ロシア産石油密輸船の実態がここまで分かった!

「影の船団」撲滅のために
このところ、ロシアはいわゆる「シャドー・フリート」(影の船団)と呼ばれる石油タンカーへの取締り強化に悩まされている。逆にいうと、米国や欧州諸国は意図的にシャドー・フリート撲滅に向かっている。
1月22日、エマニュエル・マクロン仏大統領は「我々はいかなる違反も容認しない」としたうえで、「今朝、フランス海軍は、国際的制裁を受け、偽旗を掲げた疑いのあるロシアからの石油タンカーに乗り込んだ」とXに投稿した。スペイン沖の公海を航行中の「グリンチ号」にフランス海軍のヘリコプター2機が接近・乗船し、船内を捜索した後、マルセイユ近郊の港へ進路を変更させたのである。グリンチ号は制裁対象船で、偽のコモロ国旗を掲げ、ロシア産原油73万バレルを積載していた(The Economistを参照)。
実は、フランス海軍は昨年9月27日、シャドー・フリートのブラックリストに収載されている「ボラカイ号」(下の写真)に乗り込み、船長と一等航海士を拘束した。フランス検察当局は、同船がロシアからインドへ「大量の石油」を輸送中に、公的な登録地に関する矛盾を理由に停船させられたと説明した。同船はベナン船籍を主張している。この措置に対して、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は10月2日、フランスによる船舶の拘束を「海賊行為」と非難した(ロシア語報道を参照)。同船は数日後、解放されたという。
米国も昨年12月ころから、シャドー・フリートへの取締りを強化しはじめた。12月10日、ドナルド・トランプ大統領は、「我々はベネズエラ沿岸でタンカーを拿捕したばかりだ。大きなタンカーで、非常に大きく、実際に拿捕されたなかでは最大だ」と語った(下の写真)。
米軍が拿捕した石油タンカーは「スキッパー号」で、同船はシャドー・フリートの一員であり、2019年からベネズエラ産石油の輸出輸送に関与したとして米国の制裁対象となっていた。米国政府の言い分では、このタンカーは「外国のテロ組織を支援する違法な石油輸送ネットワークへの関与」により、長年にわたり制裁対象となっており、連邦捜査局(FBI)、国土安全保障省、米国沿岸警備隊は国防総省の後ろ盾を得て、単に「逮捕令状を執行した」だけだという。なお、ガイアナ海事局は、同タンカーが同国の国旗を違法に掲げて航行していたと発表した。
昨年12月16日、トランプは、ベネズエラ発着の制裁対象タンカーに対する「全面的かつ完全な封鎖」(total and complete blockade)を命じると発表した(CNNを参照)。その結果、12月20日、米沿岸警備隊は、ベネズエラ沖で原油タンカー「センチュリーズ号」を拿捕した。同船はベネズエラ産原油約180万バレルを積載しており、中国の独立系製油所向けと報じられている(資料を参照)。
さらに、今年1月7日、ロシアのシャドー・フリートに属するとされる2隻のタンカーが拿捕された。1隻はアイスランド付近でタンカーを奪取した「マリネラ号」(旧名称「ベラ1号」)で、同日、数千マイル離れたカリブ海でも、米軍が別のタンカー「Mソフィア号」を拿捕した。The Economistによると、ベラ1号には長く複雑な歴史がある。
2024年、米国はレバノンの過激派組織ヒズボラの隠れ蓑とされる企業に関与しているとして、この船を制裁下に置いた。同船は2020年後半以降、2000万バレル以上のイラン産原油と500万バレルのベネズエラ産原油を中国に運んでおり、その利益は米国がテロリスト集団とみなすヒズボラとイランの精鋭部隊クッズ・フォースの資金源になっている、とデータ会社のKpler社はみているという。
別の情報では、昨年11月下旬、ベラ1号はイランを出港し、ベネズエラに向かった。乗組員が米国沿岸警備隊による乗船を阻止した数日後、ロシアは急遽、通常の手続きをすべて放棄し、ロシア船としての再旗揚げを許可した。ベラ1号はその後、マリネラ号と名前を変え、ロシアに向けて出航した。正式にロシア船として登録されると、沿岸警備隊は乗船の試みを中止した(正式登録はしていないとみられる)。しかし、米国防総省欧州軍司令部は、沿岸警備隊を管轄する国土安全保障省の部隊が作戦を実行し、国防総省が支援する形で拿捕に至ったのだ。
イラン、ベネズエラ、ロシア
ここで、シャドー・フリートについて基礎的な説明をしておきたい。米国主導する対イラン、対ベネズエラ、対ロシア制裁として、これらの国の原油輸出を阻止するための禁輸措置がとられたことから、その抜け穴として原油輸送を担うようになる船団が現れたのである。ゆえに、シャドー・フリートはロシア産原油だけを取り扱っているわけではない。下図1からわかるように、近年、ロシア産原油を運搬するタンカー数が多い。
他方で、すでに説明したように、最近になってシャドー・フリートへの取締りが厳しさを増している。それを示したのが図2だ。前述したスキッパー号は2025年12月12日に拿捕されたことになっている。マリネラ号は2026年1月7日、北極圏で拿捕された。1月10日にはドイツが、偽造登録の疑いがあり黒海向けターミナルに向かうタンカーのバルト海進入を阻止した。EU加盟国として初の措置である。
ウクライナは、より大胆な軍事行動に出ている。The Economistによると、昨年11月下旬以降、少なくとも9隻のタンカー(うち7隻はシャドー・フリート所属)に対し、機雷や海軍・航空ドローンを用いて攻撃を仕掛けている。地中海での事例を含む、自国沿岸から遠く離れた海域での攻撃も発生している。待ち伏せ攻撃を受けたタンカーは通常、致命的な損傷を受けているという。つまり、ロシアの原油輸出はますます困難になっている。
「影の船団」とは何か
ここからは、欧州議会がまとめた論文「ロシアの「影の艦隊」:脅威を明るみに出す」を参考にしながら、基本的な説明をしておきたい。
まず、シャドー・フリートまたはダーク・フリートとは、国際海事機関(IMO)が2023年12月に定めた定義によると、「制裁回避、安全・環境規制遵守の回避、保険費用の回避、その他の違法行為を目的とした不法な活動に従事する船舶」を意味している。具体的には、①国際規制や確立された厳格な業界基準に準拠しない安全でない運航の実施、②意図的に旗国および港湾国による検査を回避、③十分な賠償責任保険その他の財務的保証を維持しない、④意図的に商業スクリーニングや検査を回避、⑤乗組員の福祉・安全および海洋環境保護を保証する透明性のある企業統治方針の下で運営されていない、⑥AIS(自動識別システム)やLRIT(長距離識別追跡システム)の送信を停止したり、船舶の実際の身元を隠蔽したりするなどの船舶検知回避措置を意図的に講じる――といった活動にかかわる船舶だ。
ロシアのケースを検証する
ウクライナ侵攻への欧米主導の対ロ制裁発動以降、ロシアはシャドー・フリートの運用を規模と仕組みの高度化の両面で新たな段階へ引き上げた。ロシア政府が力を入れたのは、(1)ロシア企業の所有するタンカーの新管理会社への移管(タンカー約90隻が2022年12月5日以前に、ロシア国営企業ソヴコンフロートからアラブ首長国連邦(UAE)などに拠点を置く企業へ管理権を移管)、(2)国際グループ(IG)のP&I保険を以前保持していた、認可済み船隊から15年以上の船舶を購入(15年という「保険対象年齢」を超えた約100隻がシャドー・フリートを構成)、(3)超老朽船(20年以上)を取得(これらタンカーの200隻以上は、ロシアのシャドー・フリート内で転用されなければ退役していた可能性が高い)――などである。
ロシアのシャドー・フリートに属する船舶は通常、ロシアの顧客のためにパートタイムまたは時折運航し、複数の顧客にサービスを提供し、ロシア産原油に加えて制裁対象外の貨物も輸送することが多い。これにより、より広範な船隊との重複が顕著であるため、制裁の追跡と執行の取り組みは複雑化している。
ロシア産原油を輸送するシャドー・フリートが利用する主な便宜置籍国には、オセアニア東部のクック諸島、アフリカ大陸南部に位置するエスワティニ、中央アフリカのガボン、西アフリカのリベリア、地中海にあるマルタ、太平洋に浮かぶマーシャル諸島、中南米を結ぶパナマ、そしてロシア自国が含まれている。これらの旗を掲げることで、船舶はロシアから独立しているように見せかけられ、規制当局が貨物をロシア産原油の供給源まで追跡することを困難にしている。これにより、ロシア産原油は国際水域で拿捕や制裁発動のリスクをほとんど伴わずに輸送・販売される。
監視を逃れるため、ロシアのシャドー・フリートは、EU/G7+制裁を施行しない便宜置籍国間で頻繁に登録を移している。船舶の頻繁な再登録はロシア産原油輸送の監視を複雑化させる。登録変更のたびに執行機関は追跡リンクを再構築する必要があり、監視・執行プロセスが妨げられ遅延することが多い。
EUによる対ロ制裁
2023年6月に採択された第11次制裁パッケージの一環として、EUは、ロシア産原油輸入禁止措置または価格上限の違反が疑われるSTS(船対船)移送に関与している船舶のEU港湾への入港を禁止した。この禁止措置は、ロシア産原油・石油製品を輸送中にAIS(自動識別システム)を操作・無効化する船舶にも適用される。
2023年12月に採択された第12次制裁パッケージでは、価格上限を超える石油輸送に利用されるのを防ぐため、第三国へのタンカー売却を厳重に監視する措置が合意された。EU事業者がタンカーを売却する場合は全て国内当局への報告が義務づけられ、ロシアの個人・団体への売却、またはロシアでの使用を目的とした売却には認可が必要となる。これらの措置は、シャドー・フリートに関するEUの理解を深め、船舶監視を強化し、市場の透明性を高めることを目的としていた。
2024年6月に採択された第14次制裁パッケージにおいて、EUはロシアのウクライナ侵攻に関連し、制裁対象船舶のリストを導入した。とくにロシアのシャドー・フリートに関連するタンカーを制裁対象としている。EU以外に、米国、英国、カナダもタンカーへの制裁を科しており、直近の状況を示したのが下図である。
(出所)https://sanctions.kse.ua/wp-content/uploads/2026/01/Chartbook_January2026.pdf
(備考)円内の数字は管轄区域間の重複を示し、合計は総数と一致しない。オーストラリア(196隻)とニュージーランド(107隻)は含まれていない。リストはEU、英国、カナダとほぼ完全に一致している。ウクライナのリストは含まれていない。総数(T)は管轄区域ごとの制裁対象シャドーオイルタンカーの総数、ユニーク(U)は管轄区域ごとに単独で制裁対象となった船舶数を表している。
キーウ経済大学の分析センター、KSE研究所によると、シャドー・フリート経由でロシア産原油を輸入する上位3カ国はインド、中国、トルコだ。下図に示したように、ロシア産原油の海上輸出の75%が、昨年12月にシャドー・フリートによって輸出された。注目されるのは、その構成比が12月に急低下したことだ。
(出所)https://sanctions.kse.ua/wp-content/uploads/2026/01/Chartbook_January2026.pdf
ロシアの石油収入が減少
1月29日付の「フィナンシャルタイムズ」は、「ロシアの石油収入、制裁の影響で急減」という気になる記事を公表した。ロシアのエネルギー収入は昨年、2024年比で約5分の1減少したというのである。「割引幅の拡大が世界的な価格低迷と重なり、クレムリンの戦時経済への負担を強めたためだ」と、記事は説明している。
ロシア誌「モノクル」も、これを裏づける記事を出している。昨年、石油・ガスの生産量がわずかに減少したため、連邦予算の石油・ガス収入はほぼ4分の1(−23.8%)減少したという。同誌に掲載された下図からわかるように、「予算歳入に占める石油・ガス収入の割合」を示す赤線は低下傾向にあり、昨年は大きく低下した。青い棒線の連邦歳入は2024年並みだが、オレンジ色の石油・ガス収入が減少した結果である。
(出所)https://monocle.ru/monocle/2026/04/dolya-neftegaza-v-dokhodakh-byudzheta-v-2025-godu-snizilas-do-23/
(備考)左軸の単位は兆ルーブル、右軸の単位は%。
現在懸念されているのは、原油価格自体の低迷に加えて、シャドー・フリートへの規制強化による輸送コストの上昇による収入減である。供給過剰がブレント原油(英国とノルウェーの領海に広がる北海油田で生産される英国産の原油)価格をさらに押し下げれば、ロシア産原油の指標価格であるウラル原油価格はバレル当たり30ドルを下回り、2024年の平均価格の半分以下となる可能性がある。
他方で、シャドー・フリートのようなブラックリスト掲載船は検査回避のため長距離航路を迂回したり、貨物の原産地を隠すため頻繁に積み替えたりする必要がある。ほかにも、ロシア領黒海における戦争リスク保険料はタンカーの船体・機械設備価値の1%に跳ね上がった。高リスクながら紛争のない海域の保険料率が0.05%を超えることは稀だから、いかに高い保険料を余儀なくされるようになったかがわかるだろう。
The Economistによると、市場への供給ルートを守るため、ロシアは非公式タンカー船団の多くを直接管理下に置いている。12月中旬以降、制裁対象のタンカー32隻がロシア海事登録簿に新規登録された。そのうえで、ロシアはロシア国旗掲揚で、臨検や拿捕を抑止しようとしている。あるいは、「クレムリンは潜水艦や戦闘機を派遣して一部船舶を保護する可能性がある」と、The Economistは指摘している。だが、ロシア船籍の船舶は事実上保険がかけられず、軍事護衛も安くない。ゆえに、シャドー・フリート規制はロシアの石油収入の減少につながる可能性が高い。
ロシア経済に効いていく
ただし、これがロシア経済の屋台骨を揺るがすわけではない。「2025年の財政赤字はGDP比2.6%に達した」、と1月29日付の「フィナンシャルタイムズ」は報じている(日本も同程度とみられている)。だが、ロシアの総債務残高/GDPは2024年で16.4% にすぎない。日本は200%を超えている。つまり、日本の経済指標のひどさに比べれば、月とすっぽんだ。
ロシア最大の民間銀行アルファ銀行のアナリストは、ウラル原油の平均価格が予算想定から10ドル乖離するごとに、1.5~1.8兆ルーブル(1ルーブル≒2円、以下同)の歳入が失われると試算している。このため、低油価とルーブル高が継続すれば、年末までに不足額は約3兆ルーブルに達し、ロシアが今年見込む歳入の約7.5%相当分が不足することになる。
どうやら、シャドー・フリート規制はボディブローのように、じわじわとロシア経済に悪影響をおよぼすようになっているようだ。



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