JOG(1462) 日本経済への追い風が吹き始めた

現代の日本
JOG(1462) 日本経済への追い風が吹き始めた
中国の経済的威圧に対抗する経済安全保障などの重視で、世界経済の潮目が変わり始め、「失われた30年」脱却へ。 ■転送歓迎■ R08.03.08 ■ 85,697 Copies ■ 9,399,975Views■ 過去号閲覧: 無料受講申込み: ■1.世界秩序の転換と日本の好機 伊勢: 花子ちゃん、最近、面白い本を読んだので、今日はその話をしよう…

JOG(1462) 日本経済への追い風が吹き始めた

中国の経済的威圧に対抗する経済安全保障などの重視で、世界経済の潮目が変わり始め、「失われた30年」脱却へ。

■1.世界秩序の転換と日本の好機

伊勢: 花子ちゃん、最近、面白い本を読んだので、今日はその話をしようか。齋藤ジンという人の書いた『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』という本だ。15万部も売れているベストセラーなんだ。

花子: 15万部ですか! それは、すごいですね。どんな内容なんですか?

伊勢: この本は、日本には数十年に一度の好機が訪れていて、「失われた30年」から脱却する強力な追い風が吹き始めている、と言って、日本が再び世界の勝ち組に返り咲く可能性を示しているんだ。

花子: えっ、本当ですか? 日本はずっと停滞していると聞いていたので、意外です。本当だったら、すごく嬉しいです。

伊勢: そうだね。著者はヘッジファンドなどのプロの資産運用者に助言を行うコンサルタントで、アメリカのワシントンDCに住んでいる。米国の政治・経済の中枢の動きに精通している人物だ。

花子: なるほど。それで、どうして日本にチャンスが来ているんですか?

伊勢: それを理解するには、世界の経済システムがどう変わってきたかを知る必要がある。詳しくは後で説明するけど、まず、全体を見ておくと、次のようにまとめられる。

・「大きな政府」の時代(1930年代-80年代) 社会主義や福祉国家など、政府介入の時代。日本は官民連携で高度経済成長を達成した。

・「新自由主義」の時代(1990年代-2010年代) 「小さな政府」と、市場原理、グローバル化の時代。中国が台頭し、日本経済は雇用維持を優先して「失われた30年」の停滞に陥った。

・「ポスト新自由主義」の時代(2021-): 経済安全保障の時代。米中対立を背景に、日本は得意の官民一体の力を発揮して、再び「勝ち組」となる好機を迎えている。

花子: なるほど! 時代が一周して、日本の立場が好転し、得意なやり方が再び通用する時代になったということですね。

■2.新自由主義が追求した「小さな政府」の時代

伊勢: これから「ポスト新自由主義」でどんな好機が待っているのかを述べる前に、新自由主義、つまり「小さな政府」の時代について、もう少し詳しく見ておこう。1980年代から2010年代までの、日本が「失われた30年」を経験した時代だ。この時代は、それまでの「大きな政府」への反省として台頭したんだ。

花子: どんな反省だったんですか?

伊勢: 第一に、「小さな政府」の追求だ。ソ連型の共産主義経済や、欧米の「福祉国家」などは、非効率な「大きな政府」として批判され、「政府による介入は少なければ少ないほど良い」とされた。

 第二に、市場原理の重視だ。価格や需給は「大きな政府」が決めるのではなく、市場が決めるべきもので、経済合理性や市場原理を重視する世界を目指した。

 そして第三に、グローバル化と国際的ルールだ。WTO(世界貿易機関)の設立(1995年)に象徴されるように、全世界で共通のルールを確立し、その中で自由に競争させる仕組みが整えられた。

花子: 世界中が同じルールで競争する時代になったんですね。でも、日本はこの波に乗れなかったんですよね?

■3.新自由主義の下での「最大の敗者」日本

伊勢: そうなんだ。著者は、日本はこの新自由主義の下で「最大の敗者」になったと分析している。

花子: 「最大の敗者」ですか…。どうしてそうなったんですか?

伊勢: まず、既存システムの機能不全があった。「鉄の三角形(政財官の緊密な連携)」に支えられた「日本株式会社」方式の経済は、市場原理を重視する新自由主義のルールと適合せず、時代遅れとされた。

花子: 日本が得意だったやり方が、通用しなくなったんですね。

伊勢: そうだね。アメリカからの圧力もあった。冷戦期の「大きな政府」のゲームで勝ちすぎた日本は、アメリカから戦略的競争相手として狙い撃ちにされ、規制緩和や市場開放の執拗な圧力を受けた。

花子: 強くなりすぎたから、叩かれたということですか?

伊勢: 前の時代に適応して経済大国となった日本を叩くために、アメリカはゲームチェンジをした。そこで持ち出されたのが、新自由主義だったとも言える。

 そして、この時代にもう一つ重要な変化があった。中国の台頭だ。実は、新自由主義の恩恵を最も享受したのは、安価な労働力を武器に「世界の工場」となった中国だった。アメリカは日本の相対的地位を低下させる戦略をとり、中国の台頭を促した。

 同時に、アメリカは中国を市場経済に組み込めば、民主化も進むと考えていたんだ。

花子: でも、それはうまくいかなかったんですよね?

伊勢: その通り。中国を市場経済に取り込んだけど、中国の民主化は起こらなかった。逆に経済大国となった中国が、アメリカの覇権を脅かすようになった。

 ここから、市場原理と自由競争、グローバル化の「新自由主義」では、中国のレアアース輸出禁止などの経済的威圧に対処できず、経済安全保障のためには、やはり政府の積極的関与が不可欠と考えられるようになった。

 また、新自由主義で、貧富の差の拡大や移民流入などで、社会の安定性が損なわれた。ここでも、もっと政府の出番が求められるようになった。齋藤氏は、トランプ政権は、そういう世論の後押しで誕生したと指摘している。

■4.ポスト新自由主義に向けて動きだした世界

伊勢: そこで、時代は次の経済システムに向けて、急速に動きだしている。日本にとって大きなチャンスが訪れている時代だ。

 それが、ポスト新自由主義の時代だけど、これまでの市場原理に基づく経済から、経済安全保障を念頭に政府が産業政策や需給(半導体など)に介入する時代へと抜本的に変化している。

花子: また政府が経済に関わるようになったんですね。

伊勢: そうだ。さらに、グローバル化が退潮し、生産拠点の国内回帰や同盟国間でのサプライチェーン構築が進むブロック経済化が加速しているのが特徴だ。

花子: グローバル化が後退しているんですか? 世界が一つになる流れだと思っていました。

伊勢: 新自由主義の時代はそうだった。しかし、中国の台頭や新型コロナウイルスのパンデミックなどを経て、世界は「信頼できる仲間どうしで経済圏を作る」方向に動き始めたんだ。

■5.ポスト新自由主義での日本の好機

花子: なるほど。それで、次の時代では、日本にはどんなチャンスがあるんですか?

伊勢: 第一に、地政学的な重要性の高まりだ。覇権争いの主戦場が東アジアに移り、アメリカは中国を封じ込めるために冷戦期以上に「強い日本」というパートナーを必要としている。それが日本経済再生の強力な追い風となる。

花子: 「追い風」とは、具体的にどういう内容でしょうか?

伊勢: アメリカが日本を優遇し、支援してくれるということだ。冷戦時代、アメリカはソ連に対抗するために日本を経済的に強くする政策をとった。今度は中国に対抗するために、再び日本を重視しているんだ。

花子: それは大きなチャンスですね!

伊勢: 第二に、「失われた30年」からの脱却だ。日本は新自由主義の時代にあえて「乗り損ねて」、経済効率を犠牲にしても雇用を守り続けた。その結果、他国のような深刻な社会の分断を回避できていて、現在は安定した社会基盤を持って新しいゲームに参加できる優位な立場にある。

花子: 「失われた30年」が、実は良かったということですか?

伊勢: 当時は苦しかったが、結果的に社会の安定を保てたことが、今になって強みになっているんだ。アメリカやヨーロッパでは格差が拡大し、社会が分断されて、政治が不安定になっている。

花子: 日本は社会が安定しているから、新しいことに取り組みやすいということですね。

伊勢: その通り。第三に、国内投資と賃金上昇のサイクルが動き始めている。2021年以降、国内投資は100兆円の大台を超え、企業は海外移転から国内での設備・人材投資へと舵を切っている。深刻な人手不足により、政府が介入せずとも市場メカニズムによって賃金の上昇と低生産性企業の淘汰が自然に進む環境が整った。

花子: 人手不足で賃金が上がるんですね。でも、人手不足は問題じゃないんですか?

伊勢: 一面では問題だが、見方を変えれば、これまで低賃金で働いていた人たちの賃金が上がるチャンスでもある。同時に賃上げによって、効率の悪い企業は淘汰され、生産性の高い企業が残る。

花子: 自然に経済が良くなっていくということですか。

伊勢: そうだ。第四に、AI導入の障壁の低さもある。日本は労働人口の減少という課題を抱えているため、AIを導入しても他国のような失業への不安や反発が起きにくく、生産性向上のためのツールとしてスムーズに活用できる期待がある。

花子: 人が足りないから、AIが歓迎されるということですね!

伊勢: その通り。アメリカやヨーロッパでは、AIが仕事を奪うという恐れから反発が強い。しかし日本では、人手不足を補う救世主として受け入れられやすい。

花子: それは日本の大きな強みですね。

伊勢: そして第五に、膨大な家計資産の活用だ。1000兆円を超える家計の現預金は、インフレと金利が戻る世界において、適切な資産運用がなされれば巨額の実質所得増加をもたらす潜在力を持っている。

花子: 1000兆円ですか! すごい額ですね。

伊勢: 日本人は貯金が好きで、長年お金を銀行に預けてきた。しかし、ゼロ金利の時代が終わり、インフレの時代になると、そのお金を投資に回すことで、大きな利益を得られる可能性があるんだ。

花子: 日本には本当にたくさんのチャンスがあるんですね!

■6.新自由主義を拒否した日本

伊勢: 今、「失われた30年」が日本社会の安定性を守った、という話をしたけど、これは齋藤氏の深い洞察だと思う。ここに、日本の国柄が現れており、それをもっと発揮することで、ポスト新自由主義での追い風を有効に活かせると思うんだ。

花子: 「失われた30年」が日本社会の安定性を守った、というのは、具体的にはどういうことですか?

伊勢: たとえば、中国が安い人件費を武器に、世界の工場となった。ある企業が中国に工場を移転して、国内の仕事が10%減ったとしよう。本来の新自由主義なら、10人のうちの生産性の低い一人がクビになる。9人は雇用を維持したままだ。また会社の経営者は、国内人件費を一人分減らして、中国工場の低コストで利益を増やすことができる。

 会社は利益を増し、9人はそのまま仕事を続けられるが、クビになった一人は、悲惨な生活となる。ここに社会の分断が生まれる。

 ところが、日本の場合は、中国に工場を移して国内に9人分の仕事しかなくなっても、一人もクビにしない。10人皆で10%の賃金低下を甘受しても、だれかを犠牲にすることはしない。だから、社会の分断も避けられた。ただし、皆の給料が下がって、社会全体がデフレになってしまったけどね。

花子: 会社が社員を守ったということですね。それは良いことのように思えますが…。

伊勢: これが日本が新自由主義の波に乗らずに、社会の安定性を優先したということだ。その背景には、日本社会の伝統である「三方よし」の考え方があると思う。経営は「買い手よし」だけでなく、「売り手」つまり従業員も含めた企業全体、それに「世間よし」でなければならない、からね。

 だから、「失われた30年」という言い方で、すべて失敗だったと捉えるのは、浅い考え方だと思う。日本は「三方よし」を守るために、新自由主義を拒否したんだ。その結果、経済は成長しなかったけど、欧米よりもはるかに安定した社会を残せた。
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・JOG(1411) ゆっくりと進化を続ける日本企業 ~ ウリケ・シェーデ『シン・日本の経営』を読む
「失われた30年」は失われていなかった。多くの日本企業はゆっくりと着実に新しい時代に適応し、進化を続けていた。
https://note.com/jog_jp/n/n9dd762ab5907
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■7.追い風の中でも「三方よし」と「仕合わせ」を

伊勢:「ポスト新自由主義」の世界で、日本は再び追い風を受けるけど、その追い風の中でもどういう姿勢で歩き続けるのか、よく考えなければならない。私は、今までの逆風の中でも我慢して「三方よし」を守ってきたように、その姿勢を続けるべきだと思う。

 その「三方よし」という経営観の根底にあるのが、「仕合わせ」という言葉に込められた社会観だと思う。「仕合わせ」とは、国民一人ひとりが処を得て、自分の一隅を照らし、互いを支え合うことが「幸せ」をもたらす、という日本語の深い叡知の籠もった言葉だ。

 その冬の時代をみなで乗り越え、これから春の時代を迎えるのだけど、そこでも互いに「一人ひとりが処を得て、互いに支え合う」という「仕合わせ」が、我が国の強い国柄であり、そこを外しては、経済的にいかに繁栄しても、幸せな国民生活は築けない。

花子: そうですね。私もまだ中学生ですが、今のうちに日常生活で「仕合わせ」をしっかり実践して、社会に出たら「三方よし」の経営に参加できるよう準備をしたいと思います。
(文責 伊勢雅臣)

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