
中国の恫喝「レアアース禁輸」を無力化。日本が科学力と外交で資源強国へ変貌する=勝又壽良

中国が日本の20社・団体へのレアアース輸出規制を発表した。だが、これは「2度目の失策」となる公算が極めて高い。日本はすでに2023年、経産省主導で重点資源国25ヶ国との連携を構築し、米国・EU・ASEANを含む55ヶ国参加の「重要鉱物特恵市場」(26年8月稼働)の実質的なリーダーへと躍り出ていたからだ。中国官僚機構が見落とし続けた、日本の「静かな資源外交」の全貌を明らかにする。(『 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
中国「レアアース規制」の空回り
中国は、日本の20社・団体に対してレアアースの輸出規制をすると発表した。理由は、日本が「新軍国主義に向っている」としている。日本が、防衛力を強化していることを批判しているのだ。自衛権は、国家固有の権利である。中国が、批判すべき事柄ではない。まさに、中国が得意とする「内政批判」に当たる越権行為である。
軍国主義とは、外交の手段として戦争を重視し、政治、経済、教育、文化などのあらゆる活動が、軍事力強化のために行われる国家体制である。中国こそ、軍国主義国家である。「国家安全」の名の下に外国人すら平然と拘束する国家が、ノーマルな国家と呼ぶわけにはいかないのだ。
中国は過去にも、レアアースを戦略的資産として、対日外交の切り札に使ってきた。今回の規制は2回目となる。前回は、2010年の日本による尖閣諸島国有化への反発であった。このときは、中国が腰砕けになって、最後は日本へ購入を呼び掛ける「無惨な結果」に終った。
今回は、果たして日本を屈服させられるか、である。下記の理由によって、その可能性がまったくないと言うほかない。
日本は、2023年に経産省が「重点資源国25ヶ国」を指定して、日本の化学的精錬法技術を提供する見返りに、レアアースなどの優先輸入協定を結んできた。この拡大版が現在、米国主導で進んでいる「重要鉱物特恵市場」(26年8月稼働)である。日本・米国・EUなど55ヶ国が参加する国際版である。音頭を取ったのは米国だが、実際のプロモーターはほかならない日本である。
特恵市場は、日本の重点資源国25ヶ国を含んでおり、日本が資金・技術を提供する。さらに、南鳥島のレアアースも特恵市場へ提供するということが、多くの鉱山国を参加させる要因になった。日本が、「虎の子」の南鳥島のレアアースを特恵市場へ提供して、一人占めにしないという開かれた発想が共感を呼んだのである。日本では、資源が「国際公共財」という視点に立っている。中国は、逆に「レアアース主権」を宣言している。製品に0.1%の中国産レアアースが含まれていても、中国主権が及ぶというのである。
日本の資源に対する基本姿勢が、中国とはまったく違うことで多くの鉱山国の賛同を得ている。しかも、肝心の製錬技術は日本が提供するという好条件である。従来、中国へ精錬を依存してきた鉱山国が、こうして日本と提携する結果となった。この効果が、これから次第に出てくるのである。
23年に重点資源国指定
経産省が、23年の時点で25カ国を重点資源国として選定したのは、単なる外交リストでなく、資源地政学・技術支援・経済安全保障を統合した戦略的布陣と理解されている。JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)や経産省の制度設計は、現場の鉱山開発から製品化までの国際枠組みを一貫して支えるシステム化したことに注目すべきであろう。日本一国の立場を離れて、鉱山国とウイン・ウイン関係をつくり上げたのは、日本官僚機構の柔軟性を示している。中国の「一人占め」とは、雲泥の差である。
日本では、官僚機構へ往々にして厳しい評価を下しがちである。だが、日本の資源地政学的位置が脆弱であることから、重点資源国25ヶ国へ精錬技術を提供する形で自立化を促したことは、大きな政策的ヒットと呼ぶべきだろう。この延長で、国際版の重要鉱物特恵市場へと拡大できたもので、西側諸国全体にとって中国のレアアース支配を跳ね返す基盤をつくることになった。日本の静かな資源外交が実を結んだのである。
一方の中国の官僚機構は、日本の静かに進んでいた資源外交の影響力をまったく見落としていた。なぜ、こういう結果になったのか。ここに、中国官僚機構の根本的な欠陥を指摘できるであろう。それは、中国官僚機構が家産官僚制と言われるごとく、情報の収集分析よりも「虎の威を借る狐」のごとく、相手国への威圧効果を狙った「力の演出」に力点を置いていることだ。先の「レアアース主権」宣言もこの種のもので、習近平国家主席の好感を得て出世を期待する振舞となった。動機が、国益でなく自らの出世願望に基づく行為だ。
これは、清末の家産官僚制が抱えていた「構想なき権威主義」の再来とも言える。英国船焼払い事件(1840年)は、官僚が国家のためではなく、体制維持と自己保身のために動いた結果である。この事件が、清国滅亡へ繋がったことは有名だ。こうした悪しき伝統は、現代中国の官僚機構にも引き継がれている。その結果、鉱山国や先進国は中国から距離を取り、日本や他の信頼できる国々と連携関係を深めている。
日本の近代官僚制(実務主義型)と中国の家産官僚制(権威主義型)では今後、対外外交でさらに大きな違いを生むであろう。中国の政治制度が権威主義(専制主義)である以上、家産官僚制は改まらないからだ。日本へのレアアース輸出禁止は、中国家産官僚制がもたらした「亡国的政策」となろう。日本が、ますます重要鉱物特恵市場充実へと加速するからだ。これが、中国のレアアースを巡る外交的位置を押し下げるであろう。
日本への協力で25ヶ国
日本が、具体的にレアアース資源確保に向けて動き出したのは、23年6月に策定された「GX(グリーントランスフォーメーション)を見据えた資源外交の指針」に基づくものである。この選定は、以下の4つの視座に基づいて行われた。
- 潜在的資源量と経済性 銅、リチウム、ニッケル、コバルト、レアアースなどの埋蔵量と採掘コスト
- インフラ整備状況と輸出余力 港湾・道路・電力などの整備状況と、安定的な輸出能力の有無
- 脱炭素社会構築への貢献可能性 EV、再エネ、蓄電池などのグリーン産業に資する鉱物の供給力
- 日本との関係性と成長余地 政治的安定性、二国間関係、技術協力の可能性、現地企業の受容性など
これらの観点から、JOGMECの分析や日本企業の関心度なども踏まえて、日本への資源・燃料の供給潜在力が高い国々が選ばれた。
経済産業省が選定した「重点資源国」25カ国(鉱物資源関連)は、次の通りである。
地域:国名
アジア:インド、フィリピン、インドネシア、ベトナム、タイ、マレーシア
オセアニア:オーストラリア、パプアニューギニア
北米:アメリカ、カナダ
中南米:アルゼンチン、チリ、ブラジル、ペルー
中東:サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーン、カタール
アフリカ:ナミビア、ザンビア、コンゴ民主共和国、南アフリカ、モザンビーク、マダガスカル
欧州:ノルウェー
これら重点資源国25ヶ国をみると、先進国はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ノルウェーだけである。後はグローバル・サウスの国々だ。これら諸国にとって、日本が「重点資源国」として明確に位置づけていることは、「自国を信頼し、長期的なパートナーと見なしている」という強いメッセージになっていることである。
前記のグローバル・サウスの国々はこれまで、中国へ鉱石を売る以外に方法がなかった。それが、日本の化学的精錬法技術によって、自前で精錬が実現することで、経済的にも大きな意味を持っている。高市首相が、今回の衆院選で大勝したことで、海外首脳からの多数の祝意が寄せられた。その中には、まだ会見していない30人以上の首脳による祝意があった。これには、日本から重点資源国に指定された国の首脳が含まれているのであろう。
鉱山国が、日本の味方になろうという視点はなんであろうか。まず、日本への信頼性と予測可能性の高さであろう。日本は契約を守り、政治的な恫喝や一方的な制裁を行わない国として、国際的に高い信頼を得ている。鉱山国にとっては、長期的な安定供給先として非常に魅力的な存在であるにちがいない。製品買い叩きの懸念がないからだ。
次は、日本から技術・投資・人材育成の支援を期待できることだ。日本は単に資源を買うだけでなく、採掘技術の提供、精錬施設の建設支援、現地人材の育成など、持続可能な産業基盤の構築に貢献している。これは、中国による「資源の囲い込み」と極めて対照的な存在である。
中国には、「威圧外交」という他国を恫喝する警戒感がつきまとっている。中国のように、政治的紛争を経済的圧力へ転化する外交姿勢は、他国の警戒心を高める要因になる。今回は、日本企業を名指しで輸出規制している。鉱山国にとって、「明日は我が身」と映る可能性が強いのだ。こういう政治リスクを避けるには、中国と関係を深めないことが、最大の防御策になる。
将来の日本への市場アクセスも評価点になっている。日本はEV、半導体、再エネなどの先端産業を牽引している。特に、日本が最先端半導体ラピダスを育成強化している信頼感が好影響を与えているのだ。鉱山国にとっては、確実に「自国の資源が高付加価値製品に変わる」ことで、より大きな経済的リターンを期待できるにちがいない。
中国と縁を切って鞍替え
重点資源国25ヶ国には、それまで中国と関わりの深かった国がある。中国との縁を切って、日本との関係強化へ踏み切った典型例は、次の国である。
ナミビアは、かつて中国資本による鉱山開発が進んでいた。だが、日本との連携強化により、重希土類の精製拠点構築に舵を切った。
アルゼンチンは過去、中国企業によるリチウム投資が急増していたが、日本(豊田通商)や韓国、欧州企業の参入が進み、供給先の多様化が進行中である。
インドは過去、レアアースの精製を中国に依存していたが、日印間での鉱物資源開発協定の締結により、国内精製能力の強化に着手した。
以上は、中国の「搾取型」よりも、日本の「共創型」(ウイン・ウイン)を選んだ典型例である。これら国々は、日本の製錬技術を日本のODA(政府開発援助)資金によって移入し、同時に人材教育も可能であるという、「至れり尽くせり」の対応に満足しているのだ。
現在、25カ国の中で生産の即応性が高く、すでに日本へのレアアース供給を開始している、または供給準備が整っている国々として、以下のような国とプロジェクトが注目されている。
オーストラリアは、即応性でトップクラスである。ライナス社が代表的な存在だ。世界最大級のレアアース精製企業で、日本企業(JOGMEC・住友商事)が出資している。西オーストラリア州マウント・ウェルド鉱山から採掘されたレアアースを、マレーシアの精製施設で処理し、日本に供給している。すでに10年以上にわたり安定供給を継続中で、中国以外で唯一の大規模精製ルートを持つ即応国である。
カナダでは、精製能力の拡充が進行中である。サスカチュワン州でレアアース鉱床の開発を進行中である。日本企業との連携が模索されており、精製施設の建設が進めば中期的な供給源として有望である。
レアアースは国際公共財
日本は、以上のように重点資源国として25ヶ国との連携強化を進めてきた。この構想を西側諸国全体へ広げたのが、今回の「重要鉱物特恵市場(FORGE)」(8月稼働)である。諺に、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」というごとく、日本は自国だけの利害を乗り越えて、先進国全体のレアアース確保という共同戦略へ拡張した。重点資源国25ヶ国にとっては、さらに市場が拡大されて、より大きな利益を得られるという機会が与えられるのである。
重要鉱物特恵市場については、これまでも当メルマガで取り上げてきたが、新たな情報を加えていきたい。この構想の推進者は、日本である。需要国はレアアースが必需品であるだけにすぐに特恵市場へ参加した。ポイントは、鉱山国がどれだけ参加するかである。多くの鉱山国が参加しなければ、特恵市場(無関税)の意味は薄れるからだ。日本の組織した重点資源国25ヶ国が参加するだけでは、他の需要国の需要を賄えないのである。
ここで日本は、南鳥島のレアアースを全量、特恵市場へ提供する方針を決めたのだ。これまでの「資源囲い込み」という通念からみれば、まったく想像を超えた提案である。日本は、資源を「国際公共財」と位置づける。米国・EU・ASEAN諸国からは、「特恵市場構想の信頼性を支える模範」として高く評価されているのだ。ただし、日本企業の「優先取引」は認められる。
これは、他の鉱山国へも大きな刺戟を与え、50ヶ国もの鉱山国が参加する誘因をつくったとみられる。現状で、南鳥島のレアアース埋蔵量は1,600万トンで、今後さらに拡大見込みである。この一大鉱脈が、特恵市場へ提供されれば、世界最大市場としての厚みが加わる。安定市場になるのだ。
現在のレアアース市場は、中国の差配下にある。中国の思惑一つで、市場価格が左右される仕組みだ。こうした不安定な市場からみれば、特恵市場がどれだけ安定し有利であるかが理解できるであろう。実は、特恵市場へ参加する詳細な国名が発表されていないのだ。これは従来、中国と密接な関係を深めてきた国々が参加していることを窺わせている。詳細な国名発表が、中国と摩擦をもたらすと警戒したのであろう。それだけ、世界的な反響を呼んでいる証拠である。
特恵市場について、さらに注目点だけを箇条書きで示したい。
1)特恵市場の最低価格制維持に必要な資金は、日本が米国へ直接投資する5,500億ドルの一部が使われる。潤沢な資金によって、鉱山国の採算を維持する。
2)南鳥島の深海レアアース採掘技術を使って、日本が鉱山国の新たな海底資源探索に協力する。アフリカ諸国(タンザニア、マダガスカルなど)での深海鉱物探査プロジェクトを共同で推進する。米国では、ハワイ沖での海底資源探索が有望となっている。
3)レアアースなどの製錬技術は、日本の開発した化学的精錬法が提供される。現在、中国の採用している物理的精錬法に比べて、低コスト・環境親和性という大きな利点が認められている。将来的には、参加国との共同精製・加工プロジェクトも視野に入れており、国際分業体制の構築が進められている。
以上のように、これまで「無資源国」であった日本が、科学力によって一挙に「資源国」入りして、世界の重要鉱物特恵市場の実質リーダーになるという時代の変化が起こっている。科学力=技術力が、一国の興亡と深く関わることを世界史に刻印することになった。



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