「数ヵ月以内にロシアの攻撃が起こる」ポーランド首相発言から読み解く「欧州とロシアの戦争」の深刻度

現代のロシア
「数ヵ月以内にロシアの攻撃が起こる」ポーランド首相予言の深刻度
ポーランドのドナルド・トゥスク首相は4月24日、ロシアの攻撃が数か月以内に起こる可能性があると警告した。ロシアのラブロフ外相は、西側による代理戦争と述べ、ウクライナがその一環であると指摘した。EUはウクライナに900億ユーロを融資し、軍事支援を強化する計画を進めている。ドイツは2039年までに欧州最強の陸軍を目指す軍事戦略を発表した。

「数ヵ月以内にロシアの攻撃が起こる」ポーランド首相発言から読み解く「欧州とロシアの戦争」の深刻度

ロシアが欧州に攻めてくる?

「ヤバい」ことになっている。4月24日付の「フィナンシャルタイム」は、ポーランドのドナルド・トゥスク首相(下の写真①)が「ロシアから我々への攻撃が、数か月以内に起こり得る」とインタビューでのべたと報じた。

他方で、同日、ロシアのRIAノーボスチは、セルゲイ・ラブロフ外相(下の写真②)がロシアの非営利団体の代表者らとの会合で、「我々に公然と戦争が(西側によって)宣言された」と語ったと伝えた。その戦争の「先鋒」として、ウクライナ政権が利用されているというのだ。つまり、ウクライナ戦争は西側の代理戦争であり、すでに西側による全面的な戦争の緒戦にすぎないというわけである。

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(出所)https://www.ft.com/content/1a5a2502-a45a-40c1-af6f-b30ecc34bacb

(出所)https://ria.ru/20260424/lavrov-2088801949.html

ロシアによる攻撃という話について、トゥスク首相は、「私が言っているのは短期的な見通しであり、数年ではなく数カ月という単位だ……ポーランドと同様に、だれもが北大西洋条約機構(NATO)の義務を真剣に受け止めるということを認識しておくことが極めて重要だ」と語ったという。

どうやら、彼は、ロシアが欧州に攻めてくると本気で考えているらしい。たしかに、昨年9月10日夜、19機のロシア製ドローンがポーランド上空を飛行し、そのうち最大4機が撃墜される事件が起きた。あるいは、下図に示したように、ロシアによるウクライナ侵攻において、ロシアのドローン、ミサイル、有人機による侵犯行為の件数と地理的範囲は年を追うごとに増加している。

(出所)https://theconversation.com/russia-tested-natos-airspace-18-times-in-2025-alone-a-200-surge-that-signals-a-dangerous-shift-273318

トゥスク首相の発言の意図

だが、トゥスク首相の主張はバカバカしい。なぜなら、現在ウクライナと戦争中のロシアが、ヨーロッパに侵攻する理由がないからだ。もしロシアが欧州に侵攻すれば、人口が5億人を超える欧州連合(EU)や英国との直接的な軍事対立に巻き込まれることになる。 

まずは、通常兵器による激しい戦闘となるだろう。ロシアは、陸上からの侵攻から飛び地である、ポーランドとリトアニアに挟まれたカリーニングラードや、ロシアの旧都サンクトペテルブルクを守るために、数十万人の兵士が必要となるだろう。だが、いまそんな兵士は見つけられない。動員を強制したところで、それだけの人数をかき集めるのは困難だろう。

こう考えると、トゥスク首相の発言が出鱈目(でたらめ)でしかないことがわかるだろう。むしろ着目すべきは、こんなバカげた発言を、あえて行った彼の意図だ。

もちろん、彼自身、通常戦力では、ロシアに勝ち目がないことはわかっているから、こんな事態が起きるとは考えていないはずだ。彼が言いたいのは、ロシアが核兵器を使用する覚悟で攻めてくるという事態なのだ。ロシアによる核兵器使用に対して、欧州側が核戦力で応戦しても、核弾頭数の差から勝つ見込みはほぼゼロだ。

だからこそ、本来であれば、NATOの中核である米国の支援を必要としている。NATOの根拠法である北大西洋条約第5条では、欧州または北米における締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなし、締約国は、武力攻撃が行われたときは、個別的または集団的自衛権を行使して、武力行使を含む行動を個別的におよび共同して直ちにとることにより、攻撃を受けた締約国を援助することが義務づけられている。しかし、ホルムズ海峡の封鎖解除に対して応援を求めたドナルド・トランプ政権の要請を拒否した欧州に、米国が支援の手を差し伸べるかどうかはまったくわからない状況となっている。

だからこそ、先に紹介したように、トゥスク首相は、「だれもがNATOの義務を真剣に受け止める認識をしておくことが極めて重要だ」と発言したのである。

リスボン条約第42条の適用

実は、キプロスで非公式協議を行ったEU首脳らは、4月23日の夜、北大西洋条約第5条とは異なる方法で、こうした恐るべき事態にどう備えるかを協議した(「ニューヨークタイムズ」[NYT]を参照)。それは、加盟国に対し、攻撃を受けた場合に他の加盟国へ軍事的、人道的、財政的支援を提供することを義務づけている、EUのリスボン条約第42条7項の適用ついてである。

NATOを補完する意図で設けられたこの条項が適用されたのは、2015年11月のパリおよびその周辺でのテロ攻撃後にフランスが発動した際で、これまでたった一度きりしかない。この規定が実際にどう機能しうるかについて検討する必要があるとの認識が、EUの指導者に広まっているのだ。トゥスク首相自身、「EUは自らが定める第42条7項の相互防衛条項を強化すべきだ」と述べている。すでに、来月、この点から演習を実施することも計画されている。

ウクライナは長期戦が可能に

他方で、ラブロフ外相の言う代理戦争は、その色彩を強めている。欧州理事会は4月23日、昨年12月の欧州理事会で合意されたウクライナへの900億ユーロ(約16・7兆円)のEU融資を支える法案を採択した。これにより、欧州委員会は2026年第2四半期にできるだけ早く資金の支払いを開始できるようになる。

この融資は、2026年および2027年の同国のもっとも緊急性の高い予算および防衛産業向けの資金を提供するもので、これまでのEUの支援パッケージとは異なり、防衛支出に重点が置かれている特徴がある。融資の約700億ドル(約11・1兆円)が軍に充てられ、ウクライナは高価な防空システムを購入し、ドローンの生産を拡大するための多額の資金を確保することになる(NYTを参照)。

つまり、EUは露骨に軍事支援をすることで、ウクライナにロシアと戦わせようとしていることがより明確になったことになる。なぜなら、これまでの支援は断続的で、ウクライナがもっとも必要とする兵器の購入や生産に充てられる資金というよりは、主に装備の寄贈で構成されていたため、そのような計画立案はほとんどできなかった。ところが、今回は2年間の軍事支援が確約されたことで、ウクライナはこの融資により、長期的な軍事作戦をより適切に計画できるようになるという。

軍事化していくドイツ

一方、ドイツも「ヤバい」ことになっている。ボリス・ピストリウス国防相は、同国で戦後史上初となる軍事戦略構想を発表した。この構想では、2039年までに欧州最強の陸軍を構築するという目標が掲げられており、その背景にはロシアからの脅威が挙げられている。同文書には、早ければ2029年にもロシアがNATO加盟国への攻撃準備を整えるとの見通しが示されており、ドイツは欧州大陸の安全保障を担う責任を果たすべく準備を進めるべきであるとされている。

2039年までに欧州最強の陸軍を構築する構想は、昨年5月にフリードリヒ・メルツ首相によって初めて提唱され、それ以来、大きな変更は加えられていない。計画上の兵力規模は46万人(予備役を含む)のまま維持され、現役兵の数は現在の18万6000人から26万人に増員される予定だ。昨年末、ドイツ政府は志願兵役法改正案を可決し、18歳に達したすべての男性に対し、アンケート調査への回答を義務づけた。ドイツにおける兵役は依然として志願制だが、メルツ首相は、ドイツ連邦軍(ブンデスヴェール)が新兵募集に必要なペースを確保できない場合、徴兵制の復活も排除していない。

こうした現実に目をそらしてはならない。大切なのは、こうした現実にどう対処するかであり、こうした事態は日本にとって「対岸の火事」では決してないことに気づいて欲しい。

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