、プラザ合意などを見ればよくわかるが、米国の貿易赤字を助長する日本の円安には過去きわめて厳しい姿勢であったのが米国だ。

プラザ合意そのものが為替相場にどれほど具体的な影響を与えたのかという合理的説明は困難だが、その後猛烈な勢いで円高が進んだことは、前記「ドル円相場長期チャート:1971年以降」から明らかである。

それに対して今回、これほど円安が進んでいるのに米国がほぼ「沈黙」を保っているのは、「ドル高・円安」よりも、昨年9月9日公開「再び猛威を振るうインフレの『第2波』、世界のアンカー=錨、日銀が利上げに踏み切るとき」で述べたように、世界の金利のアンカー役である日本の利上げの方が彼らにとって都合が悪いという明白な証拠だといえよう。

もちろん、4月18日公開「いよいよ金利上昇、日本の財政は崩壊するのか、『マイナンバー銀行口座紐づけ』の真の目的は?」で述べた、健康保険や年金も含めた日本の「財政」状況にとっても利上げが好ましくないのは明らかだ。日銀が「ぐずぐずしている」理由はそこにもある。

だが、その判断が昨年11月27日公開「戦争が耐えがたいインフレを招来~エネルギー産出国、食料生産国が『覇権』」の鍵を握る」のような強烈なインフレを招くのではないかと恐れている。

米国の国力低下と横暴でドルへの信認が失われている

一方、基軸通貨としてのドルは、1971年のニクソンショック(金ドル交換停止)以来国力の衰えだけではなく、無茶な「経済制裁」によって世界からの信認を失っている。

ジェトロ 2022年3月1日「バイデン米政権、ロシア中銀などへの金融制裁を強化」のような手法は「やりすぎ」であり、米国やドルに対する世界中の国々の信認を低下させた。

さらにはロイター 5月9日「EU、ロシア凍結資産活用で合意 利子でウクライナ軍事支援」との事態にまで至った。このような行為は、「異常」である。

これでは「米国の機嫌をそこねたら何をされるかわからないから、ドル資産を持つことはやめよう」と考える国々が増えるのも当然だ。もちろん、EU(ユーロ)についても同様だ。

日本も米国の尻馬に乗って経済制裁に加担すると、同じように見られるから慎重な行動が求められる。

さらに(事実上の)金ドル交換停止が「ニクソン『ショック』」と呼ばれるのは、世界中の多くの人々がそれを予想していなかったからだ。実は、この時には米政府の金準備が枯渇(少なくとも実質的金本位制を維持できる状態ではなかった)していた訳だが、それに気が付いた人々はほとんどいなかった(いまだに米国の金準備が「本当は」どのくらいあるのかは「謎」である)。

今回やってくる『ショック』にどのような名前がつけられるのかは分らないが、「多くの人々が予想していない」ものであることは確かだと思う。

為替相場は動乱の時代へ向かうか?

結局のところ、ニクソンショック以前の(実質的)金本位制に戻ることは考えられず、新たな基軸通貨候補も見当たらない。通貨バスケット方式などが模索されるであろう。

ドル円相場も乱高下が予想される。かつてのような不自然な円高はないかもしれないが、円安一辺倒というわけではないと考えてよいのではないだろうか。

長期的には円安の流れが継続するように思われるが、短期的な為替相場はまったく予想がつかないということだ。

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