ゼレンスキー大統領は、こう述べた。
「これは検察だけでの話ではない。税関、税務、年金基金、地方行政の役人の間で、明らかに不当な障碍者認定が行われているケースは何百とある。これらすべてに徹底的かつ迅速に対処する必要がある」
そう、まだまだ不正があるというのだ。
これでは、腐敗の蔓延するウクライナ社会に、日欧米の国民の税金が掠(かす)め取られるだけであることに気づいてほしい。障碍年金というかたちで支払われる不正が巨額になることで、日欧米のウクライナへの財政支援は膨らむことになる。結局、こんな腐敗の跋扈(ばっこ)するウクライナを支援する意味がどこにあるかを、西側の国民はよく考えるべきなのだ。

戦争を踏みにじるウクライナ国内の巨額腐敗が発覚…なんと検事総長まで加担していた!
深刻化するウクライナの腐敗
ウクライナが腐敗の蔓延している国家であることは、一部の読者は知っているかもしれない。国際非政府組織「トランスペアレンシー・インターナショナル」が毎年公表している国別腐敗度ランキングによると、ウクライナの昨年の結果は、180カ国中104位であった(2024年1月に発表)。なお、ロシアは141位だったから、ウクライナのほうが少しだけ「まとも」と言えるかもしれないが、中国(76位)、日本(16位)からみると、明らかに見劣りする。
常識的に考えれば、ウクライナは戦争中なわけだから、国民一丸となって勝利をめざして戦っているように思うかもしれない。しかし、実際はまったく違う。むしろ、腐敗は深刻化している。なお、関心のある方は、昨年上梓した拙著『ウクライナ戦争をどうみるか』の「第三章第二節 腐敗国家ウクライナ」(119~137頁)において、この問題を詳述しておいたので、ぜひ読んでほしい。
(出所)Amazon.co.jp: ウクライナ戦争をどうみるか:「情報リテラシー」の視点から読み解くロシア・ウクライナの実態 : 塩原 俊彦: 本
10月に発覚した事件
10月4日、ウクライナ西部に位置するフメリニツキー州にある、保健省傘下の医療・社会専門家委員会(MSEC)のトップ、テチヤナ・クルパ(下の写真(1))とその息子オレクサンドルが、不正蓄財で摘発された。報道によると、捜索の結果、彼らの所持品から現金だけで600万ドル近くが発見された(下の写真(2))。
彼女は、事務所に10万ドルを所持していたほか、偽造された医療文書、『兵役忌避者』の名前入りリスト、架空の診断書を多数所持していたことが判明したという。彼らはフメリニツキー、リヴィウ、キーウに30の不動産、9台の高級車、4800万フリヴニャ(約115万ドル)相当の企業権利、フメリニツキーの公園内に約3000平方メートルのホテルとレストランの複合施設を、海外では、オーストリア、スペイン、トルコに不動産を所有していた。一族はまた、外貨口座に230万ドル近くを蓄えていた。
どうやら、2008年から地域医師会の主任医師として勤務し、与党「人民の奉仕者」の党員でもある彼女は、不正に障碍者認定をして戦争忌避を手伝う代わりに、多額のカネを得てきたのだ。10月7日、キーウの地方裁判所は、クルパを60日間逮捕する決定を下した。

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写真(1) テチヤナ・クルパ

写真(2) クルパの夫と散乱する外貨 (SBI)
あろうことか検事が戦争忌避
クルパの「顧客」として、検察官がいたとの情報から、10月16日、ジャーナリストのユーリー・ブトゥソフは、フメリニツキー州のオレクシイ・オリイニク検事局長を筆頭とするフメリニツキー州の49人の検事が、クルパから障碍者手帳を入手していたことを突き止め、公表した。検事本人が障碍者認定されていたり、検事の妻が障碍者とされたりして、それにより、障碍年金も得ていた。少なくとも5410万フリヴニャ(約130万ドル)の年金を手にしていた。

検事にとって、戦争忌避だけでなく、労働法上、障碍者は解雇しにくいことや、異動を拒否しやすくなるといったメリットがある。障碍者の配偶者がいれば、検察官が、知人、財産、フローをすべて持っている「故郷」の地域から、不便な他の地域へ転勤することを妨げる、さらなる理由となる。
こうした検事を巻き込んだ腐敗以外に、クルパは、障碍者手帳を取得するために1人当たり約3000ドルから4000ドルを徴収していた。彼女の職場を捜査した際、国家捜査局は、10月2日から4日の間に、クルパが30人の市民から受け取った10万4000ドルを発見したのである。
10月17日になって、名指しされたオリイニク検事局長が辞任を表明し、解任された。
検事総長も辞任
さらに、10月22日、事態を重くみたヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、政府高官の偽装障碍証明書に関する明らかに非倫理的な状況に対処するため、国家安全保障・防衛会議(NSDC)を開催し、同会議終了後、アンドレイ・コスティン検事総長は辞任を表明した(実際には、議会による承認が必要となる)。
ゼレンスキー大統領は、こう述べた。
「これは検察だけでの話ではない。税関、税務、年金基金、地方行政の役人の間で、明らかに不当な障碍者認定が行われているケースは何百とある。これらすべてに徹底的かつ迅速に対処する必要がある」
そう、まだまだ不正があるというのだ。

ウクライナ保安局(SBU)の情報では、他の法執行機関と協力して、医療・社会専門家委員会(MSEC)の汚職を組織的に摘発しており、今年になって、MSECの職員64人に犯罪の疑いがかけられ、9人がすでに有罪判決を受けたという。さらに、ウクライナの特別部局の主導により、架空の書類に基づいて発行された4106件の障碍者手帳が取り消された。
具体的には、(1)ハリコフ地方では、地域MSECのメンバー13人からなる組織的犯罪グループが摘発・無力化された(捜索の結果、彼らから65万ドル以上が押収された)。(2)リヴネ地方では、MSECと医療諮問委員会の29人の代表者が、兵役義務者の動員逃れを手助けしていたとして摘発された(金と引き替えに、被告らは顧客のために架空の病歴を作成し、その後に障碍者グループを割り当て、35万ドル以上の「利益」を得た)。(3)ミコライフ地方のMSECのトップは、45万ドル以上、金製品のコレクション、オデーサにある三つの未申告のアパートを持っていたことが暴露された(この富を隠すために、この職員は財産のほとんどを、ロシア国籍を持つ医学生の息子に「再署名」した)。
ウクライナの腐敗を報道しない西側メディア
ウクライナに戦争をさせてロシアの弱体化をねらうバイデン政権主導の欧米諸国および日本は、ロシアを消耗戦に引き込むことで、何とかこの代理戦争を勝利につなげようとしてきた。そのために、代理戦争の継続に不都合な情報は、日欧米のマスメディアは、極力報道しないようにしている。このため、読者の多くは、ここで紹介した、10月にウクライナに起きた一大スキャンダルを知らないのではないか。

たとえば、拙稿「「越境攻撃」と称される「ウクライナ版・真珠湾攻撃」……最後はロシアの核兵器を浴びるぞ」に書いたように、日本の報道機関は、ウクライナによるロシア・クルスク地方への奇襲攻撃を「越境攻撃」と表現することで、その攻撃が卑怯で悪辣な攻撃である事実を報じない。
蔓延するウクライナの腐敗に気づいて!
これでは、腐敗の蔓延するウクライナ社会に、日欧米の国民の税金が掠(かす)め取られるだけであることに気づいてほしい。障碍年金というかたちで支払われる不正が巨額になることで、日欧米のウクライナへの財政支援は膨らむことになる。結局、こんな腐敗の跋扈(ばっこ)するウクライナを支援する意味がどこにあるかを、西側の国民はよく考えるべきなのだ。
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