メディアが報じない米ロ会談の真実「プーチンはここまで譲歩した」

現代のロシア
メディアが報じない米ロ会談の真実「プーチンはここまで譲歩した」
米ロ首脳会談におけるロシアの譲歩は、ウクライナ戦争を巡る西側メディアの偏向報道に反し、実際には南コーカサス地域への米国の影響力拡大を受け入れたことに表れている。特に、アルメニアがアゼルバイジャンとの関係改善に向けたプロジェクトを進める中、ロシアは米国との協力姿勢を示した。これは、ウクライナ戦争を背景に、ロシアが地域の安定を重視し、米国に一定の譲歩をする形となった。

メディアが報じない米ロ会談の真実「プーチンはここまで譲歩した」

偏向報道ではなく「実態」の解説を

このサイトに何度も書いてきたように、欧米や日本のオールドメディアはウクライナ戦争をめぐって偏向報道をつづけてきた。そして、8月15日に実施された米ロ首脳会談(下の写真)についても、まったく同じ偏った視点から眺めることで、恐ろしいほどに歪んだ見方を押しつけようとしている。そこで、今回はもう少し真っ当な視角からみる見方を示すことにしたい。

(出所)https://novayagazeta.eu/static/records/04a4be6de0e042b28c9d89bcff4e5954.webp

まず、日本を含むいわゆる西側先進国に住む人々のほぼすべてが、米ロ首脳会談前にロシア側を行った譲歩について知らないのではないか。ウラジーミル・プーチン大統領が自らの譲歩を喧伝するはずもないが、本来であれば、ドナルド・トランプ大統領側がプーチンからいくつかの譲歩を会談前に勝ち得ていたことを明らかにしてもおかしくはない。ただ、これから会談する相手のことを配慮すれば、自らの手柄をひけらかすわけにもゆかなかったのだろうか。トランプにしては、珍しいことだが。

そうであるならば、本当は、優れた記者や学者が適切に「実態」について解説すればよい。しかし、残念ながら、世界中にそうした解説ができる人物がそもそもほとんどいない。大多数は、譲歩しないプーチンを非難し、トランプの大言壮語を批判するだけだ。

ロシアの「中くらいの譲歩」

というわけで、ロシアの譲歩についてここで紹介しよう。「中くらいの譲歩」と言えるものだ。

それは、8月8日に明確になった。同日、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領とアルメニアのニコル・パシニャン首相が、トランプ大統領のもとで結んだ共同宣言やその関連協定にかかわっている。

(出所)https://president.az/en/articles/view/69572

とくに、同宣言の第四項目では、アルメニアが、米国および相互に決定された第三者と協力し、アルメニア領内における「国際平和と繁栄のためのトランプ・ルート」(TRIPP)接続プロジェクトの枠組みを定めるとされた。

TRIPPは、「ザンゲズル回廊」と呼ばれるもので、この回廊開発をめぐって、ロシアが譲歩したのである。

ザンゲズル回廊=TRIPP

ワシントンの政治メディアPoliticoによると、アルメニアは、ザンゲズル回廊の土地に対し、米国に99年間の独占的特別開発権を付与することに同意した(下図を参照)。

(出所)https://www.economist.com/europe/2025/08/09/donald-trump-brokers-a-peace-plan-in-the-caucasus

米国は、この土地をコンソーシアムにサブリースし、同コンソーシアムは27マイル(約43.45km)の回廊沿いに鉄道、石油、ガス、光ファイバー回線、および電力送電線の開発を進める。もちろん、高速道路も敷設される。つまり、アルメニアはアゼルバイジャンを利する開発を認めざるをえなくなったことになる。

ここで重要なのは、ロシアがザンゲズル回廊への米国の関与を黙認し、事実上、南コーカサス地域への米国の影響力の拡大を受け入れた点だ。ウクライナ戦争のために、同地域への関心が薄れたとはいえ、ロシアにとってコーカサス地方は既得権益の一部であるとの認識が強かった。

だからこそ、2020年11月のアルメニア、アゼルバイジャン、ロシアの3カ国共同声明によると、ロシア連邦保安局(FSB)国境警備隊がこの地域の輸送通信を管理することになっていた。

アルメニアが「代替輸送」の提案

しかし、アルメニアは、代替輸送プロジェクト(「世界の十字路」[アルメニア、トルコ、アゼルバイジャン、イランを通過する])を提案した。このプロジェクトでは、すべてのインフラがアルメニア、アゼルバイジャン、トルコ、イランといった通過国の主権と管轄権の下で運営され、ロシアは関与しない。わかってほしいのは、この南コーカサスの回廊が多くの国の地政学上の関心の的であった点だ。

ロシアの報道によると、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は7月上旬、アンカラでパシニャンと会談した直後、この問題についてアルメニアが譲歩する用意があることをほのめかした。さらに、7月中旬になって、トム・バラック駐トルコ米国大使兼シリア特使は、アルメニアとアゼルバイジャンの間のザンゲズル輸送ルートを管理するというワシントンの提案を明らかにした(Hürriyet Daily Newsを参照)。

7月26日付のロシアの有力紙「コメルサント」は、アルメニアのパシニャン首相が2日間の日程でロシアを訪問し、ミハイル・ミシュスチン首相と会談した際、ザンゲズル回廊の管理に米国側が参加する可能性について、バクーとエレバンの間で水面下の交渉が行われている時期と重なっていたことから、「ロシア外務省は、西側諸国、とくに米国が南コーカサスのプロセスに干渉しようとしていることを批判した」、と報じた。ところが、8月11日付の「コメルサント」では、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道がつぎのようにのべたと伝えられている。

「ロシアは、南コーカサスにおける安定と繁栄の地帯の形成に関心をもっている。もっとも重要な条件の一つは、両国民の利益を考慮した上で、アゼルバイジャンとアルメニアの関係を包括的に正常化することである。我々は、地域の安全保障にとって重要なこの目標の達成に貢献するあらゆる努力を一貫して支持する。この点で、米国側の仲介によりワシントンで行われた南コーカサス首脳会議は、肯定的な評価に値するものである」

ロシアが米国に譲歩した

どうやら、今回のアルメニアとアゼルバイジャンをめぐる和平問題で、ロシアは米国に花をもたせるべく一歩退いたことがわかる。おそらく、ウクライナ戦争の一時停止・和平問題があるために、プーチンとしては南コーカサスをめぐる問題で、トランプを怒らせるより、米国への協力姿勢を示そうとしたのではないかと考えられる。

本来であれば、昨年末からロシアとアゼルバイジャンとの関係は悪化していたから、プーチンはアゼルバイジャンを利するザンゲズル回廊開発を邪魔しても何ら不思議ではなかった。この関係悪化は、昨年12月25日、アゼルバイジャン航空(AZAL)の航空機がカザフスタンのアクタウ近郊に墜落したことを契機に起きたもので、アゼルバイジャン当局は直ちに「外部からの干渉」、つまりロシアの防空システムによって旅客機が撃墜された可能性が高いと主張した。

AZAL機は、バクーからグロズヌイへ向かっていたところ、外部要因による損傷を受けて墜落した。この事故で、機内にいた67人のうち38人が死亡した。アリエフ大統領は、意図的な攻撃とは考えていないとしたうえで、公式な責任承認、関係者の処罰、および完全な補償を要求している。

さらに、今年6月、ロシアのエカテリンブルクでアゼルバイジャン人に対する警察の捜査が行われ、2人が死亡したことで、危機は新たな段階に達した。アゼルバイジャンは、ロシアが外国人排斥、帝国主義、法執行の蛮行を行っているとして、異例の厳しい態度で非難した。

アゼルバイジャンの法執行機関は、スプートニク通信社の現地支社で捜索と逮捕を行い、その社員をFSBの諜報員であると宣言し、また組織的犯罪集団に属しているとされるロシア人グループの拘束についても報告した。こうした深刻な状態でありながら、アゼルバイジャンを利するザンゲズル回廊の米国企業による開発に道を拓いたのは、ロシア側の米国への譲歩があったとみて間違いないだろう。

他にもロシア「小さな譲歩」

米ロ首脳会談直前、プーチンはいくつかの小さな譲歩も示した。プーチンは8月15日、「サハリン1」石油・ガスプロジェクトの株式を、米国の石油メジャー、エクソンモービルを含む外国投資家が取り戻すことを可能にする法令に署名したのである([ロイター通信を参照])。

そして、もう一つ、プーチンではないが、プーチンの盟友、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領も、プーチンを支援するために米国側に小さな譲歩をした。アラスカに向かう機中で、トランプはルカシェンコと電話会談をしたことを明らかにし、つぎのように自らのSNSであるTruthSocialに書き込んだ。

「尊敬するベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と素晴らしい話をした。電話の目的は、16人の囚人の釈放に感謝することだった。さらに1300人の囚人の釈放についても話し合っている。私たちの会話はとても良いものだった。プーチン大統領のアラスカ訪問を含め、多くの話題について話し合った。今後、ルカシェンコ大統領にお会いできることを楽しみにしている」

「大きな譲歩」停戦の問題

問題は、ロシアの「大きな譲歩」であるはずの停戦の問題だ。オールドメディアは、プーチンにとって、戦争停止がウクライナへの大きな譲歩であることを伝えていない。

ウクライナが敗色濃厚である事実を報道しないために、西側の大多数の人々は、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が戦争を無理やりに継続して、ウクライナ国民を死に追いやっている事実を知らないのだ。ロシアが勝っている以上、停戦はロシアにとって「大きな譲歩」以外の何ものでもないはずなのに。

本来であれば、ゼレンスキーの側から譲歩し、ロシアに停戦を求めるべきなのだ。それにもかかわらず、彼はロシアに即時停戦という高い要求をすることで、プーチンを怒らせている。譲歩すべきはゼレンスキーであるはずなのに、いつまでも戦争を継続する姿勢を崩さない。

しかも、ゼレンスキーは(昨年5月に)任期切れした「選挙なしの大統領」にすぎず、7月22日には、二つの反腐敗国家機関を骨抜きにする法案を立法化し、欧州諸国が猛反発すると、元に戻すといった悪辣な独裁的政治を行っている。

それなのに、欧州諸国の政治指導者は、こんな独裁者であるゼレンスキーを支援すると言っている。しかも、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する大多数の欧州諸国は、6月25日付「ハーグ・サミット宣言」の第四項のなかで、「同盟国の国防支出を計算する際には、ウクライナの国防および国防産業に対する直接的な貢献を含める」ことにし、ウクライナへの支援を国防費の対GDP比率の引き上げにちゃっかり利用している。つまり、ウクライナ支援をダシにして国防費/GDPの比率上昇につなげようとしているのだ。

停戦を阻んでいるのは誰か

プーチンはどこまでゼレンスキーに譲歩することが可能なのか。おそらく、プーチンとしては、いまのゼレンスキーおよびそのゼレンスキーを支援する欧州諸国のもとでは、停戦という「大きな譲歩」はできない。

なぜなら、彼らがまったく譲歩しようとしないからである。だからこそ、プーチンは15日の会談後の記者会見(下の写真)において、つぎのようにのべたのだ。

(出所)https://novayagazeta.eu/articles/2025/08/15/putin-vstrechaetsia-s-trampom-na-aliaske-glavnoe-news

「我々は、ウクライナと欧州諸国が、建設的な精神でこれらすべて(我々によって達成された理解)を受け止め、いかなる障害も設けず、挑発行為や水面下の陰謀によって新たな進展を妨げようとはしないことを期待している。」

注意すべきなのは、プーチンの話の文脈から、彼の言う「我々」には、ロシアのプーチン大統領と米国のトランプ大統領が含まれていることだ。そう、邪魔をしているのは、ウクライナと欧州諸国なのだ。

「テレグラフ」の注目すべき報道

最後に、8月15日の米ロ首脳会談を前にした14日、英国のオールドメディア、「テレグラフ」はついに事実を報道しはじめたことを紹介しておきたい。ようやく、少しずつだがウクライナが戦争に負けていることをオールドメディアが報じるようになったからである。

8月14日付の英「テレグラフ」の記事「分裂したウクライナ人がゼレンスキーのために戦うことを拒む理由」をぜひ読んでほしい。

まず、ウクライナ戦争に関するもっとも基本的な認識として、「ウクライナは『目に見えて戦争に負けている』」(Ukraine is “visibly losing the war”)という点が重要である。これは、記事で紹介されているポーランドの軍事アナリスト、コンラート・ムズキャの見解だ(なお、私は、「現代ビジネス」で今年1月2日に公表した拙稿「【報じられない真実】3年目の新年、すでにウクライナ戦争の勝負は決している!」や2月10日付の「もはや敗色濃厚!それでも兵力増員を図るゼレンスキーの愚」において、ウクライナが負け戦状態にあることを重ねて指摘してきた)。

ようやく、オールドメディアの一部も、「真実」を報道せざるをえなくなってきていると言える。そのうえで、「テレグラフ」は、士気の下がったウクライナ兵に関連して、「さらに悪いことに、ウクライナの歩兵部隊は縮小の一途をたどっており、脱走や死傷者は昨年動員された20万人を超えている」と正直に書いている。

加えて、「約65万人の戦える年齢の男性がウクライナから逃亡したと考えられている」とも指摘している。身を隠す者もいれば、徴兵将校や軍の精神科医に賄賂を渡して健康上の免除を求める者もいるという。

つまり、ウクライナの人々の多くは戦争を一刻も早く停止してほしいと願っている。それにもかかわらず、欧州諸国は、「目に見えて戦争に負けている」ウクライナを軍事支援し、戦争を継続しろとけしかけている。

オールドメディアの多くは、「目に見えて戦争に負けている」ウクライナを報道しないまま、ウクライナに対して「譲歩せよ」とも言わない。

ニヒリズムが蔓延するウクライナ

最後に、「テレグラフ」が掲載した下の写真をみてほしい。ウクライナの若者はいま、ニヒリズムの真っただ中にある。

別言すると、「ファシズム、白人ナショナリズム、カオスを支持するロシアは、ある種の支持者をもたらす一方で、その底なしのニヒリズムが、倫理的な目印がどこにあるのかわからない民主主義国家の市民(右派は、民主主義は資本主義の当然の帰結であると教えられ、左派は、すべての意見は等しく妥当であると教えられてきた)を惹きつけている」とも言えるかもしれない(Timothy Snyder, “Ukraine Holds the Future: The War Between Democracy and Nihilism,” Foreign Affairs, September/October 2022)。

(出所)https://www.telegraph.co.uk/world-news/2025/08/14/why-divided-ukrainians-are-refusing-to-fight-for-zelensky/?msockid=1c714e17947d622e3ab1438095ec639e

いまウクライナの若者たちは、いわば自暴自棄のニヒリズムに陥っている。おそらく、オールドメディアの不誠実、政治家の大嘘、学者の浅学菲才(せんがくひさい)は、ウクライナや欧州諸国だけでなく、米国や日本にも伝播しており、ニヒリズムを人口に膾炙(かいしゃ)させている。

いい加減に、ウクライナの「現実」をきちんと報道しないと、世界全体がニヒリズムに覆いつくされてしまうのではないか。

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