【中東緊迫の裏事情】イラン戦争で暴露された「リベラル派3つの偽善」を暴く

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イラン戦争で暴露された「3つの偽善」を暴く
2月28日、米国とイスラエルによるイランへの攻撃が国際法違反とされないことが、欧州や日本の偽善を浮き彫りにした。特に、ロシアのウクライナ侵攻を非難する一方で、同様の侵攻を見逃す姿勢がダブルスタンダードとされている。リベラル派は、国際法遵守を掲げながら米国の行動を非難しない矛盾が指摘され、トランプは国際法無視を露呈させた。

【中東緊迫の裏事情】イラン戦争で暴露された「リベラル派3つの偽善」を暴く

国際法など「クソくらえ」

2月28日にはじまった米国・イスラエルによるイランへの大規模攻撃は、欧州諸国や日本にとって知られたくない偽善を暴いている。しかも、その偽善は大きく分けると、三つもある。

第一の偽善は、今回の攻撃を国際法違反と非難しない偽善である。

第二の偽善は、2022年2月24日からはじまったロシアによるウクライナへの全面侵攻を国際法違反と責めつづけている欺瞞(ぎまん)である。ドナルド・トランプ大統領はこの侵攻を国際法違反などと非難していない。今回の大規模攻撃が国際法違反でないのならば、ロシアによる侵攻もまた国際法違反ではないことになるのではないか。

第三の偽善は、2014年2月20~23日にかけてウクライナで起きたクーデターを「マイダン革命」と呼び、正当化しつづけている偽善である。クーデターでありながら、それを合法であると承認したことで、自ら国際法違反をしてしまったことをリベラル派は隠そうとしてきた。リベラル派の欺瞞の大元はここにある。このときの偽善がリベラル派の特徴であったはずの高い道徳観や倫理観を毀損(きそん)してしまったのだ。

これに対して、国家は原則(principle)ではなく国益(national interest)にもとづいて行動するとみなし、国際システムは無政府的な性質をもつとし、国際協力を軽視するリアリズムを信奉するリアル派のドナルド・トランプ大統領は、最初から国際法をまったく気にかけていない。リベラル派が「大嘘」をついている以上、国際法など「クソくらえ」なのだ。

思い出してほしいのは、1月8日、「ニューヨークタイムズ」の4人の記者とのインタビュー(下の写真)のなかで、自身のグローバルな権力に制限はあるかと問われたトランプがつぎのように答えたことだ。

4人のNYT記者の質問に答えるトランプ大統領  Doug Mills/The New York Times

(出所)https://www.nytimes.com/2026/01/08/us/politics/trump-interview-power-morality.html

「ああ、一つある。俺自身の道徳観だ。俺自身の心だ。俺を止められるのはそれだけだ」とのべ、さらに、「国際法なんて必要ない」と付け加えたという。

つまり、リアル派のトランプにとって、国際法などどうでもいいのだ(もちろん、私はこんなトランプを支持しているわけではない。ただ、評論家としてわかりやすく説明しているだけだ)。

リベラル派の偽善

ここでは、拙稿「エプスタイン文書がぶち壊してしまった「スキャンダルまみれのリベラル派」の偽善」「実は大きな矛盾が…?3月6日開幕の「パラリンピック参加国」をめぐるリベラル派の偽善を暴く」に書いたリベラル派の偽善の話を思い出してほしい。

リベラル派は、リベラル・デモクラシーにもとづく国際政治という考え方を支持する。これは、多国間機関(国連、世界貿易機関[WTO]、北大西洋条約機構[NATO]など)における国際協力を重視し、同じ制度やルールのもとでの経済的相互依存により、平和の維持をはかろうとする。その際、民主主義こそ、こうした国際協力、制度、ルールをもたらす大原則として重視するのだ。ゆえに、国際法の遵守を金科玉条として掲げる。

そうであるならば、リベラル派は、今回の米国とイスラエルによるイラン攻撃をなぜ国際法違反として非難しないのだろうか。真のリベラル派なら、堂々と米国政府を国際法違反だと糾弾すればいいではないか。

【第一の偽善】

英独仏の首脳は2月28日、イランに関する共同声明を公表した。そのなかで、「我々は今回の攻撃には参加しなかったが、米国、イスラエル、地域のパートナーを含む国際的な協力国と緊密に連携している」とのべている。

ただ、「我々は、イランによる地域諸国への攻撃をもっとも強い言葉で非難する。イランは無差別な軍事攻撃を控えるべきである」とあるだけで、イランを攻撃した米国とイスラエルに対する非難はまったくない。

これが意味しているのは、米国やイスラエルによる国際法違反を不問とするリベラル派の偽善そのものである。「ニューヨークタイムズ」のデイヴィッド・E・サンガー記者は、28日付の記事「トランプにとってイラン攻撃は究極の選択的戦争である」のなかで、外交問題評議会の元会長で、1991年と2003年のイラクとの二つの紛争を分析した2009年の著書『必要の戦争、選択の戦争』の著者であるリチャード・N・ハースの発言、「これは、将来イランが能力を獲得するのを防ぐための、典型的な予防的攻撃(preventive attack)である」を紹介している。

そのうえで、サンガーは「国際法において、やむを得ない戦争と選択的戦争の差は甚大である」と書く。「先制攻撃(preemptive strike)――ある国家が川や海の向こうで攻撃が準備されているのを見て先制攻撃を行うこと――は正当とみなされる」が、「強国が弱小国を攻撃する先制攻撃は、違法とみなされる」と指摘している。その典型例として、米国および世界の多くの国々から国際秩序に対する重大な侵害として非難された、ロシアによるウクライナ侵攻の決定を挙げている。

つまり、主要な欧州諸国は、米国およびイスラエルという強国による先制攻撃をまったく非難しない一方で、大国ロシアによるウクライナ侵攻だけを国際法違反だとわめいていることになる。まさに、ダブルスタンダードであり、偽善そのものではないか。

自衛権としての武力行使

国際法の代表格である国連憲章は、安全保障理事会の承認がない限り、武力による他国主権の侵害を禁じている。しかし自衛行動には例外規定がある。その自衛行動として、どの程度までの先制攻撃を認めるのか、あるいはまったく認めないのかについては、国際法上の議論がある。

たとえば、3月2日付の「朝日新聞」の社説は、「先制攻撃は自衛の範囲を超える予防戦争である。国連憲章は武力による紛争解決を、攻撃を受けた際の自衛か、安全保障理事会の承認を得た場合に限定している。今回の攻撃は、その要件をどちらも満たしていない」と書いている。しかし、「先制攻撃は自衛の範囲を超える予防戦争である」という記述には、多くの疑義が想定可能であり、とても正しい命題とは言えない。だからこそ、トランプは、どうとでも解釈できる国際法など、最初から相手にしていないのだ。

リアル派に近づく西側諸国も

米国は、覇権(ヘゲモニー)を守るために、民主党出身の大統領であろうと、共和党出身の大統領であろうと、リベラル派の外交戦略を守ってきた。しかし、トランプがリアル派として登場し、世界保健機関(WHO)、パリ協定、国連人権理事会から米国を脱退させ、米国の利益に資さない66の国際機関からの脱退を指示する大統領覚書に署名するようになって、リベラル派路線からリアル派路線への転換が世界的に迫られるようになっている。

こうした動きに対応するかのように、最近では、フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領は「価値観に基づくリアリズム」(values-based realism)を主張している。彼は、2024年5月29日、タルトゥ大学のホールで行われたスピーチで、価値観にもとづく現実的な世界認識、妥協と協力が、将来の世界秩序を形成する上で重要な役割を果たす、新しい時代の入口に我々は立っていると強調した(タルトゥ大学のサイトを参照)。彼のいう「価値観にもとづくリアリズム」(values-based realism)は二つの柱、すなわち価値観と現実的な世界観に立脚している。

一方の具体的な基本的価値観として、人権、自由、法の支配、少数派の保護、地球規模の公共財、国際機関への信認が想定されている。他方、現実的な世界観によれば、だれもが自由民主主義国家を目指したり、自由主義的価値観や社会市場経済、自由を信奉したりしているわけではない。ゆえに、重大な地球規模の危機を解決するためには、時として自らの価値観を妥協したり、譲歩したりする必要があるかもしれないとみなす。戦争を終結させ、気候変動に対処するには、妥協が求められ、経済においても妥協が必要と考えるのだ。これらすべては、国際外交にもとづく尊厳と敬意に満ちた対話を通じてのみ、可能となると主張する。

1月20日に世界経済フォーラム会議で行った演説で話題になった、カナダのマーク・カーニー首相が紹介したのが、このストゥブのいう「価値観にもとづくリアリズム」であった。カーニーはこのリアリズムを紹介したうえで、それを「原則的であること(principled)とプラグマティックであること(pragmatic)を両立させること」と言い換えている。基本的価値観へのコミットメントとして原則に挙げられているのは、主権と領土保全、国連憲章に合致する場合を除き、武力行使の禁止、人権の尊重だ。

世界経済フォーラム(ダボス会議)で演説するカナダのカーニー首相

(出所)https://www.bbc.com/japanese/articles/cx2yd14p5r8o

興味深いのは、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相も、リアリズムに舵を切ったことである。2月13日に公表された「フォーリン・アフェアーズ」のサイトにおいて、論文「大国政治の悲劇を回避する方法」のなかで、彼は、「我々の第一の課題は、新たな現実を認識することだ」と指摘したうえで、「欧州に確固たる基盤を置くドイツは、自らの進路を定め、自由のための独自の課題を設定しなければならない。この課題の一部はまだ具体化しつつある段階にあるものの、それは原則に基づくリアリズムに根ざしており、その実施はすでにはじまっている」と書いているのだ。

「イラン戦争」への反応の違い

興味深いのは、今回のイラン攻撃への反応の違いである。カナダのカーニー首相は声明を出し、「カナダは、イランが核兵器を入手することを阻止し、その体制が国際的な平和と安全をさらに脅かすことを防ぐための米国の行動を支持する」と明言している。つまり、カーニーはよりリアリストとして振る舞いはじめているようにみえる。

一方、フィンランドのストゥブ大統領はインタビュー(下の写真)で、「通常、この種の攻撃の正当性は、国連、あるいは少なくとも同盟国から求められてきた。しかし今回は、この点についてあまり問われていない」と答えた。どうやら、彼はトランプを支持するまでには至っていないが、批判する気はないらしい。中途半端なリアル派というところか。

フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領は、米国とイスラエルがイランへの爆撃を開始した直後の2月28日、Yle の時事番組のインタビューを受けた。 Image: Petteri Bülow / Yle

(出所)https://yle.fi/a/74-20212881

ドイツのメルツ首相は、テヘランの核武装を終わらせ、イランが行っている「破壊的なゲーム」を終わらせるという米国の目標に同国政府も同意しているとしながらも、今後起こりうる危険について警告した、とロイター通信は伝えている。メルツは、米国とイスラエルの行動に対するいくつかの留保を指摘し、疑念はあるにせよ、いまはパートナーや同盟国に説教をする時ではないとのべたという。つまり、メルツもトランプに相当に寛容な姿勢を示している。

ただし、トランプ政権と緊張関係にあり、イスラエルによるガザ戦争を厳しく批判してきたスペインのペドロ・サンチェス首相は、米国とイスラエルによる緊張の高まりは「より不確実で敵対的な国際秩序の一因となる」と述べた。その上で、「中東で再び長期にわたる壊滅的な戦争が起こってはならない」とした(「ワシントンポスト」を参照)。

サンチェスはトランプに批判的であり、依然としてリベラル派にとどまっているようにみえる。どうやら欧州諸国は、リベラル派とリアル派のせめぎ合いの最中のようだ。

【第二の偽善】

リベラリズムからリアリズムに軸足を移したトランプは、ウクライナ戦争を「バイデンの戦争」と称して、批判してきた。その含意は、リアル派からみると、ロシアによるウクライナへの全面侵攻を国際法違反と決めつけるのはおかしいということになる。なぜなら、今回のイラン攻撃も2022年の侵攻も、彼にとっては国際法違反であるかどうかはどうでもいいことだからだ。

ところが、ジョー・バイデン大統領の時代にはじまった侵攻は、その当時から国際法違反として糾弾されてきた。トランプはすでにこの見解を放擲(ほうてき)してしまったから、論理矛盾はない。

他方、バイデンの米政府とともに国際法違反と批判してきた欧州諸国や日本は、今回、米国やイスラエルに対して、同じ非難をしようとしていない。この姿勢は明らかにダブルスタンダードであり、偽善と言えるのではないか。

自衛のための武力行使をめぐる国際法の解釈は多様であることを考えると、トランプの主張のほうが「正直」であり、論理的な一貫性があるようにみえてくる。

【第三の偽善】

実は、第二の偽善は第三の偽善を隠蔽するためにとられてきたと思われる。それは、2014年2月20~23日にかけて起きたクーデターを「マイダン革命」と呼び、正当化しつづけている偽善を隠すための苦し紛れの「大嘘」をバレないようにする算段なのだ。その意味で、この第三の偽善こそ、もっとも重要な偽善と言える。この偽善がなければ、トランプの主張するように、ロシアによるウクライナへの全面侵攻は起きなかっただろう。

この問題を論じるうえで、重要な出来事が最近になって起こった。トランプが2月21日遅く、米国のストリーミング・サービス会社ネットフリックス(Netflix)で取締役を務めている女性を解雇するよう名指しで求めたのである。自身のSNSであるTruthSocialに、人種差別主義者のスーザン・ライスを即時解雇するか、さもなければ代償を支払うべきだと投稿したのだ。

このスーザン・ライスこそ、ここで紹介したリベラル派の偽善の大元をつくり出した張本人なのである。

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