チャーリー・カークの「あなた方は洗脳されている」キャンペーンの正しさ

先月10日に米国のユタバレー大学で起きた、保守派活動家チャーリー・カーク氏(享年31)の暗殺事件後、「言論の自由」への関心が高まっている。その際、日本のオールドメディアは、この事件を政治利用するドナルド・トランプ米大統領を批判するだけだ。その典型例は、9月17日付の日本経済新聞の社説「米政権は報道の自由脅かすな」、26日付の朝日新聞の社説「米国メディア 言論の自由守る覚悟を」などだ。
そもそもカークがどんな人物であり、どんな主張をしてきたかについて十分に検討した痕跡がみられない。そこで、ここでは、カークの主張そのものについて紹介し、追悼に代えたい。
18歳のときの優れた論考
まず、2012年4月、まだ18歳だったカークがBreitbart Newsに投稿した記事「高校の経済学教科書から始まるリベラル・バイアス」を読むことを勧めたい。
出だしは、「5月中旬に迫ったアドバンスト・プレースメント(AP)の試験に向けて、全国各地で学生たちが勉強に励んでいる」という一文だ。APとは、高校生が受講できる大学レベルの授業を意味する。非営利団体カレッジボードが提供している教育サービスで、APクラスを成功裏に修了すれば、アドミッション(大学入学判定)に有利になったり、大学入学後のプレースメント(コース選択)で高いレベルからスタートできたりする。
最初の文のあとに、「AP経済学の学生は、ポール・クルーグマンとロビン・ウェルズの『経済学』(第2版)を、マーガレット・レイとデビッド・A・アンダーソンが翻案した『APのためのクルーグマンの経済学』で学ぶ」と書かれている。クルーグマンとは、2008年にノーベル経済学賞(スウェーデン国立銀行賞)を受けた米国を代表する経済学者の一人だ。
現在はニューヨーク市立大学教授で、激しいトランプ批判で知られる。そのような権威ある経済学者の学説を展開するだけの本がAPの教科書のように扱われ、多くの学生がそれを丸暗記する状況になっている。
カークは指摘する。「私たちの公教育制度は、偏見のないものであり、どのような生徒も党派にとらわれることなく学べる場所であるはずである」。それなのに、「私たちの教室は徐々に政治的な講義室と変わりつつあり、教師たちはリベラリズムと『平等』の教義を推進するための駒(pawns)となっている」と言う。つまり、リベラル派のクルーグマンの見方だけが正しいかのような教育によって、学生は一方的にリベラル派の主張に感化されてしまいかねないというわけである。
カークは、「クルーグマンの『AP経済学』が、レーガンの『サプライサイド(供給側)経済学は一般に、経済研究者から否定されている。その主な理由は、証拠がないからである』と結論づけていることに懸念を抱く」と指摘している。18歳のカークが言うように、サプライサイド理論を支持する多くの経済学者がいるにもかかわらず、そうした事実が無視されてしまっている。ゆえに、彼は、「この経済学の本は、今日の公立学校で子供たちが受けさせられている教化(indoctrination)の一端に過ぎない、組合員である教師がリベラル寄りのアジェンダを推し進めるからだ」と批判している。
クルーグマン教授を批判
これに対して、69歳の私は、9月に刊行したばかりの拙著『ネオ・トランプ革命の深層』(下の写真)において、つぎのように記述した(53頁)。
「ある共同体に属する人の大多数は、その内部の秩序を維持するのに都合のいい理屈を内部者間で教化し、教化されるというだましだまされる関係の中を生きている。それは、洗脳と言ってもいい。同じ共同体に暮らす、親、先生、上司らが同じ教化を受けてきたことで、その教化が実は洗脳であることに気づくのは難しい。その難しい現実認識を、トランプは『学校教育における過激な教化(indoctrination)に終止符を打つ』という大統領令によって教えてくれているのである」
これは、トランプが今年1月29日に署名した、「K-12(幼稚園[KindergartenのK]の年長から始まり高等学校を卒業する[12年生]までの13年間の教育期間)までの学校教育における過激な教化(indoctrination)に終止符を打つ」というタイトルの大統領令14190号について論じた部分である。
つまり、カークは18歳にして、公立学校における教化に問題があることに気づいていたことになる。私は、18歳の青年の慧眼(けいがん)にほれぼれする。『現代ビジネス』で公表した拙稿「あのクルーグマン教授が最後のコラムで強調した『トランプ=カキストクラシー政治』とは?」に書いたように、クルーグマンは過激なリベラリストであった。流行りの言葉で言えば、2021年にイーロン・マスクによって広められた「覚醒マインド・ウイルス」(woke mind virus)、すなわち、社会正義を求める左翼的な政治思想に過度にのめり込み、相手から偏見に満ちているとみなされたり、社会を破壊しているとみなされたりしかねない「症状」を伝染させる「病原菌」を撒き散らす元凶の一人だったかもしれない。
いずれにしても、若きカークの主張は決して間違ってはいなかったと思う。問題は、そうした「洗脳」を進める教育機関やマスメディアの側にあったと言えよう。それらは自らが「洗脳」にいそしんでいる事実を決して認めず、いわば、「言論の自由」を「共同幻想」による同調圧力によって抑圧してきたのだ。その罪は重い。
ホワイトハウスに出入り
カークは高校生のとき、ビル・モンゴメリーと知り合う。モンゴメリーは年金生活者であり、ティーパーティー運動(バラク・オバマ政権の政策に対する不満を背景に、2009年に米国で始まった保守的な社会政治運動)の支持者だった。このモンゴメリーこそが、カークに真剣に政治に取り組むよう説得した人物であったという(The Economic Timesを参照)。
まもなくカークは、リベラルなイニシアチブに対抗する草の根組織「ターニング・ポイントUSA」(TPUSA)を設立する。2012年の共和党全国大会で、彼は共和党の大口スポンサーであるフォスター・フリスと出会い、TPUSAへの支援を勝ち取った。その後、カークはトランプの最も熱心な支持者の一人となる。2016年には大統領選挙運動を支援し、2017年1月のトランプ大統領の就任式の後、カークはホワイトハウスに定期的に顔を出し、重要な人事の議論にも参加するようになる。
「洗脳されたあなた方」と訴える
2024年の大統領選を前に、カークは「あなた方は洗脳されているツアー」(You’re being brainwashed Tour)と題した大学キャンパスツアーに出かけた(下の写真を参照)。このとき、brainwashという言葉が使われていたから、カークは、indoctrinateよりもより明確に「洗脳」を強調したかったに違いない。
TPUSAのツアーは、大学キャンパスにおける左翼的洗脳に対抗するために必要な原理原則とツールを大学生に与え、教育することを目的としていた。このツアーには、TPUSA創設者のカークが特別ゲストとして参加し、言論の自由、政府の役割、そして高等教育における保守的価値観の維持の重要性について、見解を披露した。こうした地道な活動が、トランプの当選を後押ししたと考えられている。
余談ながら、このときカークが「洗脳されたあなた方は洗脳する側にも回っている」という事実をどこまで強調したかについては、よくわからない。この点はとても重要なことなので、ここで注意喚起しておきたい。たとえば、太平洋戦争期間中、国民は決して騙されていただけではない。騙されると同時に騙す側でもあったのだ。だからこそ、拙著『ネオ・トランプ革命の深層』の「あとがき」(383頁)に、つぎのように書いておいた。
「書き終えて強く感じているのは、トランプ革命の影響力の大きさである。とくに、これまで『騙す人』として、ディスインフォメーション(騙す意図をもった不正確な情報)を発信したり、仲介したりしてきた人や組織のインチキに気づいてもらえれば、少なくとも騙された者が騙す側に回るケースは減るだろう(そもそも、ディスインフォメーションを『偽情報』と訳してすませている日本のすべてのマスメディアは『騙す人』として、全国民を騙しているのだが、この話は「連載 知られざる地政学」に何度も書いてきた)」
ターニング・ポイントUSA(TPUSA)は、2024年秋キャンパスツアー、「あなた方は洗脳されているツアー」(You’re being brainwashed Tour)を開催した。(出所)https://tpusa.com/live/youre-being-brainwashed-turning-point-usa-announces-fall-2024-campus-tour-2/
過激化していった発言
こうしてカークは、インターネット上でもっとも影響力のある保守活動家の一人となった。生前彼は、Instagramで770万人、TikTokで730万人、Xで540万人、YouTubeで390万人のフォロワーを抱えていた。ただし、これだけのフォロワーに注目を浴びるために、カークの言動は過激化した。
たとえば、カークは昨年、自身の番組で「黒人のパイロットを見かけたら、少年よ、資格があることを願う」と発言し、注目を集めた(USA Todayを参照)。2023年にテネシー州で起きたナッシュビル銃乱射事件で、クリスチャン・コヴェナント・スクールで3人の子供と3人の大人が殺害された事件から約1週間後、カークはイベントで、憲法修正第2条の権利の維持と引き換えに銃で死亡者が出ることは、アメリカの現実の一部であるとのべた(Newsweekを参照)。さらに、「残念ながら毎年何人かの銃による死者を出す代償を払う価値はあると思う。そうすることで、神から与えられた他の権利を守るための修正第二条を維持できるのだから。これは賢明な取引だ。合理的だ」とも語った。
ほかにも、彼は人工中絶、移民、LGBTなどに反対し、まるで敵の銃弾を待ち受けるかのような態度を示していた。忘れてならないのは、彼が自分と異なる意見をもつ人々を銃弾のターゲットとなるように仕組んできた事実だ。まさに、暴力や脅迫による不寛容を助長する態度をとってきたのである。
具体的には、ターニング・ポイントUSAは2016年から「プロフェッサー・ウォッチリスト」をウェブ上で公開するようになった。このリストは、大学生に対し、「教室で左派のプロパガンダを進める 」教授を報告するよう呼びかけて集めた情報からリストアップしたもので、収載者は暴力や脅迫の標的になっている。
カークのような人物であっても、銃殺するというのはまさに言論封殺であり、許しがたい。わかってほしいのは米国社会の闇の深さだ。言論の自由を盾にして、特定の人物を暴力や脅迫のターゲットにするのは犯罪だろう。しかも、米国は憲法修正第二条によって銃保有が簡単に可能な国だから、彼らは銃殺の恐怖に日常的にさらされることになる。
それにもかかわらず、殺されたカークを「英雄」に祭り上げる動きがある。その先頭に立っているのがトランプ大統領だ。だが、すでに暴力や脅迫が全土に広がっている米国では、9月19日、下院はカークの死を悼み、「政治的暴力を拒否する」ことをアメリカ人に促す決議案を可決した。215人の共和党議員に95人の民主党議員が加わり、310対58で決議案を可決したのである。58票の「反対票」が民主党議員から出され、そのほとんどが議会黒人・ヒスパニック議員連盟のメンバーであった(USA Todayを参照)。
この決議の内容をみると、「カークは献身的なクリスチャンであり、信念と勇気と思いやりをもって大胆に信仰を実践した」、「カークの市民的な議論と討論への献身は、政治的スペクトルを超えたアメリカの若者たちの模範であり、信念に妥協することなく団結を促進するために精力的に活動した」――といった記述がある。
「本当だろうか」という疑問が湧いて当然だろう。あるいは、「カークは憲法修正第一条の価値を体現し、自由に発言し、既成の物語に異議を唱える神から与えられた権利を行使し、名誉、勇気、そして同胞であるアメリカ人への敬意をもってそれを行った」という文はあっても、彼が憲法修正第二条を「合理的」と評価していた事実はふれられていない。
オールドメディア報道のバイアス
わかってほしいのは、さまざまな情報にバイアスがあるという「現実」である。自分が正しいと思う情報を安易に信じてしまっては、それは「確証バイアス」に従っているだけの話になってしまう。大切なのは「情報リテラシー」(情報を適切に理解・解釈・分析し、改めて記述・表現する)能力を高める訓練を怠らないことである(たとえば、拙著『ウクライナ戦争をどうみるか:「情報リテラシー」の視点から読み解く』を読めば、必ず情報リテラシーは向上するだろう)。
その意味で、ここで紹介した、カークの「あなた方は洗脳されている」キャンペーンは、実に的を射ていると思う。私自身が全国行脚したいと思うほどだ。
オールドメディアは、自らに不都合な情報をそもそも報道しない。無視することで、受信者を騙し、騙された受信者は騙す側に回る。たとえば、日本はこの騙し騙された人々によって、太平洋戦争に突入した。あるいは、日中戦争をはじめた。
どうか、読者には少なくとも騙す側になってほしくない。そのためには、騙されないための情報リテラシーを養う訓練をつづけるべきだろう。



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