中国戦狼外交はオウンゴール連発 ~ 山上信吾『中国「戦狼外交」と闘う』から

現代の中国
JOG(1449) 中国戦狼外交はオウンゴール連発 ~ 山上信吾『中国「戦狼外交」と闘う』から
輸入停止などの経済的威圧には「脱中国依存」を進め、戦狼外交にはその土俵には乗らずに真の課題を語る。 ■転送歓迎■ R07.11.30 ■ 85,743 Copies ■ 9,327,677Views■ 過去号閲覧: 無料受講申込み: __________ ■■■YouTube版国際派日本人養成講座 近刊■■■ ■JOG(34) 敗者の尊厳 「日本破れたりとは…

JOG(1449) 中国戦狼外交はオウンゴール連発 ~ 山上信吾『中国「戦狼外交」と闘う』から

輸入停止などの経済的威圧には「脱中国依存」を進め、戦狼外交にはその土俵には乗らずに真の課題を語る。

■1.中国の輸入停止にホタテガイ輸出の脱中国依存、進む。

花子: うちの近所のホテルの経営者が、中国の団体客のキャンセルが続いていて、大変だと言ってました。

伊勢: ああ、最近、中国政府が、高市首相の「台湾有事」に関する発言に反発して、中国外務省が日本への渡航自粛を呼びかけている件だね。こういう経済的威圧は中国の常套手段だけど、それにどう対応するかは、数年前のホタテ貝の一件が参考になる。

花子: 確か福島の処理水放出で、中国が日本の水産物の輸入を止めたんですよね。

伊勢: そう、2023年8月のことだね。当時は対中輸出が50%以上も占めるホタテ貝業者の悲鳴が報じられたけど、2年経って、輸出先の開拓が進み、中国依存から脱しつつある。

花子: それは良かったですね。具体的にはどうなったんですか?

伊勢: 2022年の輸出総額は911億円で、51%が中国向けだった。その後、アメリカ、台湾、ベトナム、韓国へと輸出先の多様化が進み、25年は9月までで603億円。中国向けはゼロのままでも、この調子で年末までいくと、800億円ほどまで戻りそうだ。2021年は600億円ちょっとだったので、完全復調と言っていいね。

花子: すごいですね! どうしてそんな事ができたんですか?

伊勢: ホタテ貝の産地の水産加工会社は、こう言っている。「取引している商社や卸業者が台湾向けに販路を拡大しているので(中国の輸入停止の)影響はない」「影響を受けているところは少ないのではないか」「中国に依存しない仕組みにしてきた」などの声も出ている。[産経]

花子: 日本の企業って、すごいですね。

伊勢: そうだね。中国が経済的圧力を加える都度、日本の企業は地道な努力でそれを回避する仕組みを作ってしまう。

 ちょうど、YouTubeのショートで、前駐豪大使の山上信吾氏が、こんな話をしていた。屋形船の経営者が「中国からのキャンセルが続いて大変だ」と語っているニュースをNHKが流していることに対して、「私的利益は国益の一部であり、経済的利益だけ考えると、結局は中国の手のひらの上で踊ることになってしまう」という見事な正論だね。

 ホタテ貝と同様、一時的減少はあっても、日本の旅行業界も中国依存の少ない仕組みを作ってもらいたいものだね。それが、日本の国家経済の安心安全を進める道でもある。

 今回は、中国の戦狼外交と戦ってきた山上さんの本から、対中外交を考えてみたい。

■2.中国の経済的威圧の乱れ打ち

伊勢: 山上さんは中国の経済的威圧について、こう書いている。

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二〇一〇年の日本に対するレア・アースの輸出制限に始まって、ノルウェーのサーモン、フィリピンのバナナ、カナダのカノーラ(菜種)、韓国への団体観光客等、中国の不当な経済的威圧によって貿易や往来が制限されてきた「狙い撃ち」事例には事欠かない。[山上、p4]
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花子: 日本だけでなく、いろんな国が狙われているんですね。

伊勢: そうだ。その中でもオーストラリアが受けた経済的威圧は強烈だった。石炭、大麦、ワイン、牛肉、木材、ロブスターなどに対して輸入制限や高関税がかけられたんだ。

花子: どうしてオーストラリアがそんなに狙われたんですか?

伊勢: 原因は、モリソン豪州政権が、5G(次世代のインターネット規格)から、情報漏洩の疑いのあるファーウェイ(中国華為技術)の排除を明確に打ち出し、またコロナの原因についての国際調査を呼びかけて、中国の強烈な反発を招いたことだ。

■3.戦狼外交でオウンゴール連発

花子: そんなに多くの品目で中国が輸入制限をかけたら、オーストラリアの人たちも反発したのでは?

伊勢: その通り。山上さんはこう書いている。

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最近に至るトレンドを見てみると、かつては、「ベストフレンド」として日本を挙げる回答者と中国を挙げる回答者とがほぼ全体の三分の一ずつ程で拮抗していた。二〇一六年に至っては、「中国」が「日本」を上回ってトップとなった。
 ところが、ここ数年間は日本の圧勝なのである。
 一番最近の調査では、四〇パーセントを超える回答者が日本と答え、中国と答える人々は一けた台にまで低下。しかも、日本に次ぐ第二位は中国ではなく、インドとシンガポールが争う展開となっているのだ。[山上、p40]
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花子: すごい変化ですね!

伊勢: ああ。2017年頃から、ある連邦上院議員への中国の賄賂工作や、同国のインフラ(電力、港湾)への中国企業の投資が問題視されて、現地における対中感情は悪化していたが、この経済的威圧は、国民が直接的に感じられる圧力として、対中感情悪化のダメ押しとなったのだろう。

花子: 中国のやり方は、逆効果になったんですね。

伊勢: その通り。中国の近年のやり方は「戦狼外交」と呼ばれているけど、山上さんはサッカーの「オウンゴール」という言葉をよく使われていて、戦狼外交は「オウンゴール」連発だと評している。

中国新闻社, CC 表示 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=91033312による

■4.戦狼外交で「オウンゴール」

伊勢: 「オウンゴール」の中には、山上さんが関わったものもある。
大使着任後、半年ほどでの全豪記者クラブでの講演をされた。ちょうど、中国からの貿易的威圧を受けている真っ最中だった。講演のメインテーマは、「日豪関係の現在と展望」だったが、記者との質疑応答では、自ずから中国による経済的威圧に対する豪州の対応に焦点が当たった。

花子: どんな答えをされたんですか?

伊勢: 山上さんは2010年の尖閣諸島周辺海域での中国漁船船長の拘束に反発した中国がレア・アースの対日輸出を規制した例に言及した。

 その際に、日本政府が米国、EUと協力しつつこの事案をWTO(世界貿易機関)の下での紛争解決手続きに持ち込んで勝訴し、中国の措置を撤廃させたこと、かつ、日本政府が豪州の協力を得つつ中国産レア・アースに対する異様に高い輸入依存度を下げるよう努力してきたこと等を具体的に説明したんだ。

 こうした日本の対応こそが、現在中国のとてつもない経済的威圧に晒されている豪州の参考になるといった趣旨での言及だった。

花子: 反応はどうだったんですか?

伊勢: 講演翌日、豪州各紙は講演を写真入りで大きく報道し、いずれも好意的トーンだった。しかし、同日、中国大使館は激しく批判する声明を出し、大使館のホームページに掲載したんだ。
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 二〇一〇年、中国のGDPは日本を超えた。しかし、今日に至るまで、大日本帝国の夢を抱くごく一部の日本人は、歴史や現実を依然として直視できていない。[山上、p50]
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 ただちに日本大使館幹部が中国大使館幹部に抗議した。それに対する中国側の説明は、山上氏の講演が中国内でも大きく報道され、激しいコメントが相次いだので、在豪州中国大使館でも今回の行動をとらざるを得なくなった、という趣旨だった。

花子: なんか、言い訳っぽいですね。豪州の人たちはどう見たんですか?

伊勢: 豪州メディアや中国以外の大使からは次のような声が上がった。
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「日本大使の講演は巧みに抑制されており、中国を怒らせる類いのものとは考えていない」「豪州を巡る現下の状況にあって、日本大使が公の場で積極的に発言することは、外交官として当然だ」 「当然すぎる日本大使の発言に対してまで中国が『歴史カード』を使ってくるとは昔ながらの常套手段で、あきれてしまう」
[山上、p599]
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花子: 中国の反応は逆効果だったんですね。

伊勢: その通りだ。中国国内だけ見て、戦狼外交を発揮する中国大使館のやり方は、豪州マスコミや外交官たちの反発を招いた、まさしく「オウンゴール」だった。

花子: 中国は自分で自分の評判を落としているんですね。

■5.「中国には外交はなく、内政の延長しかない」

伊勢: 最近でも、駐大阪総領事の薛剣(せっけん)総領事が、高市首相の台湾有事に関する国会答弁で、「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく切ってやるしかない」と自身のX(旧ツイッター)に投稿した。

花子: まったくひどい発言ですね。外交官がそんなテロリストまがいのことを言うなんて信じられません。

伊勢: こうした事例を見ると、中国の外交官たちが、なぜ戦狼外交に走るのか、がよく分かる。山上氏は、中国の幹部外交官たち何人かの言動を紹介して、こうまとめている。
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周(近平)の意向を忖度(そんたく)し、忠誠心・忠義心を前面に出して競い合っている図柄が浮かび上がってくるのだ。[山上、p25]
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花子: 習近平主席の意向って、どういうことですか?

伊勢: この「周の意向」とはこういうことだ。
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戦狼たちは、「主導権を持って闘争に挑まなければならない」(習近平)と最高指導者から説諭されて外交最前線に出て来ているのだ。[山上、p180]
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花子: つまり、習近平主席の命令で戦狼外交をやっているんですね。

伊勢: そういうことだ。したがって、
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中国には外交はなく、内政の延長しかないという好個の実例であるように受け止められる。[山上、p175]
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花子: 外交じゃなくて、国内向けのパフォーマンスなんですね。

伊勢: その通り。中国の外交官たちは、相手国との関係を良くすることよりも、習近平への忠誠を示すことを優先しているんだ。

■6.「相手の土俵には乗らない」

花子: では、私たち日本国民は、こういう中国の戦狼外交にどう立ち向かったら良いのでしょう?

伊勢: まず、経済的威圧に対しては、ホタテ貝のように地道な努力で、中国依存を減らしていくことだね。台湾などの友好国と助け合うのも良い手だね。2021年に、台湾がパイナップル輸出を差し止められた時には、日本の多くの人々が台湾産パイナップルを買って支援し、今や日本が最大の輸出先となった。ホタテ貝も台湾の人々がたくさん買ってくれている。

 同時に、中国の経済的威圧で、「大変だ、大変だ」と騒ぎ立てる一部野党政治家やオールドメディアに対しては、それは「中国の手のひらの上で踊ることになってしまう」ということを理解すべきだね。最近の世論調査でも、高市首相の答弁が「適切だった」と答える世論が6割を超えている[FNN]。こうした中で、むやみに騒ぎ立てる政治家やメディアが「おかしい」と見られるようになってきた。

花子: 歴史戦のような論戦はどうでしょう?

伊勢: 山上氏の主張は「相手の土俵には乗らない」ということだ。特に歴史問題などを持ち出した戦狼外交には、媚中派は、日本が謝罪していることをしっかり説明すれば良かったなどと主張する。それでは「謝罪が不十分だ」という二の矢を受けるだけだ。

 嫌中派は、日本政府がしっかりと反論しなかったと批判する。それでは歴史問題での論争の深みにはまっていくだけだ。どちらにしろ、喧嘩しようと構えている相手の土俵に乗ってしまうことになる。

花子: じゃあ、どうすればいいんですか?

伊勢: ある論争で、中国側が歴史問題を持ち出した時の山上氏の受け答えが良い例だね。氏は「平和を愛好し、ルールを遵守する戦後日本の歩みは誰しもが理解している」とした上で、「今の課題は八〇年前に起きたことではなく、この地域で現在起きている威圧や威嚇にどう対処するかだ」というものだった。

花子: なるほど、土俵を変えたんですね。

伊勢: その通り。こういう反論で、「歴史カードを『無力化』し、日本が戦うべき土俵に引き戻す」。そういう姿勢をとっている外交官や日本政府を国民がしっかりバックアップすることが大切だ。

花子: 経済的威圧や歴史攻撃からの防御はそれとして、日本外交としての攻めの手はないのですか?

伊勢: 山上氏はこうも言っている。
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戦狼と同じリングに上がって吠え合うだけに終わってはならない。より高い立場に立って、国際社会の平和と繁栄に貢献する、人類が目指すべき理想を滔々と語る。そういう日本外交であって欲しいと切に思う。・・・

むしろ、「大小を問わず、どの国も平等に取り扱われるべき」、「弱者が強者に小突き回されるような国際社会であってはならない」と噛み砕いて訴えていけば、戦狼外交に対する最も有効な反論となるだろう。そして狼たちに振り回されてきた諸国から理解と支持が得られるであろう。[山上、p182]
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花子: 理想を語ることで、中国の戦狼外交に反撃するですね。

伊勢: 反撃するというよりも、オウン・ゴールを連発している中国外交を横目に見つつ、国際社会の高い理想を掲げて、幅広い国際的支持を得ることだね。それが日本外交の目指す姿だではないかな。

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