
サッカーW杯の熱狂の裏で…ロシアがスポーツ界で続々復帰中【アイスホッケー、レスリング】

サッカー日本代表がチュニジアを撃破するなど、ワールドカップが盛り上がりを見せているが、いま世界中のスポーツで「変化」が起こっている。それは、ウクライナ戦争によって世界のスポーツ界から締め出されていたロシアとベラルーシが、続々復帰を果たしているのだ。その現場を追った。
米ロのアイスホッケー親善試合
米国とロシアのアイスホッケー代表チームによる試合が、7月1日にモスクワで開催される。6月4日、開催中だったサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで、在ロシア米国商工会議所のロバート・アギー会長が明らかにしたものだ。
ウラジーミル・プーチン大統領は、昨年3月にドナルド・トランプ米大統領との電話会談で、両国のアイスホッケーの試合を開催することを提案していた。クレムリンは当時、トランプがこの案に「支持を表明した」とのべていた。このイベントは7月4日の米国独立250周年に合わせて開催されるという。
どうやら、トランプとプーチンの間には、「わだかまり」はないようだ。国際アイスホッケー連盟(IIHF)は、2022年のウクライナ侵攻を受け、ロシアをすべての公式国際大会から排除しているにもかかわらず、両国による親善試合を行おうというのである。
ロシア代表チーム(「ロシアのオリンピック選手」として出場)と米国代表チームとの間の最後の公式シニアレベルの試合は、2018年2月17日、平昌冬季オリンピックの期間中に開催された。試合は、ロシアが4–0で勝利した。いずれにしても、両国にとっては、人気スポーツでの久しぶりの激突となる。
(出所)https://www.themoscowtimes.com/2026/06/04/moscow-to-host-us-russia-hockey-match-next-month-a92929
ロシア拒否の風向きに変化
ウクライナ戦争はすでに5年目に突入している。任期切れの状態が3年目に入っている(2024年5月20日に任期満了)にもかかわらず、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、戦争をつづけることでその座にしがみついている。そんななかで、各種の国際スポーツ連盟のなかには、ロシアやベラルーシの国籍をもつ選手へのすべての制限を解除するところも現れている。
5月15日には、「ユナイテッド・ワールド・レスリング」(UWW)が、ロシアとベラルーシのレスラーが、今後開催されるUWWの大会において、制限なく出場できるようすると、即時発効で決定した。改定された参加ガイドラインに基づき、両国のレスラーは、シニアを含むすべての年齢カテゴリーにおいて、それぞれの国旗の下で競技を行うことになる。選手およびスタッフのユニフォームには、国名の頭文字である「RUS」および「BLR」を掲げることが可能となり、UWWの大会において、両国のレスラーが金メダルを獲得した場合、またはチームが優勝した場合、表彰式では両国の国歌が演奏されることになる。
柔道やレスリングを組み合わせたようなロシア発祥の格闘技、サンボについては、国際サンボ連盟(FIAS)執行委員会が昨年12月4日の会合において、同年10月3日にインドネシアのボゴールで開催された会合において、ロシアおよびベラルーシの選手が、国際ユースおよびジュニア大会において自国の国旗の下で競技に参加することを認めた措置をすべての年齢カテゴリーに拡大することにした。その結果、今年1月1日より、ロシアおよびベラルーシの選手は、FIAS公認のすべての国際大会において、自国の国旗を掲げ、国歌を流して競技に参加する権利を有することになった。
さらに今年1月31日、世界テコンドー連盟(WT)評議会は、ロシアおよびベラルーシのジュニアおよびシニア選手が、WTが主催または公認するすべての選手権大会において、それぞれの国旗の下で競技に参加することを、即時発効にて許可することを決定した。
国際柔道連盟も参加を許可
国際柔道連盟(IJF)も、昨年11月27日、ベラルーシ選手団の完全な代表権回復を含む最近の動向を受け、ロシア選手の平等な条件での参加を認めることが適切であると判断。2025年アブダビ・グランドスラムを皮切りに、ロシアの選手たちが再び国旗の下で、国歌とエンブレムを掲げて競技に参加することを許可することを決議した。
IJFは、オリンピック憲章および「いかなる差別もなくスポーツが実践され、代表されるべきである」とするスポーツの原則に基づき、すべての加盟国を平等に扱い、差別を行わないという姿勢を堅持する、と説明している。スポーツは、極めて困難な紛争状況や環境下において、人々と国々を結びつける最後の架け橋であり、選手には、政府やその他の国家機関の決定に対する責任はなく、スポーツと選手を守ることは私たちの責務であるという。
さらに、「スポーツは中立かつ独立したものであり、政治的影響から自由でなければならない」と主張している。「平和、団結、友好の価値観に根ざした柔道は、地政学的な思惑の舞台となることを許すことはできない」というのだ。
なぜ米国を締め出さないのか
ところが、現実の国際スポーツ連盟は政治色丸出しである。その典型がウクライナへの全面侵攻を理由にロシア、さらにその友好国のベラルーシに協議参加の禁止などの制限を課しながら、他方で、米国やイスラエルによるイラン攻撃、とくに、パレスチナにおけるイスラエルによる民間人の大量殺戮については、いまのところ、まったく「お咎めなし」の状況がつづいている。
普通に考えれば、米国やイスラエルに対して、何の制裁や制限を課さないのであれば、ロシアやベラルーシへの制限を解除するのは当然ではないか、という疑問が湧く。「スポーツは中立かつ独立したものであり、政治的影響から自由でなければならない」という国際柔道連盟の建前を貫くためには、国際オリンピック委員会(IOC)を含む各種国際スポーツ連盟のこれまでの措置を再考する必要があるだろう。
ASEAN11ヵ国がロシア詣で
日本の大多数のマスメディアは報道しないが、政治的な対ロ友好路線も拡大傾向にある。6月17日には、ロシア連邦タタールスタン共和国の首都カザンで、ロシアと東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係樹立35周年の記念行事として開催された。ASEAN加盟11カ国すべての政府首脳、主要政治家、国家指導者が、ロシアで一堂に会したのである。
しかも、現在、ASEANの議長国を務めるフィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は、ウラジーミル・プーチン大統領との会談(下の写真①)で、「議長として、今年11月にマニラで開催される第25回ASEAN首脳会議に、閣下のご出席をお願い申し上げたい」とのべた。こうして、プーチンも国際舞台に徐々に復帰しつつある(これに対して、9月にインドで開催される、ロシアも加盟するG20サミットには、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は招待されていない)。
6月18日、プーチン大統領は来年からASEANの議長国となるシンガポールのローレンス・ウォン首相とも会談した(下の写真②)。シンガポールは、ロシアの「非友好国」リストに名を連ねる唯一のASEAN加盟国だが、もはや双方にとって、そんなことはどうでもいいと感じる雰囲気が醸成されているのである。
これは、国際司法の場でも同じである。オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所(PCA)は6月15日、ケルチ海峡、アゾフ海、およびクリミア周辺の黒海水域における沿岸国の権利をめぐり、ロシア連邦とウクライナの間で10年間にわたりつづいた仲裁手続について、最終裁定を公表した。その結果は、普通に読めば、ロシアの勝訴であった。そう、法曹界でも、ウクライナの一方的な主張への疑問は着実に広がっている。
(出所)http://static.kremlin.ru/media/events/photos/big2x/yti6bbakJ7QSwMqFjCDpO53n32rhQmDD.jpg
(出所)http://kremlin.ru/events/president/news/80062
柔道を誉めたプーチン
ここまで書いてきて思うのは、全日本柔道連盟会長(2017~2023年)、日本オリンピック委員会会長(2019~2025年)を務めた山下泰裕のことである。言わずと知れたプーチンの「柔道友達」でもある。
実は、今年4月28日付のロシアの有力紙「コメルサント」の報道によれば、前日の27日にサンクトペテルブルクを訪れたプーチンは、学校の指導者や柔道・サンボの選手たちが集まった会場で、こう話した。
「資料を確認しましたが、正直なところ、私自身も知らなかったことです。1929年からレニングラードで、そしてその後サンクトペテルブルクでも柔道が育まれてきたのですね!
柔道を習ったレニングラードやサンクトペテルブルクの出身者の多くが、スポーツだけでなく社会生活においても成功を収めている……。とくに喜ばしいのは、柔道に取り組む人数が絶えず増えていることです。サンクトペテルブルクだけでも19のスポーツ学校があり、3500人以上の子供たちが、皆さんもよくご存知の通り、嘉納治五郎の『柔の道』を選んでいます。師匠自身の言葉を借りれば、だれかより優れることではなく、昨日の自分より優れることを選んだのです……」
この柔道の精神を本当に大切に思うのであれば、どうか山下に世界中のスポーツ関係者に喝を入れてほしいと思う。「スポーツは中立かつ独立したものであり、政治的影響から自由でなければならない」と。
とくに、アフガニスタン侵略のソ連(当時)に抵抗して米国をはじめとする西側諸国が直前に五輪ボイコットしたために、絶頂期にありながら1980年のモスクワ五輪に参加でなかったという経験をもつ山下であればこそ、その発言の重さは計り知れないはずだ。



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