アメリカ株は「大暴落の危険領域」に入った…バフェット、レイ・ダリオの警戒と「強気の習近平」が示す「大クラッシュ」の予兆

バフェット、火遊び相場から撤退
言うまでもないが、大暴落のタイミングを正確に掴むのは、誰にとっても難しい。そのことを承知の上で、私は、世界の株式市場、とりわけアメリカの市場において、大暴落が起こるのではないかという心配を高めている。
まずはいくつかの懸念事項を見ていこう。
「投資の神様」とも言われるウォーレン・バフェット氏の会社であるバークシャー・ハサウェイの保有現金残高は、2022年には1000億ドル程度に下がっていたところから、現在はその3倍以上にあたる3400億ドルレベルにまで増えている。
現金が急激に増えているのは、それだけ株式の売却を進めていることを意味する。
バークシャー・ハサウェイが保有する流動資産における現金の比率は55%に達し、これはかつてない高水準だ。
株式市場の割高・割安を考える指標として、バフェット氏が打ち出したバフェット指標と呼ばれるものがある。
バフェット指標は、一国の上場株式の時価総額の合計が、GDPに対してどのくらいの比重を占めるかで表されるものだ。
株価は年々上がる傾向にあるが、GDPが増えるスピードを大きく上回って上昇するとしたら、それは割高になっているんじゃないかという判断は、直感的にも一つの判断指標になるだろう。
バフェット氏は、一国の上場株式の時価総額の合計が、GDPに対して110%以下であれば割安、135%以上であれば割高、160%以上になると大幅に割高、200%以上になると火遊びのレベルと見ている。
プレジデント・オンラインによると、現在アメリカの株式市場はバフェット指標で219%に達しているとされ、完全に火遊びレベルなのだ。こんな水準に株価が達しているなら、株式市場がかなり危険領域に入ってきたと見るのは、おかしなことではないだろう。
レイ・ダリオ、米債務増大速度に警告
次にブリッジウォーター・アソシエイツを創業し、世界最大のヘッジファンドに育てたことで知られるレイ・ダリオ氏の警告を扱っていこう。
レイ・ダリオ氏はアメリカの政府債務の膨張を問題視している。
ダリオ氏は、政府の累積債務の増大がGDPの成長スピードを超えて増えている状態を動脈硬化が進んでいる状態に例えている。
動脈硬化が進んでいても、通常は人はそのことに気がつかずに普通の生活を送ることができる。だが突然、動脈硬化が原因で、心筋梗塞や脳卒中を発症して、事態が大きく変わるということが起こりえる。
ダリオ氏はこれと似たあり方の中に、アメリカ経済はあるんじゃないかと考えているのだ。
ダリオ氏は、長期債務サイクルというイメージを持っている。債務が膨れ上がりながら、経済は順調に拡大していくのが普通の局面だが、その中で隠れた形で動脈硬化が進んでいく。そして一旦心筋梗塞が発生すると、膨れ上がった債務が一気に収縮に向かう動きに変わり、経済に大混乱が生じることになると見ているのだ。
こうした信用の拡大と収縮のサイクルがあるというのが、ダリオ氏の見立てである
資産格差拡大は政治的混乱を生むのか
またダリオ氏は、資産格差の拡大を制度・社会の亀裂に例え、こうした不平等が拡大することが政治的な混乱を生むことにも警告を発している。
実はここにもサイクルの考え方が潜んでいる。資産の平等性が高い段階から、徐々に格差が広がっていき、格差が行き過ぎるとこれの修正を求める声が高まる中で、従来の政治手法が取りにくくなる。これが資産格差を崩壊させる力となって働いていくというイメージだ。
そしてダリオ氏もバフェット氏と同じように、現在の株式などの資産価格が過度の楽観のもとで過大に評価されていると見ている。
さらにダリオ氏は、既存の世界の金融秩序そのものがひっくり返る転換期に入っているのではないかという見方をしている。
戦後長らく続いてきたドル覇権体制が崩れる可能性もあると言うのだ。
アメリカの政府財政の行き詰まりが起これば、米ドルの価値が急落し、米ドルへの信用失墜から資本流出が起こる可能性もあるのではないかと、ダリオ氏は見ている。
彼のこの見方は、スペインが没落してイギリスが勃興したとか、イギリスが没落してアメリカが台頭したといった、かなり長期間にわたる歴史に基づいた見方の中で考えられているものだ。このような歴史的なサイクルをベースに、ダリオ氏は市場を観察している。
ところでバフェット氏やダリオ氏が主張している話は、いずれも長期的なトレンドの話であって、潜在的にいつ暴落するかわからないリスクはあるとしても、現実の暴落がどのタイミングで起こるのかと考えた場合に、これを判断するのは難しい。
暴落の引き金を引く相当に大きな事件が表面化し、それが連鎖的な流れを作り出さないと、実際の暴落は起こらないからだ。
引き金は米中貿易戦争
では私がなぜ暴落が迫っているんじゃないかと予測しているかというと、暴落の引き金を引くような大きなイベントが、すでに動き出していると見ているからだ。それはすなわち、米中の貿易戦争が新たな段階に入ったことだ。
10月8日にトランプ政権は、テロ集団のフーシ派やハマスなどが使用するドローン向けに、中国系企業15社がアメリカの電子部品を供与していたことがわかったため、これら企業に対して輸出制限をかけることを発表した。これは中国にダメージを与えるものだ。
これを受けて翌日の10月9日に、今度は中国が報復に出た。11社の米国企業を新たに貿易制限リストに加えると同時に、すべてのレアアースの輸出に関して厳格な審査を行い、承認を必要とすると発表したのだ。
この輸出規制にはレアアースの採掘、精錬、分離、磁気材料製造などの技術も含まれる。つまり、アメリカは中国からのレアアースの入手が困難になるだけでなく、自分たちでレアアース鉱山を開発し、精錬し、実用化させようとしても、中国企業が特許を取っている各種技術を使うことが禁じられることになったのだ。
さらに中国はその翌日の10月10日に、米国船舶が中国の港に寄港する際に特別料金を課す方針を発表した。これは10月14日から、中国で建造されたり、中国企業が所有する船舶に対し、アメリカが港湾使用料を徴収する計画を打ち出していることへの対抗処置だった。
また中国は米半導体製造大手クアルコムによるイスラエルの自動運転向けの通信用半導体メーカーであるオートトークスの買収について、中国の独占禁止法に違反しているのではないかという理由で調査すると発表した。
こうした中国側の動きに対応して、アメリカのトランプ政権は、11月1日から中国に対して、今の関税に追加して100%の関税を課し、すべての重要ソフトウェアの輸出規制を行うと発表した。
さらに米中対立は韓国企業にも飛び火した。
中国は韓国の造船大手ハンファオーシャンの米国子会社5社に制裁を科すと発表したのだ。
韓国はアメリカとの関税交渉の中で、アメリカの造船業の復活のために、韓国が協力することを約束しているが、現在の韓国政府は親中・親北朝鮮政府であり、中国から圧力を掛ければ、韓国が怯むことを期待しているのだろう。
米中チキンゲームの果てに
こうした米中貿易戦争が激化する中で、アメリカのマーケットの動きは不安定になった。
これを受けてトランプ大統領は、米国は中国を助けたいのであって、傷つけたいわけではないと表明した。本気で100%の関税を中国に課すつもりはない、中国を軌道修正させたいだけだ、中国と妥協するから心配するなというわけだ。
これは、米中貿易戦争の激化をマーケットが気にするようになったことで、トランプ政権が強気一辺倒で進むことができなくなったことを意味する。だが、このトランプ大統領の弱気を、中国が見逃すことはないだろう。
中国は、自分たちの国家は米中貿易戦争でどれだけマイナスがあっても、民主主義体制ではないので、自分たちの政権がひっくり返ることがないことに自信を持っている。
一方トランプ政権は、来年の秋には中間選挙が到来するので、経済面での大きなマイナスはなんとしてでも避けたいところだ。
この非対称な構図の中で、トランプ政権に大打撃を与えたい中国は、今回アメリカに譲歩する道を選ばない可能性が高いと、私は見ている。
中国がアメリカに譲歩しなければ、トランプは100%の追加関税を中国に課すしかなくなり、中国もこれに対抗する動きに出るはずだ。
これにより、米中貿易が完全に止まるのに近い状態が生じた場合に、アメリカ経済は、世界経済は安泰でいられるのだろうか。
そして今回クラッシュが発生するとしたら、レイ・ダリオ氏が考えているように、社会を根底からひっくり返すような大きな動きになる可能性が高いと見るべきだ。
これまでの株価の動きからすれば、今のところマーケットは、関税政策などのトランプ政権の諸政策の負の効果を過小評価しているといっていいだろう。
ところが一旦市場が悲観に流れるようになると、これまで見過ごされてきたマイナスが急激に大きなものとして意識されることになる。
一旦大きな負の動きが始まると、マイナスがマイナスを呼ぶような大変動に進展する可能性が出てくるのだ。
中国はまだ強気を続ける
もっとも私は習近平ではないので、最終的に中国がどのような決断をするのかはわからない。
中国は現在ただでさえ無視できない大きな経済的な落ち込みを示しており、ここにさらに大きなダメージがやってくると、体制危機につながるかもしれない。中国は強気の姿勢を示す一方で、実は内心ではこのことを恐れているかもしれない。その結果として、アメリカと妥協する道もないわけではないだろう。
ただしここに来ての中国のアメリカに対する強硬姿勢から見れば、むしろその可能性はかなり小さいものだと見た方が、現実的ではないだろうか。
この段階にあって楽観は禁物だ。
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