中国、レアアース輸出規制で大誤算。日本が技術力でレアアース供給国に躍り出る=勝又壽良

現代の中国
中国、レアアース輸出規制で大誤算。日本が技術力でレアアース供給国に躍り出る=勝又壽良 | マネーボイス
中国が再び日本に対してレアアース輸出規制を発動した。しかし、この一手は日本を屈服させるどころか、逆に中国自身の戦略的優位を揺るがしかねない展開を招いている。G7を軸とした「レアアース同盟」の形成、日本が主導する化学的精錬技術の国際的浮上、そして南鳥島レアアース開発の本格化――。中国が切った同じカードは、もはや

中国、レアアース輸出規制で大誤算。日本が技術力でレアアース供給国に躍り出る=勝又壽良

中国が再び日本に対してレアアース輸出規制を発動した。しかし、この一手は日本を屈服させるどころか、逆に中国自身の戦略的優位を揺るがしかねない展開を招いている。G7を軸とした「レアアース同盟」の形成、日本が主導する化学的精錬技術の国際的浮上、そして南鳥島レアアース開発の本格化――。中国が切った同じカードは、もはや脅しではなく、世界の資源秩序を塗り替える引き金となりつつある。(『 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

中国は「レアアース輸出規制」で日本を脅すが…

中国が再び、日本へレアアース(希土類)輸出規制を発動してきた。前回(2010年)に続いて今回が2度目となる。同じカードを2度も切ってきたことで、日本への影響度はそれだけ少なくなっている。中国は、日本を「屈服」させる切り札として使っているが、これ以外の手段のないことを証明するものだ。

中国はすでに昨年、米国へレアアース輸出禁止を突きつけている。それだけに米国には最もナーバスな問題となっている。そこへ今度は、日本をやり玉にしてきた。こうなると、西側諸国が等しく中国のレアアース「空襲」を受けるリスクが高まったわけで、互いに「明日は我が身」という事態となった。

これは、中国にとっては思わざる事態であろう。主要7カ国(G7)などの財務相が1月12日、ワシントンで会合を開き、中国産レアアース(希土類)への依存を減らす方法を協議するまでになった。

このG7財務相会合には、豪州・メキシコ・韓国・インドの財務相も参加した。豪州・メキシコ・インドはレアアース産出国側である。いわば、レアアースの消費国と産出国が一堂に会したことになる。これは、世界のレアアース供給に大きな意味を持つ。中国は、レアアース世界生産の7割を占める圧倒的な支配力である。だが、残り3割は西側諸国で融通し合えば、中国の威圧を切り抜けられる可能性を持っている。ここが、今回の財務相会合の狙い目である。

日本にとって極めて好都合なのは、G7財政相会合の場で日本の開発したレアアース精錬技術の化学的精錬法が、世界へ周知させる舞台を整えられたことだ。化学的精錬法とは、高度化した湿式精錬や溶媒抽出法により、環境負荷を抑えられるようになったことだ。いわば、夢の技術を実現したもので、中国の物理的精錬法を上回るものとして広く認識されている。

西側諸国が、こうした日本技術の「革新性」を理解すれば、環境対策費で採算不能として見捨てられてきた小規模鉱山が、経済性を持って復活することになる。中国には、予想もしていなかった事態へ展開する可能性が出てきた。大きな戸惑いを感じるはずだ。

賢者は争わず対策先行

読者はお気づきであろうか。日本政府が、中国の対日レアアース輸出規制に対して「冷静」に構えている事実は、何を意味しているかという点である。日本は、南鳥島のレアアース採掘が27年以降に本格化すること。この製錬法が、前述の化学精錬法であって中国の採用している物理型とは構造が異なるという技術的優位性。さらに、ラピダスが開発中の世界最初の「フィジカルAI」が、南鳥島のレアアース採掘現場や化学的精錬に採用されることで、飛躍的生産性向上が期待できという点である。

こうした展望を持つ日本が、中国とレアアース輸出規制をめぐって「ドンパチ」を繰り広げたところで無益な話である。「賢者は語らず」こそ、日本の強みを示している。一方の中国は、2度目にも同じカードを切って日本へ戦いを挑んでいる。これは、中国の苦境ぶりを余すところなく示している。

中国が、日本に対して取っている行動は、経済の行き詰まった国家がとる典型的なものだ。中国のような権威主義国家は、経済停滞によって国内不満が高まると、しばしば次のような行動を取る。ナショナリズムを刺激すべく、制裁や禁輸で「強さ」を演出するのである。

中国は、高市首相の「台湾発言」の真意を、十分に認識していたはずである。日米安全保障条約を結んでいる日本が、米国と別行動を取るなら、それはもはや「同盟」と呼ばれない空洞化を招く。日本の安全保障は、米国へ依存しているのが現実だ。こういう視点に立てば、安保政策において日米一体化は当然。本来、別々の行動を期待する方が無理である。

中国は、日本へレアアース輸出規制をすれば、日本が中国の主張を受入れる。そう考えるとすれば、それは日本の安全保障体制を覆す危険な道に通じる。日本が、レアアース欲しさに国家の基本である安全保障を売り渡すことになるからだ。

こうした、非現実的な妄想で日本へレアアース輸出規制をしていることが、必然的に日本のレアアース対抗策を生み出して不思議はないであろう。

日本は、すでに政府備蓄制度を通じて、レアアースを含む重要鉱物資源の安定供給体制を整備している。特に、中小企業に対する支援の観点からも、この備蓄が極めて重要なセーフティネットとなっている。日本政府が、今回の中国のレアアース輸出規制に対して冷静に対応している背景はこれだ。具体的には、次のような内容である。

JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が、国家備蓄として約60日~90日分(3ヶ月前後)を確保している。対象は、ネオジム・ジスプロシウム・テルビウムなどである。 民間備蓄(大企業)では、トヨタ・日立・住友金属鉱山などの大手企業は、独自に数ヶ月分の備蓄を保有している。特にモーター・磁石・光学機器などの製造ラインを止めないための戦略的備蓄がされている。 問題は、中小企業で政府備蓄による支援が不可欠である。EU(欧州連合)は、重要鉱物の備蓄制度がなく日本の制度を取り入れる意向だ。

中国「要の駒」を失う

日本は、今回の中国によるレアアース輸出規制によって、G7を中心にした「レアアース同盟」が結成される僥倖に恵まれた。逆に言えば、中国にとっては日本へ逆転のチャンスを与えることになった。将棋で言えば、「要の駒」を日本に奪われたのである。日本を「虐めた」ことが、西側諸国を結束させた。それが、レアアースを融通し合うシステムと価格安定化への取り組みへの一歩を踏み始めさせたことだ。この中心に座わるのが、実は日本である。

一般的には、「資源貧困国」とされる日本が、科学力によってこの状態を覆すという見事な反発力をみせている。これは、これまでの歴史にはなかったことであろう。まず、南鳥島のレアアース採掘は、海底6,000メートルというかつての常識から言えば想像外の事業である。鉱山と言えば陸上である。南鳥島は海底資源である。これまでの常識が通用しない世界である。日本の基礎研究力が、次のようにこの難題へ挑戦している。

  1. 海底泥の吸い上げポンプは、JAMSTEC(海洋研究開発機構)や東京大学、産総研、民間企業などが連携した独自技術である。
  2. 海底泥の選別・濃縮技術は、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)と東京大学・早稲田大学などの共同研究により、能率が大幅に向上している。
  3. 海底泥の精錬技術は、民間企業(DOWA、住友金属鉱山など)との連携で、化学的精錬法という国産技術が推進する。

上記のように、すべて国内技術によって推進されている。ただ、海底泥の吸い上げポンプでは、米国が深海油田開発で揚泥・パイプ制御技術で実績を積んでいる。米国技術は、日本のシステムと補完的関係にあるため、共同開発や装置供給の形での連携も想定されている。海底泥の吸い上げが、本事業の最大の難所だけに「援軍」が控えていることは、日本にとっては頼りがいがあるに違いない。

間違った推測が横行へ

南鳥島のレアアース採掘の試験は、26年1月から開始される。27年1月から1日350トンの試験操業を始める。商業生産は30年以降とされるが、気になるデータ(と言っても憶測)が報じられている。「南鳥島付近でレアアース泥を採掘するコストは、中国産レアアースの市中価格の数倍から数十倍に達する」(『日本経済新聞』1月13日付)。この記事には、吟味しなければならない点が含まれている。

海底泥を海上まで吸い上げるコストは、1トン5ドル程度とされる。この後は、化学的精錬法であるから大掛かりな設備も労働力も不要とされている。それだけに、中国の採用する物理的精錬法に比べて設備は小型化で済む。トータルとして計算しても、南鳥島のレアアースコストが、前記の「中国産レアアースの市中価格の数倍から数十倍」というのはかけ離れた想定と言うほかない。厳密なコスト分析ではなさそうだ。

特に指摘したいのは、南鳥島のレアアース泥の品位ガ中国陸上鉱山の20倍以上もあることだ。これは、コスト計算において南鳥島のレアアースが、中国に比べてはるかに(20倍も)優位であること示している。

G7財政相会合後、片山さつき財務相は記者団に対し、次のように語っている。「レアアースの中国依存を迅速に低減させる必要性について、幅広い合意が得られた。中国以外からのレアアース供給を強化するため、短期的、中期的、長期的な政策アプローチの概要を説明した」という。さらに、「労働条件や人権の尊重といった基準に基づいた市場の創出が重要である」(『ロイター』1月13日付)。

日本が、レアアース供給を強化するため、短期的、中期的、長期的な政策アプローチの概要を説明したのは、南鳥島のレアアース採掘が前提になって世界のレアース供給を論じていることに留意すべきであろう。さらに、「労働条件や人権の尊重」は、レアアース精錬過程において公害を引き起さない日本の化学的精錬法のメリットを説いたにちがいない。化学的精錬では、精錬過程で労働力が不要ですべて機械化される。これが、公害を引き起さないゆえに、「人権尊重」となるのだ。

このような、日本における生産過程の実態解明によって、次のように結論づけられよう。南鳥島のレアアース価格が、先の「中国産レアアースの市中価格の数倍から数十倍に達する」という推測は、大きな過誤によるものであろう。G7財政相会合では、レアアースの「価格の下限設定」まで話し合われている。レアアース価格が、化学的精錬法によって将来、下落するという想定がされているからであろう。

日本技術で低コスト生産

今回のG7財政相会合では、南鳥島のレアアース採掘の実態を「お披露目」することにもなった。この会合には、インド・豪州・メキシコの財政相が参加している。それぞれ、自国のレアアース鉱山で化学的精錬法採用されれば、目先のレアアース増産と価格低下という期待が持てるであろう。現状では、まだ局所的な効果に過ぎない。だが、世界に散在する小規模鉱山が、化学的精錬法によって採算線へ引上げられて息を吹き返せば、レアアースの生産は一挙に増えるであろう。

世界には、どれだけの小規模鉱山があるのか。「レアアース」という名前に惑わされているが、実際は世界各地にレアアースが散在している。それが未開発のままに放置されているのは、物理的精錬法で大規模精錬所の建設が不可欠であった結果だ。

それが、日本の化学的精錬法を採用すれば、環境に親和的で低コストかつ、柔軟な小規模生産が可能になる。こうして、レアアースの生産量は一挙に増加する見通しになってきた。

世界にどれだけ小規模鉱山があるか。まず、小規模鉱山の定義が必要である。年間生産量は、数百~数千トン(品位換算)で埋蔵量が数万トン規模とされる。インフラ未整備の遠隔地に立地しており、開発が困難視されてこれまで見捨てられてきた。中国式精錬では、まったく採算が取れない鉱山である。

これら小規模鉱山は、世界の次の地域に散在する。

1)アフリカ諸国(タンザニア、マダガスカル、ナミビアなど)では、環境規制に対応できる精錬技術が求められる。化学的精錬法が最適である。
2)中央アジア・モンゴル では、日本の技術導入で商業化できる可能性が大きい。
3)東南アジア(ベトナム、マレーシア) では、日本の化学的精錬法採用が最適。
4)南米(ブラジル、ペルー)では、日本の技術支援で開発余地がある。

小規模鉱山の開発には、大規模精錬所の建設がもともと不釣り合いである。そこで、生産量を柔軟に調整できる日本の化学的精錬法である、モジュール型の出番になる。鉱山の精錬が終了すれば、次の小規模鉱山へ移転可能である。導入先の国は、重い経済負担に悩むことがないのだ。こうして、地下に眠る資源を高価なレアアース製品に仕上げられれば、国家経済に寄与することは明白だ。

モジュール型化学的精錬所は、日本のODA(政府開発援助)によって次の地域で始まっている。ベトナムやインド、モンゴルなど日本と関係が深い国々では、すでにJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)やJICA(国際協力機構)を通じた資源協力の枠組みが存在しており、パイロット導入が可能な状態である。

ODAを活用した技術移転・人材育成・インフラ整備は通常、3~5年の期間で成果が見えるのが一般的である。2028年頃には、現地精製による供給実績が立ち上がる可能性が指摘されている。こうしたODAを通じたレアアース開発は、次のようなメリットを日本と現地国の双方にもたらす。

先ず、日本にとってはレアアースの供給源が多様化される。2030年までに、中国依存度が6割から4割以下へ低下する見込みだ。これには、まだ南鳥島のレアアース採掘を計算にいれていない。これまで、見捨てられてきた現地の小規模鉱山が稼働することは、日本の技術外交が確立する意味で極めて重要だ。これによって、日本の化学的精錬技術が国際標準になる可能性が高まる。国際標準化されれば、日本が製造するモジュール型化学精錬所が輸出される。

現地経済には、大きなメリットになる。小規模鉱山の商業化は、現地雇用の創出をもたらすので経済成長に寄与する。現在のレアアース精錬所は、環境破壊型であるゆえに各国が精錬を放棄して中国へ集中した経緯がある。中国は、環境破壊を厭わずに戦略的意図に基づいてレアアース産業を集積して現在の地位を気づき上げた。だが、日本の環境配慮型の化学的精錬法の発展によって形勢は逆転する。

こうして、脱炭素時代の新しい精錬法の時代へ移行する。皮肉なものである。日本を威圧した積もりだが、実際は逆転される機会をつくっている。新しい時代が始まる。脱炭素の時代要請は、レアアース需要を増やして行く。問題は、その製造法が中国のような環境破壊型では時代から取残されるのだ。中国は、レアアース製造で岐路に立たされている。

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