「学力より人間力」という科学的根拠

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JOG(1442) 「学力より人間力」という科学的根拠
教育経済学では膨大なデータで「社会的に成功するには学力より人間力が大事」という科学的根拠を積み重ねている。 ■転送歓迎■ R07.10.12 ■ 85,510 Copies ■ 9,292,612Views■ 過去号閲覧: 無料受講申込み: __________ YouTube版「国際派日本人養成講座」最新公開 ■JOG(85) 2万人のユダヤ人を救った樋口…

JOG(1442) 「学力より人間力」という科学的根拠

教育経済学では膨大なデータで「社会的に成功するには学力より人間力が大事」という科学的根拠を積み重ねている。

■1.学力は将来の成功にあまり関係ない

伊勢: 花子ちゃん、教育経済学という面白い学問分野があるんだけど、聞いたことがあるかな?。

花子: 教育経済学ですか? 初めて聞きました。どんなことを研究するんですか?

伊勢: どういう教育が成果を上げているのかを実証的に研究する分野なんだ。中室牧子・慶應義塾大学教授が書いた『科学的根拠(エビデンス)で子育て―教育経済学の最前線』という本で、その研究の最前線が紹介されているんだが、そこに興味深い研究結果が載っている。

花子: どんな結果なんですか?

伊勢: まず、こんな一節がある。
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 有力な研究の多くが、偏差値の高い大学に進学することが将来の収入に与える効果はほとんどない、あってもきわめて小さいことを示しています。[中室、435]
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花子: えっ! 一生懸命勉強して難関大学に入っても、将来の収入にはあまり関係ないんですか?

伊勢: そうなんだ。さらに、こんな一節まである。
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 学力テストの個人差は、将来の収入の個人差のせいぜい17%程度しか説明することができないし、IQの個人差に至ってはたった7%程度しか説明できないというのです。[中室、501]
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花子: IQって知能指数ですよね。学力テストや知能指数も将来の成功にはそれほど影響しないということですか。でも先生、なぜ「将来の収入」で教育の成果を測るんですか?

伊勢: いい質問だね。これは定量的な研究のための手段で、必ずしも「将来の収入」が教育の成功を表すわけではない。ただ、多くの場合、社会的に成功している人は収入が高いという一般的な傾向があるので、これを指標としているんだ。

花子: なるほど。つまり「学力テストで良い点をとる」とか「知能指数が高い」「偏差値の高い大学に進学」などは、あまり将来の成功の要因になっていないということですね。

伊勢: その通りだ。これまで重要だと思われていたことが、実は将来の成功にはそれほど影響していないということが、科学的な研究で明らかになってきているんだよ。

■2.「学力よりも人間力」

花子: それでは、何が将来の成功の要因になっているのですか?

伊勢: 「近年の経済学では非認知能力の重要性を強調するエビデンスが多く蓄積されています」[中室、487]と、中室教授は指摘されている。

花子: 「非認知能力」って何ですか?

伊勢: まず「認知能力」とは、学力テストやIQテストで計測することのできる能力で、「非認知能力」とはそれ以外、すなわち忍耐力、リーダーシップ、責任感、社会性などを指すんだ。でも一般人には分かりにくい専門用語なので、ここでは大雑把に認知能力を「学力」、非認知能力を「人間力」と呼ぼう。

花子: 「学力」と「人間力」ですね! それなら分かりやすいです。

伊勢: つまり、教育経済学では、人間の社会的成功には「学力」は小さな要因で、「人間力」の方がはるかに重要だという発見が相次いでいるんだ。この点は、多くの企業でも採用においては、同様の見方をしている。
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 日本経済団体連合会(経団連)が実施している「新卒採用に関するアンケート調査」(2018年度)で、「選考にあたって特に重視した点」を見ても、1位はコミュニケーション能力(82.4%)で、以下、主体性(64.3%)、チャレンジ精神(48.9%)、協調性( 47.0%)、誠実性(43.4%)と続きます。「学歴」や「学力」はほとんど重視されていません。[中室、527]
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花子: わあ! 「学歴」や「学力」はほとんど重視されずに、コミュニケーション能力が82.4%、主体性64.3%なんて、ずいぶんはっきりした傾向ですね。

伊勢: そうだろう? 企業が実際に求めているのは、学力よりも人間力なんだ。これは教育経済学の研究結果と完全に一致している。

花子: 学校では学力が重視されがちですが、実は人間力の方が仕事での成功には大切だと、多くの企業も考えているんですね。

■3.「学力よりも人間力」という社会常識が科学的に立証されつつある

伊勢: そうなんだ、企業経験のある人には、学力より人間力の方が仕事の成功で重要だということは、当たり前に思える。

花子: えっ! そうなんですか?

伊勢: 現代企業では、ほとんどの仕事が多くの人の共働作業で行われるからだ。たとえば、製造企業での新しい製品開発の仕事を考えてみよう。

花子: 新製品開発なら、一人の天才的な技術者がいればできるんじゃないんですか? たとえば、アップルのスティーブ・ジョブスがiPadを開発したように。

伊勢: いや、そうではない。ジョブスがiPadという独創的な新製品を考え出したとしても、それを世に送り出すには、製造部門で革新的な設備を設計する設備技術者が必要だったり、営業面では新製品の宣伝方法を考える担当者など、実にさまざまな人々の協力によって、一つの新しい製品が世に送り出されるんだ。

花子: わあ、新製品開発でもチームワークが必要なんですね!

伊勢: そうなんだ。そこでは、関連する人々の理解と協力を求めるコミュニケーション能力、チームを引っ張っていく主体性、課題にぶつかってもそれを乗り越えようとするチャレンジ精神、一緒に働く仲間との協調性、誠実さ、などが不可欠なんだ。

花子: 確かに、みんなで協力するには人間力が必要ですね。

伊勢: そういう人間力を持つ人は、たとえ学力面での知識が不十分でも、そこは専門家に聞いたり任せたりしてカバーできる。

花子: 人間力があれば、知識の不足は補えるということですか?

伊勢: その通り。逆に、いくら高学歴で学力があっても、他の人との協調性に欠けていては良い仕事はできない。したがって、教育経済学で、忍耐力、リーダーシップ、責任感、社会性などの人間力の重要性をいろいろなデータで実証しつつあるのは、従来の社会的な常識を科学的根拠で実証している、とも言えるんだよ。

花子: 社会の常識の正しさが、科学的にも証明されつつあるということですね! とても納得できました。

■4.忍耐力と自制心の経済的効果

伊勢: 教育経済学での実際のデータを見てみよう。中室教授は、人間力の中で、「忍耐力」と「自制心」に関するこんなデータを紹介している。まず忍耐力についてだ。
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 子どもの頃や若い頃に、忍耐力に欠けると、生涯収入が13%も低くなることがわかっています。それだけではありません。忍耐力がないと、学校での成績が悪く、校則違反が多く、高校を中退する確率が高いだけでなく、大人になってから後悔する確率も高いことがわかってい ます。さらに、飲酒量が多くなり、肥満になり、貯蓄率が低くなることを示したエビデンスもあります。[中室、619]
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花子: 忍耐力がないと、そんなにいろいろな影響があるんですね!

伊勢: そうなんだ。自制心についても重要なデータがある。
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自分の感情や行動をコントロールできる「自制心」も重要です。ニュージーランドのダニーデンという小さな村で、1972~73年生まれの1037人の子どもを長期にわたって追跡したデータがあります。これによれば、3~11歳のあいだに自制心が低かった人は、32歳時点での健康面や経済面、そして安定的な生活の面で不利になっていました。[中室、625]
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花子: 子どもの頃に学んだ忍耐力や自制心が、大人になってからの人生にも影響するんですね。

■5.人間力が学力も育てる

伊勢: さらに面白いのは、幼少期に身に付けた人間力は、その後の学力を伸ばすのに役立つけど、その逆、つまり学力が人間力を伸ばす効果はない、ということだ。

花子: えっ、人間力があれば、学力も伸びるんですか?

伊勢: そうなんだ。忍耐力や自制心がつけば、遊びたいのを我慢して勉強したり、難しい問題を投げ出さずに、じっくり取り組んだりできるから、学力が伸びるのも当然だと言える。実際にこんなデータもある。

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1980年代にカナダのモントリオールで、問題行動が顕著な7~9歳の男児に対して、非認知能力を伸ばすトレーニングが行われたことがあります。
 このトレーニングは、自制心や社会性を高める目的で、週1回45分程度、2年間にわたって実施されました。
 具体的には、「からかわれたときにどう反応するか」「怒りを感じたときにどう対応するか」「ほかの子どもに拒否されたらどう振る舞えばいいか」などについて、数人の大人と少人数の子ども同士のグループで話し合いをします。・・・
 このトレーニングによって、実際に子どもたちの自制心や社会性が高まったことが確認されています。[中室、586]
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花子: へえ、そういうトレーニングがあるんですね。効果はどうだったんですか?

伊勢: それが驚くべき結果なんだ。
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注目に値するのは、学力への影響です。子どもたちがこのトレーニングを受けた直後の10代前半には変化がありませんでしたが、その後10代後半になってめきめきと学力が上がったのです。[中室、596]
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花子: すぐには効果が出なかったけど、後から伸びたんですね!

伊勢: そうなんだ。そして影響はそれだけじゃない。その後の学歴、収入、結婚する確率までもが高まっていった。年収については、20~39歳までのあいだで、平均年収の20%も上昇した。このトレーニングの内部収益率(平均的な利回り)はなんと17%にも上ったという。これは、10万円をトレーニングに使ったとしたら、10年後には約48万円になって返ってくる、ということだ。

花子: すごいですね! 週1回45分の人間力のトレーニングが、そんなに大きな効果を生むなんて驚きました!

■6.人間力を伸ばす方法は?

花子: それにしても、先生。私たちはどうすれば人間力を伸ばせるんでしょうか?

伊勢: 研究によると、こういうことが分かっている。
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一連の研究から明らかなことは、子どもたちが身近にいる人たちから影響を受けて非認知能力を培っているということです。[中室、856]
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 家庭の両親や、学校の先生、近所の人々などから影響を受けて、子供たちは人間力を伸ばすんだ。この点で思い出すのが、幕末に来日した西洋人たちが観察した日本社会の姿だ。明治7年から翌年にかけて、東京外国語学校でロシア語を教えたレフ・イリイッチ・メーチニコフという人がこんな体験を記している。
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 わたしは江戸のもっとも人口の密集した庶民的街区に2年間住んでいたにもかかわらず、口論しあっている日本人の姿をついぞ見かけたことがなかった。
 ましてや喧嘩などこの地ではほとんど見かけぬ現象である。なんと日本語には罵りことばさえないのである。馬鹿と畜生ということばが、日本人が相手に浴びせかける侮辱の極限なのだ。[1,p167]
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JOG(680) 江戸時代の庶民は幸福だった
 貧しくとも、思いやりと助け合いの中で人々は幸福に暮らしていた。
https://note.com/jog_jp/n/n685228ca491d?app_launch=false
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花子: すごいですね!江戸時代の人たちは、とても思いやりが深かったのですね。

伊勢: そうだ。江戸時代の子供たちは、こういう社会でお師匠様たちが教える寺子屋で育っていった。当然、高い人間力を身につけていったろう。

 それが明治になってから、全国に小学校ができ、教育勅語で「父母に孝養をつくし、兄弟姉妹は仲良く、夫婦は仲むつまじく、友とは信じあい、、、、、」などと人間力の大切さを全国民が習い、「修身」の時間に具体的な人々の生き方を習っていった。
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JOG(758)『国民の修身』を読む
  極東の一小国が半世紀で世界の五大国に仲間入りした原動力は、修身で培われた道徳力にあった。
https://note.com/jog_jp/n/n6b6c4544d80c
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花子: それで日本国民全体の人間力が上がったということですね。

伊勢: その通りだ。全国民の人間力が上がることによって、国家の経済力や武力など、個人で言えば「学力」が伸びていった。開国から60余年で、国際連盟常任理事国となったという明治日本の奇跡も、江戸時代以来、積み重ねた人間力があったからだろう。

花子: そのご先祖様たちの大成功を引き継ぐには、現在の私たちはどうしたらいいのでしょう?

伊勢: そうだね。やはり、子供が身近にいる人々、家庭での親や、学校での志ある教師から、人間力を学ぶことを重視すべきだね。それとともに、昔の修身や講談のように、歴史上の偉人から、彼らがどのような人間力を発揮して偉大な功績を成し遂げたのか、を学ぶことも大切だ。歴史人物学習館のサイトなどを見てね。

花子: 分かりました。私もそれで人間力を鍛えます!

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