
トランプが「JAPの本音」に気づく日。石破・ネトウヨ・パヨクどれがバレても日本終了!? ゼレンスキー以上の窮地に陥る訳

激しい口論の末に決裂した米ウ首脳会談(2月28日)。これに関して「トランプ大統領は『決裂と怒号の映像』というアウトプットを得ることが当面の目的だった」と分析するのは米国在住作家の冷泉彰彦氏だ。トランプ氏は「極端な劇場型政治」を逐次投入する必要に迫られており、日本としても決して対岸の火事ではない。わが国の“本音”がトランプにバレてしまったら、それこそゼレンスキー氏以上の窮地に追い込まれる恐れは十分あるという。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:西側同盟流動化と日本外交
西側同盟流動化と日本外交~世界が目撃した恐怖の瞬間
2月28日にホワイトハウスで発生した「トランプ=ゼレンスキー会談の決裂」は、どう考えても恐ろしい瞬間でした。戦争が継続し、もしかしたらウクライナの領土がより侵害されるかもしれないという恐怖があり、NATOの枠組みが揺らぐ恐れもあります。
けれども、最も恐ろしいのは2つの事実でした。1つは、少なくとも28日に期待されていた「レアアース採掘権と今後のウクライナの安全保障」に関しての合意というのものは、事務方の折衝や関係国、国連などの調整を経て練り上げられては「いなかった」ということです。
つまり、国際社会において非常に重要な合意もしくは不同意ということが、組織ではなく首脳の「中の人」つまりは、「タダの人」に任されていたのです。
これは怖いことです。東欧史、戦後史、戦史、国際法史、そして各国際法と国際機関の実務的な制度の知識、そして関係国の経済力、兵力など、とにかくウクライナ和平に必要な情報は膨大です。
そうした情報に必ずしも接していない、元コメディアンのゼレンスキー氏と、元ギャンブル産業親方のトランプ氏という「ド素人」に重要な調整が丸投げされた――これは本当に怖いことです。
飛んで火に入るゼレンスキー
2つ目は、少なくともゼレンスキー氏には「彼なりの落とし所」はありました。つまりウクライナという国の国家意思として受容できるオプションというのはあったのだと思います。一方で、トランプ氏には「落とし所」はなかったという点です。トランプ氏はゼレンスキー氏に対して「お前は何のカードも持っていない」などと吠えていました。ですが、実際にカードを持たないのはトランプの側でした。
そして、恐らくトランプ側としては、このような「決裂と怒号の映像」というアウトプットを流すことが、当面の目的であったのだと思われます。
どういうことかというと、会談の4日後、3月4日の火曜日には上下両院合同会議における大統領演説が予定されているからです。少なくとも、この演説は多くの、つまり賛成反対の双方の議員たちが明確にリアクションをする機会になります。
ということは、この間「様子見」を決め込んで、「凍結」されていたトランプへの批判の動きが、この議会演説を契機に「自由に解き放たれる」、そんなターニングポイントとなる可能性があります。
ただでさえ、全国で連邦政府職員のリストラに対する激しいデモが起きているのが現状です。トランプとしては、「快調に自分のプログラムを遂行」しているという手応えの一方で、「いつモメンタムが逆転してもおかしくない」という警戒はしているはずです。
そう考えると、「極端な劇場型政治」を追加投入することが必要なタイミングは「今だ」という感触があり、そこへ「まんまとゼレンスキーが来た」ということなのでしょう。
こうした思考パターンにはミクロの合理性はあります。ですが、実際に戦争が進行しており、また実際にNATOの抑止力が大きく揺らいでる中では、「人命や大戦争のリスク」を賭けてギャンブルをしているのは、トランプ側だとも言えます。
とにかく、外交や安全保障に関する膨大な情報処理によって成り立つ、実務的な政治、経済、歴史と国際法によって「練り上げられた」政策というのが、根本の部分で欠落している、最大の問題はそこにあると思います。
日本が今「絶対にしてはならないこと」
さて、日本の場合は、とりあえず先月初頭の石破総理の訪米で、関税や企業買収の問題に「目を逸らす」作戦が成功しています。
その上で、ヨーロッパとは違って、当面は大問題と格闘する必要はなさそうです。ですから、この時間を使って、この「軍事外交の実務が欠落した」危険マックスの時代において、日本の外交をどうやって進めるのか、冷静に考えて準備する必要があると思います。
この点では、例えば全くの野党ですので外交政策の本質とは接点は薄いのですが、立憲民主党関係者の発言について検討してみたいと思います。
まず、野田代表ですが、大分市で会見した際に、アメリカとウクライナの首脳会談の決裂を巡り、「石破首相は明確にメッセージを出していない。日本の姿勢が見えない」と指摘したそうです。
その上で「大局的にアメリカと欧州の分断は、本当に良くないことだと思うが、そうなりかねない」として、「トランプ氏を説得するには時間がかかるかもしれないが、欧州と協調して対応していくという基本的姿勢を示すべきではないか」との考えを示したそうです。
これは、不要な発言ですし、野田氏はいい加減に気付くべきだと思います。国際社会というものは、立派な言論の応酬で動く時代ではないのです。例えば、野田氏が総理大臣時代にやった大ミス、尖閣国有化のことが思い出されます。
野田氏にはまだ反省はなく、「石原慎太郎が尖閣を買ったら中国が激怒して、取り返しのつかないことになるので自分は正しかった」と言い続けています。ですが、結果的に自分のやった国有化でも、中国は思いきり反応して日系企業への不買運動や、日本車の打ち壊し暴動が起きました。
どういうことかというと、まず中国が政権交代期であったので、当時の胡錦涛政権にはそれほどの権力はなかったこと、ならば分かりやすい反日カードで、求心力の補強をすることは予想し得たということです。また、どうしても国有化をしたいのなら、慎太郎がこういう動きをしているので、日中関係のためにこれを防止する目的で国有化する、というメッセージを秘密裏に外交裏ルートで先方の中枢とコミュニケーションすべきでした。
秘密裏というのは、別にコソコソやれとか、やましい行動だというのではありません。どの国にもいる「過度なナショナリズムを栄養ドリンクのように思っている層」を刺激しては、誰もトクをしないからです。ですが、野田氏はそうした手続きを怠りました。その結果があのようなイヤな事態となったのです。
今回も全く同じです。欧州に寄り添う、ウクライナに寄り添うということは、石破内閣としてちゃんとやっています。つい先日も、岩屋外相はウクライナを訪問しているのです。これで十分です。このトランプがカッカして、トランプ支持者が「欧州がきれい事にこだわって醜態さらしてるの面白えや」となっている現時点で、燃料投入のような行動をする必要はないし、すべきではありません。このような人物に、国家の枢機を託すのは難しいと言わざるを得ないと思います。
鳩山元総理が、野田代表よりさらに危ない理由
一方で、同じ立憲の鳩山元総理は、2日になってXに投稿し、「問題はプーチンを悪者で敵だとする考えに染まっていては、戦争は終わらないのだ。ゼレンスキーも英国もフランスも染まっているのだ」「ここで石破首相、日本だけでもトランプに協力して戦争を止めたらどうだ。そうすれば北方領土も見えてくるではないか」などと書き込んだそうです。
鳩山氏は祖父の一郎氏が日ソ国交をやったレガシーがあり、奥の奥ではロシアとのコミュニケーション回路を持っているのかもしれません。ですから、まともに取り上げる必要はないのですが、少なくとも同じ党内なのですから、野田氏の正反対の極論を放言するのは、止めていただきたいと思います。
それ以前の問題として、現状変更のために民間人や原発を交えた殺戮や破壊を行う人物に加担するのが友愛だというのは、やはり理解が難しいように思います。
そして肝心の石破総理ですが、野田、鳩山ほど軽率ではないにしても、「戦後80年談話を検討」というのは、少々疑問を感じます。気持ちは分からないではありません。自分が中道だと宣言して、右派の危険性、左派の独善平和主義と距離を置くのは、政治的にメリットがあると思っているのでしょう。
ですが、「ロシアによるウクライナ侵攻などで国際情勢が変化していることを踏まえ、先の大戦を検証したうえで戦後の日本の平和国家としての歩みを改めて国内外に示す意義は小さくない」というのは、やはり浅慮であり、軽率です。
1つの論点を指摘しておきたいと思います。それは、在日米軍の位置づけが非常に不安定になっているという問題です。
ゼレンスキー氏が何を言われたのか、その前に2015年以来のトランプ氏と、その支持者が世界における米軍のプレゼンスについて、何を言ってきたのかを考えると、在日米軍の問題は深刻に受け止めなくてはならないと思うのです。
あらためて問われる「日本は在日米軍を友軍と思っているのか?」
まず、「日本は在日米軍を本当に友軍と思っているのか?」という根源的な問題があります。沖縄では基地の経済効果が県の経済を支えている一方で、基地への世論は非常に厳しいわけです。
その沖縄に関しては沖縄戦という激しい戦闘に巻き込まれ、その後は27年にわたる米国による占領と軍政に苦しめられた経験から仕方のない面もあるとは言えます。
ですが、昨年の話ですが、関東地方でもヘリが水田に不時着したら批判されるとか、屋久島でのオスプレイ事故への不快感報道など、「在日米軍イコール危険で迷惑」という感情論には抑えが効いていません。オスプレイについては、急行して垂直離着陸ができる島嶼防衛には効果的な機体ですが、日本の世論の中には嫌悪感が定着しています。
【関連】友軍か占領軍か腫れ物か?米軍ヘリ不時着で露呈した「日本の大矛盾」…保守も左派も大人になれぬ我が国安全保障上の重大懸念
説明は可能といえば可能です、日本人の心情には平和主義が根強いので、今でも世界で軍事プレゼンスを維持する米軍に対しては不快感があるということだと思います。ベトナムの記憶から、同じアジア人として「アメリカ帝国主義は敵」という思い込みの残る世代もまだいます。
その奥には、左派も含めて、敗戦や占領への反発といった意識下のナショナリズムがありそうですが、自覚はされていません。
その先には、「どうして在日米軍が存在するのか?」という根源的な議論が避けられません。敗戦経験から重武装を嫌い軽武装を選択した日本は、米国の軍事力に依存しなくては自国の安全を確保できないので、そのような選択をしている、というのが一般的な理解です。
けれども、その奥には実は屈折した心情があるわけです。左派には国家や国軍への根源的な不信があります。これは旧枢軸国と、旧東欧圏に特有の屈折した心理ですが、自主重武装をすれば必ず自滅するというネガティブな信念のようなものです。
ということは、自国が武装することへの不信感ゆえに在日米軍を必要としている、という構造もあるわけですが、自国の武装に反対している人は、米軍も嫌っているので屈折した心理は表面化することはありません。
というわけで、自覚はないのですが、こうした心情はテコでも動かせないものがあります。そこで、歴代の自民党政権は湾岸戦争のようにカネで済むことはカネで済ませてきました。また、イラク戦争の場合のように輸送支援と井戸掘りで済むならば、それで済ませるということをしてきたわけです。
一方で、自衛隊に関しては、国民から十分な尊敬が集まっているのかというと疑わしいわけです。そのくせ、近年は災害時には自衛隊に過度の依存をしています。
私はいつも不快に思うのですが、東日本震災の際もそうでしたが過酷な遺体収容の作業を、どうして自衛隊に集中させるのか、これは本当に失礼だと思います。自衛官は自分が命を懸けているので、遺体の扱いにも抵抗はないだろうというのは、ほとんど蔑視に近いものがあります。
日本の保守派も、トランプを怒らせる要素十分
それはともかく、自衛隊や在日米軍の応援団であるべき保守派はどうかというと、彼らも問題を抱えているわけです。
具体的には歴史認識において枢軸日本の名誉を回復しようという無謀な心情を隠さない点が挙げられます。これに加えて必要以上に近隣諸国との協調を壊そうとしたり、核武装論まで口にする勢力がいることです。
全く理解できないのですが、友邦で同盟国である韓国との関係を勝手に悪化させて面白がっていて、そのくせ親米保守だなどというのは自己矛盾にも程があると思います。
更に言えば、サンフランシスコ体制のセットに組み込まれた「和平条件」を構成する東京裁判をネチネチと批判するのも危険極まりません。
仮に、東京裁判批判がバレて日米関係が悪化し、日本が孤立した結果として領土を奪われたりしたら、東條大将や松井大将などの霊は全く浮かばれません。彼らなりに将として責任を取った彼らは、少なくとも日本の平和のために死んでいったはずですが、自分の死が新たな火種を引き寄せるのは本意ではないだろうからです。
とにかく、こうした姿勢はアメリカの利害と対立するだけでなく、日本を孤立と破滅に追いやる危険思想だと思います。そのくせ、そうした保守派が北朝鮮の国策に追随している新宗教のカネと人力に依存しているのですから話になりません。
それはともかく、そのような日本の「保守派」の主張は、「在日米軍が瓶の蓋」となっている中では、「瓶の中の人畜無害な国内向けの議論」だとみなされ、許容されてきました。
こうした構造の奥にあるのは1つの事実です。それは、在日米軍にとって日本国内には本当の味方は少ないということです。
在日米軍を歓迎する「親米保守」は、心情的には枢軸日本の名誉回復を望み、中国や韓国との関係悪化を厭わず米国のパワーバランスを撹乱する勢力を抱えています。一方で在日米軍を忌み嫌う左派は、自主武装に強く反対することで米軍駐留の原因を作っているとも言えます。
つまり、在日米軍にとっては歓迎しつつ足を引っ張る勢力と、歓迎しないくせに自分たちに依存している勢力があるだけで、真の理解者はいないことになります。
これをトランプ時代の言い方に翻訳すると「命がけで守ってやっているのに、危険だから出て行けという左派と、守ってもらってあり難いといっているクセに、東京裁判反対などといってアメリカに刃向かう右派」ということになります。
日本の本音がトランプにバレたら大変なことになる
この構図は、幸運なことに米国の一般世論には知られていません。
80年代の昔からあるのは、日本が武装に消極的なら、軍事大国化して米国に再挑戦することもないので結構なことだと捉える印象論の親日派と、必要なコストを負担しないのはズルいという反日派です。そのような理解が、まあ一般的にはあると思います。
そうなのですが、友軍であるにもかかわらず、ヘリが水田に不時着しただけで非難轟々となるような実態がバレてしまうと、早晩大問題になる可能性はあると思います。例えば、堂々と議会承認されてアメリカの諜報機関のボスになった、トリシ・ギャバード情報長官などは、「日本の防衛費倍増はハワイ再侵略のためだ」などと非常に怪しい発言をしています。
とにかく、危険が一杯なのです。そんな中で石破総理の言う「戦後80年談話」などというものが、何らかの線で成立するのか、私には非常に難しく思えます。下手なことを言えば、
「米軍駐留費をフルで全額出せ」
「核武装してもいいので、核兵器を買え」
といった過去のトランプ氏の日本に対する暴言に加えて、
「カネを渋るのなら沖縄と小笠原を返せ。奄美は勘弁してやる」
ぐらい言いかねないと思います。
最後の沖縄と小笠原に関しては、現時点でトランプは分かって言わずにいるのではなく、もしもこの3島の返還の歴史を知ったら言い出す危険性はあると思います。
グリーンランドとパナマ運河とカナダ全土を「よこせ」と言っているトランプです。「あれだけ兵士が死んだイオウジマを返したのはバカだ。アメリカが取り戻すべきだ」とか、言うかもしれません。それ以前の問題として、平和国家とか非核などというのは、たぶん全く理解されないでしょう。
もちろん、平和国家、軽武装、非核というのは日本の国是であり、それを日本人が誇りに思い、それを守るためにも自衛隊が練度を維持しているのは当然です。そうなのですが、とにかくトランプ主義という全く異質の文化がトレンドを支配している中で、「戦後80年談話」というのは副作用が心配ですし、その危険性が必要性を大きく上回っていると思います。
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