トランプ大統領「イラン戦争謎の勝利宣言」の裏に見えるイスラエル・ネタニヤフ首相の影

日本時間4月2日午前10時、ドナルド・トランプ米大統領が、イラン戦争の「勝利宣言」を、国民向けテレビ演説で行った。イラン戦争とは一体何だったのか? 評論家の塩原俊彦氏は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に踊らされた戦争だったと説く。
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まず、3月17日、国家対テロセンター(NCTC)所長のジョー・ケント(下の写真を参照)が突然、イランとの戦争への反対と、トランプ政権の政策に対するイスラエルの影響力を理由に辞任したことを思い出してほしい。公表された彼の書簡にも、Xへの投稿にも、「われわれがこの戦争を始めたのは、イスラエルとその強力な米国ロビイからの圧力によるものであることは明らかだ」という表現がある(下を参照)。
つまり、2月28日からはじまった米国とイスラエルによるイランへの大規模攻撃は、ドナルド・トランプ大統領が主導したのではなく、ベンヤミン・ネタニヤフ首相に促されて踏み切ったもので、あくまで「トランプとネタニヤフの戦争」という視点から考えなければならないというのだ。
(出所)https://www.nytimes.com/2026/03/17/us/politics/joe-kent-counterterrorism-resigns-iran-war.html
(出所)https://www.nytimes.com/interactive/2026/03/17/us/joe-kent-resignation-letter-iran.html
(出所)https://x.com/joekent16jan19/status/2033897242986209689?s=46
すべてはネタニヤフから始まった
この主張は決して荒唐無稽なものではない。そもそも、今回の攻撃のきっかけは何かを思い浮かべてみればわかる。それは、2018年5月8日に第一期トランプ政権下で、トランプ大統領がイランとの「包括的共同行動計画」(JCPOA)への米国の参加を終了し、同合意に基づき解除されていた制裁を再発動すると発表したことだ。
この決断をめぐって、先月31日付の「ニューヨークタイムズ」(NYT)において、有名なジャーナリスト、トーマス・フリードマンは、「トランプは、ネタニヤフの強い要請を受けて、2018年に米国を合意から一方的に離脱させた」と書いている。このときも、ネタニヤフからの「強い要請」があったというのだ。
具体的には、2018年4月30日、盗まれたイランの核計画に関する膨大な資料を公開し、イランが核兵器開発の取り組みについて長年にわたり嘘をついてきた(下の写真を参照)、と、ネタニヤフは厳しく非難していたのである。
(出所)https://www.nytimes.com/2018/04/30/world/middleeast/israel-iran-nuclear-netanyahu.html
ネタニヤフはイスラエル国防省で行われた演説のなかで、イランの指導者たちが自国には核兵器開発の野心はないと繰り返し主張する映像を流した後、イスラエルの工作員が入手した写真、動画、設計図、その他の証拠を提示し、それらはイラン側が最初から欺瞞(ぎまん)的であったことを示しているとのべた。
さらに、「これらの資料は、イランが『核兵器計画は一度も持ったことがない』と主張していたことが、あからさまな嘘であることを決定的に証明している」とネタニヤフ氏はのべ、5万5000ページに及ぶ印刷物と183枚のCDのコピーを指し示した、とNYTは報じている。ネタニヤフは、イランが2015年の核合意締結後、核兵器計画の証拠を隠蔽(いんぺい)する取り組みを強化し、2017年には記録をテヘランの「老朽化した倉庫」のような秘密の場所に移動させたとした。
なお、秘密任務について話す条件として匿名を条件としたイスラエル政府高官によると、イスラエルの諜報機関モサドは2016年2月にその倉庫を発見し、それ以来、その建物を監視下に置いていた、とNYTは書いている。
この記事には、2018年4月30日の夜、当時のマイク・ポンペオ国務長官が、米情報機関が資料を精査した結果、その信憑(しんぴょう)性を確認し、「少なくともイランは核兵器計画の存在について自国民に嘘をつきつづけていた」と結論づけた、と紹介されている。
イラク戦争を巡るイスラエル批判
興味深いのは、2003年にも、同じように、米国がイスラエルに促されてイラク戦争に駆り出されたとする見解がある点だ。そんな見方を提示しているのは、リアリズム(現実主義)の立場から国際政治を論じているジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授と、スティーブン・ウォルトハーバード大学ケネディ行政大学院教授の共著論文「「イスラエル・ロビイ」と米国の外交政策」である(なお、米国のロビイ活動やロビイストについては拙著『民意と政治の断絶はなぜ起きた』を参考にしてほしい)。
この論文では、2003年3月からはじまったイラク戦争について、「一部のアメリカ人は、これが「石油をめぐる戦争」だったと考えているが、この主張を裏づける直接的な証拠はほとんどない」と指摘されている。そうではなく、「2003年3月に米国がイラクを攻撃する決定を下した背景には、イスラエルやロビイからの圧力だけが要因ではなかったが、それは決定的な要素の一つであった」というのである。
まず、2002年に、強硬派のアリエル・シャロン首相(当時)と米国のイスラエル・ロビイが、「米国大統領に立ち向かい、勝利を収める」事件があったことをしっかりと認識すべきだろう。2002年4月、イスラエル国防軍(IDF)が「防衛の盾作戦」を開始し、ヨルダン川西岸地区の主要なパレスチナ人居住地域のほぼすべてを再び掌握すると、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領は、イスラエルの行動がアラブ・イスラム世界における米国のイメージを損ない、対テロ戦争を弱体化させることを認識していたため、4月4日、シャロンに対し「侵攻を停止し、撤退を開始せよ」と要求した。コリン・パウエル国務長官は中東へ向かい、すべての当事者に戦闘を停止し、交渉を開始するよう圧力をかける。
これに対して、イスラエルとロビイは即座に行動を起こす。主要な標的として、まずパウエルが狙われる。彼は、チェイニー副大統領の事務所や国防総省の親イスラエル派高官たちから、またロバート・ケーガンやウィリアム・クリストルといった新保守派の論客たちからも激しい圧力を受け始めるのである。それは、「反ユダヤ主義者」というレッテル貼りを特徴としていた(現在、冒頭に紹介したジョー・ケントは「反ユダヤ主義者である」と糾弾されている)。
第二の標的は、ブッシュ自身であった。彼はユダヤ系指導者やキリスト教福音派から圧力を受けていたが、後者は彼の政治的基盤の重要な構成要素であった。院少数党院内総務のトレント・ロットはホワイトハウスを訪れ、ブッシュに対し、一歩引くよう直接警告したのである。こうして、ブッシュによるシャロンへの圧力は失敗に終わる。
イラク戦争を望んだイスラエル
2002年にシャロンとユダヤロビイによって一敗地に塗(まみ)れたブッシュがイラク戦争に傾いたのは、こうした現実の流れになかで理解されなければならない。先の共著論文には、イラク戦争の動機は、「イスラエルの安全をより強固なものにしたいという願望に大きく起因していた」と指摘されている。
ここでも、モサドが暗躍していた。「イスラエルの諜報当局者はイラクの大量破壊兵器(WMD)計画に関する数々の憂慮すべき報告をワシントンに提供していた」からである。そうした自分たちにとって都合にいい情報に基づいて、ネタニヤフは2002年9月20日の段階で、「ウォールストリート・ジャーナル」(WSJ)に、「この独裁者は、生物兵器や化学兵器の備蓄を急速に拡大しており、自国民や近隣諸国に対してこれらの大量破壊兵器を使用してきた上、核兵器の取得に必死になっている」と書いた。そのうえで、「今行動を起こさなければ、われわれ全員がはるかに大きな危機に直面することになる」とのべ、「(サダム・フセイン)政権が私たち全員を破滅させるほどの力を手にする前に、打倒しなければならない」と主張していたのだ。
恐るべきイスラエル・ロビイ
ミアシャイマーとウォルトの共著論文では、「アメリカ・イスラエル公共問題委員会」(AIPAC)が「最も強力かつ著名である」と紹介されている。実は、このAIPACが再び注目されている。先月26日付のThe Economistはつぎのように記述している。
「現在もっとも注目を集めている組織は、米国最大の親イスラエル・ロビイ団体であるAIPACだ。同団体は約70年にわたり、両国の関係強化に取り組んできた。他の国内のロビイ団体と同様、同団体はイスラエルを含む外国政府から資金提供を受けていない。
その代わり、同団体はアメリカ人、その多くがユダヤ系の人々からの寄付に頼っている。その活動は非常に効果的で、民主党や共和党の重鎮たちが定期的に会議に参加している。しかし、アメリカ国民の意識が変化するにつれ、その戦略も変化している――しかも、その変化が自らの大義を損なう恐れがあるような形で」
記事によると、AIPACは、2018年にイスラエルを厳しく批判する議員が数名当選したことに危機感を抱き、選挙政治に積極的に乗り出した。議員の投票行動だけでなく、だれが当選するかまで左右しようとしたのである。
2022年には、無制限の資金調達を認められたスーパーPAC「ユナイテッド・デモクラシー・プロジェクト」を立ち上げた。過去10年間で選挙戦に費やした資金はわずか15万ドルだったが、2022年と2024年の選挙サイクルでは1億ドルを投入したという。
今年に入ってからも、AIPACは民主党予備選における「批判派」を排除する取り組みに3000万ドル以上を投じ、ニュージャージー州、ノースカロライナ州、イリノイ州の下院選に焦点を当てている。
それだけではない。3月21日付の「ワシントンポスト」(WP)は、3月20日の夜に公開された提出書類によると、AIPACの政治部門は、17日に実施された下院予備選挙において、イスラエルに批判的なイリノイ州の民主党候補を破るための活動の一環として、他の団体に500万ドル以上を流用していたことが明らかになった、と報じている。この秘密裏の資金提供は、激戦区での選挙戦において外部団体が支出を不透明にしている実態を示す最新の事例であるという。要するに、親イスラエルでない候補者は何が何でも叩き潰そうというわけだ。
このようにみてくると、今回のイラン戦争が決してトランプだけの戦争ではないことが理解できるだろう。「トランプとネタニヤフの戦争」という視点からながめなければ、中東紛争の深層にまでたどり着くことはできないのである。



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