「転売行為が『国富』を増やすわけではない」ということは同じだ。あくまで(市場の)「潤滑油」である。そして、その行為が、企業に「成長資金」を供給するという株式制度本来の目的から逸脱していることは否定できない。

株式の「転売ヤー」が吊り上げた株価や転売益は企業の本質的な価値などではない!
神様バフェットが重視する企業価値との差を見よ
「マスク転売」と「株式転売」
まず、2020年3月2日公開「新型コロナ、『マスク売り切れ』騒動だけじゃすまない『日本の大問題』」で触れた「マスク・消毒液売り切れ騒動」を思い出していただきたい。気がつけばそれ以来4年も経過したが、多くの人々の脳裏に強烈な記憶として残っているであろう。

その際には、「時間に余裕がある高齢者が開店前からドラッグストアなどの前に並び『買占め』を行い、多忙な勤労者が入手困難になる」という批判も聞こえた。
もっとも、マスク不足の原因は、根本的には、前記「新型コロナ、『マスク売り切れ」騒動だけじゃすまない『日本の大問題』」2ページ目「もし防護服やマスクが100%輸入製品であったなら…」で述べた、80%にも達する輸入比率の高さである。
しかし、「転売ヤー」と呼ばれる人々が大量に買い集め、高値で転売する行為も目立った。実際、荒稼ぎをした人々も少なくないと言われる。だが同時に、マスク不足が収束すると、高値で買い集めたマスクなどの商品の買い手が消え「損切り」を余儀なくされた転売ヤーも存在したと伝えられる。
このような「転売行為」は、実は株式市場でもよく見られる。もちろん、株式は(特にコロナ渦における)マスクや消毒液のような必需品ではないから、少々事情が違う。
マスクや消毒液を手に入れることができない人々は、かなりの高値でも入手せざるを得ない。したがって、「転売ヤー」によって価格が釣り上げられることによって大いに困る。また、人気アーティストの公演チケットなども、そのアーティストのファンにとっては「ほぼ必需品」であるから似たような状況だ。
それに対して、株式を始めとする「非生活必需品」の価格が高騰しても、困る人はあまり見かけない。だから、株式の「転売行為」が、マスクの「転売行為」のように非難されることはまず無い。むしろ、株式の保有者は株価が上がることによって大喜びをする。
だが、バフェットは例外だ。
バフェット流の真髄
企業の「本質的価値」(2019年3月7公開「投資の神様・バフェットはなぜ『株価の下落』を喜ぶのか」冒頭「株価下落でも『企業の本質的価値』は変わらない」などを参照)よりも「高すぎても安すぎても望ましくない=近似値が(バフェットにとっての)理想」なのである。
もちろん、バフェットの金言「人々が熱狂している時には慎重に、恐怖におびえている時には大胆に」でもわかるように、転売ヤーを中心とする人々が株式の投げ売りをして、市場価格が暴落するチャンスを逃したりはしない。むしろ積極的にそのチャンスを利用する。
だが、それはいわば「おまけ」のようなものであって、5年10年さらにはもっと先の「未来」が見通せない企業には決して投資をしない。あくまで「企業の成長に対して投資する」という「株式制度」の「本来の目的」に従ったやり方を貫く。
そのため「転売利益」を期待しないバフェットは、「10年間株式市場が閉鎖されても平気」なのである。
ここに「バフェット流の真髄」がある。
「転売ヤー」が国富を増やすわけではない
バフェットは、11歳から80年以上にわたって株式投資をしてきたが、今世紀に入るまで対象をほぼ米国市場に限定していた。4月3日公開「バフェットの警鐘『ヘビの油売りに気をつけよ』の意味~投資で成功するためには『自分の範囲』を見極めることだ」で述べたように、「自分の範囲」の中に「米国という世界最大の市場」が存在するという幸運に恵まれたのだ。
そのバフェットは、よく米国建国以来の目覚ましい発展に言及する。実際、英国の植民地から独立して以来の米国の発展は「超速」であった。また、1世紀にもおよぶ米国の株価チャートを持ち出して、「100年間でこんなに上がった」という話もよくする。
つまり、バフェットが投資するのは個別の企業だが、その企業は米国と共に歩んできたのだ。
したがって、バフェットは「(優良な)米国企業」に投資(資金を投入)することによって、米国の発展の一部を担ってきたという自負を持っているように思える。つまり、バフェットの投資は「米国の『国富』を増やしてきた」ともいえるのだ。
この点が、割安株を発掘して高値で転売することを目的とした、バフェットの師匠であるベンジャミン・グレアムとの大きな違いだ。
そして、バフェットに師匠のグレアムと同じくらい強い影響を与えたのが、「大原浩の逆説チャンネル<51回>『分散投資を有難がるとは気が違っているとしか思えない』バフェットの過激な盟友チャーリー・マンガーを偲ぶ(バフェット流の真髄その2)」で紹介したチャーリー・マンガ―である。
「素晴らしい企業をそこそこの値段」で買うべき
そのマンガーから教わったのが「そこそこの企業を安値で買うのではなく、素晴らしい企業をそこそこの値段で買うべき」ということだ。
これが「現在のバフェット流」の核心である(「バフェット流の変遷」については、「大原浩の逆説チャンネル<第65回>バフェット流は変化する (バフェットの真髄・特別版その2)」などを参照いただきたい)。
「転売」を目的としないから、「(市場)価格だけを必死に追いかける」必要は全くない。「成長力」を含む企業の「本質的価値」に対して投資をするから、「価格よりも(企業の)『品質』」が大事なのだ。
いくら価格が安くても「粗悪品」の企業では(長期的成長が望めないから)、バフェットの投資対象ではない。あくまで、長期的に発展が望める「優良品」にしか投資をしないのである。
だからこそ、「粗悪品」と「優良品」を見分けるための勉強・研究を行うためにZAKZAK 5月31日拙稿「親友のビル・ゲイツも驚いたバフェットの一日 先人のお知恵拝借『足の生えた本』になれ」のような努力を、90歳を超えた現在でも続けている。
どうせ投資をするなら産業の発展に貢献したい
FXや株式のデイ・トレーダーと呼ばれる人々による「転売」も立派な経済活動の一つであり、「市場の調整役」として無視できない存在だ。
だが、それでもマスクや消毒液などのケースと同様に、「転売行為が『国富』を増やすわけではない」ということは同じだ。あくまで(市場の)「潤滑油」である。そして、その行為が、企業に「成長資金」を供給するという株式制度本来の目的から逸脱していることは否定できない。
例えば、バブル期の不動産価格高騰も、「転売ヤー」によって引き起こされたといえよう。不動産業者が集結した銀座のあるクラブで、隣のテーブルから隣のテーブルへと次々転売された結果、一晩で土地の値段が数十%も上昇したなどという逸話が伝わるほどだ。
もちろん、土地の価格もバフェット流で考えれば、「本質的価値」=「土地の使用(活用)価値」からかけ離れたものになるべきではないということである。
不動産開発によって、住宅や建物が増えることによって「国富」は増える。同様に企業の成長によっても「国富」が増えるのである。
国富が増えることの重要性は、アダム・スミスの「国富論」(筆者書評)を持ち出すまでもなく明らかだ。
「人材の転売」!?
「転売」が価値を生まないのは、「人材市場」でも同じである。
辛口の表現をすれば、人材会社は「日雇い型(ジョブ型)」雇用の人々を、回転させることによって手数料収入を得る。
一つの会社で一生働く終身雇用が人材会社の「敵」であることは、長期投資家が証券会社の「敵」であるのと同じだ。米国のように転職回数が多いほど、人材会社は繁栄する。証券会社と同じ原理である。
「企業の『価値』」が「転売」によって増えずに「価格」だけが上昇することはこれまで述べてきた。同様に、「人材の『価値』」も転売によっては増えない。増加するのは「本人の収入」だけである(もちろん転職によって収入が下がる場合もある)。
「人材の価値」を高める
「人材の価値」を増やすのは、本人の切磋琢磨と企業などによる教育(オン・ザ・ジョブ・トレーニングを含む)である。
そして、企業が「人材の価値」を増やすべく投資をするのはその社員が将来もその企業で働くと考える時だけだ。いつ転職するかわからない社員に多額の教育投資を行うのは馬鹿げている。
実際、最近は聞かなくなったが、会社の費用でMBAなどを取得した社員が転職する時にトラブルとなるケースがあった。企業にとっては、費用の無駄使いという結果になったわけだ。
長期的視点が必要なのは、企業への投資だけではない。企業経営そのものにも当然長期的視点が必要だ。そして、バフェットは経営者としても2019年1月25日公開「バフェットが実践する『実力主義の終身雇用』こそが企業を再生する」で述べたように、従業員をリストラしたり、逆に引き抜かれたりしないことを誇りにしている。
企業への投資においてバフェットが長期志向であることはよく知られているが、「人材への投資」においても長期志向なのである。
もちろん、「転職」を否定するわけではない。私も転職経験者であるし、「転職不可」の会社など「タコ部屋」と変わりがない。
しかし、バフェットは投資をよく「結婚」に例える。離婚は可能だが、長く添い遂げることが理想ということだ。
結婚してみて「どうしても相性が悪い」ということは当然起こる。だから離婚は認めるべきだ。だが、離婚を前提に結婚したり、離婚を繰り返すことはどうであろうか?
バフェットが投資(たぶん経営も)を結婚に例える「深い意味」について我々はもっと掘り下げて考えるべきだと思う。
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