
「虹」はなんで「虹色」に見えるの? 「波の屈折」を徹底解説!
大人なら知っておきたいそのメカニズム

大好評! ブルーバックス『いやでも物理が面白くなる〈新版〉』(著・志村史夫)に惜しくも収録されなかった「波」についてお届けする短期集中連載!
第3回、最終回の今回は「波の屈折」についてご紹介! 「虹」と「夜汽車の音」のヒミツの鍵を握る「屈折」現象とは? 今回は特別に書籍版『いやでも物理が面白くなる〈新版〉』に掲載されている内容もちょい見せしちゃいます!
【過去の連載】
第1回:身近で体感!「波」を知りたければ「野球場」と「釣り堀」に行こう!
第2回:一番「きれいな音色」の楽器は何? 「音波」の正体に迫る!
「虹」、ボーっと見てませんか?
雨上がりの後、太陽が空の一部で輝くと、美しい半円状のスペクトル、すなわち「虹」が現れることがある。
大きな滝の前面に見える虹も美しい(私は、昔見たナイアガラの滝の前面の虹をいまでもはっきりと憶えている)。また、夏の日、庭にホースで水をまいているときなどにも小さな虹を見ることがある。

虹は、どのようにしてできるのだろうか? 誰もが知っている虹ではあるが、そのメカニズムは簡単ではない。
カギを握るのは「水滴」だった!
虹を初めて科学的に説明したのは、近世哲学の祖、解析幾何学の創始者といわれるデカルト(1596〜1650)と考えられており、1637年に公刊された『方法序説』の中に絵入りで説明されている。デカルトは、「われ思うゆえにわれあり」の言葉で有名な、ニュートンより一世代前のフランスの天才である。
さて、虹ができる(正確には、虹が私たちに、あのように見える)メカニズムを考えてみよう。
虹は、①空中に無数の水滴があり、②太陽を背にしたときに見える(図1)。この二つの条件が満たされなければ虹は決して見えないから、虹に水滴と太陽光が深く関わっていることは確かである。

「最初のタネ」を明かせば、虹は、三次元空間に浮遊する無数の水滴の一粒一粒が、それぞれプリズムのはたらきをした結果の現象である。
太陽光がプリズムを通ると分光されて虹色のスペクトルが現れることを考えれば、「ああそうか、水滴がプリズムの役割を果たすのか」と、虹のメカニズムがなんとなくわかるような気がするだろう(図2)。

図2中のスクリーンが曇りガラスのようなものでできているとすれば、スクリーン上の「虹」をAの位置からもBの位置からも見ることができる。確かに、スクリーン上に「虹」が見えるのだが、この虹の形は「ほんものの虹」のように半円状にはなっていない。また、「ほんもの」の場合と決定的に異なるのは、実際の空中にはスクリーンのようなものなどないということである。
つまり、図2で「ほんものの虹」を説明することはできない。虹が空中に図1のように半円形の美しいスペクトルとして見えるメカニズムを説明するのは、それほど簡単なことではないのである。なにせ、あの天才・デカルトですら相当に苦労したのだ。

虹が半円形になることはさておき、まず、空中に光のスペクトルが帯状に「見える」メカニズムについて考えてみよう。
虹を支配する「屈折」のヒミツ
図3に示すように、1個の水滴(三角柱状のガラスのプリズムとは異なり、球状である)に太陽光線が入射する場合のことを球の断面で考える。
光の一部は〈屈折―屈折〉を経て水滴を通過し、一部は〈屈折―反射―屈折〉を経て入射側に出てくる。

光が〈屈折―反射―屈折〉を経て外側に出てくるとき、光の波長(色)によって振れ角(より正確にいえば屈折率)が異なるため、最も大きく曲がる紫(入射光と反射光のなす角度40度)から最も曲がりが小さい赤(同42度)まで、可視光の色のスペクトルに分散する(図2で説明した通り)。
このような1個の水滴からのスペクトルを観測すると、観測者の目には一つの色しか見えない。図3には赤しか見えない場合が描かれているが、見える色が目あるいは水滴の位置(高さ)に依存することは理解できるだろう。
しかし、空中には無数の水滴が浮遊しており、観測者には、結果的に赤から紫までの色のスペクトルが帯状に見えることになる(図4)。観測者の目には、水滴を経たさまざまな色の太陽光が直接、飛び込んでくるわけで、図2に示されるようなスクリーンは不要なのである。

あるいは、水滴の一つ一つが微小なスクリーンだと考えることもできよう。これで、虹が帯状の色のスペクトルに見える理由が理解できたと思う。
※ホンモノの虹が半円に見える理由については、書籍版『いやでも物理が面白くなる〈新版〉』をご参照ください。
光だけじゃない!「音の屈折」って?
夏目漱石の『こゝろ』の中にも「世の中が眠ると聞こえだすあの電車の響き」と書かれているように、昼間は聞こえない遠くを走る列車の汽笛や電車の音が、夜になるとはっきり聞こえた、という経験を持っている人は少なくないだろう。
その理由について、考えたことがあるだろうか?

もちろん、夜になって周囲が静かになったということも無視できないが、ここには音の性質に関わる本質的な理由がひそんでいる。
地面と大気の熱的性質(比熱、熱容量)の違いから、好天の昼間は地面に接する空気のほうが上空の空気よりも温かい。ところが、夜になると放射冷却の作用で地表面の空気のほうが上空の空気より冷たくなる。音速は温度に依存し、温度が高いほど大きくなる性質を持つ。
すると、昼間は地表に近いほど音速が大きくなり、音の進路は地表から遠ざかるように上方に曲げられる(図5)。

つまり、音は遠方の地上には届かない。一方、夜になると逆に上空ほど音速が大きくなり、音の進路は地表に近づくように曲げられる。このために、音は遠方にまで届くのである。
音に限らず、一般に波の進路が曲がることを「屈折」という。もし、波の速さが場所によって異なるために音の進路が曲がる、つまり屈折することがわかりにくかったら、オリンピックなどの開会式で、選手団が楕円形のトラック上を行進するようすを思い浮かべるとよい。

選手団の行進方向が曲がるのは、列の内側と外側の選手の歩く速さが異なるからである。すなわち、速さが遅いほうに曲がる。ブルドーザーのように、両側にキャタピラがついた車両が方向転換する原理とまったく同じである。
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