イタリアの冬季大会まで1年、深刻な五輪離れ…初の日本人候補がいるIOC次期会長選も無関心、もう五輪はいらない?

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イタリアの冬季大会まで1年、深刻な五輪離れ…初の日本人候補がいるIOC次期会長選も無関心、もう五輪はいらない? | JBpress (ジェイビープレス)
イタリア北部のミラノ・コルティナダンペッツォで開催される2026年冬季五輪の開幕(来年2月6日)まで残り1年を切った。五輪関係を巡っては、国際オリンピック委員会(IOC)の次の会長(1/4)

イタリアの冬季大会まで1年、深刻な五輪離れ…初の日本人候補がいるIOC次期会長選も無関心、もう五輪はいらない?

「ぼったくり男爵」と揶揄されたIOCのトーマス・バッハ会長(写真:ロイター/アフロ)

 イタリア北部のミラノ・コルティナダンペッツォで開催される2026年冬季五輪の開幕(来年2月6日)まで残り1年を切った。五輪関係を巡っては、国際オリンピック委員会(IOC)の次の会長を決める選挙も3月下旬に行われる。

 現会長は、新型コロナウイルス禍の東京五輪・パラリンピックで経費負担を東京側へ押しつけ、強行開催のイメージを強めたIOCの象徴として、海外メディアから「ぼったくり男爵」と揶揄されたトーマス・バッハ会長(独)。日本でも悪評を買ったバッハ氏の任期満了に伴う後任選びとなる今回は7人が立候補している。

 この中には、国際体操連盟(FIG)会長を務め、日本人として初めて立候補した65歳の渡辺守成氏も含まれるが、日本国内での関心はどうにも高まらない。

 コロナ渦に開催ありきで東京大会を推し進めたIOCの傲慢な姿勢やその後の「カネと利権」をめぐる不祥事で「五輪離れ」が加速。札幌市は2030年冬季五輪の招致から撤退し、トヨタ自動車など日本企業が最高位のスポンサーから相次いで撤退。他方、人気スポーツは五輪がなくとも、プロ化や賞金レースで盛り上がっている。

 アマチュアリズムを提唱していた五輪はプロ選手の解禁へと舵が切られ、プロアマの区分けもボーダーレス化している。五輪は開催都市が当該国の経済成長や国力をアピールする狙いもあったが、近年は海外でも開催費用の高騰などで住民の反対によって立候補を取りやめる事態が相次ぐ。

 五輪そのものの存在価値が世界的に揺らぐ中、IOCのトップを決める選挙に注目が向かないのは当然かもしれない。

「ぼったくり男爵」の後任に日本人?

 IOC次期会長選の候補者7人は1月30日、スイス・ローザンヌで記者会見に臨んだ。同日は、候補者によるプレゼンテーションが、投票権を持つIOC委員に対して行われた。

 立候補しているのは、バッハ会長の「後継者」として期待されるアフリカ出身、女性としても初の会長就任を目指すカースティ・コベントリー氏(ジンバブエ)、12年ロンドン五輪の組織委員会トップを務めて世界的な知名度も高い世界陸連会長のセバスチャン・コー氏(英)、サウジアラビアで今年開催予定の「オリンピック・eスポーツ・ゲームズ」を主導したダビド・ラパティアン氏(仏)、さらには日本から立候補した渡辺氏らだ。

IOC次期会長選に立候補した渡辺守成氏(写真:ロイター/アフロ)

 渡辺氏は、17年にアジア人初のFIG会長に就任。21年東京五輪では国際ボクシング協会(AIBA)の不明朗な組織運営が問題視され、代わりに五輪での競技運営を主管したIOCの作業部会で座長を務めた。

 渡辺氏は今回の立候補に際し、原則的に一つの都市で全ての競技を実施してきた夏季五輪を同時期に「5大陸5都市による共催」という大胆な構想を打ち出した。開催都市の負担経験と競技環境に適した気候条件で実施できる地球規模での分散開催案については、朝日新聞が、海外メディアも「革命的な候補者だ」と評したと紹介した。実現のハードルは高いが、熾烈な選挙戦に与えたインパクトは大きいといえる。

 しかし、日本人がIOCトップを目指す状況にもかかわらず、日本国内でのIOC会長選への関心は高まらない。会長選の動向もほとんど報じられていない。背景にあるのは、日本国内における「五輪離れ」の加速だろう。

最高位スポンサーに日本企業がいなくなった

 2013年9月のIOC総会で東京大会の招致実現が決まった直後には、東京での2度目の五輪開催に経済効果などの期待も高まった。1964年の東京大会が戦後復興の象徴との位置付けならば、20年大会は「成熟都市」としての東京を世界にアピールし、大会を契機としてインバウンド需要の増加も見込まれた。

 しかし、開催費用は当初の甘い見積もりから大きく膨らみ、贈収賄疑惑や組織委トップだった森喜朗氏の女性蔑視発言による辞任などでイメージが悪化。極めつけがコロナ渦での1年延期と、開催に慎重だった世論の声を押し切っての無観客開催だった。

 無観客でも開催すれば莫大な放映権料などを手にできたIOCに対し、東京の宿泊業は大打撃。一方で、会計検査院が発表した五輪とパラリンピックにかかった総経費も最終的に約1兆7000億円に上った。

 日本は史上最多となる金メダル27個を含む58個(銀14、銅17)のメダルを獲得するなど、コロナ禍を乗り越えたアスリートの奮闘にもかかわらず、その後に汚職・談合事件が発覚。世論の“逆風”はすさまじく、札幌市が30年冬季大会への立候補断念を余儀なくされた。

 また、トヨタ自動車、パナソニックホールディングス、ブリヂストンがいずれも24年限りで、IOCの最高位スポンサー契約を終了。日本勢の最高位スポンサーがいなくなった。

 NHKによれば、トヨタ自動車の豊田章男会長は、自社のメディアで「(IOCは)政治色が強くなったし、こういう形でいいのかとずっと疑問に思っていたのが契約通りにやめる理由だ」などと語ったという。

国内にもはや「五輪特需」なし

 五輪に対する国内の盛り上がりもかつてほどではない。かつては、金メダリストなどを報じる記事がスポーツ紙の一面を飾るほどに注目度が高かったが、あるスポーツ紙関係者は昨夏のパリ五輪開催期間中についても、「新聞の読者離れの影響ももちろんあったが、“五輪特需”で新聞が売れるという効果はあまりなかった」と打ち明ける。

「五輪離れ」が加速しているのは、日本だけではない。夏季、冬季大会にかかわらず、立候補を表明した都市も住民の反対から撤退するケースが目立つ。04年夏季大会には、11の都市が立候補したのに対し、20年後の24年大会はわずか2都市しか集まらず、IOCは24年をパリ、28年をロサンゼルスへ振り分ける異例の決定を下した。

 人気スポーツはプロ化され、五輪自体もかつてのアマチュアリズムからプロ選手の参加解禁へと舵が切った。テニスやゴルフのトップ選手は以前から4大メジャー制覇へ照準を定めてツアーを回り、マラソンなども賞金レースが世界各地で活況だ。

 サッカーは五輪出場に年齢制限を設け、野球は日本などがプロ選手を派遣するが、米大リーグ機構はメジャー選手を派遣せず、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)によって世界的な競技普及を目指す。また、地球規模での気候変動で、夏季の猛暑や冬季の雪不足が深刻化する。

 開催時期も、欧米で大きなスポーツイベントが手薄な時期のテレビ視聴率とIOCが受け取る放映権料の兼ね合いから、秋などへ移行する実現の可能性は乏しい。

 マイナー競技は、IOCが手にする巨額な放映権料やスポンサー収入からの分配金に財政面で大きく依存し、五輪が世界的に多様なスポーツを普及させてきた一面は否定できない。ただし、従来の枠組みにとらわれた五輪では、持続可能性の観点からも世界的に支持を失っていくことは避けられないだろう。

 開幕まで1年を切った26年冬季五輪は、ミラノ・コルティナダンペッツォの2都市がそれぞれ大会組織委員会をつくる「広域開催」が特徴で、IOCの開催都市への財政的な負担を減らす狙いも見てとれる。だが、抜本的な改革とはほど遠い。

 スポーツ関係者からは「五輪も決して永遠に開催が続けられるほど、安泰とは言えない」と存在価値の低下に警鐘を鳴らす声も聞こえる。

「五輪」というワードそのものがすっかりネガティブなイメージを定着させてしまっているが、IOCにとって五輪への「批判」が、「無関心」へ変わることほど、恐いことはない。

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