ついに暴かれたウクライナ政界の腐敗「一番真っ黒なのはゼレンスキー」

11月10日、ウクライナの国家反腐敗局(NABU)と特別反腐敗検察(SAPOまたはSAP)は、ウクライナの原子力発電所と複数の水力発電所を管理する国営企業(エネルゴアトム)の取引業者らが、巨額のリベートを強制的に支払わされていた汚職事件を暴いたと発表した。これにより、ウォロディミル・ゼレンスキー政権の現役閣僚を含む側近が腐敗していたことが明らかになった。エネルゴアトムから約1億ドルを横領・資金洗浄し、その他の詐欺や金融犯罪に関与したという容疑がかかっている。
11日なって、容疑者のなかにゼレンスキー大統領の側近であるティムール・ミンディッチが含まれていることを、NABUが明らかにした。だが、10日に拘留された5人のなかにミンディッチは含まれていない。逃亡をはかったためである。
17日付のThe Economistは、「ウクライナ政府を揺るがす巨額の腐敗スキャンダル」という記事の最後に、「ゼレンスキーは清算の日に直面している。選択肢は多くない。片足を切断するか、全身に感染症が蔓延し死ぬかのどちらかだ」というある高官の言葉を書いている。事態はきわめて深刻なのだ。
ミンディッチとゼレンスキー
この事件を理解するためには、まず、ミンディッチについて知らなければならない(6月25日付、7月26日付、9月4日付の拙稿に登場する)。彼は、ユダヤ人脈を巧みに利用してのし上がってきた。
ミンディッチは1979年9月19日、ドニエプロペトロフスクの企業家ミハイル・ミンディッチとステラ・ミンディッチの家庭に生まれた。ティムールの義母アラ・ヴェルバーがインタビューで語ったところによると、父親は2006年頃にイスラエルの病院で亡くなった(「RBC」を参照)。
ミンディッチは、エンターテインメントコンテンツ制作会社、「クヴァルタル95」を母体として2003年に設立された「Studio Kvartal 95」の共同経営者である。同社の創設者はゼレンスキーであり、2019年にウクライナ大統領に選出された後、彼は「クヴァルタル95」の株をミンディッチに譲渡した。
クヴァルタル95の番組の多くは、オリガルヒ(寡頭資本家)のイーホル・コロモイスキーが所有する「チャンネル1+1」で放映された。コロモイスキーによると、ゼレンスキーに彼を紹介したのはミンディッチだった。コロモイスキーはまた、ミンディッチは過去に娘の婚約者だったと語っている。つまり、ミンディッチ、ゼレンスキー、コロモイスキーの3人は、ともにユダヤ系ウクライナ人として、互いに持ちつ持たれつの関係にあった。
隠されたゼレンスキーの闇
ゼレンスキーは、自らの権力を利用して懐(ふところ)を潤そうとするとき、この旧友を利用してきたと考えられる。だからこそ、ミンディッチは下の写真にある豪華なマンションにいくつも住居を所有してきたのだ。腐敗で得たカネで自分の生活が豊かになっただけでなく、おそらくゼレンスキーの取り分がどこかに隠されると考えられる。
そこで、ミンディッチの不正を暴くために、11月10日の午前6時30分、グルシェフスキー通り9aにある有名な「モンスターハウス」の近くに、2台のミニバスと1台のジープが停車した。NABUの職員たちが玄関ホールに入り、15階と18階にあるミンディッチの部屋に向かったという。
(出所)https://www.pravda.com.ua/rus/articles/2025/11/12/8007045/
とくに、2021年にゼレンスキー大統領が誕生日を祝った部屋は18階にある(下の写真)。11月12日付の「ウクライナ・プラウダ」によると、303平方メートルの面積を持つこの4部屋のアパートで、NABUとSAPは盗聴を行い、ミンディッチの会話の記録に成功した。こうした計15カ月の作業期間、1000時間に及ぶ音声記録、70回以上の家宅捜索が、今回の事件の立件につながっている。
(出所)https://www.pravda.com.ua/rus/articles/2025/11/12/8007045/
実は、ウラジーミル・プーチン大統領もまた、旧友を利用した不正蓄財を長年にわたって行っている。どうやらゼレンスキーもプーチンも、腐敗手法がよく似ている。はっきり言えば、「同じ穴の貉(むじな)」なのだ。
参考のために、プーチンの手法を紹介しておこう。彼は、柔道の相手としてアリカディ・ローテンベルグを重用してきた。その結果として、ローテンベルグ兄弟やその子どもに大企業を経営させて、リベートなどによる不法な利益をそうした会社に蓄えてきた。
そうした旧友がローテンベルグ以外にも複数いる。たとえば、有名なチェリスト、セルゲイ・ロルドゥギンもその一人である。彼名義の会社をオフショア(租税回避地)に設立して、そこに不正利得を蓄財するといった手法がとられていた(いわゆる「パナマ文書」が暴露)。
同じように、ゼレンスキーもユダヤ人の友、ミンディッチを使って、不正利得を得てきたと推測される。それを物語っているのが「金の便器」である。実は、捜査機関は今回の事件を「ミダス」事件と呼んでいる。ギリシャ神話のミダス王は「触れたものを黄金に変える手」で有名だが、疑惑の中心人物ミンディッチの自宅のトイレにある「金色の便器」(下の写真)を想起させるための名称だ。
「金色の便器」はもともと、2014年2月のクーデターでロシアへの逃亡を余儀なくされた当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領の別荘にあると話題になったものだ。だが実際には、「話題になっていた黄金の便器を発見することはできなかった」という報道がある。その代わり、黄金のシャワーと金メッキの洗面台があったという。
(備考)ジェレズニャク議員が「ミンディッチのアパートにある、金製のトイレとビデが設置されているとされるトイレの写真」として2025年7月30日に公開したもの。
ミンディッチのかかわる不正ルートはいくつもある。ここでは、三つを紹介しよう。
【不正ルート①:「ミダス」事件】
「ミダス」事件の概要を伝える動画のなかで、捜査機関は容疑者の実名を公表しなかった。ただ、犯罪組織のメンバーにはエネルギー相の元顧問、エネルゴアトムの保安担当執行役員、資金洗浄を担当するチームのメンバー4人、そして「メディアでよく知られた実業家」が含まれるとした。これら7人を特定した写真が下のリストである。
(出所)https://tt.inf.ua/files/upload/e8/fd/23/e8fd2371c2af4ed3b67624c215461a50.550×550.jpg
上段の左が、ティムール・ミンディッチである。中央がイーゴリ・ミロニュークで、当時、エネルギー相だったゲルマン・ガルシェンコ(ガルチシェンコ)の顧問を務めていた。右は、ドミトロ・バソフで、エネルゴアトムのセキュリティ担当エグゼクティブディレクターだ。この3人がエネルゴアトムとの取引業者にリベートを渡すように謀議をはかっていた、とNABUは考えている。
下段の4人はマネーロンダリングに使われるバックオフィスで働いていた。左は、実業家のオレクサンドル・ツケルマン(ツカーマン)で、ミンディッチの財務部門を担当していたと言われ、彼も国外逃亡した(「ストラナー」を参照)。その右はイーゴリ・フルセンコで、主な事業活動として情報化に関するコンサルティングを行う個人事業主として登録されている。一説には、彼は長距離巡行ミサイル「フラミンゴ」を製造するファイアポイントで働いているという(後述するようにミンディッチは同社にも関係していたようだ)。
その右は、リュドミラ・ゾーリナで、個人事業主であり、その活動内容は商業活動および経営に関するコンサルティングである。右端はレーシャ・ウスティメンコで、彼女も個人事業主であり、主な活動は「市場環境の調査および世論の調査」である。
ミンディッチとツカーマン以外の5人は、すでに拘束されている。ただ、13日、ゾーリナとウスティメンコは保釈金(合計で3700万グリヴニャ≒1・4億円)を払って保釈された。ミンディッチとツカーマンは現在、イスラエルにいるらしい。ただし、米国の連邦捜査局(FBI)が彼らを捜査対象とする可能性は高い。
押収された400万ドルの札束
なお、この「ミダス」事件の捜査の過程で、バーコードと米国都市名(アトランタ、カンザスシティ、ミネアポリス)が記載された密封されたドル札の束(下の写真)がNABUによって押収された。少なくとも400万ドルに相当するとみられる。
(出所)https://img.tsn.ua/cached/025/tsn-0b4bc102/thumbs/x/89/ce/70f87a045ea4aae106e09aa01749ce89.jpeg
司法相とエネルギー相が辞任
ガルシェンコ(下の写真)は、2020年5月、エネルゴアトムの副社長に任命され、2021年にはエネルギー相に就任した。今年7月、彼は司法相に任命されていた。
この経歴から、彼は、現エネルギー相スヴィトラーナ・グリンチューク(同)や、今年7月の解任前に自身が配置した複数の管理職を通じて、今なお同分野で影響力をもつ。11月12日朝、臨時閣議が開催され、ガルシェンコを司法相から解任することが決定された。
グリンチュークも同日、辞表届を提出した。グリンチュークはエネルギー省で、ガルシェンコが大臣当時に副大臣を務め、環境・天然資源相になった後、エネルギー相に就任していた。
ゼレンスキーは12日午後、ユリヤ・スヴィリデンコ首相と詳細な会談を行ったと説明した。また、法務大臣とエネルギー大臣は現職に留まることはできないことを強調したと発表した。どうやら、自分は「ミダス」事件とは無関係であると装う方針を決めたようだ。
だが、11月12日、NABU検察官は、ガルシェンコ、ミンディッチらの盗聴記録のエピソードの一つを挙げた(ウクライナの情報を参照)。このエピソードが「ミンディッチの影響力を裏づける」というのである。それは、ミンディッチがゼレンスキーにショート・メッセージ・サービス(SMS)を送ると、ゼレンスキーがガルシェンコに電話をかけてきた事実を指している。
これは、盗聴されていた会話のなかで、ガルシェンコがミンディッチに大統領に何を書いたのかと尋ね、ミンディッチが「ゲル(ゲルマン・ガルシェンコ)があなたと話したがっている」と答えたことからわかる(彼らはロシア語を話しており、ここでは「ヘルマン・ハルシェンコ」ではなく「ゲルマン・ガルシェンコ」というロシア語をあえて使っている)。
(出所)https://parlament.ua/dossier/galushhenko-german/
(出所)https://www.facebook.com/s.grynchuk/
【不正ルート②:チェルニショフ前副首相】
11月14日になって、ウクライナ国家反腐敗局(NABU)は、エネルゴアトム汚職事件に関与した元副首相に対し、不正蓄財の容疑で告発状を送達したと発表した。これはオレクシー・チェルニショフ前副首相のことである。彼は、このリベート計画で約143万ドルを受け取っていたという。
「ウクライナ・プラウダ」が11月12日付で報じた「ゼレンスキーの「豚飼いたち」。大統領の友人たちが戦争中に国を略奪した方法」という記事を読めば、真相がみえている。チェルニショフが豪華な4棟の建築(下の写真)に絡んでいたとみられている。
NABUとSAPは4棟の建設事件を捜査しており、すでに20件ほどの捜索を行い、チェルニショフが建設者である証拠をつかんだというのだ。どうやら、エネルゴアトムから横領した資金で満たされたミンディッチの影の金庫によって建設費を調達していたようだ。
そもそも、この4棟がだれのためのものかは不明だ。しかし、少なくとも1棟はゼレンスキーのためのものとみられている(「ストラナー」を参照)。
興味深いのは、悪党間の人間関係だ。記事は、ミンディッチがチェルニショフを「良い人物」としてゼレンスキーに推薦し、チェルニショフの妻がファーストレディのエレナ・ゼレンスカと積極的に親交を深めはじめ、ファーストレディはチェルニショフ夫妻の娘の洗礼式を行うまでになる。2019年にゼレンスキーが大統領に選出されて以来、チェルニショフはキーウ州知事、地域開発・地域社会大臣、国営石油ガス会社ナフトガズの最高経営責任者など、さまざまな政府職を歴任してきた。
だが今年6月には、別の事件で贈収賄および職権乱用の容疑で起訴された。7月に1億2000万フリヴニャ(約4・4億円)の保釈金で釈放されている。同月下旬、副首相兼国民統合大臣の職を解任された。
(出所)https://www.pravda.com.ua/rus/articles/2025/11/12/8007045/
【不正ルート③:軍事企業ファイアポイント】
別の腐敗ルートもある。それは、ミンディッチと、ドローン(無人機)や長距離巡行ミサイル「フラミンゴ」の製造開発企業ファイアポイントとの関係である(この問題については、「現代ビジネス」の拙稿「腐敗まみれのウクライナ軍事産業:ゼレンスキー周辺は「真っ黒」」で詳述したのでそちらを参考にしてほしい)。すでに、8月29日付の「キーウ・インディペンデント」の特ダネ「ウクライナの新型巡航ミサイル「フラミンゴ」メーカー、汚職捜査に直面」が報じたように、ファイアポイントの非公式の受益者とされるミンディッチとのつながりがNABUに追及されていたのである。
NABUの疑惑は、ファイアポイントが政府契約でドローンを供給する際に、部品の価格、UAVの数量、あるいはその両方を水増ししていたことに関連している。エネルゴアトムへの納入資材などを水増ししてリベートとして受けとっていたのと同じ手法である。
先の「ウクライナ・プラウダ」による疑惑報道後、同社の株式はサウジアラビア企業に売却された。これはミンディッチが実質的な所有者であるとの疑惑を回避するための措置だったという。
裁判で公開された会話の断片によれば、先に紹介したフルセンコは、動員を免れウクライナ国外への渡航を可能にするため、ファイアポイントに正式に雇用されていた(「キーウ・インディペンデント」を参照)。録音では、フルセンコが同事件で起訴された別の実業家、ツカーマンと会話しており、二人はフルセンコが最近ファイアポイントに正式な職を得たことについて議論し、フルセンコの上司であるツカーマンは、ファイアポイントでの正式雇用に関する詳細をフルセンコに説明している。フルセンコが雇用に関連する税金について言及すると、ツカーマンは会社が代わりに税金を支払うと話した。
SAPの検察官によれば、同庁のデータではフルセンコは、今年3月19日からファイアポイントに管理者として雇用されていたという。戒厳令下では、18歳から60歳のウクライナ人男性は例外を除き出国が禁止されているにもかかわらず、フルセンコは2018年1月から今年8月22日までの期間、戒厳令下を含む計26回の海外渡航を行っているとの情報もある。ウクライナ国防省は戦時中、優先的な防衛契約業者に特別な特権を付与しており、一定数の男性従業員が動員義務および渡航制限から免除する措置を悪用していた模様だ。
ほかにも、ミンディッチは国防相当時のルステム・ウメロウないしウメロフ(今年7月からウクライナ国家安全保障・国防会議事務局長)にも「影響力」をもっていた。なお、ウクライナの「腐敗対策センター」が9月に発表したところでは、ウメロフの家族が米国に8件の高級不動産を所有していることがわかっている(「ロシア新聞」を参照)。
汚れたゼレンスキーのイメージ
11月14日付のNYTは、「ゼレンスキー大統領のイメージは汚れた――汚職疑惑が彼の側近を揺るがしているからだ」という記事を報じた。記事はゼレンスキーのイメージダウンという「柔らかな表現」にとどめている。
しかし、今回の「ミダス」事件は、ゼレンスキーが首謀者であることを指し示している。なぜかと言えば、ゼレンスキーは事件を潰すために法律改正までしたからだ(この経緯について詳細に分析したのが拙稿「ウクライナ各地でついに始まった「反ゼレンスキー」大規模デモ」である。あるいは、「知られざる地政学」連載(101):「ゼレンスキー=悪魔」騒動の顚末と教訓(上、下)を読んでほしい)。
今年7月、ゼレンスキー政権は、国内の反腐敗機関であるNABUとSAPの独立性を潰そうとして露骨な動きをしたのである。最初に、ウクライナでもっとも影響力のある反腐敗運動家の一人である、反汚職行動センターのヴィタリー・シャブニン執行委員長が国家捜査局によって兵役逃れや詐欺の容疑で11日拘束された。これは、ゼレンスキーの忠実な支持者ルスラン・クラフチェンコが、新検事総長に任命された直後に提起された出来事だ。
ほかにもある。7月21日には、検事総長事務所、ウクライナ保安局(SBU)および国家捜査局は、NABUの捜索を行った。7月22日朝時点の情報によると、19人の職員を対象に80件の家宅捜索が行われ、数人が逮捕された(「メドゥーザ」を参照)。NABU職員が関与した交通事故に関する捜査を行ったとされているのだが、その交通事故は2021年のものであり、いかにこの捜査が恣意的なものであったことがわかる。NABUとSAPOに「ロシアのエージェント」を発見したとの口実で、大規模な捜索が行われたのだ。
拘束された者には、父親がロシア国籍をもつNABUの刑事部門の責任者ルスラン・マハメドラスロフがいる。もう一人の職員は国家反逆罪で告発されている。「キーウ・インディペンデント」によれば、SBUは、マハメドラスロフがウクライナから逃亡した親ロシア派議員フェディル・フリステンコと接触していると主張している。
捜査を潰したゼレンスキー
7月22日、大統領府はロシアスパイの脅威を理由に、汚職対策機関の独立性を制限する法案の議会採決を急がせた。7月22日午前、議会の法執行委員会は臨時会議を開く。戒厳令下の行方不明者に関する刑事訴訟法の改正に関する法律案第12414号の修正案が審議された。法案12414号の当初案は、戒厳令中の行方不明者捜索手続きの簡素化を規定していた。
しかし最終版には、NABUとSAPの業務に関する修正案が含まれていたのだ。委員会はこの修正案を承認し、同日、大統領派閥「人民の奉仕者」の代表は、修正法案を議会の議題とし、採決に持ち込んだ。ゼレンスキーは、「ロシアの影響」が疑われる機関の独立性を弱める必要を主張していた。ゼレンスキーの支配下にある検事総長のもとにNABUやSAPを従属させて、自分に不利な捜査や起訴を封じ込めようというのである。
法案は可決され、23日に施行されたが、このとんでもない動きにウクライナ市民の大規模な反対デモが起きる。こうしたゼレンスキーの反動的かつ独裁的な弾圧姿勢に対して、欧州の一部政治指導者も懸念を表明した結果、この法律はすぐに撤回されるに至った(ただし、同じく専制的なドナルド・トランプ政権はゼレンスキー政権のこうした暴挙に対して、少なくとも表面上は表立った反発は示さなかった)。
(出所)https://www.youtube.com/watch?v=ANi4TMINwW8&t=17s
崩れゆくゼレンスキー帝国
しかし、ゼレンスキーおよびその周辺は、決して自分たちへの捜査がおよばないようにするために工作を継続してきた。ゼレンスキーの権力源泉であるウクライナ保安局(SBU)と検察総局が9月6日に発表したところによると、ウクライナ当局は、前述したフリステンコ議員を拘束した(「キーウ・インディペンデント」を参照)。どうやら、ゼレンスキー政権はフリステンコに対して、NABUにおける「ロシアの影響」を証言させて、NABUの捜査自体を否定的に見せかけようとしているのだ。
ゼレンスキーらの「悪だくみ」は着々と進んでいた。しかし、11月4日に欧州委員会から欧州議会、理事会、欧州経済社会委員会および地域委員会への伝達文書 として公表された、ウクライナがEUに加盟するために行っている改革を評価した報告書「Ukraine 2025 Report」のなかで、ウクライナの腐敗防止策について厳しい批判があったため、「悪だくみ」の実行が遅れていたのである。
報告書は、紹介した7月の立法騒ぎについて、「国会は7月に法律を採択し、NABUとSAPOの独立性のための重要な保護措置を解体し、その運営業務を政治的に任命された検事総長の権限下に置いた。これらの改正は、ウクライナの腐敗防止の枠組みを著しく弱めるものであった」、と的確にのべている。
そのうえで、「全体として、こうした動きはウクライナの反腐敗アジェンダへのコミットメントに疑問を投げかけている」と結論づけている。「ウクライナは腐敗防止の枠組みを前進させ、顕著な改革の成果を後退させないようにすべきである」と指摘し、「高レベルの汚職訴訟における手続きの遅延や妨害に対処すべきである。時効とその中断・停止事由は、欧州の基準に沿って見直され、調整されるべきである」という提言まで書かれている。
このため、「悪だくみ」を実行できないままでいたゼレンスキー側に対して、NABU・SAPが先回りして鉄槌を下したのが今回明るみに出た「ミダス」事件というわけだ。しかも、紹介したように、ミンディッチとファイアポイントとの関係から、ゼレンスキー政権が軍備をめぐっても腐敗してきた実態が明らかにされる可能性がある。
アル中患者に酒を贈る仕打ち
最後に、ウクライナをめぐる政局について、わかりやすく概説しておこう。まず、巨悪であるゼレンスキー政権はいま、ミンディッチが首謀者とするグループによる腐敗を糾弾するという姿勢を示すことで、ゼレンスキーが本当の首謀者であることを隠蔽しつづけようとしている。
「ゼレンスキー一味」は、オールドメディアに圧力を加えて、ここで紹介したような「真っ黒なゼレンスキー」という実態を隠そうと必死だ。その典型がイェルマーク大統領府長官の顧問、ミハイル・ポドリャクだ。「エネルギー部門における腐敗スキームの調査に関するニュースは、残念ながら驚くべきことではない」とし、これは、「クレムリンが数十年にわたりウクライナをその影響力の範囲内に留めるためのシステムを構築してきた過去からの論理的な反響である」という彼の意見は、ゼレンスキーの「悪」をロシアに帰そうとする不誠実きわまりない論理にすぎない(11月13日付のポドリャクの「テレグラム」を参照)。
これに対して、同様に批判されるべきは欧州の政治指導者たちだ。彼らは、ゼレンスキーに戦争をつづけさせため、どう考えても「真っ黒」なゼレンスキーそのものの罪を問おうとはしていない。ミンディッチを逃亡させたゼレンスキーは当面、彼の腐敗への直接関与という嫌疑を免れることができる。そのため、ゼレンスキーはいざとなれば、自分の周辺にいる人物を含めて、腐敗を理由に斬ればいいと考えているに違いない。
たとえば、ゼレンスキーの背後にいて、腐敗問題にも関与していると思われるアンドリー・イェルマーク大統領府長官や、彼の子飼いユリヤ・スヴィリデンコ首相を退陣させて、ゼレンスキー政権の「リセット」をはかることさえありうるだろう。
重要なことは、NABUやSAPは当初、米民主党主導でウクライナの腐敗防止に取り組んでいた組織であり、トランプ政権発足後、米国が抜けた後は欧州諸国が支援している点だ。このサイトで何度も力説したように、欧州の主たる政治指導者は「戦争維持派」だから、彼らはあくまで戦争継続のための「悪だくみ」をめぐらせている最中なのだ。
具体的に言うと、「ロシアの侵略戦争開始以降、EUとその加盟国がウクライナとその国民を支援するため1776億ユーロ(約32兆円)を動員した」事実に対する責任を回避する目的で、この「ミンディッチ・ゲート」に目を瞑(つむ)る。その代わりに、①スキャンダルに関与した人物を拘置所に送り裁判にかける、②腐敗対策と国営企業の管理の透明性向上プログラムを作成・承認する――政策だけでなく、欧州側は内外の世論を納得させるため、イェルマーク大統領府長官の首を斬ることさえ迫るかもしれない。加えて、兵員不足に悩む軍を立て直すために、動員年齢を25歳から22歳に引き下げるようにゼレンスキーに迫っているとの見方もある。
11月17日、欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は、EU各国政府に宛てた書簡のなかで、ウクライナの2026~2027年における残存資金需要を1357億ユーロ(約24・4兆円)と試算し、そのウクライナの資金需要を満たすためには、凍結されたロシアの資産を利用した融資を含む3つの選択肢があると通知した(「ロイター通信」を参照)。
これからわかるように、彼らは戦争継続で頭がいっぱいなのだ。これでは、「この件は、アルコール中毒の患者にウォッカをもう一箱送って助けようとするようなものだ」というハンガリーのヴィクトル・オルバン首相のXへの投稿が正しく思えてくる。
本当は、ウクライナの腐敗はエネルギー部門や軍事部門だけではない。鉄道部門では、輸送量が減って余った電力を闇に流したり、ウクライナ鉄道の内部関係者を介した動員免除の証明書を販売したりする腐敗が蔓延している。他方で、戦況はウクライナの敗色が濃くなる一方だ。
こんなウクライナに戦争をつづけさせるために「真っ黒なゼレンスキー」を非難することさえできない欧州の政治指導者は卑劣であり、不誠実だと指摘せざるをえない。もちろん、トランプ大統領も同じである。そして、おそらくこの批判は高市早苗首相にもあてはまる。



コメント