BRICS拡大を読み解く・・・BRICSの実現基盤は、資源=石油・ウランの囲い込みと科学技術力の上昇・ 経済の構造改革、そして絶対王政、独裁体制の利点

現代の世界各国

2023年8月22~24日「第15回BRICS首脳会議」

第15回BRICS首脳会議の結果

 この会議でブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5か国で構成するBRICSにアルゼンチン、サウジアラビア、UAE、イラン、エジプト、エチオピアの6カ国が新規加盟国となりました。
 この加盟が意味している内容についての記事になります。

 BRICS新通貨の導入についての議論や発表はなかったようですが、基軸通貨が米ドルからBRICS通貨に代わるのではなく、基軸通貨自体が必要ない、という判断になっているのではないでしょうか。
 いずれにしても、ドルが基軸通貨でなくなるのは必然であり、気が付けば、世界中の取引にいつの間にかドルが全然使われていない、というような状況になると思います。

基軸通貨が米ドルからBRICS通貨に代わるのではなく、基軸通貨自体が必要ない, についてYouTubeで解説:

BRICSサミットでは、噂された米ドルに代わる基軸通貨の発表はなかった。
レーガン政権の財務長官次官補、経済学者ポール・クレイグ・ロバーツは「いまや基軸通貨は必要なくなった」と指摘。
ドルが基軸通貨である意味は、米国が巨額の貿易赤字を出しても維持できるということ。2022年の米国の貿易赤字は過去最大の9,453億ドル。この大量のドルが米国外にある。ドルを持つ国は世界で最も安全で、最も流動性の高い米国債を購入。
 特に、1973年、ニクソンがサウジアラビアと交わした取引で、ペトロダラー体制へ。ドルに対する大きな需要が生まれた。すべての中央銀行は外貨準備高をドル建て資産, 米国債, 米国株で保有。 こうして、米国の財政赤字と貿易赤字には常に資金が供給さる。米国債の資金調達に問題が生じたことはない。ドルが基軸通貨であるとは米国には財政的な問題がないということ。
 しかし、変化が起きた。各国がドルの使用を放棄することで、米国の資金調達問題が初めて現実のものに。
 ドルの積み立てをやめる 米国債の購入をやめる 米国株の購入をやめる ドル建の金融資産の価格は下落 米国債の価格が下落すれば金利が上昇 ドルの価値も下落 輸入物価が上がり、生活水準は下がる 今日、各国が自国通貨で貿易を行い、自国通貨で決済することは十分に可能。BRICSだけでなく、どの国も。
 1945年以来、基軸通貨の必要性を洗脳されてきた。誰もが基軸通貨という概念に慣れすぎていて、基軸通貨のない世界を想像できない。
 脱ドル化のきっかけはロシア制裁。米国に従わなければ、外貨準備を没収される。他国から見ると、米国に没収される可能性があるのなら、ドル建ての外貨準備を大量に保有することに何の意味が?
 これが米国のネオコンのやり方。一国行動主義、ユニラテラリズム。米国が気に入らない国には軍事行動や経済制裁を行う。同盟国や他の国々の意見を考慮せずに決定を下す。
 BRICSプラスに新加盟したイランのライシ大統領は、イランのBRICS加盟は米国の一国主義に反対するグループの結束を強めると述べた。さらに、日本に対して、米国のイラン制裁で日本で凍結されたイランの資産を解除することで米国からの独立を! 脱ドル化の波は、日本にも変化をもたらす。日本が米国の経済制裁に同調することから離れ、円を国際貿易の準備通貨として広めていく可能性がある。

BRICSの実現基盤・・・資源=石油・ウランの囲い込みと科学技術力の上昇・ 経済の構造改革、そして絶対王政、独裁体制の利点

資源=石油・ウランの囲い込み

〇石油
 サウジ、UAE、イランが入ったことで、拡大後のBRICSは世界の石油輸出の39%、石油埋蔵の46%、産油量の48%を持つようになった。
 又、その市場操作により、サウジアラビア日量100万バレルの減産を12月末まで延長、ロシアも同様に日量30万バレルの減産を決定して、石油価格を維持している。

〇ウラン
 ウランの主な産出国は、 カザフスタン、カナダ、ナミビア、オーストラリア、ウズベキスタン、ロシア、ニジェール、中国、インド、南アフリカです。
 これらの国々は、BRICS4か国、カザフスタン、ウズベキスタンは旧ソ連国、ロシアの同盟国であり、BRICSのウラン、原子力エネルギーの囲い込みが実現され、実際、ウラン価格が暴騰しています。
 アメリカもロシアからウランの大半を輸入しており、その安全保障にも影響が出ているようです。

科学技術力 経済の構造改革→創造的破壊、ショック療法による変化

〇BRICS諸国の科学技術は向上し、経済の構造改革も進んでいる。
 サウジアラビアは、石油から金融、観光産業への経済構造改革が進んでいる。
 UAEもドバイでの成功を基盤にさらなる、経済改革を進めている。
 すべては、原油輸出による貿易黒字が原資であり、原油価格を維持することが必須となっている。

 イランは米国からの経済制裁に対抗し、自給自足のため、国内の科学技術力、工業力を発展させてきた。ロシアへ軍事ドローンを輸出しその高性能さで証明されており、科学論文も世界トップクラスの多さになっている。

 中国も同様で、米国からの経済制裁による半導体技術の飛躍的向上が実現している。
 特に極小半導体チップでは、10nmの壁から2023年インテルが7nm、韓国Samsung、台湾tsmc3nmに成功、中国も7nmの開発、実用化に成功しHuaweiの携帯に供給を開始している。
 科学論文の提出数は世界一となっている。これらも中国の貿易黒字が原資となっている。

絶対王政、独裁体制の利点

〇BRICS各国は、絶対王政、独裁体制の国がほとんど
 マイナス面として、少数派の人権弾圧が行われているのは事実であるが、同様に国民全体の最大多数の最大幸福を課題としていることも事実である。
 経済政策に失敗、或いは腐敗すれば失脚だけではなく、死が待っている。ある意味命がけで政治をしていると言える。宗教的対立より、経済重視である。

 一方、民主主義では、選挙があるので、ばらまき、短期的な人気取りしかできない状況にあり、さらに国際金融資本などの支配勢力に牛耳られている状況では、何ら実効的、長期的な国家運営はできない。

BRICS拡大を読み解く
外国の紛争に対する中国の戦略は、地元の仲裁役に任せてそれを支援する間接関与の傾向だ。中国はアフリカ北東部でエチオピアと組んでいる。中国が主導するBRICSの新規加盟国にエチオピアが入るのは自然なことだ。

BRICS拡大を読み解く

2023年8月27日   田中 宇


BRICSが南アフリカで開いたサミットで、アルゼンチン、サウジアラビア、UAE、イラン、エジプト、エチオピアの6カ国を新規加盟国として招待すると決めた。アルゼンチンとサウジとイランは確実視されていた。エジプトもアフリカの有力候補だった。
UAEとエチオピアは意外な感じがする。UAEは、サウジの弟分みたいな国で、人口も900万人しかいない。兄が入ったら弟は入らなくて良さそうなのだが・・・。アフリカで最も人口が多いナイジェリアでなく、2番目のエチオピアが入ったことも分析が必要だ。東南アジアの大国インドネシアが選ばれなかったのも意外だ。
Expanded BRICS to dominate global energy markets – data

サウジとUAEの両方が入った理由はいくつかある。一つは、BRICSが世界の石油ガス利権の大半を握り、米国側をエネルギー面で弱体化させていくためだ。サウジUAEイランが入ったことで、拡大後のBRICSは世界の石油輸出の39%、石油埋蔵の46%、産油量の48%を持つようになった。
2つ目の理由はUAEの外交力だ。サウジは米国に束縛されることが多く、今回のBRICS加盟もこれから米国の了承を得る必要がある。対照的に、UAEは身軽で自由に動けるので、アフガニスタンやイスラエルやアフリカの紛争などに外交的に関与している。
BRICS Invites the UAE – Another Sign That the Multipolar World Is Here
Persian Gulf leaders engage Taliban-ruled Afghanistan

BRICSを主導する中露は、米国が破壊し混乱させた中東やアフリカを安定化していきたい。それには中東やアフリカで外交力がある地元諸国の協力が必要だ。その意味で、UAEとエチオピアをBRICSに入れたのでないかと思われる。
‘Welcome to the BRICS 11’
What do BRICS invitations mean for the Middle East?

中南米とアフリカで加盟国を増やすことは予測されていた。中南米は、ブラジルが推していたアルゼンチンになった。だが、アルゼンチンの現政権はBRICSに対して冷淡で、招待されたのにBRICSサミットに代表団を送ってこなかった。
アルゼンチンは非米側のBRICSでなく、米国傘下のIMFに追加融資を求めている。しかも10月の大統領選で親米右派で中国敵視のハビエル・ミレイが勝ちそうだ。ミレイが次期大統領になると、アルゼンチンはBRICS加盟を断りそうだ。
How one new member can complicate things for BRICS

ブラジル自身、前大統領のボルソナロは親米右派(親トランプ)で、反米的なBRICSに冷淡だった。2022年に左派のルラが大統領になって(返り咲き)から、ブラジルは急にBRICSに積極関与するようになった。
アルゼンチンも、いずれ左派・ペロン派が返り咲けばBRICSに入る。BRICSのこの手の不安定さは、米覇権傘下のG7やNATOの堅い結束(というより束縛、同盟諸国の傀儡化)と対照的だ。米国側のマスコミ権威筋は「BRICSなんてダメだ。米覇権に取って代われるわけがない」と嘲笑している。

実のところ、結束が堅くければ強いというものではない。NATOは鉄の結束だが、ウクライナ戦争でボロ負けしている。G7はリーマン危機以降ゾンビ組織(G7の機能はG20に移転)で、米国が同盟国を束縛するためだけの組織だ。きたるべき米覇権の崩壊まで、BRICSは弱いふりをしていた方が良いので、中南米の右往左往はちょうどいい塩梅だ。
‘A wall of BRICS’: The significance of adding six new members to the bloc

アフリカで人口が最も多いのはナイジェリアだが、米仏のアフリカ支配の片棒担ぎをやっている。最近ニジェール(やマリやブルキナファソ)が、アフリカを不安定にするばかりの米仏に愛想を尽かしてクーデターで親露側に転換した後、ナイジェリアは米仏に味方してニジェールに侵攻する制裁をやると言い続けている。
アフリカの非米化とロシア

ナイジェリアはアフリカの安定に貢献しないのでBRICSに入れなかった。替わりに入ったエチオピアは中国ととても親しい。中国は、世界的な大国(極の一つ)になるための練習として、2000年代からアフリカのスーダン周辺の紛争を仲裁し、その際に地元の仲裁役としてエチオピアと組むようになった。
(中国は当時、日本に対し、一緒にアフリカを安定させようと誘ったが無視された。対米従属が何より大事な日本は独自外交など決してやらない)
Can China Broker Peace in Sudan?

外国の紛争に対する中国の戦略は、米欧流の直接関与よりも、地元の仲裁役に任せてそれを支援する間接関与の傾向が強い。中国は、アフリカ北東部ではエチオピアと組んでいる。
アフリカの統合を目指すアフリカ連合の本部はエチオピアにあり、本部ビルは中国が建設して寄付した。中国が主導するBRICSの新規加盟国にエチオピアが入るのは自然なことだ。
Explaining China’s involvement in the South Sudan peace process

BRICSへのエチオピアの加盟が中国の肝いりであるのと並んで、エジプトの加盟はロシアの肝いりだ。エジプトは、アラブの春で政権をとったムスリム同胞団を軍部がクーデターで倒して今のシシ政権になったが、軍事政権を嫌う米国に冷遇され、シシのエジプトは安保面でロシアに頼る傾向を強めた。
Sudan conflict: how China and Russia are involved and the differences between them

エジプトやUAEはイスラエルとも親しいので、サウジのBRICS加盟と合わせ、パレスチナ問題もBRICSで取り扱える。
中露敵視の流れに沿うと、エチオピアやエジプトのBRICS加盟は中露のアフリカ支配が強まるだけだと思うかもしれないが、実際は中露がBRICSを使ってアフリカを紛争解決して安定させようとしている。
BRICS grows to include Ethiopia – what should we make of the expansion?

東南アジアでは、インドネシアがBRICSに入りそうな感じがあった。インドネシアは、これまで未加工で輸出されることが多かった鉱物資源を、精製して付加価値をつけてから輸出する新戦略を進めており、中国はインドネシアの資源精製事業への投資・協力を急増している。
これは、資源類の利権を米国側から非米側に移動する中露・BRICSの資源本位制の象徴みたいな話だ。インドネシアは3億人の巨大市場で、その点でもBRICSにふさわしい。インドネシアはBRICSに加盟申請していたが通らなかった。
BRICS just announced an expansion. This is a big deal.

その理由は不明だが、もしかするとインドネシアはBRICSに加盟申請しつつも、米国側と非米側の対立の中で非米側に入ってしまうことを躊躇したのかもしれない。インドネシアは、伝統的に「非同盟」の国であり、今回あえてどちらにも入らない姿勢をとったのはインドネシアの伝統に沿っているともいえる。
Will the BRICS expansion stumble over internal divisions or help bridge them?

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